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アイテム番号: SCP-2879-JP
オブジェクトクラス: Keter
特別収容プロトコル: SCP-2879-JP-1の捜索は警視庁公安部特事課との協力下で継続的に行われます。日本国内の精神科医療機関、福祉関係機関等の情報を収集、監視しSCP-2879-JP-1を特定してください。SCP-2879-JP-1が発見された場合は身柄を速やかに確保し、周囲にはカバーストーリー("精神保健福祉法29条に基づいた措置入院")を流布してください。確保後はインタビューにより所属する信仰集団を迅速に特定してください。SCP-2879-JP-1による未確認の集団が確認された場合、機動部隊に-8("地域猫")、機動部隊ら-3("猟友隊")によるSCP-2879-JP-1群の確保作戦が秘密裏に実行されます。作戦参加者はSCP-2879-JP-2の展開するミーム、化学的攻撃への曝露を防止するために対視覚性ミーム装備と気密性防護服の装備が義務付けられます。
発見されたSCP-2879-JP-2が顕著な神的脅威を示さなかった場合、機動部隊ら-3によって確保されます。確保されたSCP-2879-JP-2はサイト-8103へと移送されます。移送時は小型の簡易スクラントン現実錨を起動し、周辺現実性の不安定化を予防します。SCP-2879-JP-2はサイト-8103の非アブラハム-東洋シャーマニズム/アニミズム的対生物的神性用儀礼の施された耐熱耐圧耐現実改変耐放射線収容室内の飼育槽で飼育、調査されます。SCP-2879-JP-2の神的脅威の増大が認められた場合、当該個体は戦術神学部門により速やかに処理されます。
発見時点でのSCP-2879-JP-2が既に神的脅威を示していた場合、もしくは神格化を遂げていた場合は発見地域を中心とした周囲400km以内に存在する全ての財団関連施設及びGOC対して大規模な神的災害発生の可能性を通告してください。周辺地域の封鎖が完了し次第、戦術神学部門とGOCによるSCP-2879-JP-2の撃滅、封印を目的とした対神格存在戦闘が展開されます。
異常な現実性変動、奇跡論的事象等のSCP-2879-JP-2と関連する可能性のある兆候が観測された場合、戦術神学部門により即座に調査が行われます。
説明: SCP-2879-JPは日本国内で不定期に発生する異常信仰の総称です。以降、SCP-2879-JPの異常信仰に罹患した人物をSCP-2879-JP-1と呼称します。
SCP-2879-JP-1はナミアゲハ(Papilio xuthus)の幼虫を崇拝の対象とします。崇拝行為の例としては以下の行為が挙げられます。
- SCP-2879-JP-2を祭壇に置き、1日3回の礼拝を行う。
- SCP-2879-JP-2の幼虫の餌であるミカン科植物の葉にSCP-2879-JP-1の血液を混入させる。
- SCP-2879-JP-2の降臨儀式に基づき、自身の食物を特定の位置に設置する。
- 第三者への布教活動。この布教活動においてもSCP-2879-JP-1の発生が確認される。
この崇拝行為はSCP-2879-JPを示した直後1は軽度の記憶処理で抑制及び治療することが可能ですが時間経過又は崇拝行為の過激化に伴って重篤化し、1ヶ月以上経過するとSCP-2879-JP-1自身の如何なる生命維持活動よりも優先され、精神異常が不可逆なものになることが判明しています。
SCP-2879-JP-2。
SCP-2879-JP-2はSCP-2879-JP-1の崇拝対象となったナミアゲハの幼虫です。通常のナミアゲハの幼虫の相違点として、以下が挙げられます。
- 通常のナミアゲハの幼虫が5齢幼虫で蛹化に入るのに対し、SCP-2879-JP-2に変化したナミアゲハの幼虫は15齢で蛹化に入り、脱皮に応じて体長も大幅に増加する。
- 体色を不定期に変異させ、色彩による異常ミームを展開することが可能になる。
- 臭角が常時展開された状態になる。臭角から発される臭気を吸引した人物はSCP-2879-JP-1へ変異する。
- 蛹化の際に生成される糸の硬度が非常に高くなる。また、未知の手段により糸を高速で射出する事が可能となる。
- 成長に応じてSCP-2879-JP-2の周囲の現実性が不安定化及び歪曲する。カント計数機により、SCP-2879-JP-2が展開する現実歪曲の内部ヒューム値を観測したところ、0.43Hmから27Hmの間を常時変動していることが確認されている。
SCP-2879-JP-2の発見経緯及び異常性の詳細については後述の資料と作戦報告を閲覧してください。
補遺1: 発見経緯
SCP-2879-JPの存在は蒐集院の吸収にあたって回収された資料中で詳細な言及が成されていましたが、資料の回収された時点では既に無力化済みであると判断されていました。(補遺2: 蒐集院内部文書参照。)
SCP-2879-JPは2004年8月頃から関東地方を中心として形成された複数の小規模な新興宗教団体における関係者の不審な餓死、衰弱死の多発についての警視庁公安部による捜査中に発見されました。公安部特事課を介してこれらの情報を察知した財団はこれらの宗教団体のうち「長寿の木 関東本部」、「奥多摩訴命会」、「吉岡██氏を中心とする名称不明の集団」の活動拠点から異常な発達を遂げたナミアゲハ幼虫様生物(SCP-2879-JP-2)を複数回収しました。また、広域調査により28の県で類似した宗教団体を発見、同様にナミアゲハ幼虫様生物を確保しました。全てのSCP-2879-JP-1は記憶処理を施した後に解放されましたが、全体の17%程度のSCP-2879-JP-1にはSCP-2879-JPに関連した後遺的な精神障害が残存しました。これらの対象への縦断的研究により、SCP-2879-JPに関与していた期間が長い対象ほど後遺障害が重篤化する傾向が認められています。
回収されたSCP-2879-JP-2個体の大部分は非異常のナミアゲハの幼虫よりも顕著に大型化しており最大の個体は40cmに達していました。一部の個体は体色を不定期に変化させることで認知機能の混乱を誘発するミームパターンを展開する能力、周辺現実性に対して軽微な現実性変動を引き起こす能力を発現していました。また全個体に共通する点として、回収されたSCP-2879-JPは臭角が常時展開されていました。
