IDコンtale「最果てのノエル」
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四角に切り取られた夜空と、満天に輝く星々。そしてそこから舞い落ちてくる粉雪。
それはさながら名画のようであると、私は思った。

サイト-81NNの中庭はとても荒れ果てており、色彩に溢れていたあの頃の面影は一欠片も残っていない。
ここにあるのはただ一色。
白。
 
どこまでも無垢で美しく残酷な、白妙の花だけだ。
 


 
財団によれば、ほどなくしてこの世界は終わるのだという。
ヴェールは崩壊し、守るべき世界は霧中に消え、私達が成してきたことは徒労に終わる。

はじめこそは皆変わりなく。このまま世界と運命を共にする気はさらさらない、と己を奮い立たせていた。
だが1週間もすればそれは虚勢に変わり、次第に職員達の活気が無くなっていったことは言うまでもない。
何人もの有能な職員達が匙を、そして己の命を投げ捨てていった。
薄暗く、静まり返ったこの場所サイト-81HAも明日には閉鎖となり、残された人員は別のサイトへ吸収されることとなった。

「あれ……」

どうやら、少しばかり寝てしまっていたようだ。
自室のソファからゆっくりと立ち上がり、そのまま引き寄せられるようにふらふらと数歩、姿見の前に立った。
鏡に映る自分を見つめる。
左頭部に右頚部、右手首に左大腿部。そこに咲く大きな花と氷の蔦。見慣れた姿がそこに在った。
 
私の心臓には、私を異形へと変えてしまった因子が孕んでいる。それは緩やかに、しかし確実に私の身体を蝕んでいき───いつしか芽吹いた新たな芽は私の右眼を喰い潰し、それは5つ目の大きな花を咲かせた。
『一体どういう原理で私の身体は生かされているのか?』それは終ぞ解らず仕舞いであったが、『世界が終わりを迎えなくとも、私の時間は先に止まるのだ』ということだけは明らかだった。
日に日に弱っていく身体。現実が、それを雄弁に語っていた。
 
「……よし、やらなくちゃ。」

ぱちん、と両の頬を叩く。
成すべきことを成さなくては。そう、私はあの人を助けに行かなくてはならないのだから。
 
ここからマクロラインで2駅。
サイト-81NNとの通信連絡が途絶えてから5日。完全な孤立状態だろう。
あそこにはNeutralized判定済みオブジェクトの継続監視業務にあたっている山月監視員がいる。それに、桜戸技術士や、マリー監視補達も。皆、私が懇意にしてもらっている大切な人達なのだ。

私は必用な物を詰め込み、最後に棚のアクセサリーボックスを開く。アクセサリーと共に大切に保管されていた一本の赤いリボンを取り出して、こめかみ辺りの毛髪をそれで結んだ。
 
身支度を整え、私は自室を後にする。物音のしない廊下を歩いていると、ふと背後から声が聴こえてきた。
良く聴き慣れたそれは、哀しみを訴えているかのような、鼻を鳴らすようなあの鳴き声だった。

「……ごめんね。ベルカ、ストレルカ。」

良く懐いていた2匹の狼犬が、私を真っ直ぐに見つめている。こころなしかその瞳は潤んでいる様に見えた。
暫くそうしていると、2匹は私の方へと歩み寄る。ストレルカがそのまま服の裾を引こうとした時、ベルカはそれを静かに制止した。

「良い子。ありがとうね……」

私は2匹の頭を優しく撫で、

「行ってきます。」

そう残して、置いた手をそっと離した。
 


 
  


 
「怖くはないですか?」

隣で横たわる彼に問う。

「いいえ。神恵さんが、一緒なら。」

彼は繋いでいた左手をそっと握り返して微笑んだ。
聖夜。静まり返ったサイト-81NNには、貴方と私の、もう二人だけしか存在していない。

「貴方が私と黙って手を繋いでいるだなんて……信じられないですね。」
「ははは……そう、ですね……本当に、こんな日が、来るなんて。」

冷たく光る星空を見上げては、最期の夜に思いを馳せる。

───世界の終わりに、私達は夢を見る。

二人が出逢った場所。このはじまりの場所で、私達は寄り添いながら共に眠りにつく。
それは醒めることの無い幸福な夢に違いなくて、本当に願っていた結末がそこに在って。
そこでは、きっと何処へだって行けるのだ。
 
雪はしんしんと2人へ降りそそぐ。
冷え切った彼の肩に頭を預け、深く、穏やかに呼吸を繰り返し───私達は瞳を閉じた。
 
「メリークリスマス、山月さん。……おやすみなさい。」
 

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