「嘘です」

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どうして。どうしてこんなことになっているんだろう。
床には菜箸やナイフ、まな板といった台所用品が散らばっていた。そしてそれらを汚く赤色に染める血の海が広がっている。少し目線を横にずらすと、横には血の海の源流である小さな死体が無造作に転がっていた。頭にはちょうどうまい具合にガラス製の分厚いボウルがかぶさっていて、顔の上半分が屈折してしまいどんな表情なのか見ることができない。しかし、私はこの死体の素性を知っている。と言うのも当たり前だ。ここは私の住んでいる家で、私が知っている台所で、だから力を失っている小さな死体が一人息子の透流であることなど分かるに決まっている。そっと頬に指を滑らせてみる。まだ産毛しか生えていない滑らかな手触りは子供の感触であったが、生きている熱はどこにも無かった。
乾きかけていた血の海に涙が落ちる。透明な雫は血と混ざりあって見分けがつかなくなる。私はそこで、しなくてはいけないことを思い出した。台所用のふきんを手のひらに乗せて、指紋を付けないようにナイフを握る。そうだ。私が何とかしないと。透流をこんなことにしたのは、他でもない私なのだから。

「ごめんね。何とか、何とかするから。」

私は透流の肩にナイフの刃を当てた。月光が、錆びかけた刃に怪しく反射していた。

「今回の調査場所はここなのだ!」

自分でも声の調子が上がっていることを理解しながら、ホワイトボードに張り付けている写真をぴしりと指さす。そこには高い木に囲まれた廃墟が映っていた。二階建ての日本家屋で、壁の表面がわずかに汚れている。廃墟になってからまだそこまで時間は経っていないみたいだ。
「近頃、この家屋の内部から男の子の声がする、中でポルターガイストが起こった、と言った噂が多数出ているのだ。そして、霊体感知器でも反応が出ていることが分かったのだ。しかし!肝心の霊体の本体が見つかっていないので、私たち"Detection dogs"が調査に行こうと言うわけなのだ!分かったのだ?」
「……。」
一息で伝え終えた後に隊員の顔を一気に見渡したが、どの顔も同じように陰鬱な表情をしていたため、私、福路弐条は首を傾げた。
「どうしたのだみんな。早すぎてよく分からなかったのだ?仕方ない、ゆっくりもう一回言うから……」
「いえ、福路捜索部隊長。私たちは今回の調査の内容はようく分かりました。分かった上でこの表情なんですよ。」
「なんでなのだ。ひょっとして疲れてるのだ?マッサージでもやってやろうか?」
「怖いんですよ!」
隊員の1人が立ち上がって抗議の眼を向けてくる。その一言に何人かの隊員も座りながらうんうんと首を振って肯定している。
「私たち、長い間捜索部隊のメンバーとして活動してきましたよね?だったらそろそろ怖いものが得意でないということを覚えてほしいのですが。」
「しかし、怖いからと言って仕事をしないなんて駄目に決まっているのだ。どれだけ怖くても調査のためには覚悟を決めて突き進む。そんな信念が大切なのだ。」
腕を組んで堂々とした態度で立ち上がった隊員を諭す。財団内で調査活動をしていると、幽霊がでることなんて日常茶飯事……とまではいかないが珍しい事ではない。そんなことにいちいちごねていては捜索部隊として情けない。自分で言うのもなんだが正論を上手く言えた。彼も分かってくれるだろう、と思ったのだが、表情は依然変わらずこちらをじろりとにらんでくる。強面なので少し、いや、結構こわい。
「確かに、依頼ならばその覚悟でしますよ。でも……これって、福路捜索部隊長が他の部隊からもらい受けた依頼ですよね?」
何故ばれてしまったのだろうか。確かに彼の言う通り、この依頼は別の部隊が担当する予定だったものを頼みこんで代わりに受けたのだ。つい顔に出てしまった隙をついて彼はまくしたてる。
「依頼をもらった理由も分かりますよ。福路捜索部隊長が行きたかったからでしょう!怖いもの好きですもんねえ。よく知っていますよ。ええ。でもですね?個人の好みで仕事を選んで隊員の意向を無視するなんて隊長としていかがなものかと思いますよ私は!」
先ほどの正論が三倍になって私のもとに返ってきた。ぐさぐさと突き刺さる。
「そ、それは、確かにそうだが……ほ、ほら、これはみんなの恐怖耐性を鍛えるために、お、行ったのだ。な?だからそんな睨まないで落ち着いて……」
しばらくたしなめと訴えの戦いが続いたが最終的にたしなめる軍勢、僕一人が折れることになった。
「分かったのだ……では、二つに分かれることにするのだ……この近くにもう一つ調査するところがあるから……怖いものが苦手な隊員はそちらの情報を記載した書類を配布するのだ。」
最終的に私の調査するチームの人数は俺を含めて3人になってしまった。
「うーむ、さすがに3人はちょっと……せめてもう1人は欲しいのだが……」
こういう時は暇な"あいつ"に頼もう。私はミーティングルームから出てあいつの部屋に向かった。

「ん?おお、フック隊長じゃないか。どうしたんだ?」
「私は船の上で肩に鳥は載せていないのだ。素潜。」
呆れながらいつもの冗談に突っ込むと、素潜潜入捜査官が、はははと声を上げて笑った。素潜潜入捜査官はオブジェクトの影響で体が黒い煙のように変質している職員だ。その変幻自在な異常性を有効活用するために、普段は暗所での潜入活動や行っている。私も過去何回か捜索任務への助っ人として一緒に活動をしているのだが、飄々とした態度で絡んでくるわ、名前をいつも間違えてからかってくるわでいつも困らされている。まあ、それでも嫌うほどではない、憎めないやつなのだが。
「実は、捜索任務への手伝いをしてほしいのだ。」
「お、久しぶりだなあ。なんだ、すばしっこいやつでも潜んでるのか?スピード勝負なら任せな!」
「いや、普通に人員が足らないから空きを埋めたいだけなのだ。」
「なんだよ。それなら別の暇なやつでもひっ捕まえて連れてきゃいいじゃんかよ。俺もいつも暇なわけじゃないんだぜ。」
体をゆらゆらと揺らしてだるそうに答える。確かに部屋に入った時、素潜は机に向かって何かをしていた。書類仕事でもしていたのだろうか。
「それはすまなかったのだ。で?さっきは何か仕事をしていたのだ?」
「ああ、これが超大変でよ……こっちきて見てくれ。」
黒い煙を器用に操作してちょいちょうと手招きしてくる。近づいて机の上を見てみた。そこに開かれていたのは、クロスワードの雑誌だった。
「タテの4が分からなくてよ……『一日に食事する量が8グラムな動物は○○○○○』……なんだと思う?福路。」
「……答えは素潜、貴様なのだ貴様。『ナマケモノ』なのだ。そんな娯楽を楽しんでる暇があるならこっちを手伝ってくれなのだ。」
「へいへい……全部マスが埋まったし、まあいいぜ。で?どんなところなんだ。今回の調査場所は。」
雑誌を閉じて私の持っている資料をのぞき込んでくる。細長く煙が伸びる様はろくろ首のような妖怪感がある。というか妖怪にいるよな。えんえんらだったか……そんな無駄なことを考えながら私は資料をさっとふせて口頭で答える。
「今回は、明るい所なのだ。広場の奥に放置された廃墟にいる子猫の霊を探すという、なんとまあ簡単な任務なのだ。」
「……子猫の、霊ぃ?そ、それは珍しいなあ?」
素潜の声が、いや、声だけでなく体も線香の煙のように細長く震えている。


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