心の夜明け
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批評してくださる方へ作者より
斬新さ、新鮮さなどなく、ただただ書きたかった内容です。
詩的表現が苦手なのでチャレンジしました。
とある女性の物語です。


 人は太陽がなければ生きるのは難しい。その太陽が愛する相手であればなおさらである。

 私の彼氏はヒーローだった。困っている人がいたらできる限り手伝い、頼まれごとをすれば快く引き受ける。私が幼いころに川で溺れたとき、私を助けてくれたのも彼だった。そんな彼に助けられたこともあってか、私は彼とよく行動を共にしていた。小中学校のときにはからかわれたりもしたが、高校に入る時に彼に告白をされて付き合うこととなった。高校卒業後、私は地元の大学へ行き、彼は夢であった消防士になった。その時から同棲も始め、まさに順風満帆だった。
 私にとって彼は太陽のような人であり、実際に心の支えとなってくれていた。彼といる限り、私の心に夜は訪れないだろうとまで思っていた。

 ある昼下がり、心地よい日差しでウトウトしていると家の電話が私を呼んだ。出てみると彼からの電話で、少し声が聞きたくなったとのことだった。珍しいこともあるじゃない。今晩はカレーにするけどいいよね?などと他愛のない話をして、切ろうとしたタイミングで、ごめん。と彼が小さく漏らしたのが聞こえた。すぐに切れてしまったがどうせ彼のことだ。また勝手に場所をとるものでも買ったのだろう。帰ってきたら問い詰めてやろうと考えつつ、カレーの材料を買いに最近できたデパートへ向かった。
 お昼前に消防車のサイレンが聞こえてきて、彼が帰ってくるのはいつもより後になるだろうと考えていた。

 お昼ごろの予想通り、日が少し傾きかけても帰ってこなかった。そろそろカレーの用意でもしようと台所へ立つと、また家の電話に呼ばれた。今度は誰だろうと思い電話に出ると彼の同僚だった。彼が隣町の病院へ運ばれた。手術を受けているはずだと。頭が話を受け付けない。さらに彼が何かを話しているが何もわからなかった。
 隣町の病院は少し遠いところにある。私は急いで車を走らせた。ついて事情を話すとすぐに手術待合室に案内された。日付が変わるころ、手術室からお医者さんが出てきた。 彼の両親と話をしているお医者さんが頭を下げ、母親が崩れてしまった時、私は彼の死を悟った。なんとなく覚悟はしていたが、現実を頭が受け付けない。
 私の心に夜がやってきた。

 彼の葬儀が終わって数日したのち、私は消防署を訪れていた。気になっていた当時の状況を教えてもらうためだった。電話をくれた方が気まずそうにも話してくれた。火の手が強くとても危険だったこと。子供が一人取り残されていることを聞いた彼が、██ちゃんか!と叫び炎の中に向かっていったこと。その子を抱えて炎から出てきたときには消防服が焦げついているほどの状態だったこと。どれも彼らしい、ヒーローのような活躍だ。
 そのなかで1つ気になる話が合った。私に電話をくれる数分前、彼が奇妙な電話を受けたらしい。どうやら俺は█████という人を助けて死ぬと電話があった。といって神妙な顔をしていたそうだ。そうか、あのごめんはそういうことだったのね。彼はその電話で死ぬことを確信して、そのうえでその子を助けに行ったのだろう。私にごめん。とだけ残して。

 それから1ヶ月がたっても心の夜は明けないままだった。友人との遊びも断ることが増え、気を使わせてしまっていた。自分でも意外なほど彼という太陽に依存していたらしい。そんな私をみかねてか、彼からの最後の気遣いだったのかわからないが、友人がとある噂を聞いたらしい。

”死者と会える踏切”があると。

 八王子の郊外にある踏切で、午前2時に死んでしまった思い人と会いたいと強く願うと会うことができるというものだ。オカルトは信じない方だったが、私はその噂を信じようと思った。山のほうからでは効果がないこと。目を瞑って20秒間強く願うこと。一人で行くこと。最後に電車に乗って去っていくことなど教えてくれた。

 その日の夜、私は例の踏切へ向かった。2時になったので目を閉じ、彼との再会を強く願う。目の前で電車が通り過ぎたような感じがした。20秒を数えた後、目を開けるとそこには彼がいた。
 噓のようだった。彼が申し訳なさそうに微笑みながら、こちらを向いていた。何か言おうと口を動かそうとするが、言葉が出てこない。

一緒にカレー食べたかったなぁ。

 私は笑ってしまった。再開の一言目がカレーについてなんて、馬鹿じゃないの。それから私も言葉がするすると出てきた。あの日から今までのこと、消防署のほかの職員のこと、彼にかかってきた電話のこと。いろんなことを話していると、時間なんてあっという間だ。電車がゆっくりとこちらに向かってきていた。だから私は最後に、彼に叫んだ。

私と結婚してくれませんか!

 彼は驚いた様子を見せ、そして

俺はもう死んでるんだ。だから、俺に縛られないで生きてくれ!

 それが最後の会話となり、彼は電車に乗って逝ってしまった。太陽は死んだ。本人に言われたのだから間違いない。私はやっと彼の死を受け止めることができたような気がした。だから、私の心はもう夜ではない。

 家に着くころには、空が白んできていた。このまま太陽は上るだろう。朝を迎える空に虹を掛けるための、最後の大雨が目から溢れていた。


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