異なる時空より、愛を込めて。

ハロー、ハロー。聞こえていますか。聞こえているならどうか聞いてください、私の話を。


その異変はほんの些細な現象からだった。
あるオブジェクトが自らの異常性を忘れたと報告があったのはよく晴れた5月のこと。報告書に記されている異常性に変わりなく、しかしオブジェクト自身がそれを忘れたというなんとも奇っ怪な話だった。ただ、それ以上に何か起きたわけでは無かったので、補遺に記録し、経過を観察するだけになった。
……この時はまだ、そのオブジェクトだけに異常が起きたのだと思っていた。

次に異変が起きたのは、全国各地に異常なポータルが次々と出現した時だった。最初は関東で見つかったそれが段々と増加していると。現時点で発見されたポータルの数は関東で3つ、九州で4つ、一番多い東北で8つ。すぐに対策チームが立てられ、周辺地域に大規模なカバーストーリーの流布を行ったりポータルを見てしまった人間に対して記憶処理を行ったり、ポータル周辺に新たなサイトを建設するなど隠蔽にここまで時間を割いたのも久しぶりだったかもしれない。
幸いポータルの出現箇所は山間部に位置していたり、限界集落の近くだったりと多くの人目に付きにくい場所だった。これが都心で出現していたら……と考えると少し背筋が凍る思いだ。
収容が完了したなら次にやるべきことはポータルの実地調査だった。数名のエージェントと研究員、機動部隊員で構成されたチームに私も同行することになった。出現箇所にたどり着くとそこには薄い霧が円を描くように浮かんでいた。その淡い黄色のような、赤のような複雑な色合いは深い緑の中では違和感しか感じ得ない。
機材の準備を一通り終えると、エージェントが予定通り遠隔操作のカメラをポータルに入れる。なんの抵抗もなく入ったカメラはその向こうの景色を少し離れて待機している私達のモニターに映し出す。その景色は至っておかしくない日本の、しかしどこか懐かしい風景だった。街、といった風に見えるそれに私は何故か、酷く泣きたくなったのを覚えている。


最初はなんてことのない、いつものことでした。私達はそれに対抗するだけの手段も持っていました。それでも。


内部調査を進める内にいくつかわかったことがある。それはやけに飲み屋が多いこと、生産終了した玩具や製品があちらこちらに点在していること。そして、人間と思わしき生命体がいること。それらは昔からこの街に存在していると主張していたと報告を受けた。住人に直接インタビューをしたエージェント曰く、忘れられた存在がより集まった結果、街になったのだと語ったらしい。忘却と停滞を受け入れた街だとも。それを語る住人はどこか達観した表情だったとエージェントは呟いていた。しかしそれ以上に情報を得ることはできず、ポータルを閉じる方法も、出現を抑える方法も何も発見できずにいた。調査が難航している間にもポータルは徐々に増えている。


今思えば、ポータルは卵の殻のヒビだったのかもしれません。中の生命体が産まれるために、内側から割っていたのでしょう。であれば、私達が止められなかったのも必然かもしれません。だってヒビを作らせないためには中の生命を殺す必要がありますから。


──最悪な事態が起きた。東北にあった一つのサイトにポータルが出現したのだ。しかも建物の半分を飲み込む程巨大な。中に収容されていたオブジェクトはもちろん、職員数十名もポータルに飲み込まれてしまった。即座に機動部隊が救出及び確保に向かったそうだが……数時間後、帰ってきたのは機動部隊"だけ"だった。
その時の様子を機動部隊の隊長が代表して語った。ポータルに入った部隊はすぐに一人の職員を見つけた。保護してさっそくポータルの方へ案内しようとしたが、職員はそれを拒否したらしい。曰く、自分は既にここの住人になったから出れないのだと。案内されてしまったから、もう戻れないのだと笑いながら語ったらしい。他の職員達も同様に見つけることはできたが、先の職員のように住人になってしまったと言う者もいれば……自分が財団の職員であることを忘れてしまった者もいたらしい。
オブジェクトの方は自らの異常性を忘れ、形あるものは形通りの物になってしまっていたという。意志のあるオブジェクトも他の職員達と同じく住人になったのだと主張していたそうだ。

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