Tale下書き「手癖」

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  昔から、お前は手癖が悪いと言われてきた。
店に行くとポケットに菓子を入れたり、友達の家の物も勝手に家に持って帰ってきたりとした時なんかによく言われた。

だが、俺には憶えが無かった。
そりゃそうだ。俺は物なんざポケットに入れたことは一度も無いからだ。

確かに、俺のポケットの中に入っていたのは俺が欲しいと思っていた物だった。だが俺は断じて取っちゃいなかった、気が付くとポケットの中に入っていたんだ

当時はどう理屈でポケットに入ったのか解っちゃいなかったから、自分は盗っちゃいないと否定する事しか出来なかった。だが、周りの大人はお前がやったのだと決めつけた。

中学に入るとこの不思議な現象は酷くなった。外出すると必ず鞄やポケットの中に物が入っていた。
それと同時に、家族からの対応がきつくなっていった。
親父には「お前は根性が腐っている。」と殴られ、お袋には「なんで盗らない事をできないの。」と散々怒鳴られた。

我慢の限界だった、14の時に家を出た。

そこからはポケットに増えていく金で東京に行き、鞄の中に現れたパンやコンビニの弁当で食いつないでいた。
その後はよく覚えちゃいねぇが、気が付けば歌舞伎町に居た。

丁度15になった日、チンピラ数人と些細な事で揉めナイフで刺された。
咄嗟に腕で防いだお蔭か致命傷にはならなかった。だが殴られることには慣れていたが、刺されたことは無かった俺はパニックに陥った。
感じたことのなかった痛みに一瞬死がよぎった  そんな時、突然ナイフを持ったチンピラが何者かに殴り飛ばされた。

殴り飛ばしたのはガタイの良い男だった、他のチンピラ共が男に殴りかかったが、全員叩きのめされていた。

「おい餓鬼、大丈夫か。」

その時だった、有村の親父に出会ったのは。


歌舞伎町のマンホールに偽装された入口からしか入れないとあるビルの一室で、俺  伊集 忠司は型落ちのパソコンが映し出すモニターを眺めながら甘ったるい安物の缶コーヒーを飲んでいた。モニターに映るのは俺のシノギである薬品販売の売り上げ実績表だ。薬品つってもコカインやら大麻やらそういう類のじゃねぇ、れっきとした医薬品だ。ただし、「異常な」という言葉をつけなければならないが。

というのも、この薬品共はdadoっつうアメリカの薬局の物なんだが、それを飲むと体からミントの香りがしたり、ひでぇ物だとケツから永遠にクソが出てきたりと散々な薬が多いのだ。なんでそんなもんを売っているのかというと、大抵売ったやつが文句を言いに来ないというのが理由だ。俺自身あれぐらいしか異常を持っちゃいねぇし、面倒事は避けたい性分なんだ。

一通り表を確認した俺は缶コーヒーをゴミ箱に投げ捨て椅子から立ち上がった。そして仕入れの為に必要な大きめのリュックサックを背負い事務所の一角、物が置かれていないスペースに立ち、集中するため目を閉じイメージを思い描く。

  欲しい物は医薬品。

  大きな手を使いリュックサックへ医薬品を押し込むイメージを。

「何がでるかな  っと。」

ずしり、とリュックサックに物が入った感覚に襲われた。何とか踏ん張ろうとしたが、ぐわん、と眩暈を起こし床に尻もちをついてしまった。

  有村の親父と出会った日から、俺は極道の道を歩む事になった。組の兄貴からかなりしごかれたりしたが、親父に殴られるよりかは全然マシだった。兄貴たちは俺の加過失だと判断した時に殴ったりした分納得出来たのが大きいのかもしれない。そして何より大きいのが自分に起こっていた現象について理解できたことだろう。極道の道に入ってからすぐ、俺は有村の親父に自分の現象について話した。すると有村の親父は知り合いだという男に俺を合わせてくれた。なんでもその男曰く、こういった現象  異常性はイメージに左右されやすいらしく、副作用  俺の場合盗るものが大きいほど眩暈がひどくなる  も存在するらしい。

眩暈が落ち着いてきたのを確認してからリュックサックの中を覗いた。中身は段ボール入りのエナジードリンクだった。道理で重いし眩暈も起こす訳だ。これをどう売るか、と考え始めた時、ズボンのポケットに入れていた盗難品のスマートフォンの通知が鳴った。

通知が示したのはメッセージの着信だった。相手の名前に見覚えは無い、そう思いながらメッセージアプリを起動し内容を確認した。

はろー dado です はい あなた どろぼう ?

背中を嫌な汗が襲った。コイツに俺のしている事がバレたのか?そう思いながら俺はスマートフォンのキーボードを起動した。

あなたは誰ですか?それに人を勝手に泥棒呼ばわりしないでください。

とりあえず知らぬ存ぜぬを貫こうと俺は考えた。暫く後、メッセージが帰ってきた。

あなた うそつきです あなた どろぼう これまちがいない

どうやら相手は俺のやっている事に気づいているらしい。

だからあなたはどこの誰なんですか?うそつきなんて勝手に言わないでください!

俺はまだ白を切ることにした。今度は2分後に帰ってきた。

dado おくすり つくっても なぜかなくなる とてもこまる はい

だから dado かんがえました dadoのおくすり ぜんぶまいくろちっぷつける これでおくすり どこにあるかわかる ぐーぐるまっぷに ぴこんぴこんです はい

まさか、と思いながら俺は先ほど盗ったエナジードリンクをくまなく調べた。すると、段ボールに埋め込まれているマイクロチップを見つけた。
やられた、と俺は宙を仰いだ。上手い事軌道に乗っていたこのシノギも納め時かと考えた時、メッセージの着信音が鳴った。

dado どろぼう ゆるさない はい あなた にどと どろぼうしない おーけー?

これでおしまい あなた もうdadoあいたくない はい では

相手はこのメッセージを最後に連絡をしてこなかった。


「契約成立、だ。」

深夜の歌舞伎町、そこに建つビルとビルの間の薄暗い路地裏で俺はこのシノギの最後の取引を行っていた。

あの出来事の後、俺は何度かdadoに連絡を取ろうとしたが全て失敗。挙句の果てには俺の操作するキーボードがおかしくなる始末で、これ以上面倒な事に会うのは避けたかったもんだからdadoから薬品を盗るのはそれっきりになった。
今回の取引で今月分の上納金は確保できたが、来月以降の目処はまだ立っちゃいない。組のモンや盃を交わした兄弟にいい方法は無いか聞いているが、まだ方法を見つけられずにいた。

契約が終わり、俺は裏路地の奥へ進む。ポケットの中に入っていた甘ったるい安物の缶コーヒーを取り出し口をつけると、スマートフォンから小洒落たメロディが鳴った。
相手は盃を交わした兄弟だった。なんでも兄弟のシノギの裏方が不足しているらしく、そこでの仕事なら紹介できそうだ、とのことだった。
俺はその提案を承諾した。上納金を支払えるなら裏方でもなんでもやってやる気持ちだった。

伊集 忠司は進む。その先が真っ暗だとしても、全ては有村の親父の為に。


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