キメタマ甲改善案

目的

あまり読書カロリーが大きくても困るので、シンプルに行く。

キャラクター

真北向( http://scp-jp.wikidot.com/author:souyamisaki014 )

基本的に視点人物。極度の方向音痴であるが、目的位置にはたどり着くことができる研究員。エージェントではないが、現場仕事をしないわけではない(参考)。研究員としての本分を離れて北海道まで呼び出しを食らい、いささか不満をもっているが、上からの司令には従うので求められた仕事はする。
認知、認識災害、芸術に特化していることから白羽の矢が立った。年齢は若め。「甲」内においては相貌失認を発症し、自分の分はほとんど自力で解消させる。
概ね地の文で思考をし、読者にはそこで彼の思考を追ってもらう。
性格: 模範的、批判的、内向的、理性的、感情が弱い、負けず嫌い、執念深い、反社会的、口数が少ない(=土壇場に強い?)

古藤惟臣

財団内でのキャリアはそこそこ長く、主席研究員への昇進手前で本事件の担当に回された。主に北海道で活動している上席研究員か? ここでやらかしてしまえば昇進の話はなくなり、窓際に回されることは必至なので、失敗はできない。どこぞから送られてきた研究員とともに、本事件の解決に動くことになる。運転がうまい。
Keter級オブジェクトへの対応がうまいので白羽の矢が立った。また、スシに詳しいので、超理論飛び交うスシ関連で読者の理解を追いつかせる。主に彼は喋りながら考えるタイプであるので、読者にはそこで彼の思考を追ってもらう。内面の描写は最低限。
性格: 模範的、批判的、外向的、高圧的、負けず嫌い、感情は一般的、口数が多い。(=現場の状況、昇進がかかっているという点も相まって、多少慌てるかも)
決め台詞は「傾向と対策だ」

ムスビ

闇寿司内でも若手の四包丁で、上昇欲はあるものの実力が追いついていない。そのせいで大なり小なりの迂闊をすることがある。今回の事件のきっかけとなる一件についても、偶然の要素は多々あったものの、もとはムスビの借金が原因であることには変わりない。大量の寿司人形をこさえて真北をイオンモール小樽で待ち構え、仲間を増やそうとする。
性格: 小心者、肯定的、外向的、口数が多い、詰めが甘い、孤独。

道具

寿司人形

コロポックルなのか、寿司なのか、人形なのか判然としていない寿司人形。漁師重ね合わせ状態にある。

スタミナ318号

漁師もつれ現象をおこすことのできるロボット。逆に可能性を収束させることもできる。

トラック

寿司ではない。物量で攻めるには実際便利である。

埴輪

シュミラクラ現象を気づかせるためのヒント。

ロケーション

イオンモール小樽

現場。不発弾が見つかったとして封鎖される。

小樽出張所

財団の出張所。何の変哲もない雑居ビル

プロット

1: 真北、小樽にやってくる。

  • 感情
    • 真北→古藤: 不信、不満、僅かな呆れ(頼んだことは突っぱねられたけど頼まれたことくらいはやってやるか)
    • 古藤→真北: 不信、僅かな憤り(遅れてきたうえに悪びれない。なんだこいつは)

2: 真北と古藤、出会ってブリーフィング

  1. 財団小樽出張所の描写。何の変哲もない雑居ビルで、そのすべてが財団の所有。財団職員以外はそもそも入ろうという気が起きないようにミーム的に防護がされている程度。真北がそこに入る。あとで使うので、古びたトラックの描写も入れる。
  2. 真北と古藤が小会議室で対面する。古藤の容姿の描写。古藤は明らかに苛立っており、真北に嫌味を飛ばす。古藤「あれほど早く遅刻の連絡を入れるとは、大したものですな」 真北「事前に送迎を申請したはずです。なぜそれを拒否したんです?」 古藤「小樽を少しでも知ってもらうためだ。事実、事件はこの街で起きている」 真北「……納得はしましょう。無駄に歩き回ったおかげで、多少なりの勘はできました」などの会話。
  3. 無駄な会話をしている場合ではないと、古藤から真北への情報共有。闇寿司ファイルを開示。ここで真北から古藤への質問が飛び、古藤がそれを解説する形でスシの超理論を説明する。闇寿司からトラックごと押収してきたスタミナ318がトラックの中に複数入っていると開示。同時にムスビの性格を開示。
  4. 真北から古藤への埴輪を開示。古藤「これはコロポックルか?」 真北「わかりません。多分そうです。僕の深層心理は、これがただのお土産であると判断したみたいですけど」 古藤「それを意識して外すのは難しい……か」友好的なコロポックルとそうでないものがいることを開示。
  5. 真北から古藤へ、ムスビがどこに居るかの質問。古藤「イオンモール小樽だ。現場は不発弾が見つかったとして既に封鎖されている」 真北「誰が行くんです?」 古藤「おまえだ」 真北「僕は研究職ですよ。現場仕事は不慣れだ」 古藤「私より上からの司令だ」 真北は不満を隠さないが、押し問答の末結局真北が単身で行くことに。結局は元を叩かなければならないとのこと。