確保時、確保後の実験により臭角から発される臭気を吸引した人物がSCP-2879-JP-1へと変化することが確認されました。SCP-2879-JP-2が臭角から分泌する化学物質はモノテルペン、セスキテルペン、短鎖脂肪酸等であり成分的には一般的なアゲハチョウ類のものからの逸脱は認められませんでした。また実験では一定以上の嗅覚を欠いた対象や、他の芳香化合物によって臭気が希釈された環境ではSCP-2879-JP-1化が観察されない事が確認されました。SCP-2879-JP-2の臭気は嗅覚への情報入力を利用したミーム的災害を引き起こすものであると考えられています。
補遺2: 蒐集院内部文書
以下は蒐集院から回収されたSCP-2879-JPと考えられている存在についての資料です。
常世神蒐集物覚書帳目録第〇四二四番
皇紀千三百四年捕捉。 都に流入し広がりを見せていた奇妙な新興信仰である常世神を検めたことで明らかとなる。当初は単なる流行であろうと無視されていたが、異様な広がりと民衆にもたらされている荒廃が問題となり秦河勝により検分された。以下は常世神の流行の概要である。
民はある虫を常世神として祀り、富と長寿をもたらすと信じ込んでいるようであった。人々の祀るこの虫は橘や山椒によく付いているものである。長さは四寸。大きさは親指ほどで色は緑色に黒い斑点があり形は蚕に似ている。人々がこの虫を信仰する様はとても正気とは言い難く、虫を捕まえては神棚などに祀り供物を捧げ、歌い踊り回るという有様である。
それに加え、民は酒や野菜や食物、他の財産を道に並べる奇行をとったり不必要に喜捨するなどしている。人々はそれを常世神の福を得るために必要な事だと考えているようである。しかしそのような行動をとっても常世神の福は無く民はあからさまに飢え、貧しくなっている。そうなっているにも関わらず、民衆は常世神がもたらすという福に期待し、一向に信仰をやめようとしない。挙句の果てには巫覡すらも託宣として常世神を祀れば貧乏人には富が、老人には若さが与えられると民に言い広めているようである。巫覡の様子もまた異様であり何を訊いても話にならずただ常世神を崇め奉るように繰り言を吐くのみである。
常世神は信仰の形を借りたある種の呪術であると思われる。民衆の歌や踊り、その他の奇行には道教の類と思われる呪術、特に斎醮から派生したものが見られた。消災度厄を目的として酒や食物などの供物を道に並べる様は道教における醮と類似している。歌や踊り、酒礼の形式には醮儀、斎儀の双方に通ずるものが多く見られる。これらは本来の斎醮としての役割を担ってはいないようであり何らかの機能や役割が歪められているようである。
民衆はこの儀式を常世神の福を得るためのものとして行っているが、人々の期待するような富や長寿は実際には齎されておらず、却って食物を捨てるなどの行動が原因となって貧しくなっている。しかし人々はまるで飢えや貧しさを気にすることはなく、いつか必ず常世神が救ってくれるものと信じているようである。説得や脅迫程度で民衆から常世神を取り上げることは困難であることが確認されている。祈祷によって常世神への執着を取り除くことはできたことから、何が原因であるかは明らかでないものの民衆は何かに憑かれているのではないかと考えられる。しかしながら祈祷は効きにくく、効いた場合にも数日程度で再び何かに取り憑かれたようになってしまう例が多く有効ではない。
常世神として祀られる虫も検分されたが目立った怪は確認されなかった。悪鬼、妖異の類でもないとされた。しかし異様な点としてこれらの常世神として祀られた虫は祀られなかった全く同じ虫と比べると異様に長命であった。大きさも一回り、二回りほど大きくなるようである。恐らく民衆の儀式が虫に何らかの影響を与えているのであろうが、その詳細は分からなかった。
常世神の検分の最中、秦河勝は民衆や巫覡らの話や噂から東国の不尽河周辺に住まう大生部多が常世神を世に広めたものであると突き止めた。秦河勝は更なる検分のため直ちに祈祷官や正気の巫覡を引き連れて東国へと向かった。以下はその際に秦河勝が蒐集院に宛てて作成した文書である。
秦河勝が蒐集院に宛てた文書-1
やはり、都を出て東国に近づけば近づくほど常世神の信仰による荒廃は深刻になっているようである。先程碓氷山の近くの村に立ち寄ったが病に倒れた者や餓死した者が生死の区別無く道に投げ出されるなど酷い有様であった。そのような有様にも関わらず、投げ出された者達も含めて皆一様に常世神を祀っているのだから不気味である。やはり呪いや憑き物の類であろうとは思うがこれほどまで広範囲に、大人数に作用するというのは奇怪である。道中は念の為に定期的に祈祷を繰り返している。これがなければ我々も既に常世神の影響を受けていたのかもしれない。
秦河勝が蒐集院に宛てた文書-2
昨日立ち寄った集落も常世神を祀っていた。民衆が歌いながら踊る様子を見せてもらったが、何やら祀られている虫が都で目にした物よりも大きく見えた。都にいたものは親指程の大きさだったが、あれはどう見ても一回り大きく見えた。この地域に住む特有の虫なのだろうかとも思ったがそれにしても大きかった。この大きな虫を詳しく検分することはできなかったが、研儀官や巫覡は僅ながら神威にも似た霊的な威力が感じられると言った。
それからしばし進み、常世神の見られぬ小さな集落に辿り着き休息を取っていたところ、研儀官が山椒の木に件の虫を発見した。虫の大きさは親指程の大きさであり長さは四寸ほど。都で目にした物とほとんど同じである。どうやら先の村で目にした大きな虫はこの地域に特徴的なものではないらしい。そうとなればあの呪術が虫に作用していると見て間違いないだろう。斎醮の形を取っているが、虫の成長に関連しているのだろうか。興味深いものであるので文書を遣いに持たせる。
秦河勝が蒐集院に宛てた文書-3
不尽河の周囲には無人の家屋と荒れた田畑が広がり、民衆はおろか骸すらも見当たらなかった。その一方、異様に橘や山椒の木が多く見られた。これらは道や家など普通は草木が生えないであろうところにも生えており、奇怪な様相であった。それらの木にも虫はついていたが、やはりここの虫達も大きかった。
