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あの時の自分は、スマホでダラダラとTwitterを見ていたんです。大学生なのだから勉強だったり、そうでなくとも他に何かやる事はあったのですが、何となく時間つぶしのつもりで2時間位ボーっと見ていました。
そうしたら、こんなツイートが流れてきたんです。
見覚えの無いアカウントでした。誰かが「いいね」や「リツイート」をしたわけでもないのに、スッと出てきて目に入りました。
それを見た瞬間、自分は怒りに似た感情を覚えました。あ、これ自分に向けて言ってんな…って確信できたんです。舐めた口きいてやがんなって、イラついて舌打ちが自然と出ていました。「はんざいしゃ」っていう部分にも心当たりはありませんでした。
とにかく差別的で、思慮が浅くて、発言権が与えられてない愚図で無能な奴に上から目線をされているようで、バカにされているような気がして、とにかく不愉快で堪らなかったんです。
今思い返してみると、不思議です。さっきも言ったとおり、見覚えのないアカウントなのだから、このツイートが自分に対して言われたものだとは限らないじゃないですか。それにほら、インターネットをやっていれば分かると思いますけど、変な奴とか合わない奴とか山ほど居ます。頭のおかしい奴だと心の中でバカにして、そのまま無視しとけば良かったのに。
でも、その時の自分はそうじゃなかったんです。
何故か、その「たかはし」っていうアカウントの向こうに、高橋君が居るような気がしてしまったんです。だから、無視できなかったんです。
高橋君っていうのは、高校生の頃のクラスメイトです。関係性は……う~ん、”友達”ですかねぇ、広く言えば。高橋君とは、よく「2人組」を作ってたんですよ。
……自分で言うのも何ですけど、僕は高校生の頃、いわゆる「陰キャ」だったんです。それも、殆ど誰とも喋らず、大人しく静かに目立たないようにしている「空気」って感じの陰キャでした。
イジメられていたわけじゃないし、中二病こじらせて斜に構えていたわけでもありません。ただただ身勝手で自己中心的な思考を巡らし続けて、友達付き合いが怖くて面倒くさくて。でも自分を変えるのは苦しくて嫌で、結局は周囲が変わるのを都合よく待っているだけの奴でした。
そんな自分には当然ながら友達は居ませんでした。でも、それだと困る時があるんです。体育で2人組作れーで余るとか、昼休みに皆仲良し同士で机くっつけて弁当食べてる中ひとりぼっちとか、そういう時。あれは嫌でしたね。自分が普段どれだけ軽んじられているか、可視化されるようで。
だから、”友達”が欲しかったんです。そういう時のために。
そんな時、転校してきた高橋君はうってつけだったんです。猫背でノソノソ歩く様子は見るからに根暗で、自己紹介の時に声が小さすぎて何も聞こえなかったのを見て、余るんじゃないか?って期待できましたね。
それは期待通りでした。おかげで、気が楽な学校生活でしたよ。高橋君なら「2人組」を作る時に、一緒にやろうぜとか、そういう会話なくて良いんですよ。その場を乗り切るためだけに、なんとなく一緒になって終わったら特に何もなし。まぁ、高橋君なんかが喋らなくて良いじゃないですか。だから、丁度良かったと思います。
そして いつの間にか、何がキッカケかは知りませんけど、高橋君はイジメられていました。殴られたり、蹴られたり、悪口を言われたりしているのをよく見ましたけど、たぶんそれ以上に、色んな人から陰湿なイジメを受けていた気がします。まぁ、だろうなって感じでした。
で、ある日、事件は起きました。自習の時間、いじめの流れで蹴られた高橋君が3階の窓から落ちてしまったんです。
僕はその直前、高橋君にじっと見られていたんです。助けを求めているようにも、人を見下しているようにも見える、あの嫌な目で。
見てんじゃねぇっ…て目を逸らした瞬間には、落ちてたんです。
すみません、長くなりました。……そんな訳で高橋君は、僕にとってのトラウマだったんですよね。だから、あのツイートを見た時も高橋君を思い出して、精神的に不安定になってしまったんです。
でも、何とか時間をかけて頭を冷やしました。高橋君なんかに自分の時間を浪費するなんて…って考えて、少しずつ少しずつ。高橋なんて苗字はありふれていて、「たかはし」も無関係の別の奴だろって言い聞かせながら。
そして、今ならこのツイートを見なかった事に出来る…!って精神状態に遂になれて、スクロールしてそのツイートを流そうとした時、やってしまったんです。
「いいね」を。
間違って、ポンって押しちゃったんです。
すぐに取り消しました。でも、「いいね」されたっていうのは相手にすぐに伝わっているようになっているんです。
たかはしさんにフォローされました
フォローされた瞬間でした。何かが、変わったんです。
何故か、棘のある言葉ばかりが目につくようになりました。
思いやりのある言葉が感じにくくなり、鈍く霞がかかったように上手く認識できないんです。逆に僕や誰かを軽んじるような悪口は、ハッキリと伝わって頭にいつまでも残る。
普段から交流のあったネットの友人が、急に僕を下に見て生き方や存在を否定してきました。
頑張って大学生デビューしたから出来た友人が、何か見透かすような嫌な笑いを浮かべ、何も言わずヒソヒソと遠くから悪口で盛り上がっていました。
僕を信頼してくれていた上司が、あきれ果てたような軽蔑の目つきをしながら、面倒くさそうに不機嫌な声で話しかけてくるんです。
仲の良い人や、尊敬していた人や、両親までもが、皆……自分を軽んじてくるんです。
誰か自分を助けてくれ…って願いました。でも、すぐに助けなんて来ない事に気付きました。
僕は、高橋君を助けなかったんですから。
惨めでした。とても、とても。
目を瞑っていた事に気付かされたようでした。
高橋君を下に見て、「アイツと僕は違う」って必死に心を保っていた自分の弱さに。誰からも見向きもされていない状況から逃げ続けていた自分に。
……静かでした。何もかも嫌で、涙が溢れて頭がしびれて、気が遠くなるほど寂しくて切なくて。
死のうと思いました。
これは、永遠に続くんでしょうから。自分がどれだけ心を酷使し元気を出して進んだとしても、自分にとって嫌な事は絶対にくっついてきて、辿り着けても「自分にとって居心地の良い場所」が見つかるだけで…。そして、自分の心に根付いた自虐的な精神は二度と元には戻らないでしょうから。
それでも頑張らなきゃいけない、なんて当たり前で。
でも、自分は頑張りたくなくて、嫌で。楽な方法で、この苦しみから解放されたくて。
色々調べてみたら、良い自殺の方法を動画サイトで見つけたんですよ。すぅっと死ねるらしいです。
やってみようと思います。
じゃあ…さよなら。
気付いたんです。もっと良い方法がある事に。
なんであれ、自分がこんなに苦しんでいるのは、結局は高橋君が原因じゃないですか。
死のうとした瞬間、ふと高橋君が頭に浮かんで、色々と調べてみたんです。
高橋君、生きているらしいです。許せないですよね!えへへ、しかも、あの時落ちた時の怪我の後遺症で、まともに動けないらしいですよ。あー、はは。
自分がこんなに苦しんでるのに、生きてるらしいです。高橋君なんかが。
……なんだかんだ、高橋君と僕は、やっぱり”友達”ですねー。
高橋君は、いつも僕を楽にしてくれる方法を与えてくれるんです。
フォローし返さなきゃ、ですね。
もう分かりました。誰でも辿り着けると思います。そのまんまです。
僕は はんざいしゃ なんですもんね。
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任意A任意B任意C- portal:4697631 (05 Dec 2018 09:08)
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