3: 真北、イオンモール小樽へ

  • 感情
    • 前半の古藤↔真北: 仕事が始まったので、不満はいくらか互いにあるものの切り替えてやるしかない。少しの緊張。
    • 後半: 互いが互いの技能を信用し始める。曲がりなりにも二人は民間人上がりで財団に採用された優秀な人材であるから。
  1. 古藤の運転するトラックに乗ってイオンモール小樽へ。黄色と黒のテープを超えてつつがなく真北が現場入りする。
  2. 真北、案の定広いイオンモールで迷う。心のなかで田舎について文句を言う。
  3. 人形(ムスビのもの。真北はこれを知らず、通信で古藤に問いかけるも「友好存在かもしれないからついていってみたらどうだ」と言われる)に誘導されるまま、地下の生鮮食品売り場にたどり着く。
  4. そこにはムスビの姿が。珍しく自分の作戦がうまく行ったことに不気味なほど無邪気に喜ぶムスビ。同時に人間の仲間が増えることにも喜んでいる。失態を悟る真北と古藤。
  5. ムスビは周りのパック寿司とスシ人形を真北に向かって突撃させる。真北は気絶。

4: 真北と古藤、状況打開のために動く

  1. 真北、一階の日用品コーナーで目覚める。無意識でなんとかここまで移動してきたと判断。広告ポスターに映る有名人の顔が認識できない。名前は認識できる。古藤に状況報告。真北「僕らしくじりました。顔が認識できません。床に映る自分の顔すらも」 古藤「……なにかアイデアはあるか」 真北はカバンにしまいっぱなしの埴輪を見る。真北の表層心理はこれが顔だと知っている(シュミラクラ現象)が、深層心理でこの埴輪が人形でないと確信し、同時に顔でないと否定している矛盾した心理を感じる。
  2. 真北(無視できない程度のダメージを受けている)はこれを古藤に伝える。真北「さっきの出張所とは逆です。僕はこの埴輪が埴輪だと知っていますが、深層心理ではそれを否定しています……心が二つ、重なっているみたいだ。なにかアイデアは、ありますか?」意趣返し。
  3. 視点が古藤に移る。古藤が激しく焦っているとの描写。古藤の背景(昇進間際であること)を開示。「重なっているならその可能性を収束させればよいのではないか」と考える。現場まで移動したのはトラックであり、中にはそれを可能にする道具がある。古藤は真北に「30分持たせた上でムスビをイオンモールの我々が入った入り口まで誘導する」ように指示を出し、ラーメンの出前を「超柔らかめ」で頼み、到着を待ってからトラックに乗り込んで警備員の制止も聞かずにイオンモールに向かって走らせる。
  4. 視点が真北に移る。どれだけの間寝ていたかわからないが、ムスビは自分を同志として迎え入れようとするはずだと判断。しかしムスビがどこに居るのかわからないので、手持ちの埴輪を倒してその方向に歩みをすすめることにする。なぜなら、紆余曲折はあれど自分が今まで目的地にたどり着けなかったことはないから。
  5. ムスビを発見した真北、ムスビに苛烈な舌戦を仕掛ける。ムスビの行動から彼の背景を見抜き、それをネタにする(弱みの握り?)。
  6. 真北がムスビを誘導して入口まで戻る。ちょうどよくその瞬間にトラックが180°ドリフトをキメて荷台のドアを開放する。その中にはスタミナ318を構える古藤の姿が。スタミナ318にはアイスラーメンが装填されており、それを射出。機械のいいところは誰でも扱えることなので、スシブレード素人の古藤にも十分に扱える。
  7. ガラスを破り、伏せた真北の上をアイスラーメンが通過する。そのままスシ人形とムスビに直撃し、粉砕する。ムスビと真北は正気に戻る。