大生部多の屋敷を見つけ多を捕らえたが、ここでも多以外の他の者たちは誰一人としていなかった。捕らえた多に常世神について訊いたが、多は常世神の福や長寿の話など要領を得ない話を延々とするばかりであり詳しい話を訊くのは困難だった。多は常世神の事を今までに見てきた他の民衆と同じように盲信しているようであり、信仰と偽って呪術を広めた術者とは思えない有様であった。多もただの影響を受けた者に過ぎないというのだろうか。もう少しこの地を調べる必要がある。
秦河勝が蒐集院に宛てた文書-4
引き続き多への尋問をしていると、外を見回りしていた付き人が不尽の裾野に大きな緑色の塊が見えたと報告してきた。多を連れて、緑色の塊を見たという見晴らしの良いところに来ると、確かに不尽の裾野に大きな緑色の塊が蠢いていた。
その塊はどうやら常世神の虫そのものであるようで、草木よりもずっと大きく、木々をなぎ倒しながら右へ左へゆっくりと動いていた。この地域にいる虫達も大きいが、それとは比べられないほどに太く長大である。幸いこちらには気づいていないようであるので引き続き多の捜索をしつつ、祈祷で虫を鎮められるか試す。
秦河勝が蒐集院に宛てた文書-5
祈祷官達が同行した巫覡らと共に怪虫を鎮めようと祈祷していたが、どうやら気付かれたらしい。虫は頭を持ち上げて祈祷官達の方へと向けると、膨れた頭の表面の模様を変化させた。その模様は何らかの呪詛の類と思われる。模様を直視した者の何人かは泡を吹いて死に、死を免れた者も錯乱して我々に襲いかかってきた。多もこの呪いを受けてしまい、手を施す間もなく死んでしまった。我々は今、無事なもの達を連れて森の中に潜んでいる。祈祷の声など届かぬほど離れていたにも関わらず怪虫に気づかれたことを考えると、多少は祈祷が影響を与えたに違いない。また、巫覡らのうちの幾人かが先の虫に対してただならぬ勢いで増大する神威を感じたと訴えている。彼らの言動はしっかりとしているので呪いの影響とは思えない。あの虫は神に近い物なのだろうか。
兎にも角にも今の状態では手出しが出来ない。何人かの研儀官と部下を残して虫を監視させつつ一度都に戻り、準備を整えることとする。
都へと帰還した秦河勝は本院へと改めて些細を報告し、直ちに東国への怪虫討伐遠征が計画された。研儀官と巫覡らによって怪虫が神性を獲得している可能性があることが報告されたことから遠征には奉斎職、祭祀官、蒐集院と関連を持つ有力仏僧数名が同行した。以下は怪虫討伐遠征時の東国での活動の経過である。
一日目: 秦河勝の軍勢が東国に到着。研儀官らの監視下にあった怪虫は以前から形を変えており、この時点では繭のような姿をしていた。祭祀官の検分により怪虫は明確に神性を獲得していると判断された。繭はある種の強力な結界のようなものを展開し周囲に立ち入った者を無差別に殺傷したため、直接の攻撃は意味を成さないとみなされた。そのため結界の範囲外からの奉斎職、祭祀官、巫覡、仏僧らによるあらゆる儀式的無力化が並行して試みられた。
二日目: 祈祷、呪術、儀式による無力化が試みられる。前日よりも繭の色がやや黒くなる。それ以外に怪虫に目立った動きは見られず、時々結界内に侵入した鳥や獣が焼け死ぬのみであった。
三日目: 祈祷、呪術、儀式による無力化が試みられる。祭祀官の検分により神威がやや増大していることが示される。前日よりも繭の色がやや黒くなる。繭が僅かに揺れ動くがそれ以外に目立った動きは見られない。時々結界内に侵入した鳥や獣が焼け死ぬのみであった。
四日目: 祈祷、呪術、儀式による無力化が試みられる。更なる神威の増大が示される。早朝より繭が動く。前日よりも繭の色が一段と黒くなる。
五日目:
早朝: 突如として繭が発光する。急激に神威が増し、祭祀官、奉斎職、巫覡の幾人かが激しい頭痛、顔からの出血に見舞われる。そのうち、九人が死亡した。これらのうち数名は死亡する直前に「天下りたる」と口にした。直ちに祈祷、呪術、儀式による無力化が試みられたが、神威の増大を抑えることは出来なかった。神威の増大は昨日とは比べ物にならない程であり、祭祀官、巫覡は「今までとは全く異質なもので、何かが取り憑いたかのよう」と述べた。暁旦: 繭が光とともに破裂し周辺の地面や木々が吹き飛ばされる。同時に怪虫の結界が消滅する。破裂した繭の中から巨大な蝶のような姿の怪虫が姿を現す。神威が急速に増大する。
真昼: 怪虫が羽を伸ばす。奉斎職と研儀官によって矢が放たれるものの、到達する前に全ての矢が木や草に変換される。矢に気がついたのか怪虫が繭の殻にしがみついたままこちらを向き、人とは思えぬ声で「かしづきたまへ」と言う。声を聞いた者のうち、矢を放った者だけがその場で動かなくなり程なくして手足以外の肉体が絡み合った橘の木に変化した。引き続き祈祷、呪術、儀式による無力化が試みられる。
夕刻: 怪虫がただならぬ神威を帯びる。秦河勝により本院への遣いが出される。
六日目: 早朝に怪虫が飛翔。火雷大神の八柱の神々に奉じた供物により落雷による飛翔の妨害に成功し墜落させるも、怪虫は損傷させた羽を即座に修復し再び飛翔を試みる。以降、怪虫による攻撃を回避しながら飛翔を妨害する。五名死亡。本院の祭祀官、巫覡が異質な神威を体感し、本院に報告される。本院は何らかの異常の発生を警戒し、大規模祈祷、加護結界術の準備を指示する。
七日目: 怪虫への妨害を継続。怪虫は羽の模様を変化させ、以前確認されたものと同じ呪詛を展開する。途中、怪虫が直上を通過した村落を通りかかったところ住民達に襲われる。これらの人々は怪虫への感謝の言葉を叫びながら這い回ったり、無意味に身体を破壊したりしており、死に至るような欠損を負っても動き続けていた。断たれた手足や指は虫のように動き回り、はねられた頭は目を右や左に動かしながら口を開けたり閉じたりしていた。恐らく、怪虫の神威によって生と死の境界が曖昧になっている。村に火を放ち無力化。
八日目: 怪虫への妨害を継続するも失敗。怪虫が飛翔する。怪虫の移動した後では昨日と同じような光景が広がっており、欠片になりながら生きているものや死骸の腹から延々と湧き続ける赤子等を発見する。これらのうち敵対的なものには火を着け無力化し、他は無視した。秦河勝により出された遣いが都に到着し、本院に怪虫が神性を獲得したことが伝達される。直ちに本院での大規模祈祷、加護結界術が実行される。
