「手のひらいっぱいの幸せ」

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私の名前は園原住吉。24歳の男で、好きな食べ物はプリン、嫌いな食べ物はホウレンソウ。現在、彼女はいる。彼女の名前は西羽このみ。私より1つ年下で、好きな食べ物はささみのフライ、嫌いな食べ物はかんきつ類で、ネコのアニマリーだ。

この話は、そんな僕らの日常の一部分を覗いてみるお話だ。


「園ちゃん!肉まん買いに行こう!」

このみちゃんが背中に乗っかってくる。いくら私より小さいと言えど、さすがに成人女性の体は重たい。

「このみちゃん。その発言は今、結構雪が降っているという条件をのんだ上での発言かな?」
「うん!肉まん食べよう!」
「……雪の降る日、ねこは炬燵で丸くなると聞いたことがあるけど。」
「じゃあ肉まん食べながら丸くなろう!」
「……」

こういう時のこのみちゃんは引かない。やり遂げるという信念が心の奥でメラメラと湧き上がっているのだ。まったく、降っている雪も解けそうな熱量だな、本当に。

「分かったよ。ただ防寒はしっかりすること。このみちゃんは寒さに弱いんだから。」
「分かってるよ~!行こ行こ!」

手袋がなーい!と言う声を横に聞きながら、私はマフラーの準備をし始めた。青色が私ので、このみちゃんのは、体毛と同じグレーの。きゅっと穴に通して固定して、このみちゃんにもつけてあげる。くすぐったいのか、耳がぴくぴくと動いている。

「よし!出発だー!」

堂々と上げる両手に何もはめていないことから、手袋が紛失してしまったことを理解する。……まあ、ポケットに手を入れればいいか。そう思いながら、私は雪の世界への扉──悪く言えば築20年のボロアパートの古いドア──を開いた。


思ったより雪の勢いが強くなっていた。頬に雪が当たっては溶け、当たっては溶けを繰り返し、私の顔はたった3分でびちゃびちゃになってしまった。傘を取ってくればよかっただろうか。しかし、隣のこのみちゃんはとても楽しそうだった。

「なんか、雪のリポーターになった気分だねえ!」
「そうかな、私は雪山に遭難した登山家の気分だよ。」
「それもなんかかっこいいね!でも大丈夫!ほら、灯りが見えてきたよ、登山家さん。」

そう言いながら指を差すところに、確かに見慣れたコンビニの灯りがぼんやりと浮かんでいた。雑誌棚の下部に貼られている「差別をやめよう!アニマリーも人間!」「ぼくらもいっしょに生きている」なる門言の書かれたポスターが湿って剥がれかけている。そんな寂しい光景を見ながら店内へと入る。このみちゃんも、しっかりとぷるぷるぷるっと顔を振ってちゃんと水分を落としてから、遅れて入ってきた。本来は肉まんの棚に行って頼んで帰るだけ。そのはずだったが。

「ねー見てみて!手袋がセールしてるよ!ラッキーだね!!」

このみちゃんの興味をひくものが、運悪くセール中だった。

「それ、ちゃんとアニマリー用かい?」
「うん!毛皮が引っかからないようにちゃんと中の布がさらっとしてるよ!」
「前もおんなじ様なもの買ってなかったかな?」
「え、えーっとあれは……ほら、でも柄が違うし!ね、最後にするから、おねがい!」
「……全く。分かったよ。ちょうどペアの手袋が欲しかったんだ。二つ買ってお揃いにしよう。」
「!うん!!園ちゃんありがと~!」

人目を憚らずに抱き着いてくる。こういう事をされると私はとても弱いんだ。同じ赤色の背景に白色のドットで描かれた鹿の描かれたクリスマスっぽい手袋を取って、レジに持っていく。そして同時に肉まんを頼む。そして、彼女が財布からお金を渡し、お釣りをもらおうとしたその時。

「うわっ」

明らかな嫌悪の声と同時に店員の手が引かれた。思わず店員の顔を見る。間違えてゴミ箱に捨ててしまった大事なものを手探りで探すような、汚らしいものを見る目だった。思わず何か言おうとした瞬間、このみちゃんが店員の手をぎゅっと握った。

