探し物は謎の海の中で 問いかけ編

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財団の活動理念は確保、収容、保護である。しかし、確保よりも重要なことが1つある。それは、捜索だ。
無い物を確保することはできないし、収容、ましてや保護なんかできるわけがない。オブジェクトを収容するためには、まずオブジェクトを発見するところから始まるのだ。

そんな重要なところを担当しているのが、私福路弐条率いる捜索部隊ふ-96、コードネーム"Detection dogs"だ。私たちは未発見のオブジェクトを探し、収容できる状態にする。もしくは収容違反により脱走し行方不明になったオブジェクトの捜索を行う、そんな仕事を担当している。報告書には発見記録でしか載らないような隠れた仕事だ。しかし、とても重要な仕事だと自負している。

この物語は、そんなオブジェクトを発見するまでの苦しい過程や、壮大なストーリーを描いた超大作……ではない。私はそんなすごいことに出会ったことは少ししかないし、あったとしても臨場感たっぷりにお届けする才能は持ち合わせていない。そちらは別の人に任せよう。

実は先ほどの仕事内容にプラスして、私はある活動を自発的に行っている。それが『職員遺失物捜索隊』だ。財団の職員はとても真面目で厳格な人ばかりだ。そんな職員も人であり、人であるなら忘れ物や落とし物の1つや2つしてしまうものだろう。それがどうしても見つからないことも。そんな落とし物を探してあげる。そんな素晴らしい試みである。何を隠そう、この私、実はある能力を持っているのだ。自分よりちっちゃなものならどこにあるか、気配が分かる、という何とも探し物に向きすぎている能力を。そもそもこの能力が見つかったのは、私がイヌの体と融合してからであるため、私の能力というよりイヌの能力といった方が正しいかもしれない。……と、自分語りをすると止まらなくなってしまう。とりあえず、「1.私にはものを探せる能力がある」「2.私はイヌの体と融合している」。以上の2点を理解してくれれば話が分かりやすくなるだろう。

話を戻そう。そう、私はその能力を利用して職員たちの落とし物を探しているのだ。もちろん、ただではない。ただでこんな仕事を請け負うほど私は優しくない。もちろん、落とし物を渡した後は、報酬として対価として、飴をもらっている。コーラ味が好きだ。……とにかく。私はそういう営利的で何とも素敵で最高な仕事をしているのだ。この仕事はかなり人気で、他サイトの人から頼まれることもある。本来の仕事よりも忙しいかもしれない。……決して暇なわけではない。忙しいのだぞ?あーいそがしいいそがしい。

前置きが長くなりすぎた。とりあえず、先ほどのセリフを少し言い直して、前置きの〆をさせてもらう。

この物語は、職員の落とし物を探しているときに起こった、報告書にも載らないような、そんな少し不思議な体験を描いた、超小作である。


ざざん、ざざんと波が砂を押し上げる。空は真っ暗で、大きな満月(正確には満月の2日後だが)と綺麗な星を映し出している。オリオンの三ツ星が美しい。ちかちかと瞬いてチャンピオンベルトを誇示しているかの様だ。そんな、傍からみれば美しい光景を私は冷たい風にあおられ、帽子が飛ばないように抑えながら、がたがたと機械の設営を行っている。ああ、なんとも悲しい姿だ。綺麗な星空に謝りたい。

なぜこんなことになっているのか、それには半時前に戻らなくてはならない。

「鍵を探してくれないか。」

今回の捜索を頼んできたのは、サイト管理官の西羽羽酉さんだった。先ほどの前書きで超小作と言ったばかりなのだが、意外にも偉い人から頼まれてしまったのである

「鍵を探す、とは緊急の仕事ということなのだ?」
「いや、あくまで遺失物であるからね。捜索隊の一環として依頼がしたい。その方が安あ……いや、君も緊張せずに見つけられるだろうと思ってね。」

飲み込んだ言葉の先は追及しないでおこう。今は捜索物の内容を聞く方が先だ。絶対後でせしめてやるからな。

「その、鍵というのは誰の鍵なのだ?羽酉さんの部屋の?それとも収容室とかの鍵とか?」
「いや、どれも外れだな。あの鍵はすべての扉のものだ。」

AO-1627、その鍵にはそんな名前が付けられていた。番号を名前というかは微妙だが。AO、とはAnomalous Objectの略称だ。つまりその鍵には非常に矮小だが異常性が存在しているということだ。

