素手喧嘩コン下書き「SCP-2798-JP」
評価: 0+x
blank.png

ふと気がつくと見知らぬ天井が目に入る、ということは財団では特別なことじゃない。記憶処理が日常的に行われるここでは、ついさっきまで自分が何をしていたのかを思い出せないなんて事はザラだ。そんな過去は思い出そうとするべきでもないし、思い出すべきでもないことを学んだ。

あなたは周りを見回し、状況を飲み込む為に一つ大きな深呼吸をした。おそらくここは財団の標準的な収容室の中…のはずだ。当然こんなところに来た記憶はないし、ここで昼寝をする申請を上司に出した記憶もない。扉の上には一言、「SCP-2798-JP」と書かれたネームプレートが備え付けられていた。

第一章

SCP-2798-JP。あなたはそのナンバーに見覚えがあった。何千と収容されているオブジェクトの中で、一職員が直接関わるものはそう多くはない。だから、このナンバーを知っているということは、あなたはこのオブジェクトの担当であったはずなのだ。しかし……

あなたは何も思い出すことができなかった。SCP-2798-JPとは何であったか。オブジェクトクラスは何だったか。なぜ自分はここにいるのか。そもそも自分は何者なのか。部屋の中にわかりやすくオブジェクトが置いてあればまだ思い出す手助けにもなったかも知れないが、異常存在と思えるようなものは見当たらない。あなたにできるのは、部屋を見回し、全ての鍵であろうこの部屋について考えることだけだ。オブジェクトと隣り合わせの収容室の中で、得体の知れない恐怖と闘いながら、あなたは思考する。

SCP-2798-JPとは、何だ?


第一回探索記録 - SCP-2798-JP

担当職員: エージェント・███


エージェント・███: ただいまから探索を開始する。オーバー。

司令部: 了解。危険を感じた場合は無理せずに帰還せよ。オーバー。

エージェント・███はSCP-2798-JPの収容室の前に到着する。

エージェント・███: 到着した。映像に問題はあるか?

エージェント・███の所持しているカメラからの映像が転送される。カメラには、収容室の扉と「SCP-2798-JP」と書かれたナンバープレートが映っている。

司令部: 特に問題は無い。

エージェント・███: 了解した。

エージェント・███はSCP-2798-JPの収容室に入る。

エージェント・███: 中央に台座はあるが、それ以外には一見したところ何もない。通常の収容室だ。本当にSCP-2798-JPは収容されているのか?

司令部: SCP-2798-JPの収容室が存在するということは、過去いずれかの時点で収容されていたということだろう。探索を続けろ。

エージェント・███: 了解。

エージェント・███はいくつかの機器による検査を行う。検査内容は以下の通り。
検査内容 結果 備考
カント測定器を用いたヒューム値の測定 自然空間とほぼ同等。 N/A
ハルトマン霊体撮影機による撮影 霊的実体は発見されなかった。 N/A
アキヴァ放射の測定 自然空間とほぼ同等。 N/A

エージェント・███は続いてBinahパターン認識システムを用いた測定を行う。結果は次の通り。

  • 異常確実性3.22%
  • 潜在的カテゴリーZayin Room("危険性無し")(信頼度68.3%±5%)
  • 財団による収容の必要無し(信頼性43.5%±4%)

エージェント・███: これ以上の情報を得ることはできないと判断した。一時帰還する。

司令部: 了解した。

エージェント・███が消失する。

[記録終了]


突然視界が歪む。収容室がその形を変え、何かになろうとしていた。掴まるものも特にない部屋の中、あなたの体は宙に放り出される。

そして、部屋は元に戻った。ところが、あなたは先ほどまで感じていた未知に対する恐怖が綺麗さっぱり拭い去られていることに気がつく。ここは文字通りの、ただの標準的な収容室だ。大きさは推定5m×5m×5m。四方にはSCiPを封じ込める白い無機な壁が立ち塞がり、天井は十分に高く、SCiPによる干渉を許さない。安全と安心を具現化したような、平和の象徴たる収容室があなたの周りに広がっている。

そして、部屋の中央には台が一つあった。簡素で、なんの飾りもない、部屋と同じく白い直方体に近い台。高さは腰ほど。上部は傾斜しており、それに何か載せられそうな細長い台がくっついている。試しに軽く押してみたが動く様子はない。どうやらいつも通りしっかりと床に固定されているらしい。

焦りが少しずつ消え、思考がクリアになっていく。そういえば、メモ帳なら上着のポケットにいつも入れていたはずだ。果たして確かにそこにメモ帳があった。いついかなる時でもメモを取れるように……口うるさかった上司(今存在を思い出した。記憶が戻りつつあるのかも知れない)に少しだけ感謝しつつ、あなたは思考を描き始める。

アイテム番号: SCP-2798-JP

オブジェクトクラス: Unknown

この部屋には異常な存在がいるとは到底思えない。いたとして、反ミームによって正体を隠しているか、肉眼では捉えられないような存在であるか。あるいは私自身がSCP-2798-JPである可能性は否めないが…あなたはそれを一旦否定した。私は財団職員だ。今なら確信を持ってそう言える。

特別収容プロトコル: ────


第二回探索記録 - SCP-2798-JP

担当職員: エージェント・███


エージェント・███はSCP-2798-JP収容室内に立っている。

エージェント・███: この部屋の特徴として、まず部屋は極めてシンプルに作られている。部屋のサイズは5m立方、天井に埋め込み式照明と空気孔、床には排水口が備え付けられた、ほぼ財団標準仕様の部屋だ。

