なんてことのない日(ちいさなざいだん)
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前書き

この記事を観覧・批評いただきありがとうございます。
カノンは「ちいさなざいだん」です。


財団の職員が異常存在に関する職務内容を話しても問題ない場所は少ない。間違ってもフロント企業で異常存在のことは漏らせないし、第三者がいるようなカフェや居酒屋なんてもってのほかだ。そんな職員でも安心してお酒などを飲める場所の提供を。そんなプロジェクトが立ち上がり、サイト内にバーを設けることとなった。しかし異常存在に理解のあるバーテンダーが見当たらない。そんな折、街のバーで異常物品が確認され、確保後に交渉を行った結果、そこのバーテンダーが快く受けてくれた。そんな彼女こそ甕調みかつきバーテンダー1である。これはそんな彼女の密着取材の記録である。

総務部 内部広報室 潟庫裏


10:00

私、潟庫裏かたくり穂栄ほえいはサイト近くのマンションにいた。甕調さんから10時に家に来てほしいと要望があったためだ。プライベートで彼女と会うのは初めてだったのでやや緊張しながらチャイムを鳴らすと、少し眠そうな彼女がドアを開け「ようこそ」と出迎えてくれた。白と黒を基調とした服やアクセサリー、高い身長とハスキーボイス。何もかもが私とは真逆のような女性だ。そんな彼女の姿とマッチするように、部屋もモノクロで統一されつつもバーの様相を帯びており、そのような雰囲気のバーに来たのかと勘違いするほどだ。昨日少し遅かったのよ、とこぼしながら彼女は何かを飲み始めた。

「この1杯がないと1日が始まらないの。」

そんなことを言いながら彼女は飴色の飲み物を飲み干す。内容物は企業秘密とのことだ。その後、彼女は市場に向かう。バーで出すお酒の肴や使用する果物などを見に行くようだ。まとめて注文するなら財団を通した方が安くないかと聞くと、彼女は自分の目で見て選ぶのが1番だと言っていた。産地や色などを確認し、手に取って選ぶ彼女の顔は真剣そのものだ。

「料理とか出す人は大体そうだと思うけど、お客さんに自信のないものは出したくないの。少なくとも実際に目で見て納得すれば、自信を持って出せるでしょ?」

なるほど、食べる側としても料理を出されるときに自信満々のほうが安心して食べられるというものだ。これから彼女はバーへ向かい開店準備や新しいカクテルの試作などを行うようだ。


15:00

バーへやってきた彼女、早速開店準備かと思ったが何やらすることがあるらしい。

「ほら、まだお昼食べてないじゃない?」

そういうと彼女はバーの裏手にあるキッチンへ向かい、料理を作り始めた。お湯を沸かしグツグツと沸騰してきたところでパスタを投入する。それと共にフライパンにオリーブオイルを引きニンニクを炒める。ニンニクの鼻を抜ける良い香りがしてきたところで唐辛子を投入する、パスタがちょうど良く茹で上がったので水でさっと締める。その茹で汁をフライパンに入れ、火を強めフライパンを小気味よく動かす。どうやらペペロンチーノを作ろうとしているようだ。フライパンに入れた茹で汁の色が変わってきたら醤油を入れる。移動中にお昼ご飯を食べていた私ですらお腹が空くような、ニンニクと醤油の焼けた香ばしい匂いがしてくる。水気が飛ぶ前にパスタを投入しそれに絡めていく。最後にパセリと胡椒をかけて完成した。彼女はそれとワインで合わせていただくらしい。仕事前からワインを飲んで大丈夫かと不安になっていると、

「美味しいものには美味しいものを合わせる。これが大事なのよ。お昼からお酒がどうとかは関係ないのよ。」

との言葉をもらった。彼女が大丈夫ならそれで良いのだろう。その後軽く掃除をし、肴などの準備をしていると既に日が沈みかけていた。


18:00

お店の看板をOPENに変え、この日の営業が始まった。彼女曰く開店から1〜2時間はあまり人は来ないらしい。が、どうやら今日は別だったようだ。

「おや、私が1番かと思っていたのだがね。」

そういってやってきたのは恰幅のいい博士だ。取材ですよ、と返すと嬉しそうに笑った。

「我々が話題にあまり気を使わなくてもいいからね。いい場所だよ。ここができるまでは外で飲むときもなかなか酔えなくてね。」

「博士はそもそも酔うほど飲む人じゃないでしょ。ご注文は?」

いつもの、と彼がいうと彼女はすぐに作り始めた。ウォッカ、メロンリキュール、ラズベリーリキュール、パインジュースを2:2:1:8でコリンズグラス2に注ぎ、ステア3すれば完成だ。透き通るような薄い紅葉色のカクテルが出来上がった。