5: エピローグ

  1. 人形の残骸とムスビとトラックなどを回収班に渡し、真北(ボロボロ)と古藤(元気)は地元の普通の寿司屋に行き、北海道の新鮮な寿司を和気あいあいと味わう。古藤「勘定は私が持とう」 真北「貸し借りのお話なら、割り勘ですよ。僕にも至らぬ点はありました」 古藤「ナメるな。だから私が持つのだ。曲がりなりにも年上で、君よりは金を持っているからな」 真北「そういうものなんですか?」 こんな感じで解散したあと、古藤のモノローグ。「あまりにも都合が良すぎないか?(現行版)」

6: 結末につなげる考察

たまたまもとに戻ったからよかったものの、逆側に可能性を収束させて相貌失認から戻ってこれず、真北も寿司ブレーダーなまま自我が変革されたままになる可能性もあった。その可能性を無視したまま解決に動いたのはよくなかったが、あの場で人と物が限られている現状、もとりようがなかった。もしかしたら、なにかより大きなものが動いているのではないか?

本文

 知らない匂いの空気だ。晩秋のよく冷えた小樽市には、むせ返るような潮の香りが漂っている。水平線をぽかんと見つめている長身の男 真北向にとっては、知らない土地だ。冷風が癖のある髪の毛を揺らす。真北は栗色のマフラーを持ち上げた。地図を読むことを早々に諦め、唯一絶対の首から下げた方位磁針を頼りに歩いていた彼は、いつの間にかにどことも知れぬ灰色の砂浜に出てしまったのである。波の音が、郷愁を誘った。
 真北は迷っていた。元来迷いやすい性質であると自覚はしている。だから、今回も新千歳から財団の小樽出張所までの送迎を依頼した。しかし、それは無慈悲にも突っぱねられてしまったのである。実のところ、彼は今朝起きてからすぐに遅刻の連絡を入れた。時間通りに到着しようという意思を捨てた訳ではない。心理学を専門としている真北は、自分のことをよく知っていた。懐からスマホを取り出し、現在位置と目的地の方角関係を確かめる。それを手元の方位磁針と照合。視線を正しい方角に向けた瞬間、彼の脳は唐突の違和感を訴えた。
 辺りを見回す。道路、山、住宅街には何もない。しかし、足元の砂浜にはぽつんと埴輪のようなものが突き刺さっていた。それを手に取り、砂を払う。変哲のない埴輪だ。丸が逆三角形の頂点の位置に三つ並んでいるだけの簡素なもの。真北は粗雑で簡素な作りのこれを、お土産か何かだろうと判断した。そういえば、事前に配られた資料には「人形が自我を持つ」と確かに書かれていた。彼はこれがそうなのだろうと当たりをつけて鞄にしまう。そして、彼は方位磁針に従って歩みを進める。この場所に彼が戻ることはなかった。


 真北は地図アプリを開き、自分の位置と目的地が一致していることを三度確かめた。財団の小樽出張所は何の変哲もない雑居ビルである。しかしそこは、地下から天井までがすべて財団の所有物だ。近くの脇道には古びたトラックが路駐されていた。特別なミーム防護により、一般人にはそもそも入り口が見つけられない、と真北は聞いていた。入り口が普通に見つかることは幸運か不運か。真北は雑居ビルの扉を押し開けた。
 三階、小会議室。真北は彼を呼び出した男 古藤惟臣と対面した。古藤は真北よりも少しだけ背が低く、中肉中背といった具合の男だ。彼は苛立ちを隠さずにいた。

「あれほど早く遅刻の連絡を入れるとは、大したものですな」

 古藤が嫌味らしく言う。真北は飄々とどこ吹く風でそれを受け流し、何もないかのように着席した。パイプ椅子の硬い座り心地が彼の尻を支配した。

「事前に送迎を申請したはずです。なぜ拒否を?」

 古藤も同様に着席する。皮肉返しに、古藤は眉間のシワを深めつつも少しだけ口角を上げた。会議室のエアコンが無為に鳴る。

「小樽を少しでも知ってもらうためだ。事実、事件はここで起きている。あなたが連絡を入れてきたその端末ではなく、な」
「……納得はしましょう。無駄に歩き回ったおかげで、多少の勘はできました」

