四肢鳴らし

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みぎて みぎあし ひだりあし ひだりて
あります あります
なくなりません なくなりません


って唱えながら、四肢を同時に動かすんです。「四肢鳴らし」という名前のおまじないです。多い時で、1日に50回以上やるかもしれません。

アイツを思い出して四肢を失う恐怖を感じたら、何をしていようと、やらなきゃいけないんです。……すみません、一度やらせてください。



みぎて みぎあし ひだりあし ひだりて
あります あります
なくなりません なくなりません



よし。で、えっと続きですね。僕がこうなったのは全部アイツのせいです。アイツっていうのは、中学で僕と同じクラスだった高橋の事です。

高橋は少し変わった奴でして、まず根暗な奴でした。不満があっても顔に出すだけで、自分からは何もしない。何か喋ったと思ったら、小さい声でボソボソと。僕はたまに高橋をイジッてあげたりして、そこそこ仲良くしてやってたはずです。でも、アイツ自身は皆を見下すような態度を取るもんですから、上位グループの奴らのイジメの標的にされてたんです。

で、ある日、事件は起きました。先生の居ない自習の時間、背中を蹴られた高橋は、いつも通り窓際で踏ん張るはずでした。でも、踏ん張ることは無く、そのまま無抵抗でスルっと3階から落ちていってしまったんです。



恐る恐る…クラスの全員で下を見ました。



血だらけの高橋は仰向けになっていて、こちらを凝視していました。変な方向に捻じれた両手両足は痙攣したかのように4本同時に動いていました。



高橋は病院に運ばれて一命は取り留めたんですが、脊髄を損傷して、首から下は全く動かなくなったらしいです。先生たちも深くは追求せず、クラスの皆も暗黙の了解があって、高橋の件は事故という事になりました。

クラスは急速に日常を取り戻していきました。ただ、誰かが言ったんです。高橋は俺達に呪いをかけたって。いつか、自分達も高橋のように、四肢を失うような生き地獄に落とされるんじゃないかって。

勿論、何の根拠も無いですよ。ただ、もしかしたら…って思ってしまったんです。それで、気づくとクラス中で「四肢鳴らし」のおまじないが流行していました。




…もう10年も前の話です。でも、未だに僕は高橋の呪いに苦しめられてます。

ちなみに本当の所は分かりませんが…高橋はとっくの昔に死んだって噂を聞きました。舌を自分で噛んだとか、親が目を離した隙に風呂で溺れ死んだとか。

ざまぁみろって感じですよね。

こんなトラウマを植え付けておいて、本人は元気に生きているんだとしたら、絶対に許せない。高橋なんかが、僕の人生を狂わせていいはずが無い。

…なので、僕は毎回アイツの顔を思い浮かべて、死ね死ね、死ね死ね、死ね死ねって思いながら「四肢鳴らし」をやる事にしてるんです。

すると心がスッと軽くなって、自然と笑顔になれるんです。よし、もう一発。



みぎて みぎあし ひだりあし ひだりて
あります あります
なくなりません なくなりません



……よし。いやでも、本当に。

死んでてくれると嬉しいですね。


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