「そんなに怖がらなくても~!ほら、肉球いいでしょう!毛もふわふわなんですよ!ちゃんと頑張って30分かけてシャンプーしてるんですもん!」

店員がはっと息をのみ、謝罪してきた。心はこもっていない、マニュアル接客だったが、謝罪してくれただけでも十分優しい。私はお返しに形だけの会釈を返しながら再び外へと出た。行きよりも、雪が優しくなっていた。

「勢いが止んでよかったねえこのみちゃん。」
「うん。肉まんがぬれなくてよかったよ。」

いつもの口調だが、どこか元気がない。

「やっぱり、店員さんのことが気になった?」
「……あのさ──」

と口を開いた瞬間、ぼふっという音と共にこのみちゃんの後頭部に雪玉がぶつかってきた。飛んできた方向を見ると、青色のダウンを着た子供が二人、新たな雪玉を投げつけてくるところだった。

「やーい主従カップル!」
「アニマリーと一緒なんて気持ち悪ーい!!」
「バーカ消えろー!」

悪口と共に地面の土の混ざった汚い雪玉が飛んでくる。体に当たった雪玉は割れずに腹にぶつかり、地面に落ちる。かなり硬く握られている。こんなのが頭に当たったなんて、このみちゃんは大丈夫だろうかと様子を見ると、何故か後ろに体を逸らしていた。そして、大きく息を吸い込んだ。

「うるせーーーー!!!!!人の恋に口出してくるてめーらがキモイんだよ、ばーーーーーーーか!!!!!!」

子供よりも子供っぽい返しに私、そして子供たちがぽかんとする。その隙を縫って、このみちゃんが私の手を取って走る。その力はとても強く、足は速く。行きの半分くらいの時間で家に着いた。久しぶりに走ったから息が切れてしまった。はっはっと息を整えながらこのみちゃんの方を向くと、炬燵布団にうずくまってしゃくり上げていた。

「このみちゃん……」
「あのね、私ね、もっと、言ってやり、たかった。園ちゃんが、良い人な、ことやね、私たちだって、みんなと同じ、生きてるんだって!」
「分かってる。分かってるよ。」

背中をさすって、静かに落ち着くのを待つ。その間に炬燵の上のカレンダーに目が行った。日付は2002年、12月4日。1998年からもう4年経つ。異常なものが現実に侵食してきた事実を、みんなはもう知っている。しかし、いまだにそれを認めようとしない人は後を絶たない。口では差別はやめようなんて綺麗なことを言っているが、本質の心はこれっぽっちもきれいになっていない。今日みたいな偏見や差別は私たちの日常から離れてくれない。

「ごめんね。私のせいで、園ちゃんまで被害を受けちゃって……」
「そんなこと言わないでよ。」

静かにこのみちゃんを抱き寄せる。寒さからか悲しみからか分からないが体が小刻みに震え、ふわふわな毛皮は雪と涙にぬれてしまっている。

「私は、思うんだ。この世界は間違っている。けれど、この間違いは仕方のない事なんだ。人は愚かで、一度間違えないとそれに気づけない。」
「でも、それじゃあ、私はその間違いが正されるまで耐えなきゃいけないの?」
「そうかもしれない。でも、一人じゃない。私がいる。二人なら、きっと何とかなるさ。ほら、これみたいにさ。」

と、レジ袋の中から肉まんを取り出す。まだほのかに暖かい中身をそっと取り出して握らせる。

「どんなにつらくてもこの肉まんぐらいの、手のひらいっぱいにはなる幸せがあるはずさ。だから、一緒に探そう。幸せを。ね?」
「……うん、うん。ありがとう、園ちゃん。」

このみちゃんは再び涙を流してしまった。そしてそのまま肉まんを食べ始めた。雪は静かに窓にぶつかっては溶け、どこからかイヌの鳴き声が聞こえてくる。そうしてあっと言う間に夜になって、私たちは布団に入って寝た。雪が積もっているからか、とても静かだった。そうして時計は眠るこのみちゃんを置いてどんどん時を進めて、あっという間に日付を変えた。

こうして、私たちの日常の1ページは静かにめくられた。これからも、ページのめくる手は早さを変えないだろう。でも、ページの中身はいつか変わるかもしれない。それがいつになるかは分からないが、いつか、私たちの日常が普通に近づけますように。

願いを込めて、私の瞼は閉じた。


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