 嘘だ。真北は再び単身で小樽に放り出されたら迷うと確信していた。「反社会的」と同僚から評される彼でも、ここで本当のことを言ってはいけないとは理解している。彼の答えに不満なのか、はたまた嘘を見抜いたのか。古藤は鼻を鳴らす。しばしの沈黙が、小会議室を支配する。蛍光灯の光が、チラチラと点滅した。

「こうして無為に過ごす時間はない。事件はもう佳境だ。あなたが遅刻してきたおかげでね」
「はは、それは……どうも」

 真北は今更になって襲ってきた恥ずかしさに頭を振った。古藤が手元の資料を広げて真北に見せる。

闇寿司ファイルNo.058’ "粗末な寿司"

「……僕はスシのことなんかわかりませんよ」
「私も芸術や心理学のことなどわからん。私よりはそれらに詳しいあなたと、あなたよりは寿司に詳しい私。協力をする価値は十分にあると思うがね」

 真北は事前に知らされた古藤のプロフィールを思い出す。スシ関連団体への造詣を深めるとともに、数々のKeter級オブジェクトへの即応指揮に長けているこの男。確か昇進間際だったはずだ。真北はところどころ緑のマーカーで線が引かれている資料に視線を向けた。

エピソード

当ファイル製作者でありスシの暗黒卿"御蓮寺 恋治"が記録。

「ねんがんの アイスラーメンを 手に入れるぞ!」
ドクター・トラヤーからのDMは要するに「いままで粗悪な寿司と実弾しか撃つことの無かったスタミナ318号を改良し、ラーメンを腕部の漁師力学カノン砲に装填できるようになったぞ!」というものだ。「明日闇が抜き打ちで店に来るから」の一文だけで発言がバグるほどに頑張ってくれたドクターの不眠不休の24時間に思いを馳せることなく、研究所へとトラックを飛ばす。闇が来るのは確かな筋からの情報なので受け取ってすぐ性能の確認が必要となるから、実践の相手役として個人的に金を貸している闇寿司四包丁の一人”ムスビ・ザ・マリオネッター”も研究所に来るよう呼んでおいた。

***

床にのびたドクターの手からスタミナ318号(胸にデカデカしくMk-IIとある)とアイスラーメン(単にぬるくなっただけのラーメンである)をころすまでもなく うばいとると早速装填を済ませ、時間もないので後ろから入ってきたムスビに向かって射出体制を取る。ムスビが慌てて構えたスシ人形をアイスラーメンが弾き落とした時、なぜか青白い光が迸った。

流石、ドクターはバグってもいい仕事をする。青い光は気になったがとにかくアイスラーメンを回収しようとしたときだった。今も頭に響き続けるあの一言が浮かんだのは。

これはスシなのか?

ラーメンである。闇の、闇寿司の代名詞ともいうべきラーメンである。それをなぜスシではないという疑問を今更抱くのか?ムスビに声をかけたが、スシ人形を見つめたまま呆けている。まさかこいつも人形をスシなのか疑ってるのかと思っていたら、「そうか、お前は本物だったんだ」
と言ってなぜかスシ人形を食べずに抱きかかえ、研究所を飛び出していってしまった。仕方がないのでドクターを叩き起こして丼を見せると、「それはスシなのか?」と目を丸くしている。疑いは確信となった。これはスシなのか分からないのだ。

以上がドクターが言うところの漁師もつれ現象が発生した顛末であり、スシなのかスシじゃないのか分からないラーメンの誕生経緯である。漁師もつれの原因についてドクターは

  1. 放たれたのがぬるくなって汁を吸った、ラーメンなのか汁なしまぜそばなのか分からない代物だったから。
  2. 対象がスシであり人形でもあるスシ人形だったから。
  3. スシではないトラックで来ていたから。
musubithe.jpg

ムスビからのDMに添付されていた写真。ただの人形じゃないのか?

といった理由を可能性として挙げているが未だ推測の域を出ていないようだ。

ちなみにあれ以降ムスビは仲間が沢山増えたとかいうDMを1件よこしただけで返金の催促には一向に応じてくれない。そういや漁師もつれの影響をモロに受けているので、スシとスシ以外の区別がつかなくなっているのかもしれない。まあ3万円と利子利息の概念の事だけいずれ思い出させればいいだろう。

関連資料
後で入れる。

文責: 御蓮寺 恋治

「つまり、どういうことです?」
「前提として、粗悪な寿司がマシンで射出されると、シャリがバラけて、ただの米との境界が曖昧になる。それで、相手の寿司が不安定となり、崩壊する。良いかね? これに対する研究のさなか、偶発的な漁師もつれ現象が観測され、そもそも寿司と非寿司の境界すら揺るがす寿司を射出できるようになった……『粗末な寿司』というわけだ」