九日目: 本院の儀式により建速須佐之男命の神威がただならぬ落雷を生じさせる。怪虫に立て続けに落雷が直撃し炎上、墜落。飛翔に向けて体を修復している間に巫覡が身を捧げ厄鬼を怪虫に降臨させる。巫覡は死穢に侵され瞬く間に腐乱する。厄鬼の憑依により怪虫が弱体化、神威が低減する。直ちに残存する祭祀官、巫覡による呪術的攻撃が行われる。以降怪虫は不規則に残った羽の模様を変化させ、呪詛を展開していたが本院の加護結界術により無効化された。
十日目: 怪虫の神威が消滅する。怪虫の活動は脚を緩慢に動かす程度となる。怪虫は絶えず羽により呪詛を展開していたものの、加護結界術により無効化された。奉斎職が墜落した怪虫の元へと到達し討伐に成功。討伐された直後に怪虫より叫び声のような物が発せられ、周囲の木々、地面、討伐した奉斎職達が吹き飛ばされる。吹き飛ばされた後の地面からは急速に橘、山椒の木が生い茂り数名の巫覡、奉斎職が木に貫かれて絶命した。
この怪虫討伐の後、散らばった怪虫の死骸への検分が行われた。怪虫の体は脆く、本来ならば到底姿かたちを保つことなど出来ないようであった。恐らく何らかの呪術的加護を自身にかけることで強度を確保していたものと推測される。また、怪虫の羽を覆っていた粉にも呪術が施されていると思われ、粉を吸い込んだ者は例外なく常世神の信仰に傾倒してしまうようである。今回は怪虫の飛翔を妨害し続けた為民衆への影響は少なかったものの、妨害しなければこの粉によって常世神の信仰が拡散していたものと思われる。怪虫が通過し、影響を受けてしまった周辺の地域への検分も行われた。首と胴が離れていたり、あらぬ形に変形して死にながらにして生きていた人々は怪虫の死によってようやく死に至ったようだったが、僅かに死ぬ事が出来ない者も発見した。これらの者は灰になるまで焼くことで無力化することが出来たが、動き回って逃げた者もおり捜索を続けなければならない。また神格化を遂げた常世神を滅したにも関わらず、以前と同じように常世神は生き続けているのが確認された。恐らく常世神の大元は生や死といった観念に束縛されない存在であり、怪虫の殲滅は単に魄を滅したに過ぎず魂には何ら影響がないのかもしれない。
蒐集院は常世神へのより広範かつ詳細な検分を実施した。それにより常世神として信仰された時間が長い虫は神威を増していくこと、最終的には神として降臨すると判明した。常世神を放置すれば民衆の信仰するあれらの虫達はいずれ神となり、地上は怪虫で溢れかえり、人々の生と死の境が曖昧になることとなる。新たな怪虫の出現を防ぐために直ちに民衆への大規模な祈祷、常世神となりつつある虫の徹底的な殺処分が実施された。民衆から常世神を完全に取り除くことは出来なかったものの、継続的な取り組みにより常世神を信仰する者の数は減っている。今後も監視を継続し、常世神を取り除かなければならない。
神話・民族学部門はこの資料を含む複数の蒐集院内部資料、関東地方における一部の口伝的伝承を元に、SCP-2879-JPは一般的に常世神として知られる西暦644年頃に流行した新興宗教と同一の存在であるとの仮説を提唱しています。資料は蒐集院内部で複数の人物によって長期間更新され続けたものであり、脚色や誇張表現が含まれている可能性が存在するものの、記述が事実である場合、西暦644年頃の日本国関東地方を中心とした地域においてSCP-2879-JPの流行による局所的なAKクラス事象、SCP-2879-JP-2の神格化による大規模な神的災害とそれに伴う局所的なHK-クラス: 神的征服シナリオ、準ΩK-クラス: 死の終焉シナリオが発生していたものと考えられます。関連の疑われるAnomalousアイテムについては研究が進行中ですが、発見地域及び時期的な一致から資料中の神的災害事象に由来している可能性が高いと考えられています。
補遺3: インタビュー記録-2879-JP-2004/11/15(14)
以下はSCP-2879-JP-1による信仰集団「吉岡██氏を中心とする名称不明の集団」の中心的人物であった吉岡██氏(SCP-2879-JP-1(52)に指定)に対して行われた半構造化インタビューの逐語録からの抜粋です。
対象: SCP-2879-JP-1(52)(吉岡██氏)(以下、対象)
インタビュアー: 森内研究員(以下、インタビュアー)
補足: インタビューの円滑化を図ることを目的として、インタビュアーはSCP-XXX-JP-1(52)を氏名で呼称しています。
<記録開始>
[導入部、省略]
インタビュアー: では早速ですが吉岡さんとお仲間の皆さんの持つ信仰についてお話していただけますか?
対象: いいでしょう。私達の信仰は至極端的に言い表してしまえば、幸福の追求にほかなりません。
インタビュアー: 幸福の追求ですか。もっと詳しくお話していただけますか?
対象: あなたも多かれ少なかれ神や仏に願をかけたことはありませんか?神社や教会に行ったり。私達の信仰もそれと同じようなものです。ただ少しばかり実践的であるだけで。
インタビュアー: なるほど。実践的、というのは吉岡さんや皆さんが行っていた諸々の儀式のことでしょうか?
対象: えぇ。あの儀式は実効性があります。歌も、舞も、供物も、そこら辺の形骸化した宗教なんかとは違う。きちんと効果がある。そういう意味で実践的なんです。先生、あなたも見たでしょう?我々の儀式によって大きく成長したあの御子を。
インタビュアー: 御子、というのはあの巨大な青虫のことでしょうか。
対象: その通り。我々の儀式があの御子を完全なものへと成長させ、いずれ我々に幸福をもたらすのです。
インタビュアー: では吉岡さん達が儀式を行う目的は、あの青虫を成長させるため、ということでしょうか。
対象: えぇ。
インタビュアー: 先程、いずれ幸福をもたらすと仰っていましたね。それについて詳しく教えてください。
対象: 私達が信仰し続けることで御子はいずれ繭を作り、完全になるのてす。普通の蝶と同じです。御子も繭を作っていずれ大人になるのです。そして大人になった時、御子は器として完成し神が降臨なさるのです。
インタビュアー: 話を整理します。吉岡さん達の目的は儀式によって幼虫を成虫へとすることなのですね?それはつまり、その成虫となった虫こそが吉岡さんの信仰する神であるということですか?
