扶桑紀tale「三弟子、再び 後篇」
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藤田まさと作詞 新日本陸軍・皇軍凱旋

光は常に東方ひがしより
正義は常に我方われらより
戦雲此處ここに治まりて
勇武の兵は今還る
いざ讃うべき皇軍の
建てし勲を大呼たいこして


皇紀弐千六百六年 四月弐十八日



小刻みに、しかし時折大きく車体は揺れる。窓の外の風景は右から左へ、さながら活動写真の如く滑らかに流れていく。
ヒーズマンと向き合う我々。ヒーズマンは目を閉じ思索に耽っている。客車の中は車輪の音、時折先頭から吐き出される蒸気の音が場を支配する。
「……ところで」
ヒーズマン不意に口を開き、閉じていた目を開く。その視線は私に注がれていた。びくりと体が震え、心臓が跳ね上がったような感覚。
「波戸崎君、君は調査局から東京を護るにはどうするべきだと考えているかね?」
動揺。東京と財団に危機が迫る中で、その対策を自分が担うというのか?
答えによっては己の信用、引いては波戸崎の家を貶めることになるのでは?
心臓の鼓動が一気に高まる。両側に座る南方と応神が心配そうにこちらに視線を注いでいる。ヒーズマンは視線を逸らすことなく自分に注がれているのだが、私はそれに視線を合わせられない。
冷や汗が額に滲み出す。答え自体はもう出ているのだが、開かぬ口がそれを内側に押し留めようとする。
意思を振り絞る。重い口は開いた。
「……嘗て東京に張り巡らされていた守護結界があります。しかし、それだけでは小嶋の力で容易く破られてしまう。そこで、守護結界を土台として、財団が持つ大八嶋で補強する、というものです」
顔を恐る恐る上げる。ヒーズマンの表情が緩んだように見えた。
「……完璧だ」
冷や汗と脂汗が混ざった液体が一気に頬を伝って流れ落ちた。深く息を吐く。隣に座る2人もほっと息を吐いていた。
「我々もそのプランに行きついたのだよ。出発前に結界の展開を要請している。かつては晴明院の長をやっていた賀茂相忌──今は日本支部理事を務めている人物だが、君達は覚えがあるだろう」

賀茂相忌──去年の9月、凍霧天を追う列車。左手の中指と人差し指が欠けた、凛とした佇まいの和服の男。又聞きの又聞き、信憑性の全くない噂程度ではあるが、玉音放送の直後、皇居に現れた五行結社の軍勢とそれを率いる安倍晴明と相対し、指を削がれたという。
確かに覚えている。

「彼は今、東京にあるサイト-8100に勤めている。彼もまた大八嶋の一柱"狭別サワケ"の管理者なのだよ」
「その結界はどれほどの効果を有するものでしょうか」
南方が尋ねる。
「結界はサイト-8100を中心として、AOIが入る日比谷の連合国軍最高司令官総司令部G H Q本部、裁判が開かれる市ヶ谷の旧陸軍士官学校、そして紀尾井町を含む一帯に展開され、外部からの霊的な遮断──今回のような妖怪や怨霊といった存在の侵入を拒むことができる。それがたとえ地脈を経由したものであっても、だ。大八嶋の力を引き出したものであるから、並大抵の術士では破るどころか効果を弱めることすらできない。しかし、既に結界内部に潜む妖怪の力を弱めたり、排除できるわけではないし、人間にはそもそも効果がない」
「逆を返せば、既に結界の内側に入り込んでいる場合、つまり偵察の兵士が潜伏していた場合はそれも排除しなければ、結界内部の安全は確保できないってことか」──長光。
「そういうことだ。その対策として、作戦前日までは結界内部の"もぐら狩り"を行なってもらう。無論、君達にも参加してもらう」
「「「「「御意」」」」」
国光を除いた5人が返事を一斉に返す。
「国光君は私と共に来てくれ給え」
「御意」

束の間の静寂。
その静寂を乱したのは通信機の受信を知らせる雑音。ヒーズマンの脇にいた護衛が応対し、すぐにヒーズマンに受話器が渡る。通話の内容は聞き取れなかったが、時間を経るごとにヒーズマンの表情が険しさを増していくのが見て取れた。
「……ご苦労。引き続き監視を続けてくれ」

「何か分かったのでしょうか」
おずおずと尋ねたのは南方だ。
「ああ。事は想像以上に悪い方向に流れていっているようだ」
景光の喉が上下に動く。通路を挟んだ反対側に座る応神家の兄弟達もヒーズマンに視線を向ける。
「聞いてくれたまえ。波戸崎君の予測に基づき、調査局の進軍の道中に偵察班を送り込んだのだが、調査局の軍勢が出発時より増えているそうだ。内訳は妖怪がおよそ200、兵士が400人ほどだそうだ」
「それだけの兵士が一体どこから……」
「まだ残党が潜んでた場所があったということか」
終戦からもうすぐ1年、財団も手抜かりがあったわけではない。当然、国内に潜伏する調査局や負号部隊の残党の追跡、捜索も行なわれていた。その目を掻い潜り、蜂起の時を待っていたということだろうか。
「そのことなのだが、軍勢は和田宿付近で合流したと推測されている。その周辺で調査局の残党が潜んでいると思われる場所が、ここしかないのだ」
ヒーズマンは取り出した地図の一点を指差す。その場所は、長野県埴科郡松代町。
「まさか……松代大本営ですか」