 しばらくの沈黙。真北はため息をつく。スシの難解な理論を理解するには、書かれている物事をそのまま理解することが重要らしい。彼らには彼ら独自の理合があり、理解できないからといって頭ごなしに否定するものではない。スシも数ある会議現象のひとつなのであると、真北は財団に来てからというもの、飲み込むことにしていた。

「この資料、どうやって手に入れたものです?」
「闇寿司に襲撃をかけたときだ。これとともに、外で停まってるトラックも回収した。ちょうど今日の正午ごろだよ」
「……お詳しいんですね。そういえば、記憶処理は?」
「やってもいいが、いたちごっこになるだけだと聞いているし、私も実際そう思う」
「結局は、元を叩かなければいけない。そういうわけですね」

 どうして古藤がこれほど自信たっぷりに言えるのかが、真北にはわからなかった。真北はたっぷり四回資料を読み返し、古藤に胡乱げな視線を向けた。

「古藤さんはどうしてこれほど……難解、なスシの理論をよどみなく理解できるんです?」
「傾向と対策だ。数をこなせば、自ずと見えてくるものもある。Keter級オブジェクトへの対応と同じだよ」

 古藤の機嫌は上向く。真北は自身のカバンの中で重さを主張する埴輪のことを思い出した。彼は迷いなくカバンからそれを取り出し、机の上に置く。付着していた砂が、少しだけ散らばった。

「埴輪です。もしかしたら、コロポックルなのかも」
「確証はあるのか?」
「ありません。僕の理性はこれをコロポックルかもしれないと思っています。しかし、深層心理ではそれを否定しているみたい」

 真北はしばらく考え込む。出現の状況からして、これはただの埴輪ではない。しかし、今これは微動だにしていない。

「僕が海辺で迷っていたときに、何の脈絡もなくこいつが出現しました。まるで生えてきたかのように」
「……ヒントかもしれんな。気まぐれで協力をする個体もいるとは聞いている。既に小樽市内には、数十体のそれが蔓延っているとのことだ。『急に生えてきた』というのも筋は通る」

 真北は頷き、そして埴輪をカバンにしまった。砂を適当に払い、古藤の方に向き直る。

「そのムスビってのは、どこに居るんです?」
「イオンモール小樽だ。現場は不発弾が見つかったとして封鎖されている。探索は、真北くん。あなたに行ってもらう」

 真北は瞠目し、わざとらしく天を仰いだ。蛍光灯の白い明かりが目に刺さるようだった。彼はこめかみの辺りを揉んだ。

「僕は研究職ですよ。現場仕事は不慣れだ」
「『神州』直々のご指名だ。あなたの資料には、現場仕事もいくつかこなしていると書いてあった」
「それは現場系のエージェントの支援があったから為せたものです」

 古藤は静かに言葉を続ける。

「そもそも雇用の経緯からして、現場仕事だろう。あなたが土壇場に強いことは、私ていどでも推測はつく。元を叩かなければいけないと言ったのは、真北くんだろう」
「……理解は、しましょう」


 ありとあらゆる弦楽器の不快なところを寄せ集めにしたようなエンジン音だ。荷台で何かが揺れ動く音も、そこに混ざる。古藤の運転する煤けたトラックに乗り込んで、真北は現場へと向かっていた。二人の間に会話はない。閑散な住宅街が、後ろに流れていった。

 娯楽から高級品まで。小樽市のすべてを担っていると言っても過言ではないイオンモール小樽。普段は家族連れやサラリーマンで満ちているであろうその場所は、黄色と黒のテープで無機質に区切られていた。真北は背中に古藤の視線を感じながら、境界を超えて足を踏み入れる。いつになく、緊張を覚えていた。

 ふと、真北は気づく。だだっ広い吹き抜けのエントランスを超えてしばらく歩いていた。周りを見ても、同じ顔をしたような店が呆けたように口を開いて並んでいるだけだ。見覚えがあるのかないのかすら定かではない。

「古藤さん、迷いました」
『……案の定か』

 通信越しの古藤の声からは、慌てている様子は感じ取れない。これだから田舎は嫌いなんだ、と真北は心のなかでひとりごちた。尤も、新宿や大阪で迷わないというわけではないが。真北はショッピングモールで迷った時の鉄則を思い出す。周りを見ても地図はない。かといってショッピングモール内ではGPSも役に立たない。真北は自分が今まで歩いてきた(と思われる)方角を向く。その瞬間、真北の脳は再び強烈な違和感を訴えた。視界の端で、何かが動いたのである。

