穢された供物
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9月20日午前8時32分、山梨県韮崎市に位置する財団フロント企業「甲斐原料開発株式会社」に入電があった。電話交換の者が出ると、相手は取引のある化粧品会社の営業を名乗り、始業前だが急ぎの用件ということで営業課の那須野課長をお願いしたいと手短に述べた。電話はこの時早めに出勤していた那須野に回され、那須野が受話器を耳に押し当てたと同時に、微かな機械音とともに以下の文言が読み上げられた。

「東京都八王子市財団サイト所属のエージェントを誘拐した。真偽については本日正午までに八王子サイト関係者に確認をとること。後程またこちらからこの電話に連絡する」

財団の存在を察知している口ぶりと相手の尋常ならざる気配を察し、那須野は即刻韮崎のサイト管理官に報告、韮崎サイト幹部に周知した上で午前8時45分に同管理官から八王子のサイト管理官宛確認の連絡が入れられた。9時を回った頃八王子から定時呼出に現れなかったエージェントが1人いるとの返答があり、再度の入電に備え待機願いたいとの旨、八王子サイト管理官名義で正式に韮崎サイトへ依頼文が発送された。また財団日本支部本部を交えた緊急の会合で両サイトで該当のエージェント佐藤の救出にあたることで合意した。この時点で最初の入電から1時間半が経過していた。

以上が事件最初期の経緯である。かつて財団のエージェントが敵対的な組織の毒牙にかかり命を落とすことはあったものの、誘拐を働いた上で取引を持ちかけられた点では財団日本支部史上前代未聞であることは言うまでもないだろう。

「気持ちいいですね、ここ」

桜ノ宮は伸びをした。先程まで助手席に押し込まれていた時間を取り戻そうとするかのように、目一杯両腕を開きつつ空を振り仰いだ。ゆとりのある薄紅色のブラウスが風にはためいている。改めて開けた視界の先にある風景を見てみると、桜ノ宮は自分が雲の上から田畑を抱いている気分がした。ここは甲府盆地を臨む山の中腹。二人は普段は横浜市の事務所に詰めているが、甲府市内でちょっとした仕事を頼まれ、それを済ませたところでこの山に気分転換と観光を兼ねてドライブに来たのだ。

澄んだ空気の中無邪気にはしゃいでいる女エージェントを見つつ、頼逸博士は愛車の屋根にもたれて紫煙をくゆらせた。桜ノ宮は目ざとく

「所長、今くらい控えたらどうですか、煙草。せっかく空気がいいんですから」

見咎められた頼逸は観念して携帯灰皿を取り出し、名残惜しそうに蓋を閉めた。ここまで運転してきたのは俺なのにな、と思わないでもなかったが、肺から煙を出し切って桜ノ宮が立つ柵の側まで進み出た。確かに絶景だし、朝露をまだ含んでいる空気は瑞々しく格別だ。滞在した甲府市では容赦のない熱気に閉口するばかりだったがその点ではここは山上から吹き下ろす風もあり、しかもこの時間帯はちょうど山が日陰になっていて涼しい。

頼逸は目を細めて眼下に横たわる野を見渡した。遠くにあるのと、酷暑を物語る蜃気楼が波打っているのとで、わずかに軒を連ねる建物の輪郭はぼやけて点描画のように周囲の緑に溶け込んでいる。人間による収穫を待つ田畑は青々と燃え、その版図は向こうの山裾まで及んでいる。地元の人間でもないのに頼逸はこれから歓喜に湧く実りの秋が楽しみになった。

山梨県

「これからこっちのサイトに寄るんでしたっけ」

堪能し終えた桜ノ宮が尋ねる。

「そうだよ。最近会えてない同期がいるもんでね。韮崎に勤めてる」
「ここから見えますかね」

桜ノ宮は右手をへの字にして眉に当てた。頼逸は桜ノ宮の視線に合わせて指を前に差し出す。指を差した先には相変わらず蜃気楼がゆらめいていた。

「うえー、暑そうな所ですねー」

連日の酷暑を思い出してか桜ノ宮はその場でへたり込んだ。

「まあまあ、今回の旅行は俺の奢りなんだし、最後は俺のわがままに付き合ってくれよ」
「予め分かってれば旅費はうちから出したのになー」
「申し訳ないよそんなの」

頼逸はいじける部下を嗜めながら車へ向かった。

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