ひよこ

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気が付いたら卓上のデジタル時計にゼロが4つ並んでいた。パソコン上に開いていたSCP-2057-JPの報告書にちらりと目をやってすぐに画面を閉じる。実験記録の記入と色々な数値を確認していただけだったのだが、こんなに遅くになるとは思わなかった。ふー、と軽い息を吐いてもう一度時刻を確認しようとすると、ふと時計の隣にある塊に目がいった。白い半透明の紙カップにこんもりと膨らんで入っている、クリーム色のマフィンだった。

こんなもの、食べていただろうか?

首をかしげていると、マフィンがわずかに動き始めた。食べ物ではありえないその挙動に驚くよりも早く、マフィンの表面に亀裂が走り、割れた。

亀裂の隙から黄色のくちばしが見える。そうしてすぐにマフィンと同じ色のふわふわとした羽が飛び出てきた。中から生まれたのはひよこだった。ぴいよ、ぴよ、と私の机の上をよたよたと歩く。

おかしい。こんなことがあり得るはずがない。だって、あれは収容されている。こんなところに転移してくるわけがない。ごしごしと目をこすって再び机を見る。ぼやけた視界が正常に戻ったころにはそこにはひよこもマフィンもなかった。

幻覚にしては奇妙だ。疲れすぎも良くないな。さっさと眠らないと。明日も実験が待っているんだから。

先ほどの現象に無理やり理由をつけて、水分補給のために冷蔵庫を開いた。扉の卵置きに7つ卵が入っている。

そのすべてに綺麗なひびが入り、ひよこがわらわらと湧いて出てきた。

ぴよぴよぴいよ、ぴよぴいよ、ぴい、ぴぴよぴよぴよ、ぴぃ。

あどけない鳴き声と共に私の足元に群がり始める。ズボンの隙間から触れる羽毛がくすぐったい。

これは、収容違反だろうか。まさかSCP-2057-JPに新たな異常性が?

妙に冷静に判断し、急いで連絡を行なおうとした。しかし、一歩足を踏み出した瞬間、足元に嫌な感触を得た。その感触は、SCP-2057-JPの実験で何度も知った感触だった。中の臓器が潰れる音、中身の入っていない胃がプチプチのように軽く潰れる音。小さくてもしっかりと硬さを持った頭蓋が砕け、つやっとしたくちばしから赤が流れ出す。そんな光景が脳内にフラッシュバックする。ふら、と足がもつれ視点が足元に移行する。そこには血液こそ残っていたが、濡れた羽毛やペースト状の臓器がどこにもなかった。

直後、私の左目に鳥に啄まれたような激痛が走った。思わず手で押さえるが出血もなにもない。鏡のある所まで走って自分の顔を見つめる。

私の左目が次第に黒目を失い、ただの白い球体に変化した。そして、また亀裂が入る。こつこつと体の中からノック音が聞こえ、そのたびに身をよじるかのような痛みが走り、脂汗が滝のように湧いてくる。数分の繰り返しの後、私の左目から何かが落ちた。残った右目でその物体を見つめる。ああ、またしてもひよこだった。私を見上げ、綺麗な黒い両目で私を見つめ、ぴい。と一鳴きした。

知らないうちに私は走っていた。それは痛みを紛らわせるための衝動か、収容違反を伝えるための行動か、ひよこに対する無限の恐怖か、その時の私には知る由もなかった。動悸が限界になり立ち止まったころには、私は中庭へとたどり着いていた。誰もいないその空間は月の光に照らされた木々たちが支配していた。それにしてもとても明るい。空を見上げる。今日は、どうやら満月だったようだ。微かにかかっていた雲が霧散していき、その美しい新円を露わにした。

やけに大きなその満月に、とても大きな亀裂が、ぴしりと音を立てて入った。


「──ひぃっ!」

勢いよく顔を上げる。私は見られた部屋の机に座っていた。目の前のパソコンにはSCP-2057-JPの報告書が映し出されており、机のデジタル時計は日にちをまたいだ5月6日の午前1時と表示していた。

「……夢、を見ていた、のか?」

冷汗がシャツの下の背中を垂れる。左手が頭の圧から解放されたおかげでわずかにしびれている。

「そ、そりゃあ夢に決まってるよな!なんだよ、ありえないって!」

突然現れ、消えるマフィンにひよこ。卵から生まれるひよこ。動揺の薄い私の反応に突然の場所の変化。どれも夢によくありがちな突拍子の無い展開だ。

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