「古藤さん、ここって人払いは済んでいますよね」

 確認にすぎない。ここにまともな動物がいないのであれば、先程動いたものは何だ。真北は状況を手早く判断した。

『……コロポックルか?』
「おそらく、そうでしょう」

 確認一つを飛ばしただけで、古藤も正確に真北の思考と状況を読み取ってくれる。真北はこの男の経験が生半可のものではないと確信した。少しだけ、心の中に安堵が湧いて出てくる。少なくとも小樽市で起こっているこの一件は、異常そのものによる事案というよりも、人災という側面が大きい。

「ついていってみますか」
『……友好的な個体もいるとは、さきほども伝えたとおりだ。ターゲットを発見できていない以上、それしか取るべき動きはない』

 資材と人員が非常に限られているいま、真北に迷っている暇などはなかった。辺りを再度見回す。今度は真北を誘導するように、ゆっくりと目の前の通路を人形が横切っていった。過去から今まで、真北はゴールにたどり着けなかったことはない。
 人形に従うまま、真北は階を降りてゆく。エントランスホールも通過し、自分が思いの外上階まで上がっていたことに気づく。真北と人形は、そのままエスカレーターで地下へと向かっていった。

 地下、生鮮食品売り場。一体と一人は野菜売り場、精肉売り場、鮮魚売り場を抜け、惣菜売り場へとたどり着いた。人形は急激にその足を速め、売り場の奥に鎮座している人影の下へと飛び込む。その人間は異様な出で立ちをしていた。全身に人形を操るときに使うような十字の道具をぶら下げ、コスプレ然として安っぽく光るピエロの格好をしている。

「ヒヒヒ……ようやくだよぉ。ようやく俺にも仲間がひとり増える……人間の仲間が……この世の真実に気づいた仲間……」

 心底嬉しそうに泡立つ石鹸のような声に、真北は恐怖した。同時にこの男がムスビであると確信する。ふと、気づく。ムスビの手元からは何本もの細い糸がつながっており、その先には写真で見た人形がある。そして、ここは惣菜売り場で、出来合いの天ぷらや寿司などが所せましと並んでいる。

「古藤さん、緊急です。ムスビを見つけましたが、僕らは……僕らは誘い込まれているッ!」

 真北は周りに何かの力場が生成されていると感じた。同時に、プラスチックのパックが破れる音も。当然、それは通信越しに古藤の耳にも届いている。

『そこから脱出してくれ、真北くん! あとは我々が 

 通信が、途切れる。おそらくその力場によるものだろう。ムスビは立ち上がり、真北のことを指さす。彼の周りには人形と、寿司が大量に浮かんでいた。

「おい、神聖な勝負の場だぞ……。俺とお前以外に邪魔なんかさせるかよ……」

 彼の周りに浮かんでいる人形。アレは本当に人形なのか? 寿司人形とは何だ? それ以外の存在ではないのか? 真北の頭の中に疑問が大量に浮かぶ。ムスビは真北に向けた腕を上げ、そしてゆっくりと下ろした。人形と寿司が、真北に向かって躍りかかる。真北向の意識は、そこで一端途切れてしまった。


 意識が、浮上する。どうやらここは日用品のコーナーのようだ。すぐ近くには「1F」の表示がある。真北は自分がなんとか這いつくばってここまでたどり着いたと判断した。体からはほんのりと酢飯の匂いがする。起き上がる。その瞬間に白い床に映った自分の顔が、わからない。そもそも映っているものが顔なのかもすら、判然としない。
 真北の意識は急激に晴れ渡った。緊急の必要性があると判断したのだろう。深呼吸をしてから周りを見渡すと、有名人の映っている広告にも同じような認識をしているとわかった。真北は無意識のうちに近くにあったマーカーペンをつかみ取り、床に映った自分の顔の目と口と思われる位置に、死にもの狂いで黒く塗りつぶされた丸を描く。汗が垂れ、真北は初めて自分が乱暴に落書きをしていると気づいた。無意識のうちの行動だ。相貌失認とは、顔が覚えられなくなるだけであり、顔が顔であると認識できなくなるわけではない。
 真北はカバンから埴輪を取り出す。先程の出張所とは、逆の感覚があった。