松代大本営──太平洋戦争末期に陸軍が政府中枢機能の移転を目的として、松代町周辺の山中に掘られた坑道である。サイパン島の陥落後、本土への空襲や本土決戦が現実味を帯びたため、大本営や皇居、その他の重要政府機関の移転を計画していたが、完成前に終戦を迎えたため放置されていた場所である。当然、財団やAOIが見落とすはずもなく、施設中が隈なく捜索されたのだが、残党に繋がるようなこれといった痕跡が全く存在しなかったという。

「軍主導で建設されていたのだから、調査局が秘密裏に施設の1つや2つ用意するのは簡単だろう、増してや相手は秘密部隊なんだ。しかし、そんな記録は何処にもないし聞いたこともないな……」──景光。
「資料が焼かれたか、そもそも計画そのものが上にすら認知されていない可能性も否めない」──南方。
「……その点は今は重要ではない」
手を叩き、ヒーズマンが仕切りなおす。
「……問題は、調査局の戦力の増加が我々の戦力との関係にどう影響を及ぼすか、ですよね」
私は言葉を継ぐ。
「その通り。AOIの手を借りずに作戦を遂行するのが最善だったが、そうはいかなくなってしまった。我々とAOIの共同作戦とする他なくなった」
話を一度切り、国光へ視線を据える。国光は視線を真正面から受け止める。
「厳しい交渉になる。君の手腕、存分に振るってくれ給え」
「無論、そのつもりです」

列車の窓は遠く太平洋を映し、反対側には富士山が聳えていた。山を越えた向こう側では、数多の妖怪を従えた調査局の影が東京へと忍び寄る。
一刻も早く、東京で調査局を待ち受けなければならない。
その思いはこの列車に乗り込む全員の共通の認識だろう。気持ちが逸るのを感じる。
今ばかりは、列車が遅く感じた。


東京駅にに到着した頃には西から夜の帳が降りる頃合いとなっていた。誰そ彼時、その字が示すように、離れた暗がりに立つ人の姿は朧気であり、顔すら分からない。
既に手配がなされていたのか、列車から降りた一行は本拠地であるサイト-8100ヘ速やかに移動し始めていた。
帝都を焼き尽くした東京大空襲から1年が過ぎ、瓦礫こそまだ残っているものの建物の再建は着実に進んでおり、工事現場で働く人々やその家族などでほんの少しだけ嘗ての人の賑わいが戻ってきたように見える。
そしてその中には、街角には小銃を背負った進駐軍の姿もあるのだが、私はそこに何か違和感を覚えた。
「なあ、進駐軍の数がやけに多くないか」
「そうか? 俺には大した違いではないように見えるが」
「……よく見てるな、愷」
国光が同調する。
「そうなのか?」
「ああ。おれは終戦前後から東京に行ってたんだが、その時と同じくらい、もしかするとそれ以上に警備が厳重になっているかもしれない。それに、ほら。見てみろ、裏路地のところだ」
国光が指差した先には、行き交う市民や進駐軍とも異なる、日本では見慣れない装束のようなものを着込んだ男が建物の壁に凭れ掛かっていた。その男は視線こそ大通りに向けているが、しきりに裏路地を振り返っていた。あたかも、裏路地に潜む何かを探しているかのように。
「おそらくはAOIが連れてきた術者、ってところだろうか? しかし何故……」
それっきり、国光は黙り込んでしまった。

ほどなくして、拠点となるサイト-8100に到着した。私達の到着と同時にすれ違うようにして"もぐら"を狩る一団は東京の闇へと繰り出しており、サイトに残っているのは慌ただしく動く後方支援の分隊と私達一行のみであった。
「さて、国光君以外は装備の受領後、警備に当たってくれたまえ。波戸崎君、南方君、景光君と、景光君の弟2人で大丈夫かな」
「問題ありません」
「同じく」
愷と長光が同時に返答する。
「よろしい。では早速向かってくれたまえ」
5人が辞去し、残るは私のみになった。
「さて、国光君。早速だが、AOIとの交渉に向かう。時間には余裕があるが、いろいろと話しておかねばならないこともある」
「御意」



同日 連合国軍最高司令官総司令部 応神国光


移動中に戦力偵察班からの連絡。道中の妖怪や院の抵抗勢力をも盟に加えているとの情報が入る。戦略の変更を余儀なくされ、AOIとの協力が不可欠になる。対策の協議及び万が一に備えて晴明院(賀茂相忌・日本支部理事"獅子")に守護結界の展開を要請。ただ通常の結界では調査局の持つ小嶋第13番"阿児奈波"で突破されてしまうので、大嶋第1番"狭別"による結界を貼るよう要請

東京到着。ヒーズマンと国光で協約のトップ、D・C・アルフィーネとの交渉。関東のレイライン防衛と戦力の提供の協力を取り付けるが、以降の関東(東日本)の影響範囲とレイライン管理に関しては協約に主導権を握られることになり、後のGOCの地盤となる。交渉中に調査局の小規模な襲撃(前衛)が発生するが、国光や同席していた安倍晴明によって撃退される

AOIとの共同作戦。挟み撃ちにする形で殲滅する予定だったが、三弟子と弟2人が地脈の異変に気付く。AOI(主に五行結社)によって黄泉比良坂への通路が開かれる(天陽荘地下みたいな状態)ことに気づいた一行は財団、AOIの兵士を逃がそうとするが、両陣営の一部が調査局の戦力と共に異界に封じられる。財団は晴明やアルフィーネに食ってかかるが、「少数の犠牲は致し方ない」とばっさり。

葦原と一部の軍勢が小嶋を用いて異界から脱出、しかし体はズタボロ
拘束、小嶋を奪還する。
師父との最後の会話?

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