絶望の味

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夢を見た。
高級そうなレストランで食事をする夢。

「いらっしゃいませ福路様、お待ちしておりましたよ」

ウェイターが案内してくれる。席についてメニューを開く。
色々種類はあるがどれも熟成肉とやらを使っているらしい。

「熟成肉ってなんなの…でしょう」

思わずいつもの口調になりそうになる。
聞いてから気づいたが、間抜けな質問だったかもしれない。
ウェイターは答える。

「一定期間低温で保存した肉で、肉の質感、味の変化を楽しむものです。当店ではドライエイジングと言って、風を循環させながら乾燥熟成する技法を取り入れています」

なるほど、手間暇かけてつくっているんだな。

「えっと、じゃあこのステーキを」

「かしこまりました、すぐにご用意させていただきます」

食前酒を飲んで待つ。これが夢だということはなぜか理解している。
それならば楽しまなければ損というものだろう。

「お待たせいたしました」

やけに早い。まるで何を注文するのかわかっていたみたいだ。
まあ、夢なんてそんなものか。
さっそく料理に手を付ける。

「…美味しい」

お世辞抜きに美味しい。今までこんなもの食べたことがないくらいだ。
やるじゃないか私の夢。これなら毎晩でも見たいくらいだ。
それにしてもなんだか懐かしい味がする。
まるで、優しく包み込むような。優しく、暖かい味。
完食したところで私の意識は覚醒した。

「またのご来店をお待ちしております」


今日も調査と研究の日々が始まった。
私はどうなってしまうのだろう。元に戻ることはできるのだろうか。
不安と焦燥に駆られる。
早く夜にならないかな。眠ってしまえばその間だけは忘れられる。
国都さんが話しかけてくる。なんだか体調が悪そう。

「今日はなんだか顔色がよさそうですね」

そう、なんだろうか。昨日見た夢のおかげかもしれない。
あの優しく、暖かい味を思い出す。
私がいつもより元気そうであることを感じたのか国都さんは嬉しそうだ。
なんだか私も嬉しくなる。こんなに余裕がある日は久しぶりだ。

「夢を見たのだ」

「夢ですか」

「うん、懐かしく、優しく、そして暖かな夢を」

「そうですか、それは良かった。じゃあ、今日の検査も始めますね」

それからはいつも通り、前進してるのかもわからない検査と実験。
ああ、早く夜にならないかなあ。

「ありがとうございました。本日の作業は終了します」

国都さんのいつもの一言で検査は終了する。あ、そうそう。

「なんだか顔色が良くなかったみたいだけど、どうしたのだ」

「いえ、なんでもないですよ。なんでもないんです」

そういうと国都さんは去って行った。何かあったのだろう。背中がそう語っていた。
しかし言わないということは私が知るべきことではないのだろう。
そして今日も夜がやってくる。

「いらっしゃいませ、お待ちしておりました」

今日もこの夢か。今日は何を食べようかな。
なんだか肌寒いし暖かいものがいいなあ。

「シチューをお願いするの…します」

「かしこまりました、すぐにご用意させていただきます」

大き目の肉がゴロゴロ入っている豪勢なシチューだ。
まずは一口。
体が温まる。肉は柔らかく口の中でほろほろと崩れる。
なんというか安心する味だ。安心するというより安心させてくれるといったほうが正しいかもしれない。
ほっと一息つく。
こんな豪華なレストラン来たこともないのにどうしてこんなに懐かしいんだろうか。
不思議な感じだ。ここにいると過去のことを思い出す。
部隊のみんなは元気にしてるだろうか。今の私には知る由もない。
思いを巡らせながら私はシチューを完食した。

「またのご来店をお待ちしております」

待ってくれ。現実には戻りたくない。もうちょっとここにいさせて。お願いだから。

目が覚めた。いつの間にか涙を流していたようだ。また検査と実験の日々が始まる。


あれから10日が過ぎた。国都さんは以前よりやつれたように見える。
私は夜が待ち遠しく、恋焦がれるようになっていた。
元の現場に戻ることができればこんな思いもなくなるのだろう。
今日もまた夜が来る。