「その鍵は、あらゆる扉を閉めることができるのだよ。ちょんと先をつけるだけで扉はしまった状態になる。しかし開けることはできない。」

羽酉さんが具体的な異常性の内容を教えてくれた。これを使って住居にむりやり入った際の扉の損傷や破壊をなかったことに出来るため、家屋捜索などを行う際によく持ち出されるのだそう。

「それで、どうしてそれが無くなってしまったのだ?」
「ああ、持ち出したところまではいつも通りだったのだがね。その後要注意団体の残党に持ち出した職員が襲われてね。無事拘束はできたものの、その混乱の渦中にて紛失してしまったのだと。」

研究員が無事なのは良かったが、オブジェクトを紛失してしまうというのはかなり痛い。もし誰か、それこそ要注意団体の手に渡ってしまったら。良くないことに使われてしまうかもしれない。私には思いつかないが、世の中には思考や発想力が歪んだ人々がわんさかいるのだ。

「しかし、無くしただけなら私がわざわざ出ていかなくても人海戦術で探せそうなのだが……。」
「私たちも、その鍵が陸上で紛失したのなら即座に探しに向かうのだがね。」
「違うということなのだ?」
「ああ、無くなったのは、海上なんだよ。」

合点がいった。広大な海から鍵を探すのは非常に難しいだろう。金属探知機はきっと他の漂流している金属に大量に反応するだろうし、人員大量投入により探すこともまあできなくはないだろうが、時間がかかるだろう。それなら、場所がすぐに分かる私を利用した方がいい。

「理解したのだ。では、その鍵の写真はあるのだ?あった方がすぐに探せるのだが。」
「待ちたまえ、確かスマホで撮っておいたから……」

すいすいとスワイプで写真捜索が始まる。羽酉さんは機械の取り扱いに疎い。しばらく時間がかかるだろう。その間に、なぜ写真があった方がいいか皆さんに説明をしておこう。鍵、と聞いて皆さんは何を思い浮かべる?多くの人は自分のよく使う鍵、自転車や車、自室の鍵を想像するだろう。ひょっとしたらゲーム内の重要アイテムとかもあるかもしれない。しかし、他人が共通した鍵を想像することは稀有だろう。このように、世界には数多の鍵が溢れている。その中から、前情報もなしに誰々さんの鍵を探せ、などと言われたら大変だろう。鍵を思い浮かべるだけで世界中の鍵の情報が頭に突っ込んできて、ふらふらする。オーバーヒートで脳が焼けてしまう。しかしそこに鍵の見た目、さらにそこについているストラップなんかの情報が手に入ったら、探しやすくなる。特定がしやすくなる。「A key」より「The key」のほうが場所を絞り込みやすいのだ。

と、ここまで語った時点でようやくAO-1627の写真を拝めた。リング型の持ち手の金色の鍵だった。家とかの現実的な鍵ではなく、宝箱なんかを開けれそうなファンタジーに出てきそうな、そんな鍵だった。特徴の塊だ。早速軽く探してみる。きゅっと目をつぶって思い浮かべる。鍵、鍵。鍵はどこだ……意識が空に上がっていき、一つの場所に落ちていく。岡山県の瀬戸内海あたり、沈んでいく、沈んでいく。見つけた。ここだろう。しかし、奇妙だ。落とし物特有の孤独感があまりない。まるで、誰かの所有物になっているような……。

「どうしたのだね、福路捜索部隊長。」
「……あ、いや、なんでもないのだ。鍵、見つけたのだ。じゃあ今から行ってくるのだ。」
「待ちたまえ。」

くるりと背を向けると、来ていたコートの襟首をぐいっと引っ張られぐぇ、と間抜けな声をだしてしまう。

「何をするのだ。」
「どうやって海の中に行こうというのだね。しかも君のその見た目は昼の海には目立ちすぎるだろう。外出を許可することはできない。」

許可できないって、どうすればよいのだろう。ドローンでも操作して探せというのだろうか。VR酔いしなければいいのだが。

「違うね。君が操作するのは小型潜水機だし、向かう期日は今夜の夜だ。」

鍵のためだけに潜水機を持ち出すとは大がかりだな、と思ったが、それはただの鍵だったらの話だ。Anomalousと言えどオブジェクトはオブジェクト。いわばこれは軽い収容違反なのだ。大がかりでも仕方ないだろう。それより、その次の言葉が気になった。夜?

