無知からの卒業

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あの日、虫の予感とか、嫌な兆候とかは全く感じなかった。いつも通りの朝だったし、朝食のソーセージと牛乳もいつも通り美味しくて、いつものようにいい天気で。

私は1カ月前から就いていた仕事を行うために職場に向かっていたんだ。小さい町工場でね。そこで私は外の掃除や工場内で書類の整理とかをしていたんだ。新人だったからね。雑用ばかりだったよ。でも、楽しかったなあ。特に外の掃除のときはね。近くの住民の方がいっぱい話しかけてきてくれてね。仕事を忘れてしまうほどお話に熱中してしまって、怒られたことも何度かあったな。でも仕事は楽しかったし、人との交流もたくさんできるし、幸せな職場だったな。

あの日も職場につくとすぐに日課の外掃除に竹ぼうき、立つタイプのちりとりを取って向かったんだ。確か前日に雨が降っていたかな。落ち葉が地面に張り付いちゃってなかなか掃くのが大変だったよ。四苦八苦してたらいつも朝散歩で職場の前を通るおばあさんとちっちゃな黒柴ちゃんに話しかけられてね。日課のような世間話をしていたんだ。本当に、いつも通りだったんだ。地面からあの何かが出てくるまでね。

何だっただろう。あれは。形は長方形で、私より二回りほど大きくて。とにかくそれぐらいしか分からなかった。ただ、急に地面から出てくる時点ではこんな冷静な分析は出来なかったな。とにかく、急に出てきたそれは、ドリルが回転するような、金属が高速で擦れ合う不快な音を出し始めたんだ。それが、私が人だったころに聞いた最後の音だった。

気が付くと私は地面に倒れていた。人生初めての気絶だった。起きてからすぐに私は胃の中に地面に吐いた。内臓がぐちゃぐちゃにかき乱されるような感覚で、気持ち悪かった。朝食のソーセージの欠片と牛乳を吐き出した後、吐き出すものを無くした体を抑えるために口を押えた。すると、おかしいんだ。何か人の感触じゃない。毛があるんだ。そこで私は初めて自分の両手をまじまじと見たんだ。手の甲にはびっしり黒い毛が生えていて、手のひらにはぷくっとしたピンク色の肉が張り付いていた。それが肉球であることを理解した瞬間、私は二度目の気絶をしていた。

「……これが、私があなた達に保護されるまでにあったことだ。参考になったかな?」
「ええ、とても参考になりました。ありがとうございます。では次に、あなたの体に何が起こったのかについて説明しましょう。少し部屋移動を行います。こちらへ。」

目の前の白衣を着た人物が立ち上がる。しかし、私には気になることがひとつあるのだ。

「ああ、ちょっと聞いていいかな?」
「なんでしょう。」
「その、さっきの話の中に出てきたおばあさんと黒柴ちゃんがいるだろう?私の近くにいたから、心配でさ。無事なのかな?」

表情がピタッととまり、こちらに体が向き直る。

「……あちらで話そうかと思いましたが、ここで少し説明しておきましょうか。あなたのいうおばあさん、皆川スミエさんは、あのオブジェクトの影響により死亡しました。また、スミエさんの連れていた柴犬ですが……。」

ここで少し下唇を噛んで躊躇していたが、すぐに口を開いた。

「あなたの中に、います。」

それがどういう意味か、私には何となく理解した。してしまった。

「……職場のみんなは?」
「……残念ながら。あの場所で生きていたのは、福路弐条さん。あなただけです。」
「そうか……引き留めてしまい申し訳ない。案内してくれ。」

ああ、楽しかった日々よさようなら。心の中で呟きながら、私はパイプ椅子から立ち上がった。


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