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時刻は朝の12時を少し過ぎたところ。もうお昼だ。これがラスト。と福路弐条と丁寧に書き終えて軽く伸びをした。尻尾を揺らしてリラックスする。目の前の机には前回捜索を行ったところの調査書が散らばっていた。捜索部隊長である私は基本的に外に出ることが多く、サイト内でも小さな収容違反に東奔西走するなど、体を使うことがとても多いのだが、今日は逆に朝から座りっぱなしでひたすら捜索記録とにらめっこをしていた。普段から後回しにしてしまう性格であるのにプラスして、今月はいつもの倍くらい外部調査が多かった。しかし、その分達成感はとてつもないものだった。

「終わったのだー!」

手首あたりに絡まった疲れを振り払うようにグンと手を後ろに持っていくと、キャスターが床の溝に挟まってひっくり返ってしまった。部屋の白色灯が疲れた目の奥を突っついて刺激する。よく頑張ったと思う。自分自身に心の中で勲章をプレゼントしたいくらいだ。さて、疲れた体には勲章以外の物理的なご褒美を与えないといけない。そう、甘いものだ。

「ショートケーキか、バニラの丸いアイスか、チョコレートか……迷うのだ……。」

ふわふわと甘味が浮かんでは消えて、消えては浮かんでを繰り返す。そんな妄想をかき消したのは部屋の扉を叩く小さな音だった。普通の人間ならば聞き漏らしてしまいそうなか細い音を私の三角耳はしっかりと聞いていた。

「お昼のお誘いかもしれないのだ。はーい!今出ますのだー!」

急いで起き上がりひんやりとしたドアノブに手をかけ引いた。が、目の前には誰もいなかった。はて、と首をかしげていると、ズボンのすそを引っ張られる感覚に気が付いた。目線を下にずらすと、茶色く小さくてふわふわのカワウソ、いや、川獺丸従業員が僕のズボンを一生懸命引っ張っていた。

「ああ、川獺丸さん!こんにちはなのだ。」
『こんにちは、福路捜索部隊長さん。仕事中でしたか?』

器用に素早く、ミスのない手つきでスマートフォンほどのコミュニケーションツールを操作して上記の文面を見せてきた。相変わらずすごいなあ、と思いながらちょうど終わったところだという旨を伝えた。

『それなら一つ探し物を頼みたいのですが……』
「……また薬を無くしたのだ?」

川獺丸さんは月に一回、発情抑制剤を服用しているのだが、何故かよく無くしては我のところに依頼しに来るのだ。しかし今回は首をふるふるふると素早く振りながら倍くらい早く文章を打ち始めた。

『違います!!いつもなくすと思わないでください!今回無くしたのは鍵です!』
「鍵?一体どこの鍵なのだ?」
「それは、秘密ですが、写真なら撮ってます!」

画面をスライドして鍵の写真を見せてくれた。普通の扉の鍵のようなピンタンブラー錠ではなく、宝箱なんかに使われてそうな金色のスケルトンキーだった。青色のリボンが持ち手に結ばれている。

「ふむふむ、これだけ特徴的ならすぐに探せるのだ。ちょっと待つのだ……」

と、いつものように捜索能力を活用しようとすると、「きゅきゅ!」という高い鳴き声に意識が乱された。

『待ってください!今日は、その探す能力無しで一緒に探してほしいのです。』
「いや、しかし、こっちの方が楽なのだけど……」

私は自分より小さなものがどこにあるか、というのが分かるような小さな能力(とはいってもその能力のおかげで捜索部隊長をやれているのだが)を持っている。これを使えば財布やカードキーなんかの小さな落とし物はほぼ一発で見つけることができる。それなのに使わずに探せとはどういう事だろうか?ここまで考えてようやく意図を掴むことができた。多分彼女は私の素の捜索能力を試しているのだ。言われてみれば、最近は能力に頼りっきりで自分自身で見つける力が衰えているような気がする。きっといい練習になるだろう。

「よし、分かったのだ!ちょうどご飯も食べたかったし、一緒に探すのだ!じゃあ、とりあえず今日行ったところを教えてほしいのだ。」
『今日は福路さんのところに来る前に、国都博士の部屋に向かいましたね。』
「ほう、なかなか珍しい訪問なのだ。」
『借りていたものを返してまして……とりあえず、そこへと向かいましょう!』

と、何故か川獺丸さんに先導されて私は白く長い廊下に足を踏み出した。


「金色の鍵、ですか?見てないですね……」

手に持った書類から目を離さずに国都七星さんが気だるげに答えた。デスクの上は我の比にならないくらい書類で尽くされており、端の方にはストローの刺さった栄養ドリンクの空瓶がチェスの駒のようにずらりと並んでいる。どうやら徹夜で業務に励んでいるみたいだ。