「羽酉さん……今日は何月の何日なのだ?」
「12月5日だね。」
「冬の海なのだ。寒いのだ。それなのにさらに夜に出なくてはいけないのだ?」
「そういうことだね。せいぜいしっかりと防寒して頑張ってくれたまえよ。」

とってもいい笑顔でひらひらと手を振られる。やっぱり、報酬はたんまりといただこう。

と、このような経緯により私は冬の潮風に体を震わせながら潜水機の調整を行っていたのだった。

「うう……寒い……恨むぞ……鍵め。」

イヌの毛をまとっているからと言って寒さが完全に平気というわけではない。もともと心は人間だし。寒いの嫌だ。雪が降っても庭を駆け回ることはない。

「即急で探して炬燵で丸くなってやるのだ……」

私は潜水機の設置を完了させ乗り込んだ。中は狭く人一人でぴったりだった。

「……準備はいいですかー?福路捜索部隊長ー。」

通信機器を通して四宮隊員の声がする。一人の暗い海は寂しいからと連れてきてしまったのだ。こんなことに付き合ってくれるなんて感謝してもしきれない。

「ああ、投下してくれ!」
「じゃあ、いきますよー……3、2、1、ゴー!」

だぷん、と潜水機が海へ沈む。海の中は月の光によりわずかに青色を取り戻していた。沈んだ時に生まれた泡がきらきらと反射して綺麗だ。しかし、それもつかの間。わずか5m沈んだだけで周囲は完全な闇になってしまった。

「うう、暗いのは怖いのだ……」

後ろにスペースは無いのに、誰かがいる気配がする。急いでライトをつける。はさみのようにまっすぐな光芒が2本、闇を刺す。これから私は鍵の所在を明確にして、そこまで沈まないといけない。結構な重労働だ。この闇の中から普通の人が鍵を探すのは難しいだろう。やっぱり悔しいことに私が適している。文句を言っていても仕方ない、と意識を集中させる。

闇の中に、再び鍵の所在を聞いてみる。じわじわとイメージが具現化され、すこん、とナンバーパズルの「15」をそろえ終わったような、すっぽりと当てはまるような感覚と共に、鍵の所在が分かった。

やはり妙だ。管理室で見つけた時もそうだが、この鍵、落とし物の感じがしない。やっぱり孤独感がないのだ。これはどういう事だろう。場所が移動している気配はないから、魚の胃の中には入っていないようだが。と考えておかしいと思いなおした。場所が移動していない?潮流やら魚にぶつかるやらで移動はするはずだろう。やはり、何かがおかしい。

とにかく行くしかない。深海500m地点へ。

海の中は何もないからだろうか。時間経過が感じれないまま、あっという間に500m地点についてしまった。さて、鍵を探そう。と潜水機をぐうるり、と振り向かせると。

そこに、人がいた。

いや、人の形はしていたが、人と言えるかは微妙だった。腕は奇妙に長く、足の先にフィンのようなひれが発生しているし。あ、今よく見たら腕は4本あった。ヒトらしいところと言えば、頭だけだった。長い髪が水流にゆらゆらと揺れている。静かにほほ笑んだ顔がこちらを見つめてくる。完全にUMA、いや、SCiPだった。そう言えば尾瀬さんは超常現象記録の場所を調査していたのだったっけ。やった。見つけれたよ、異常なもの。と、悠長に考えている暇はなかった。急いで上に待機している四宮隊員に連絡しようとする。しかしできなかった。通信が切れている。このSCiPのせいか、海の気まぐれか。とにかく、私はこの海の中で目の前の化け物と二人きりという事だった。ああ、短い人生だったなあ……。

「ねえ、あなた。」

声をかけられる。誰に?先ほど言った通りここには化け物しかいない。そして私はしゃべっていない。つまりこの化け物が喋っていることになる。対話ができるのか。不幸中の幸いだった。

「あ、あなたは、な、何者なのだ?」

慎重にマイク機能をオンにして、会話を行おうとする。

「まあ、人のことを知りたいなら、まず自分からって、よく言わないかしら?」

両腕を上にあげやれやれというように首を振る。そんな姿に私は釘付けになった。その腕に、いや指に、鍵が引っかかっていたからだ。目の前の異常の詳細よりも、そちらに意識がいってしまう。ワーカホリックかもしれないな。

「そ、その鍵!どこで見つけたのだ!?」
「見つけた?違うわよ。落ちてきたの。上からね。」

潜水機の光に照らされて鍵についていた鈴がきら、と光った。間違いない。完全にあの写真の鍵だ。まさか、SCiPの手に落ちていたとは……Anomalousが一瞬で重要物になってしまう。