『真北くん、真北くん!』
「聞こえてますよ、古藤さん。僕らしくじりました。顔がわかりません。異常現象です」

 真北は冷静に状況を伝える。その声につられてか、古藤も少しだけ落ち着きを見せた。しかし、その声には明確な焦りがあった。

『なにかアイデアはあるか』
「シミュラクラ現象です。僕はさっき地面に丸を三つ描いて、埴輪の存在を思い出しました。でも、いまはこいつが……埴輪じゃないんじゃないかと疑いだしています。まるで、心が二つ重なっている、ようだ。ハニワの顔も、顔じゃないって」

 とりとめのない内容を話しているのはわかる。しかし、自分ではこれ以上どうしようもない。真北は顔に力のない笑みが浮かんだことを自覚した。

「古藤さん。なにか、アイデアはありますか?」

 精一杯の、意趣返しだった。


 なにか、アイデアはありますか?』

 古藤は激しく動揺していた。通信越しの真北を慌てさせないために、落ち着いた声を作るので精一杯だ。心臓は早鐘をうち、自分の吐息はイオンモール小樽の直ぐ側に設営された仮設司令室の中で反響するようであった。深呼吸。風通しが良い仮設司令室には、小樽の鋭く冷たい空気が満ちている。
 財団内でのキャリアも長く、実力も相応にある古藤。彼は、昇進間際であった。実際、今回の事件を成功裏に収拾をつけることができたら、昇進は確実であろう。しかし、失敗したら? 古藤は、その想像を頭の中から消すことができなかった。
 考えろ。中にいる真北をもとに戻すためにも、ムスビを正しく回収して引き渡すためにも、人形をどうにかするためにも、自分の将来を確実にするためにも。為すべきことは何だ? そもそもの原因は、漁師もつれによって寿司と寿司以外の境界が曖昧になったことだ。真北の報告にも、「顔である」と「顔でない」が重なっているとあった。ならば、それを収束させるには?
 ふと、外に停まっているトラックが目に入った。瞬間、すべての思考のパズルがハマった。

「真北くん。今から30分以上持ちこたえてくれるかね。そのうえで、メインエントランスにムスビを誘導してほしい」
『……分かりました。舌戦は苦手ですが、試してみます。確証は?』
「生意気を言ってくれる。理論が理論ならば、再現性があるはずだ。傾向と、対策だよ」

 古藤はスマホを叩いて、近くのラーメン屋で一番安いラーメンを「超柔らかめ」にして頼んだ。


「そういうことなら、遅刻は得意です。任せてください」

 真北はその自信に溢れた声を聞いて、心の底からの安堵を得た。古藤惟臣は自分が思っているよりも出来る男だと確信したのである。自分がどれだけ寝ていたのかはわからない。ムスビがこの広いイオンモールのどこに居るのかもわからない。しかし、真北はムスビのもとにたどり着けると確信している。結局のところ、彼は到達しか知らない男なのだ。
 真北は手に持っていた土偶を、逆さにして地面に置き、そして手を離す。すると、頭の湾曲に従って、土偶は倒れる。金属同士がぶつかるような音が響いた。真北は土偶が倒れた方向に向かって歩みを進める。しばらく後に、また同じことを繰り返す。途方もない繰り返しの果てに、可能性は収束する。

 一時間ほど経過したころだろうか。真北は再び地下の生鮮食品売り場に導かれていた。結局、ムスビは最初の場所から動いていなかったようだ。地面に座り込んで、スシの残骸を興味深げにいじっていたムスビは、真北の姿を見て立ち上がる。

「……ようやく俺の、俺だけの仲間になりに戻ってきてくれたな!」

 彼は驚くほどの無邪気さで言った。あまり臨床の経験がない真北でも、彼がどこか狂ってしまったと理解出来る。真北はムスビの期待を無下にするような嘲笑を顔に浮かべた。

「いやあ、君のところに戻ってこれてよかった」

 真北はもとから口下手である。しかし、今の彼はバックアップの存在もあってか、それとも単なる破れかぶれか。恐ろしいほどに頭も口も回っていた。

「でもね、ムスビ。君はずっと孤独だよ」
「……は?」
「仲間なんかになるものか! 君がその若さで……四包丁だっけ? になったのはすごいことなんだろうなあ。でも! 誰が本当の君のことを見てくれる? 誰も見ない! だからあの御蓮寺恋治とかいう男も君のことを実験台にしたんだろうねえ。だって君が消えても誰も気にしないから! 彼、3万円の借金を君から取り戻すことしか考えてないよ」