「何か金属の落下音とか聞かなかったのだ?」
「うーん、この部屋はとても静かですからね。そんな音が発生したらすぐに気づくと思いますよ。」

それもそうだ、と部屋をぐるりと見渡した。生活用品などはそろっているがかなり家具の少ない部屋だ。機械音も国都さんの操ってるパソコンからしか聞こえない。ここならば金属の落ちる音もよく響くはずだ。そうなると、川獺丸さんはここより前に無くしているのか。……それにしても国都さんの体がとても心配だ。横顔から見える左目の下にはくっきりとクマが出来ているし、色素の薄い瞳も心なしか濁って見える。

「あの……国都さん。今、何徹目なのだ?」
「ええ?ええっと……ひい、ふう、み、よ。四徹目ですかね。」
「よ、よん?!」「きゅ?!」

思わず叫んだ私の声と川獺丸さんの短い鳴き声が重なった。いくら忙しいといえど、そんなに寝ないで仕事をするなんて、体がどうにかなってしまうんじゃないだろうか?というか、実際に体に不調が出ているじゃないか!

「す、少し休んだ方がいいのではないのだ?」
「でも、あともう少しでこの書類を片付けれますし……」
「あと少しなら休んでも大丈夫なのだ。さあ、少しソファにでも座って!」
「わ、分かりました分かりました。行きますから。」

ぐいぐいと袖を引っ張り少し皺の入った茶色い革のソファに座ってもらう。すると川獺丸さんが素早くソファへ、そして国都さんの背中から肩に上り、小さな前足で肩のあたりを踏み始めた。マッサージをしているらしい。川獺丸さんはとても小さいが、それでも十分気持ちがいいのだろう。国都さんが目を閉じ深く細く息を吐いている。

「まったく。少し根を詰めすぎですよ国都博士。これ、コーヒーを作ったので、よろしければどうぞ。」
「そうそう、コーヒーでも飲んで落ち着いて……って、どええっ?!」

突如後ろから現れたコーヒーの入ったマグカップを持つ腕に少し遅れながら驚いた。振り返ると、そこには頭部が立方体の水槽に置き換わっている、長身の人が立っていた。その特徴的な見た目からすぐに隈取千尋という名前が思い浮かんできた。私の所属するサイト‐8129とは別のサイトで活動している博士だ。非常にいたずら好きである悪名ともいえる性格がこちらのサイトにも伝わってきている。きっとこの行いもそのいたずらの一つだろう。だとしたら大成功だ。私も見事に驚いたし、目の前の国都さんはソファから飛び上がって壁に背を向けて張り付いている。肩に乗っていた川獺丸さんは上手く飛び降りたみたいだ。

「な、な、な、隈取さん!入るときはドアをノックしてからって言ったじゃないですか!」
「すみません、しかし今回はドアが開きっぱなしでしたのでつい忘れてしまいました。」

ドアに向きなおすと確かに全開だった。僕が閉め忘れたのだ。国都さんが抗議の目つきでこちらをにらんでくる、私はそんなに悪くないのにひどいことだ。悪いのはこっそり入ってきた隈取さんの方なのに。あれ、そういえば。

「隈取さんはなんで国都さんのところに来たのだ?」
「ああ、それはですね。オブジェクトの実験に使う機材の調子が悪くて、代わりのものを取りに来てたんですよ。そうしたら、部屋からお二人の声が聞こえてきたのでちょっとやってきたのです。」
「なるほど。しかし、二人は別サイトなのに、接点があったとは意外なのだ。」
「それはほら。先月あったイベントで知り合ったのですよ。確か福路捜索部隊長も参加していましたよね?」
「ああ、お見合い。なるほどなのだ。」

正式名称は「財団職員お見合いパーティ」。月下氷人を名乗る珍妙な委員会によって行われたその名の通りのパーティだ。あらゆるサイトから集まった職員たちがサイトの垣根を越えて仲良くなれたいい試みだったと私は思う。そうそう。川獺丸さんと仲良くなったのもこのイベントだったな。その他にもいろんな人と仲良くなれてとても楽しかった。そこで仲良くなったのなら納得できる。……いや、いたずらを仕掛けるというのは仲が良いと言えるのか?良く分からない。

「その通りですよ。隈取さんとは話も合って、楽しく話すことができました。しかし、いつも会うたびにいたずらを仕掛けてくるのはひどいと思いませんか!ねえ、川獺丸さん!」

国都さんが川獺丸さんの頬をもちもちとつまみ出す。小さな前足で抵抗の意を伝えようとしているのか必死にぽちぽちとコミュニケーションツールを操作しているところがとても愛らしい。

「ははは、いえ、すみません。ほら、よく言うじゃないですか。好きな人には、意地悪したくなると。」

人で言えば口に当たる部分に左手を持っていき、静かに息を漏らしながら隈取さんが笑う。が、私たちは固まった。今この人とんでもないことを言わなかったか?聞き間違いかと思い国都さんのリアクションを確認したが、「……ぇ」と蛇口を捻ったような声とみるみるうちに赤くなっていく頬がその考えを壊した。

沈黙と混乱で渦巻き始めたこの小さな部屋の中に一石を投じたのは、隈取さんの大きな笑い声だった。

「あっははは!本当に、国都さんはいい反応をしてくれますね!いやあ、楽し──へぶっ!」


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