「あの、それ、私の友人のものなのだ。……返してもらうことは、出来ないか?」

出来るだけ慎重に、気を荒立てないように。何をするか分からない相手に穏便に返してもらおうと頼んでみる。これではいどうぞ、となればハッピーエンドなのだが。

「あら、いやよ。せっかく外の光を吸い込んだいい物を見つけたのよ?そうやすやすと返したくないわ。」

あなたのその証言も正しいか分からないし、と断られてしまった。うむ、やはりそうやすやすとはいかないか……本当に困ってしまった。私には相手の意思を操るセールストークも、従順にさせる催眠術も使えない。私の打つ手の少なさにがっかりし、あきらめかけていたころ。

「ねえ、この鍵が欲しいなら、私の願いを聞いてくれないかしら。」

意外にも、向こうから解決策を提示してくれた。願い?なんだろう。肉を寄越せとか命を寄越せとか言われてしまうのか……と身構える。まだ命は落としたくない。死ぬならもう少し明るいところがいい。

「私のなぞなぞを解いて。それだけでいいわ。」

なぞなぞ。「ぱんはぱんでもたべられないぱんはなーんだ?」とかのなぞなぞであっているのだろうか。一気に安心感と困惑にとらわれる。

「海の中にいて、谷の中にも隠れていて、でも空にはいない。毎日にいるのに、明日になったらもういない。それは、なに?」

なぞなぞ、というよりは謎々と表記したほうがいい問いかけだった。作麼生説破よりは簡単そうだが分からない。空にいない?明日になったらいない……水とか、塩とかか?明日とかには関係ないな。むむむ、と困っていると、きゃらきゃらと目の前の化け物が笑い始めた。

「難しいでしょう?もし、答えが分かったら、それを持ってきて。それと交換でこの光を吸った金属を返すわ。交換条件よ。いつまでもあなたを待ってる。期限はない。いいでしょう?」

なぞなぞの答えは全く分からない。だから、ここで答えられる答えはひとつしかなかった。

「分かったのだ。すぐに持ってくるのだ。」

何も分からないまま、私は了承し深い海の上へと戻っていった。待っているわ、という声と、静かな笑みを残す化け物を海の中に置き去りにして。


「ふうん。それで戻ってきたということだね。そのなぞなぞとやらを持ち帰って。」

羽酉さんにじっと見つめられる。あの後私は上で待機していた四宮隊員に海中であったことを報告し、帰還した。今こうして対面している間にもあの海中であの化け物が捜索されているようだが、嬉しい知らせはいまだ届いていない。つまり、今回の行動で私が得たものはなく、しかも新しい事案を持ってきてしまったわけだ。言いたいことは山ほどとは言わないが、丘ほどはあるだろう。覚悟はしていた。しかし、

「で、どうなのだね。そのなぞなぞとやらはとけそうなのかね?」

意外にも怒られることは無かった。むしろ、なぞなぞに興味を持っているようだった。

「あ、あの。怒らないのだ?見つけて戻ってくることができなかったのに……。」
「まあ、それは確かに良くないことだが、仕方ないことだろう。しかし、このなぞなぞが解ければ返してもらえるのだろう?ならば考えなくては。」
「……異常生物の言う事を信じると?」
「わざわざこんなまどろっこしいことをして騙す理由もないだろう。メリットが1つもない。ならば信じて解いたほうがいいだろう。」

それにしてもなんだろうね、と羽酉さんがぶつぶつと呟き始めた。その冷静さの少しでもいいから私に分けてほしい。

「あ、そういえば。」

急にばっと顔をあげて本棚を漁り始める。

「なんなのだ?」
「これ、あそこの地域の昔話とか新聞記事をファイリングしたものだ。良かったら使いたまえ。」
「はあ、これはいつ作ったのだ?」
「私が作ったのではない。他の職員の人たちに任せて1晩で作らせたのだよ。」

ああ、私のせいでそんな重労働を課してしまったのか……すまない、名無しの権兵衛さん、ジュード・ロウさん。

「しかし、なんでこんなものを?」
「ああいう異常生物は史実とか事件とかから発生したものがおおいからな。ひょっとしたらヒントが見つかるかもしれない。」

私もできる限り捜索を続けるから、謎解きは頑張ってくれ。そういって羽酉さんは私を部屋から追い出した。大量のファイルを手に取ってふう、とため息をつく。やるしかないのか。なぞ解きを。頭を使うことは苦手なのだが……しかし、なぞなぞの答えが気にならないわけではない。ならば、私が解くしかない。解いて見せようじゃないか。

「必ず、答えをもってくるのだ。」

私は静かに、それでも力強く答えへの第一歩を踏み出した。


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