対象: 大まかにはそうですが、厳密には違いますね。
インタビュアー: 詳しく教えてください。
対象: 御子はあくまで器なのです。あれはどれほど大きくなろうと、奇跡を使おうと、ただの虫に過ぎない。私達の信じる神は、成長した器に降りてくるのです。我々の儀式で完成したあの美しい生物の体に神が宿り、初めて実体を伴った神となるのです。
インタビュアー: なるほど。その神というものは具体的にどのようなものなのでしょうか?
対象: (笑い声)神を端的に言い表すことは容易ではないですね。かなりざっくりとした表現をするならば、私達の神は実体を持たない霊魂のような存在です。普段は私達の住む穢土からは遠く離れたところにいます。ずっとずっと高次で、清らかで、混沌とした世界におわします。その世界は永遠普遍の理想郷で、神はそこからこちらの世界に来ようとしています。神は穢土では生きる実体を持ちませんから、私達が器を作り上げて神を降ろすのです。
インタビュアー: その神は何故こちらへ来ようとしているのですか?
対象: 神のお考えを慮るなどできるはずがない。神は我々とは全てが異なる高次にして神聖な存在なのですから。ですが私達に尽きることない永久の幸福を与えてくれることは確かです。
インタビュアー: なるほど。その神が降臨することで吉岡さん達は幸福を得られると信じているのですね?
対象: いえ。信じているだなんて、そんな。
インタビュアー: では信じていないのですか?
対象: 信じる信じないといったものではありません。我々は約束されています。神が私達にそう約束したのです。
インタビュアー: 約束とは?
対象: 私達は御子の芳烈を受けた時に約束されるのです。神は私に絶対の幸福と永遠の支配と無尽の加護と精神の解放と魂の昇華を約束してくださいました。そして神は代わりに私達に御子を育てよと命じたのです。
インタビュアー: なるほど。
対象: あの御子が神と成れば…私達だけじゃない、皆が幸せになれるんです。生や死に捕われることも無くなり、皆が御神の生口に下り、解放され全て幸せになる。そうなればこの穢れた現世もとても美しくなるでしょう。私達の信仰は、全て究極的な幸福のためなのです。
[以下、省略]
<記録終了>
補遺4: 神話的中核概念分析
SCP-2879-JP-1へのインタビューにおいて、大多数のSCP-2879-JP-1が極めて類似した神話観を回答しました。特筆すべき点として、全く独立した他の信仰集団を形成していたSCP-2879-JP-1においても固有名詞等の差異はあったもののおおよそ類似した同回答が得られました。これらのSCP-2879-JP-2に対して行われた半構造化インタビューの逐語録を関連性評定質的分析、グラウンデッド・セオリー2・アプローチを用いて分析しSCP-2879-JP-2に共通した神話的文脈を構成する中核概念を抽出しました。以下は分析によって抽出された主要な結果です。
- 神とはSCP-2879-JP-2ではなく、SCP-2879-JP-2(御子)は神がこの世界に降臨するための器である
- 神はこの世界(現実)を超越した空間(楽園/常世/理想郷)に存在する
- 神とは形のない存在である
- 神は現実に永遠の幸福をもたらすために降臨する
- SCP-2879-JP-2の肉体に神が宿ることでのみ神はこの世界に存在可能である
- SCP-2879-JP-1は神によって命令(啓示/天啓)を受けた
- 神はSCP-2879-JP-1と現実に永遠の幸福を確約する
- 神は現実に君臨し万象を統べるべき存在である
- 神による現実の支配とあらゆる知性の隷属が真の幸福であり快楽である
分析により、SCP-2879-JP-2群はSCP-2879-JPについて、基底現実外に存在する神格的存在を招来することを目的とした儀式の一部として認識していることが示されました。またSCP-2879-JP-2群はSCP-2879-JP-1の嗅覚ミームへの曝露時に神格的存在による命令があったと強く認識しており、この認識がSCP-2879-JP遂行の主要動機となっています。
概念部門の研究によりSCP-2879-JP-2群の知的活動には一定の共通性を有する異常な抽象的概念が挿入された形跡が発見されており、何らかの概念的干渉が存在していることが判明しています。SCP-2879-JP-2の発言を踏まえ、SCP-2879-JP-1の嗅覚ミームによる啓蒙を干渉ルートとしてSCP-2879-JP-2の形而下知的活動に干渉している未知の形而上学的概念知性が存在する可能性が概念部門により提唱されています。この形而上学的概念知性はSCP-2879-JPを通じてSCP-2879-JP-1を成長させ、形而下に顕現することを目的として活動していると考えられていますが詳細は不明であり、研究が進行中です。
補遺5: インシデント2879-JP-2(2009/7/14)
2009/7/14午前7時27分。全国現実性強度観測網 ("Kant-NETs")が岩手県八幡平市██の山中において瞬間的な現実性変動を観測しました。当該地点の現実性は午前7時27分13秒に73.7Hmに増大した後午前7時27分15秒に17.4Hmに低減、以降は4.9Hmから27Hmの間を極めて短い間隔で変動し続けました。
当該地点には1968年に閉業し放置されていた宿泊施設の廃墟が存在していました。状況の把握のために財団保有の光学観測衛星が当該地点を観察したところ、当該の建築物は東棟部分が倒壊し何らかの煙を発していることが確認されました。また、倒壊した東棟内部から這い出す推定19m程度の生物的振る舞いを見せる存在を捕捉しました。この生物的存在の大まかな外観はナミアゲハ(Papilio xuthus)の幼虫に類似しており、山中を移動しながら周辺の植物を消費しているように観察されました。
この発見を受け、近傍のサイト-81██から機動部隊り-9("山狩り")が派遣され現場の確保と詳細な観測が行われました。機動部隊により、当該建築物の東棟側の大部分は不明な原因によって融解していることが確認され、内部から複数の死者と生存者を確保しました。死者の大半は建築物の倒壊に巻き込まれたものでしたが、現実改変影響により肉体を再構築された複数体の構造的に異常な死体が回収されました。生存者への尋問により、建築物内の全人員が未捕捉のSCP-2879-JP-1であることが判明しました。これらのSCP-2879-JP-1は当該建築物を拠点として信仰集団を形成し、4年にわたり儀式を継続してきたものと推測されています。また生存者の証言、残された東棟内部から発見された諸々の宗教的痕跡から出現したナミアゲハ幼虫様の生物的存在は長期間の儀式の影響を受け、成長を遂げた第14齢のSCP-XXX-JP-2であると判断されました。当該信仰団体はSCP-2879-JP-2の第15齢化を促進するための儀式を執り行い、儀式の結果として小規模な奇跡論的バックラッシュが発生したものと推測されています。