「今日はね、担当してたオブジェクトの実験で予想以上の成果が出てね。本当に良い日だよ。」

博士はそんなことを彼女に話しながら美味しそうに飲んでいる。そんな博士を皮切りに続々と人が訪れはじめた。ミルクの入ったものしか頼まない女性と連れられるように来た男性。お前の全快祝いだ!4と楽しそうに飲んでいるエージェント達。何やら端のほうで難しい顔をしながら話している博士など、開店から2時間もしないうちに店内は活気に満ち溢れていた。

「ミカちゃん5、ウーロンハイ3つ頂戴!」

「こっちにカルーアミルクとコークハイお願い。」

「シャンディガフと牡蠣のムニエルを各2つずつお願いします。」

彼女はそれらの注文を手際よく処理していく。まずフライパンにバターを入れ、中火にかける。バターが溶ける間にウーロン茶と焼酎を6:4で入れ、ステアして持っていく。戻ってくるとちょうど溶けているのでそこに牡蠣を入れてよく絡め、こんがりと焼き色がついた時点で醬油を回すようにかけ全体になじませる。少し焦げた醤油とバターのいい香りがしてきたところでお皿に盛りつける。そしてよく冷やしたコップにジンジャーエールを注ぎ、ビールを静かに入れていく。ちょうど1:1になった時点で止め、それを持っていく。最後に氷を入れたグラスを2つ用意し、片方にコーヒーリキュールと牛乳を1:3で入れステアをする。もう片方にウイスキーとコーラを1:4で入れステアをして2人に出す。誰かが抜けると入れ替わりでお客さんが来店し、またお酒やつまみを注文していく6。そこから聞こえてくる声は、ほんのひと時だけでも仕事を忘れ談笑する博士やエージェント達の声であふれていた。そうして夜は更けていく。


01:00

最後まで残っていた若いエージェントを店から見送り、彼女は店の看板をCLOSEDにした。今日は珍しく忙しい日だったわね、とこぼす彼女の顔には笑みがこぼれていた。軽く掃除をしてこのまま今日は終わりかと思ったが、ここから彼女は1杯だけ作るようだ。

「夜はこれを飲んで終わるのがお気に入りなの。寒くなってきたしあなたも飲んでいきなさい?」

そういうと彼女はお湯を沸かし始めた。沸く間に卵黄と牛乳をちいさな鍋に入れ、よく混ぜた後に軽く温めてコップに注ぐ。お湯が沸いたらコーヒーを淹れ、先ほどのコップに注ぎ、ウォッカを注ぐ。最後に少し硬めのクリームをトッピングし、ロシアンコーヒーの完成だ。体の芯から温まる感覚に心地よさを覚えながら、彼女と少しだけ話をした。

「今日1日どうだったか?そうね、誰かと一緒に1日過ごすなんてほとんどなかったから新鮮で楽しかったわよ。私にとってはなんてことのない日だったけど、取れ高なんてあったかしら?」

「ここはサイトの中にあるでしょ。サイトの関係者しか来ないし、もしも何かまずいことを漏らされちゃったら記憶処理されなきゃいけないわよね。でも、世界の平和のために彼らが頑張ってくれてるから、その休憩のお手伝いをできたら、なんて思ってるわ。」

「変な人が多いわよね。研究者ってこんな人たちばかりなのかしら?でも彼らのことは好きよ。悪い人は1人もいないし。たまにここでいたずらの作戦会議してる人とかもいて、毎日飽きないわよ。」

「私にとってここで働くのも元々のお店で働くのも大差ないのよ。相手がだれであれ、私の前に来て注文をすれば私のお客さんなの。1人で回すのは大変な時もあるけど、手伝ってくれる人もいるし、なによりここは私のお店だからね。」

そんな話をして、彼女と別れるころにはすでに2時を回っていた。そろそろ雪の季節だ。寒くなったらまた飲みに行こう。そう思いつつ、ロシアンコーヒーの温かさが残っているうちにと家路を急いだ。


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