 真北は、ムスビの弱みを握っているも同然だった。そして、今。この瞬間、この場所において「真北向はスシブレーダーではない」という命題は成立しない。すべての可能性が重なり合っているからだ。彼を中心にスシフィールドが発生し、そして辺りに散らばっていたパック寿司の残骸が、彼の手元でシャリの形を作る。

「どうして、どうしてお前がそれを握ることが出来るんだよ! スシブレーダーでも、ないくせに」

 ムスビの声に力はなかった。真北はいつの間にかに手元に現れた割り箸にその粗雑な寿司を挟み、同時に湯呑で箸の持ち手を叩く。真北の寿司は回転を始め、そしてムスビの方に突撃、しなかった。真北の「メインエントランスまで行きたい」という思いに寿司が反応したのである。たとえその場しのぎで儚い命の寿司が作られたとしても、それは祝福のもとにあるのだ。

 寿司に追従して走る真北。それに追従する大量の人形と、その後に続くムスビ。スシブレードの勝負は始まっていた。地下の食品街から停まったエスカレーターを駆け上がり、そして吹抜けへ。エントランスホールの自動ドアの向こう側には、トラックの荷台で冷えて麺が伸び切ったラーメンが装填された"スタミナ-318"を構える古藤の姿があった。

「よくやった、真北くん」

 その古藤の言葉を聞き、真北は瞬間的に地面に伏せた。まず、自分を誘導してくれた寿司が粉砕され、悲しみの思惟が伝わる。次に、到底食べ物が出さないような音を出して人形たちがただの物になって地に落ちた。最後に、ラーメンがムスビに直撃する。青い光が、辺りにほとばしった。


 はた、と気がつくと、辺りは夜闇に包まれていた。真北はブランケットを被せられて救急車の座席に座らされていた。窓に映る自分の顔は、自分の顔であった。安堵に吐息を漏らす。元通りになったことに喜びつつ、真北は古藤の存在を探る。
 探すまでもなく、古藤は真北のもとに駆け寄ってきた。彼も真北と同じように、安心しきっていた。憑き物が落ちたような顔だ。

「落ち着いたかね」
「……お腹が空きました」
「元気そうで良いじゃないか」

 古藤は見せつけるかのように大きなため息をついた。しかし、顔にはいたずらっ子のような笑顔が浮かんでいる。古藤は辺りに停まっているタクシーを指さした。

「人形の残骸も、ムスビも。皆回収された。あとは真北くんだけだ。ここはひとつ、北海道の回転寿司でも食べて帰るかね?」


 古藤に言われるまま、真北は彼について行き、近くの回転寿司チェーンに到達した。関東では見たことがない名前だ。すぐに案内され、席に着く。暖かな雰囲気の店内で、次々とベルトから寿司が流れてくる。輝くシャリの上に載っているネタはどれも新鮮そうで、関東で見るよりも倍以上おおきかった。

「古藤さん、すごいですね。これ、関東じゃ回らない寿司屋に行かなきゃいけないレベルですよ」
「そうだろう。北海道は住むには不便だが何よりも飯が旨いのがいいことだ」

 真北は貪るように寿司を食べた。疲れて傷がついた体が、急速に回復しはじめている。腹も満たされた頃、真北は財布を取り出そうとした。しかし、古藤がそれを止める。

「勘定は私が持とう」
「貸し借りの話なら、僕にも非があります」
「ナメるな。だから私が持つのだ。曲がりなりにも立場は真北くんより上で、金も持っている」
「……そういうものなんですか」

 ひとまずの納得を見せた真北を、古藤は店の外に追いやった。若い胃袋で大量に食べられたのもあって、痛くないとは言い難い程度の出費となっていた。ふと、店の外を見る。真北は、駅とは逆方向に自信満々に歩きだしていた。古藤は店員に頭を軽く下げ、自動ドアを開ける。

「真北くん! そっちは逆だぞ!」
「大丈夫です、古藤さん。歩いてれば、いつかはたどり着けます」

 晩秋の小樽の夜に、真北の姿は消え去った。ルーチンと化していた人生の中、古藤は久々に心躍る経験ができたと思った。得も言われぬ満足感と、拭いようのない違和感。古藤の心の中には、その二つが陰陽のように回っていた。


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