機動部隊り-9による現場確保と並行し、SCP-2879-JP-2の確保/制圧/撃破を目的とした作戦が展開されました。この作戦において、SCP-2879-JP-2個体は複数の未確認の能力を行使しました。これらの能力はSCP-2879-JP-2が成長の過程で発達させたものであると推測されています。以下は作戦報告からの抜粋です。
7時46分: 機動部隊ぬ-9("バードウォッチャー")が岩手県八幡平市██の山中でSCP-2879-JP-2を捕捉。体長約19m。約時速7kmで北西方向へと移動し、時折停止して周辺の植物を捕食する様子が観察される。移動に際してSCP-2879-JP-2は、展開した臭角から霧状の臭気性ミーム災害を誘発する化学物質を散布している。またSCP-2879-JPの周囲では散発的な現実歪曲が発生しており少量の周囲土壌、樹木、生物等が消失、再出現、埋没、浮遊、変形、混合を繰り返している。
7時48分: 周囲1km圏内に居住する一般人42名の退避を開始。カバーストーリー("大規模森林火災の恐れ")を流布。
8時14分: 作戦範囲周辺の道路封鎖完了。
8時21分: SCP-2879-JP-2の収容・鎮圧を目的とし、機動部隊ら-3("猟友隊")、機動部隊を-7("昆虫採集家")、機動部隊ひ-2("脚長蜂")が臨場。各機動部隊は各種兵装に加え、SCP-2879-JP-2によるミーム災害への防護装備としてスクランブルデバイスとクラスC防護服を装備している。SCP-2879-JP-2への収容アプローチを開始。
SCP-2879-JP-2は機動部隊を察知したと推測される。移動を継続しながら体色を変化させ、視覚情報の歪曲を誘発するミームパターンを展開する。スクランブルデバイスによりブロック。
8時26分: 機動部隊ら-3がSRAを起動し、SCP-2879-JP-2及び周辺現実の安定化を試みる。同時に機動部隊ひ-2が周辺及び進路上での高濃度ジエチルエーテル3散布を開始、SCP-2879-JP-2の鎮圧を試みる。
8時34分: SCP-2879-JP-2に有意な現実性変動を認める。ジエチルエーテルに対しての現実改変を行使したものと考えられ、周辺大気中のジエチルエーテル分子は水素、炭素、酸素へと改変されたものと推測される。
8時42分: SRAによる現実性安定化の影響によりSCP-XXX-JP-2周辺の現実性変動はやや沈静化し、1.7Hm〜2.2Hmを示す。現実改変能力の抑制に伴い、ジエチルエーテル分子が改変を免れSCP-2879-JP-2に効果を及ぼす。SCP-2879-JP-2の活動が鈍化し、移動速度は約時速4kmに低下する。
8時44分: SCP-2879-JP-2が停止。同時に体色を変化させ、認知能力の部分的な失調を誘発するミームパターンを展開する。スクランブルデバイスによりブロック。
8時45分: 機動部隊ひ-2によるSCP-2879-JP-2の拘束作業が開始される。SCP-2879-JP-2が体色を変化させ神経調節性失神、呼吸不全、急性心筋梗塞を誘発するミームパターンを立て続けに展開する。スクランブルデバイスによりブロック。
8時55分: 機動部隊ひ-2によりSCP-2879-JP-2の封印が完了。輸送用コンテナへの搬入を開始。SCP-2879-JP-2が体色を変化させ、致死性不整脈、急性心筋梗塞、衝動的自殺を誘発するミームパターンを立て続けに展開する。スクランブルデバイスによりブロック。
9時11分: 搬入作業中、突如としてSCP-2879-JP-2が臭角より何らかの霧状の液体を作業中の機動部隊員に向け噴出する。この液体は何らかの自然発火性物質と見られ、機動部隊員に付着し直ちに発火した。直後、鎮圧のために散布されていた高濃度ジエチルエーテルに引火し爆発が引き起こされる。爆発によりコンテナが破壊されSCP-2879-JP-2が拘束から脱する。SCP-2879-JP-2は爆発の影響によって全身が焼け、身体前方が挫滅し各所に裂傷が生じており行動不能に陥っている様子が確認される。
この爆発により機動部隊隊員32名が死亡、6名が重症、24名が軽傷を負う。また発電機含む機材の大部分が破壊され、SRA3基が機能停止、1基が斜面より転落、残存した2基の出力も大幅に低下した。
9時14分: 機動部隊の残存人員により救助と状況確認が行われる。
9時17分: 突如SCP-2879-JP-2の現実性変動が活発化する。SCP-2879-JP-2が身体を波状に運動させる。
9時21分: 頭部付近の体表組織が破れ、内部から損傷のない頭部が現れる。脱皮のように観察される。
9時22分: 波状運動がより活発化し、脱皮が進行する。内部から現れたSCP-2879-JP-2は爆発による身体の損傷を回復しているように観察される。機動部隊の残存人員により銃火器による鎮圧が試みられる。SCP-2879-JP-2は現実改変により銃撃による損傷を逐次回復する。
9時30分: SCP-2879-JP-2は脱皮を継続。SCP-2879-JP-2は機動部隊に対し臭角よりルイサイトと推測される糜爛性物質4を爆発的に噴射。爆発によりクラスC防護服が破損していた機動部隊員27名が皮膚、気道、眼球等の激しい痛みを報告し戦闘の継続が困難となる。残存人員によりSCP-2879-JP-2への攻撃と同時並行で負傷者の回収、撤退が試みられる。
9時33分: SCP-2879-JP-2が脱皮を完了。第15齢と推測される。体長約27m。
9時34分: SCP-2879-JP-2が北西方向へと移動を開始。生存隊員らは無視された。
9時48分: 展開していた機動部隊を-7とSCP-2879-JP-2が会敵。SCP-2879-JP-2は体表に複数の致死性ミームパターンを展開するがスクランブルデバイスによりブロック。臭角よりルイサイトと思われる糜爛性物質を噴霧するが、中距離に展開した地上部隊による臭角への継続的な狙撃により無力化。攻撃ヘリコプターからの銃撃によりSCP-2879-JP-2の進行を妨害することに成功。
