幻覚探偵の事件簿・啄木鳥

記事カテゴリが未定義です。
ページコンソールよりカテゴリを選択してください。

サイト-81██の一室、財団サイト内アノマリー事案対策室、あるいは探偵オフィスと呼ばれるその部屋の内部では、ショートカットのボーイッシュな女性――稲穂みちるが、乱雑なデスクを挟んで、フード付きのローブを羽織った女性――彼岸蓮華に向き合っていた。
ややあって、書類と筆記用具とPCの間に器用に置かれていたコーヒーカップを取り上げ、稲穂は問いただす。
「君が来た理由は一体? こちらで感知していない、あるいはできない財団サイト内アノマリー事案が、このサイトで進行しているのかな?」
「はい。私に対し、あなたにこの調査を依頼するよう要請してきた、来栖RAISA連絡官によると、このサイト-81██のRAISAデータベース登録勤務者数と、サイト-81██が把握している実際の勤務者数にずれがあるとのことです」
稲穂は口につけかけたコーヒーカップを止めた。
「RAISAのデータベースは絶対だ。そこに食い違いが出ているのに、職員が気づいていないというのは、確かに妙な話だね。来栖連絡官ではなく君が来た理由は、反ミーム絡みか」
「はい。少なくとも来栖連絡官はそう考えているようですね」
「で、実際どれだけ帳尻が合わないのかな?」
稲穂の問いに、彼岸はよどみなく答えた。
「この1ヶ月で、2名です。石蕗萌と菊川英輝、両方ともセキュリティクリアランスレベル2の研究員で、共同研究をしていたとRAISAデータベースでは記録されています、で、彼らの研究ですが、ピスティファージ実体の反ミーム的応用研究とされています」
ピスティファージ実体――高次時空に存在し、人間の信仰を摂取して存在し続ける高次生命体だ。多くは何らかの神格だが、零落して怪異や霊障になったりするものもあると、稲穂はよく知っている。しかしそれを反ミーム的に応用する研究とは一体何のことなのか。脳裏にメモをし、稲穂は質問を続けた。
「失踪日時は?」
「朔月と満月の大金から次の日の朝までにそれぞれ失踪していますね」
稲穂は胸の奥からふぅと溜息をついた。
「まずは裏取りだ。万が一にもRAISAデータベースのほうが間違っていれば財団全体に関わる大問題だし、よくいるSCiPNET上の”幽霊職員”かもしれない。あるいは、サイト-81██の人事部門のケアレスミスかもしれない。それらの場合はこっちの仕事じゃないから、まずは、その職員が本当に反ミームに汚染されて僕たちから観測できなくなったのか、それとも別の理由があるのか、足で稼ぐしかないね」
「探偵ならもっと簡単に答えを出してくださるとありがたいのですけど……足で歩くのは慣れていませんから」
「そうはいかない。一部の安楽椅子探偵を除けば、名探偵はきちんと現場を調査するものだよ」
 肩をすくめた後、稲穂は手にしたコーヒーカップを傾けた。やけに苦い液体が、喉を通り過ぎていった。
「それじゃ行こうか。時間を潰していても問題は解決しないからね」
「あ、はい」
 コーヒーカップを置くなりすっと立ち、稲穂は上着掛けからコートを取ってオフィスを出ていく。彼岸はその後ろにしずしずとついていく。
 殻になったオフィスを、午後の日差しが斜めに照らしていた。

「ふぅ。一通り調べたけれども、石蕗萌と菊川英輝という職員はサイト職員の記憶からはすっかり消えているようだね」
「それどころか、オフィスすら見つかりませんでした。まるで、最初からこの世に存在してなかったみたいに」
稲穂と彼岸はオフィスに帰ってくるなり、調査の結果を語らい合っていた。
結論から言うと、石蕗萌と菊川英輝という職員はサイト-81██には最初から「存在しない」。生活や研究の痕跡すらない。人事部門の名簿を漁っても、経理部門の金の動きを追っても、ふたりがこのサイトにいた証拠はこれっぽっちも残っていないのだ。
「まさか、サイトぐるみの犯行じゃないでしょうね……。彼らを消さなければならない深刻な理由が彼らにはあって、全員がグルになった巧妙な犯罪を……」
彼岸が呟くのを、稲穂はチッチッと舌を鳴らしながら人差し指を降って否定する。
「”オリエント急行殺人事件”じゃないんだから。まあ、そっちのほうがボクもやりがいがあるけど、これは人間の仕業じゃないね。君をよこした来栖連絡官の見立ては正しかったとも、間違っていたとも言える」
彼岸がなにかに気づいたかのようにつぶやいた。
「あ、そういう……」
「そういうこと。もしこれが反ミーム実体の行為であるなら、君はなんらかの痕跡を発見できたはずなんだ。でも、君は痕跡を発見できなかった。これで、来栖連絡官の懸念だった、サイト-81██における反ミーム実体の出現あるいは反ミーム汚染という可能性は消えた。だけど、新しく別種の可能性が現れたわけ」
ドヤ顔で告げる稲穂に、彼岸は頷いてみせる。
「つまりは、”神隠し”ですか」
一瞬稲穂の顔に影が走ったかに見えた。
「そう。彼らはピスティファージ実体の応用研究を行っていた。それに拐われたのかもしれないね。一旦、ここまでの成果を来栖連絡官に報告しよう。後は指示待ちだね、君もボクも――少し暇ができるから、甘いものでも食べていくかい?」
稲穂はそう言うと、カフェテリアに向けて歩み出ていった。慌てて彼岸も後を追う。
カフェテリアの隅で、稲穂はコーヒーとドーナツ、彼岸はイチゴパフェを注文した。

ERROR

The winston1984's portal does not exist.


エラー: winston1984のportalページが存在しません。利用ガイドを参照し、portalページを作成してください。


利用ガイド

  1. portal:4330160 ( 20 Aug 2018 03:25 )
layoutsupporter.png
Unless otherwise stated, the content of this page is licensed under Creative Commons Attribution-ShareAlike 3.0 License