SCP-2798-JPは沈黙している。

エージェント・███: 次に中央に置かれた台だが、これも特にこれといった特徴はない。唯一と言っていい特徴は、上部がやや傾斜し、書見台のようになっている点だ。おそらく、これはSCP-2798-JPを収容するために備え付けられた台であろう。

SCP-2798-JPは沈黙している。

エージェント・███: このことから、SCP-XXXX-JPはこの台に乗せられるような本状の何かであり、非生物であり、かつ自発的に行動するものではないと推測される。また、過去に財団によって収容されたオブジェクトとの類推から、ミームや認識災害等の精神影響を有していたのではないかと推測される。

SCP-2798-JPは沈黙している。

エージェント・███: 以上が、SCP-XXXX-JPの収容環境から推測されるSCP-XXXX-JPに関する説明である。

SCP-2798-JPは沈黙している。

[記録終了]

あなたはSCP-2798-JPの収容室から飛び出し、サイト中を駆け回る。不思議なことに、サイト内にはあなたの見知った人は1人も存在しなかった。そこには不自然な空虚だけがあった、まるで最初からそこには何も必要なかったかのように。

5A9BF70F-A5A8-41D4-A522-6D475E7AEC1E.jpeg
アイテム番号。

あなたはいつの間にかSCP-2798-JPの収容室に戻っていた。それはあなたを待ち望んでいた。他でもないあなたを待っていた。あなたは意を決し、扉に触れる。ドアノブを握ろうとしたが、ドアノブは初めから存在していなかった。扉は望まれたように姿を消した。

926BA239-29B5-4003-8837-D2914ADB89CE.jpeg
オブジェクトクラス。

そこにはSCP-2798-JPがあった。SCP-2798-JPしか残されてはいなかった。それはただそこに存在し、存在することを赦されようとしていた。あなたは目を瞑り、手を伸ばす。

926BA239-29B5-4003-8837-D2914ADB89CE.jpeg
説明。

SCP-2798-JPは苗木だった。卵だった。未知の材料でできたトランクケースだった。その他全てを内包した、命の輝きによって映された影絵だった。それは時に皆に望まれた未来であった。それは時に捨て去られるべき出来損ないであった。それは時に人に別れを告げるための遺書であった。

その正体は陽炎の如く揺らいでいた。あなたはその本質を掴もうとする手を止めた。ただ手を広げ、影を映し出した。

926BA239-29B5-4003-8837-D2914ADB89CE.jpeg
補遺。

SCP-2798-JPはあなたに語りかけた。あなたはSCP-2798-JPを受け入れた。









































SCP-2798-JPの収容が完了しました。お疲れ様でした。



scp jp ループ esoteric



ページ情報

執筆者: Lobster-JP
文字数: 21661
リビジョン数: 169
批評コメント: 0

最終更新: 28 Apr 2021 10:20
最終コメント: 批評コメントはありません

ページコンソール

批評ステータス

カテゴリ

SCP-JP

本投稿の際にscpタグを付与するJPでのオリジナル作品の下書きが該当します。

GoIF-JP

本投稿の際にgoi-formatタグを付与するJPでのオリジナル作品の下書きが該当します。

Tale-JP

本投稿の際にtaleタグを付与するJPでのオリジナル作品の下書きが該当します。

翻訳

翻訳作品の下書きが該当します。

その他

他のカテゴリタグのいずれにも当て嵌まらない下書きが該当します。

コンテンツマーカー

ジョーク

本投稿の際にジョークタグを付与する下書きが該当します。

アダルト

本投稿の際にアダルトタグを付与する下書きが該当します。

既存記事改稿

本投稿済みの下書きが該当します。

イベント

イベント参加予定の下書きが該当します。

フィーチャー

短編

構文を除き数千字以下の短編・掌編の下書きが該当します。

中編

短編にも長編にも満たない中編の下書きが該当します。

長編

構文を除き数万字以上の長編の下書きが該当します。

事前知識不要

特定の事前知識を求めない下書きが該当します。

フォーマットスクリュー

SCPやGoIFなどのフォーマットが一定の記事種でフォーマットを崩している下書きが該当します。


シリーズ-JP所属

JPのカノンや連作に所属しているか、JPの特定記事の続編の下書きが該当します。

シリーズ-Other所属

JPではないカノンや連作に所属しているか、JPではない特定記事の続編の下書きが該当します。

世界観用語-JP登場

JPのGoIやLoIなどの世界観用語が登場する下書きが該当します。

世界観用語-Other登場

JPではないGoIやLoIなどの世界観用語が登場する下書きが該当します。

ジャンル

アクションSFオカルト/都市伝説感動系ギャグ/コミカルシリアスシュールダーク人間ドラマ/恋愛ホラー/サスペンスメタフィクション歴史

任意

任意A任意B任意C

ERROR

The Lobster-JP's portal does not exist.


エラー: Lobster-JPのportalページが存在しません。利用ガイドを参照し、portalページを作成してください。


利用ガイド

  1. portal:4913206 (29 Nov 2018 11:20)
特に明記しない限り、このページのコンテンツは次のライセンスの下にあります: Creative Commons Attribution-ShareAlike 3.0 License