9時52分: 身体の修復のために停止していたSCP-2879-JP-2が突如として頭部を振り回すような運動を開始。直後、吐糸管から超高硬度かつ微細な糸状繊維を周辺に高速で展開した。この繊維はタンパク質からなる生物線維であるものの奇跡論的補強が施されていたことが判明している。この繊維との接触によりSCP-2879-JP-2の周囲294mに存在していた機動部隊43名が身体各部の裂傷や断裂、切断された樹木との衝突等により負傷を負い、うち21名が死亡した。またこの繊維によって大部分の機動部隊員のクラスC防護服が損傷し、周辺に残留していたルイサイトの影響を受けた。
9時54分: 攻撃ヘリコプターに対し糸状繊維を高速かつ継続的に射出。糸状繊維は高度340mに達し、戦闘ヘリコプターは外装の損壊を受けた後、メインローターを破壊され墜落した。ヘリコプターの無力化後、SCP-2879-JP-2の体色が激しく様々な紋様5に変化し、複眼が激しく4度閃光を発した。同時に周囲に存在する死亡済み隊員のうち14名の頭部が自発的に脱落する。これらの隊員は首断面を含む損傷部位からタチバナ(Citrus tachibana)と思しき植物の枝が急速に成長しつつ蘇生した。蘇生した隊員らは直ちに明確な興奮状態へと移行し、保持した武装により生存者への加害を開始した。SCP-2879-JP-2は生存者、蘇生した隊員を無視し時速約11kmで移動を開始した。
10時1分: 作戦司令部により作戦地域における誘導爆弾の使用が承認され、待機中だった機動部隊ぬ-9の航空戦闘資産が展開される。生存部隊員への一時的退避命令が出される。
10時20分: 機動部隊ぬ-9の航空戦闘資産の展開完了。爆撃が開始される。
10時28分: 爆撃を継続。SCP-2879-JP-2は沈黙している。
10時29分: SCP-2879-JP-2の周辺現実性が急速に増大し73.7Hmを記録する。
10時30分: 強力な閃光と共に大規模な奇跡論パルスをSCP-2879-JP-2が放射。半径470m圏内に存在する植物がタチバナ(Citrus tachibana)と思しき植物に急速に置換される。弾着前だった爆弾群、機動部隊ぬ-9の航空戦闘資産が消滅する。同時に作戦地域に展開していた機動部隊ぬ-9と交信していたサイト-81██の管制スタッフ21名の体内に消滅した機動部隊ぬ-9隊員と遺伝的に一致する身体の断片が発生し、13名が死亡する。
10時34分: 奇跡論パルスの放射が沈静化。SCP-2879-JP-2の周辺現実性が11.7Hmで固定されたことが確認される。
10時35分: SCP-2879-JP-2が蛹化形態へと移行する。周辺空間を歪曲し、上空7m程度の位置に浮遊する。全長約67m。
蛹化を遂げたSCP-2879-JP-2。
蛹化SCP-2879-JP-2EVE量測定画像。
SCP-2879-JP-2は第15齢を経て蛹化形態へと移行しました。蛹化したSCP-2879-JP-2は能動的な現実改変を引き起こさないものの11.7Hmという高い現実性を示していました。また周辺環境のEVE量測定によりSCP-2879-JP-2が非常に高レベルのEVEを保持していることが確認されました。戦術神学部門の分析により、SCP-2879-JP-2の保有するアスペクト放射には過去に観測された複数の神格存在のアスペクト放射との類似性が確認されました。SCP-2879-JP-2の周辺現実性及びEVEの放射は第15齢幼虫時と比較して安定しているように観察されましたが、経時的な観測結果はSCP-2879-JP-2内部のEVE、現実性が徐々に増大していることを示していました。これらの観測結果、SCP-2879-JP-2の神学的特性から神話・民族学部門、戦術神学部門東洋シャーマニズム/アニミズム課により、現在のSCP-2879-JP-2は完全変態の途上であり羽化を経て完全な神格化を遂げる可能性、AK-クラス、HK-クラス、ΩK-クラス等を伴う複合的な世界終焉シナリオが引き起こされる可能性が提言されました。
補遺6: インシデント2879-JP-2(2009/7/17)
2009/7/17、午前11時38分、前述の補遺5で提唱されたSCP-2879-JP-2羽化阻止を目的としたGOCとの共同撃滅作戦が展開されました。当作戦の詳細概要は財団のデータベースに保管されているものを参照してください。以下、作戦報告書の抜粋です。
11時38分: 作戦開始。蛹化状態のSCP-2879-JP-2へ対ミームスクランブルデバイス及びSRAを搭載した10機のV-226と15機の10式戦車による包囲が行われ、集中砲撃が開始される。乗組員は前述のインシデント2879-JP-2(2009/7/14)において機動部隊に支給された兵装と同じものを装備している。
SCP-2879-JP-2は表皮をEMPによりコーティングしており、外傷や爆撃による影響はこの時点では確認されない。
11時41分: 砲撃開始から3分経過。SCP-2879-JP-2周囲の空間のヒューム値が瞬間的に22.4Hmへと増加し、10式戦車4機が地中に埋没した。埋没した10式戦車の乗組員12名の内3名との通信が途絶。
11時43分: SCP-2879-JP-2の体色が変化。血圧を瞬間的に急上昇させるミームパターンを展開。V-22および残りの10式戦車はスクランブルデバイスによりブロックされるが、埋没した10式戦車から脱出したと思われる乗組員9名がこれに曝露し、肉体が爆散する。この爆散により生じた血液の霧散により、軽度の通信障害が発生。
11時45分: SCP-2879-JP-2がEMPを広範囲に急速展開し、残存するV-22全機が墜落。血液の霧散による軽度の通信障害の深刻化により、全戦車の搭載しているスクランブルデバイスとSRAの停止及び乗組員全員の通信が途絶。
11時47分: SCP-2879-JP-2周囲の空間のヒューム値が20.3Hmに増加。乗組員の通信が復旧したため状況の報告を確認したところ、乗組員の音声に重篤化したSCP-2879-JP-1のものと同じミームパターンが確認された。
11時50分: 出撃していた戦闘車両が作戦本部及び周囲の集落の方向へと侵攻を開始。乗組員に停止命令を発令するが乗組員はこれを無視。戦闘車両の侵攻迎撃作戦を展開。
12時03分: 戦闘車両と接触。予備の作戦車両により迎撃を開始。
12時24分: 全ての戦闘車両の迎撃及び停止が完了。この迎撃により34名の機動部隊員が死亡、6機のV-22及び8機の10式戦車が破損。乗組員は車両内部で互いの肉体が結合した状態であり、戦闘車両の停止と共に消失。
