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太陽が今にも沈もうかという自分、見渡す限り草が生い茂るのみの、霧中の平原を歩く男がひとり。
簡素ながらも身分を感じさせる狩衣に身を包み、腰には太刀、また細身ながら衣越しにそうと判る鍛え抜かれた肢体。
その見た目は、さながら戦を控えた兵である――ただひとつ、太刀と共に腰から下がる、大きな徳利を除いては。
酒を携えているとも思えぬ神妙な面持ちも、より不自然さを際立たせている。何よりそのしっかりとした足取りからは、男が幾ばくかの酒をも口にしているように思われなかった。

ふと立ち止まり、眼前の何かを見つめる男。そこには、道祖神でも祀っていると思わしき小さな祠が、今にも朽ち果てそうに佇んでいた。男の視線は、その祠の更に内に注がれる。道祖神などそこにはなく、こちらも風景に似つかわしくない、不釣り合いな程状態のよい朱の盃が祀られていた。

暫し表情を緩め、ふと口を付いたその嘆息は、目的のものを見つけた安堵か、それともこれからすべきことへの憂慮によるものか。

再び表情を引き締めた男は、膝をついて手を合わせ、祠より丁重に盃を取り出す。何をすべきか知っているのか、迷いのない手つきで徳利の酒を一杯にそそぎ、――僅かな逡巡の後――一気に飲み干した。

懐より取り出した竹筒の水で、盃を濯ぐ。またも丁重に祠に戻し、再び手を合わせる。男の所作には先ほど同様迷いがない――寧ろ、先ほどまで残っていた僅かな迷いすら、酒と共に飲み下したかのようである。
総てを終えて立ち上がり、男は再び歩き出す。霧が一層濃くなり、男の輪郭が朧気になる。
そして。
日がとっぷりと暮れ、霧も概ね晴れた頃。
男の姿は、既になかった。

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執筆者: Tachyon
文字数: 802
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最終更新: 11 Jul 2020 20:12
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