もう3人目だ。国都 七星は焦っていた。
捜索部隊ふ-96の隊員が行方不明になっているなんて福路捜索部隊長には伝えられない。いや、今はSCP-████-JP-1か。深夜に急に消えたとのことだ。脱走なのか、それとも何らかの事故に巻き込まれているのか。いずれにしても心配だ。
私のほうが参ってしまっていることもいずれ気づかれてしまうだろう。
このままではいけない。早くSCP-████-JP-1の謎を解き明かして、行方不明の隊員も捜索しなくては。
いなくなったのは幸い女性だけだ。SCP-████-JP-1の能力ならきっと「捜索」することができるかもしれない。
私ができることは一つ。SCP-████-JP-1、福路捜索部隊長に一刻も早く復帰してもらうこと。
検査と実験の日々がまた始まる。


国都さんはなにやら焦っているようだ。なんとなくだけどそう感じる。
私のためだけではないような気がする。何かあったのだろうか。
いや、でも今更私にはどうでもいいことなのかもしれない。
もう戻れるとは思っていないんだ。こんな見た目の人間が普通に生活できるはずないだろう。
なあ、君もわかってるんだろ。普通じゃないって。君が諦めてくれれば私も諦めがつくからさ。
だからそんな顔をしないでおくれ。
私はあの夢があれば十分だから。あのゆらゆらと揺蕩うような不思議な空間があれば幸せだからさ。
だから、もういいんだ。
もう忘れよう。さよなら国都さん。

また、夜が来る。

「いらっしゃいませ、弟の食料品へようこそ」

今日もこの夢だ。なんだか今日はウェイターの笑顔が一層輝いているように見える。
何かあったのかな。

「本日は特別な肉が手に入りまして」

特別?こちらから聞く前に教えてくれた。不思議そうにしてたのが分かったのかな。
いつものように席に着く。今日は何を食べようかな、メニューを開く。

「福路様、本日は特別メニューがございます」

そうか、そうだったな。

「では用意させていただきます」

料理はすぐに来た。当たり前か、私用の特別メニューなのだ。前もって準備していたに違いない。
出てきたのは肉じゃがだった。こんな洋風レストランに肉じゃが?私の夢もいい加減だなあ。
一口食べる。
なんだ、これは。涙が止まらない。どこかで食べたことのある味だ。
どこだったろうか、思い出せない。
思い出すことを脳が拒否している。

「福路様、本日の食材のご紹介をいたします」

ウェイターがワゴンを押してやってきた。そんな場合ではない。

「本日の食材はこちらになります」

そう言うとワゴンの上にかかったシーツを取り去った。
目を疑う光景がそこには広がっていた。

「人の…頭?」

後ろを向いているが明らかに人の頭部だ。何かの冗談だろうか。

「失礼しました。こちらが正面でしたね」

ウェイターが頭部を回す。頭は段々こちらを向いてくる。
そこには、この顔は。

「国都…さん?」

瞬間、胃の中のものをすべて吐き出した。
一体どういうことだ。国都さんを私が食べた?今日だけじゃない、今まで食べていたものはなんだ?
頭は混乱し、目の前が真っ暗になっていく。
そうか、思い出した。あの肉じゃが、作りすぎたからって国都さんがお弁当に持ってきたのを一口分けてもらったんだ。
そこまで思い出して私は意識を失った。


「国都さん!」

目覚めた瞬間叫んだ。ひどい夢をみた。そう、あれは夢、夢なんだ。
きっと検査の時、元気な国都さんを見れば安心するだろう。
今日も検査と実験の日々が始まる。

「国都博士は病欠のため本日は私が担当させていただきます」

病欠?どういうことだ?国都さんがいない?

「詳しくお話しすることはできませんが、しばらくは私が担当することになるでしょう」

あれは夢、だよな。やけにリアルな夢だったけど。現実ではないはずだ。
頭が混乱して床に手をつく。吐き気に襲われるがすんでのところで我慢する。今吐いて肉が出てきたらと思うと恐怖に駆られる。あれは夢、夢なんだ。
あの味がフラッシュバックする。
その瞬間、あの声が聞こえた気がした。

「またのご来店をお待ちしております」


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