12時27分: SCP-2879-JP-2周囲のHm値変動範囲7の拡大及び内部のHm値が一次関数的な増加8を開始。残存している人員に作戦本部の放棄及び退避命令が出される。
12時30分: Hm値変動範囲の拡大とHm値増加が停止。内部のHm値は59.7Hmで固定されており、現存装備による範囲内部への侵攻が困難になる。
12時33分: SCP-2879-JP-2が閃光と共に大規模な奇跡論パルスの照射を開始。蛹化時と同様の異常性が発生。
12時34分: 奇跡論パルスが突如沈静化。変動範囲内部のHm値及びSCP-2879-JP-2EVE量が急激に低下し、SCP-2879-JP-2が地面に墜落する。
衛星の空撮によるSCP-2879-JP-2のEVE量沈静化の過程。
12時36分: SCP-2879-JP-2周囲の空間のHm値が一般的なHm値に安定する。SCP-2879-JP-2の外皮に裂傷が発生。同時に、インシデント2879-JP-2(2009/7/14)の際に発生したタチバナ様植物が急速に枯死、腐敗する。
12時38分: 裂傷部が激しく発光。裂傷内部から激しく発光する小型の飛翔体が出現。
12時42分: 発光体は周囲を不規則に浮遊し、着地と浮遊を繰り返す。
12時47分: 機動部隊員が発光体を確保。
機動部隊員が確保した発光体は、発光以外の明確な異常性を示しませんでした。当初、発光体は発光によってその詳細を光学的に観測することが困難であったものの、確保後40分程度で発光が沈静化しました。発光はSCP-2879-JP-2の残滓的奇跡論影響によるものであったと考えられています。SCP-2879-JP-2から出現した存在は外見上、アゲハヒメバチ(Trogus mactator)に酷似した生物であることが判明しました。詳細は不明であるものの、現在まで当該存在は明確な異常性を示していません。アゲハヒメバチはアゲハチョウ類の幼虫、蛹に捕食寄生する生物ですが、SCP-2879-JP-2の死がアゲハヒメバチ様生物の捕食寄生によるものであるかは調査中です。

アゲハヒメバチ様生物(SCP-2879-JP-2’)。
補遺7: SCP-2879-JP-2’研究報告
SCP-2879-JP-2内から発見されたアゲハヒメバチ様生物(暫定的にSCP-2879-JP-2’と指定)はあらゆる検査から完全に非異常であり同地域における通常のアゲハヒメバチとの明確な相違は存在せず、SCP-2879-JP-2’に神格化途上であったSCP-2879-JP-2を殺害しうる能力は存在しないと結論づけられました。概念部門はアゲハヒメバチがアゲハチョウの幼虫への致死的な捕食寄生を生態としていることから、SCP-2879-JP-2’によるSCP-2879-JP-2への寄生が概念的影響をもたらし、結果的に「アゲハヒメバチの寄生による羽化の失敗」という一連の概念が形而下に具象化したことでSCP-2879-JP-2が死亡した可能性を提唱しています。
SCP-2879-JP-2’はインシデント2879-JP(2009/7/14)発生以前のいずれかの時点で既にSCP-2879-JP-2に寄生していた一般的なアゲハヒメバチであると考えられています。神格化途上であったSCP-2879-JP-2は能力により寄生したSCP-2879-JP-2’の食害による影響はほとんど受けなかったものの、SCP-2879-JP-2’の概念的影響によって死亡したものと推測されています。SCP-2879-JP-2の神格化に関与していると想定される形而上学的な概念知性は形而下への顕現に際してナミアゲハを利用することから、ナミアゲハ(広義のアゲハチョウ、または単に蝶)に関連する概念と密接に紐づいているものと考えられます。その結果アゲハヒメバチの有するアゲハチョウへの寄生という生態の一連の概念が、形而下への侵入中もしくは侵入直前の対象概念知性に対して作用することで構成概念が変性し「アゲハヒメバチの寄生により羽化が失敗した」状態で形而下に具象化され最終的に死亡したものと考えられます。この一連のプロセスの詳細は未解明であるものの、プロセスの再現によるSCP-2879-JP-2個体の概念的殲滅・無力化が可能であると考えられており研究が進行中です。
補遺8: SCP-2879-JP-1群行動報告
インシデント2879-JP(2009/7/14)によるSCP-2879-JP-2の死亡以降、SCP-2879-JP-1群は主に2つの勢力に分裂しつつあります。これらの勢力は従来の通りナミアゲハ幼虫(SCP-2879-JP-2)を信仰する勢力、ヒメバチ類昆虫を信仰する勢力に大別されます。ヒメバチ類昆虫を信仰する勢力はヒメバチ類昆虫を「御子の真の姿であり、神の真の器」であるとしており従来のナミアゲハ幼虫を不完全で誤った信仰であると批難しています。従来通りの信仰勢力はヒメバチ類昆虫を「御神の器を穢した者」「簒奪者」「御子の肉を喰らう穢れたる蛆」等と表現しており、両勢力は明確に対立しています。
当初この行動はインシデント2879-JP(2009/7/14)の際に確保されたSCP-2879-JP-1群に特有のものであると考えられていましたが、インシデント以降これらの行動が新たに捕捉されたSCP-2879-JP-1群にも観察されることが確認されました。内部分裂したSCP-2879-JP-1集団は不参加や対立、妨害等によりSCP-2879-JP儀式が遅滞しSCP-2879-JP-2の成長が円滑に進行しないことが判明しています。これによりSCP-2879-JP-2が衰弱死や餓死に至る事例も増加傾向にあり、SCP-2879-JP-2が神格化に至るまでに成長する可能性は低くなりつつあると考えられています。一方、分裂したヒメバチ類昆虫信仰集団から押収されたSCP-2879-JP-2’への調査からSCP-2879-JP儀式によってSCP-2879-JP-2’が異常な発達を遂げている可能性が指摘されています。現在までSCP-2879-JP-2’が完全な成長を遂げた例は確認されていませんがSCP-2879-JP-2と同様に神格化を遂げることが懸念されており、その場合の被害規模が未知数であることから警戒されています。
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アクションSFオカルト/都市伝説感動系ギャグ/コミカルシリアスシュールダーク人間ドラマ/恋愛ホラー/サスペンスメタフィクション歴史任意
任意A任意B任意C- portal:4589204 (29 Oct 2018 15:23)
Q要素は
quasi-religious: 疑似宗教的な
です。