SCP-2000-JP「落とし子」

以下はSCP-2000-JPの発見当初に作成された報告書のアーカイブです。
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ようこそ、担当職員様

アイテム番号: SCP-2000-JP

オブジェクトクラス: 未定義

特別収容プロトコル: SCP-2000-JPはカバーストーリー「██県██市███村」として偽装された区画内で財団の非異常性職員のみで構成されたコミュニティの下、保護者として割り当てられた担当職員の下で収容下に置かれます。SCP-2000-JPに異常性が発現する兆候が見られた場合は即座に機動部隊ひ-3「太陽喰らい」が出動し、XACTS及びSRAパネルによって完全に密封した状態に置かれます。更なる被害が予想された場合は一帯を完全稼働状態のSRAを用いて囲い、封鎖して下さい。

説明: SCP-2000-JPは人間の胎児の形をとった人型実体です。容姿や質量、知能レベル、身体構造、遺伝子情報等において一般的な胎児との相違点は見受けられません。採取されたDNAの解析は一般的な日本人の遺伝情報と98%一致した事から人種は日本人であると推測されています。性別は男性です。
SCP-2000-JPの異常性は、財団の所有するカント計数機やハルトマン霊体撮影機と言った対異常存在観測用機器でSCP-2000-JPを観測した際に発生します。観測時、機器は全ての場合に於いて規定値を超えた異常な数値を排出する結果に終わります。しかしながら、この数値から発生すると推測される複数の事案は不明な理由で基底現実上・並行次元上に一切発生せず、僅かな影響すらも及ぼしません。機器の故障であるという意見も挙げられましたが、他のオブジェクトを検体とした試験では全て正常に稼働していました。SCP-2000-JPの詳細な観測記録は補遺-1を参照してください。

発見記録: SCP-2000-JPは2020年6月13日に、地球に接近した小惑星(2001-AL120)落下イベント時に発見されました。当該小惑星は当初、財団日本支部の予備記憶サーバー「草薙」を地球外に設置する為の運搬計画「オルメイヤー計画」において移設レギオンとしての役割を有していましたが、「草薙」内部のF5層表象領域が有する現実改変能力が外部に漏出した事で小惑星全体の環境及び天体軌道が改変。軌道予測から算出されたデータとほぼ一致する形で地球への衝突が危惧されていました。
然し乍ら、2001-AL120は地球の大気圏内に突入した瞬間、突如として原因不明の空中爆発を起こし、欠片は日本を中心とした直径3000km圏内に離散する結果に終わりました。
降り注いだ欠片は各地で甚大な被害を齎したものの、その影響は物的な範囲に留まり、SCP-1000-JPの改変能力が欠片の落下地点で発生する事態には至りませんでした。異常性が喪失した原因は当報告書作成時点では不明です。

財団は事態の状況整理及び収束の為、各小惑星片の落下地点にエージェントを派遣しました。その中でも██県█市の市街地に落下した最大級の小惑星片(直径12m)の内部から生体反応が検出されました。機動部隊と生物学者が立ち合いの下、かけらの空洞内から胎児が摘出され財団に保護されました。

日本支部理事会は内部から摘出された胎児をSCP-2000-JPと指定。DNAや異常性観測機器など多角的な面からの調査が為された事で上記の異常性が発覚しました。

補遺1: 以下はSCP-2000-JPの検査において異常を示した機器とその詳細を纏めたものです。

機器名称	詳細
Binahパターン認識システム	異常確実性は99.9%。潜在的カテゴリーは関心性最大の数値を示した。また、潜在的Keterの信頼度も78.9%と非常に高い数値を記録した。
カント計数機	現実性濃度は550Hm/cm3を計測。計数に応じた基底現実の改変事象は確認されず。
Kant-NETs	0.1〜37Hm/cm3の範囲で全国的に現実性濃度の変化を確認。カント計数機と同様に改変事象は確認されなかったものの、SCP-2000-JPの異常性により現在は使用不能状態に陥る。現在、代替となるシステムの構築を進行中。
ハルトマン霊体撮影機	大質量の霊体と見られる青白い光に遮られ、写真内でSCP-2000-JPを視認する事は出来なかった。
COLLICULUSシステム	1.63キロキャスパーのアスペクト放射を確認。現実歪曲の兆候は無し。
空気中フランスパン濃度測定機	SCP-2000-JPの摘出と同時に空気中のフランスパン濃度が著しく減少。一時的に未知のパン(SCP-522-JP-1)の濃度が30%を超える値を示した。

SCP-2000-JPがSCP-1000-JP内部で発見された事から、理事会は財団日本支部予備サーバー「草薙」のF5層が当事態に何らかの形で関与しているという声明と共に、改変シナリオの不発を各国支部に発表しました。

収容過程で、SCP-2000-JPは一般的な胎児と同様のペースで成長している兆候が見られることが判明しました。倫理委員会と協議を行った末、SCP-2000-JPの将来的な異常性の暴走を抑える為、親族や近隣住民、成長過程の関係者全てを財団関係者のみで偽装し、カバーストーリー「██県██市███村」の下、日本の一般的価値観に基づく農業中心の地域コミュニティで管理下に置かれる事が決定しました。

エージェント糸川は、定期報告と異常が確認された場合の緊急用報告シグナルの確実な通達を中心に、SCP-2000-JPの衣食住の提供・一般的倫理観に基づく教育的指導・コミュニケーション・定期的な遊興の提供を任務としてエージェント竜宮と共にSCP-2000-JPの永続担当職員に就任しました。以下はSCP-2000-JPの監察ログを抜粋したものです。

定期監察報告フォーラム
監察対象:SCP-2000-JP
報告者:エージェント糸川
監察期間:SCP-2000-JPの異常性喪失が確認される迄

監察報告0001:2020/7/25
今日よりSCP-2000-JPの担当職員として、名義上はSCP-2000-JPの母親として監査の任に就く事となった。監査といっても主だった仕事といえば人間の赤子を世話する事と何ら変わらない。泣けばあやし、ミルクを与え、寝かしつけ、そして排泄すれば処理をする。機器が異常な数値を叩き出し続ける事以外は特に異常は見られない。見た目は何の変哲もない赤ん坊だ。私には子育ての経験が無い。自分の子供では無い、しかも日本という概念の塊の様な隕石から出てきた赤子を育てる事になるとは奇異な人生もあったものだと思う。竜宮とは長い付き合いになるが、お互いに価値観が似通っていた事は幸いと言えるだろう。

監察報告0002:2020/8/1
1週間が経過したが、相変わらずSCP-2000-JPに動きはない。変化といえば、SCP-2000-JPはどうやら肉体的には3ヶ月ほどの状態であったらしく、首が据わってきた事ぐらいであろうか。
今日はSCP-2000-JPの便宜上の名前を決めることにした。我々からすれば名前などどうでもよいのだが、仮初にも社会的コミュニティに属しているならば名前は不可欠だろうという事で竜宮と相談し合った。10分ほどで名前が決定した。この子供の名前は「唯人(ただひと)」だ。世界の安寧の為、その名の通り「ただの人」としてに生きてくれる事を願う。

監察報告0020:2020/12/20
5ヶ月が経過した。やはりというか、これまでと同じくSCP-2000-JPに変化は見られない。特筆すべき点として挙げるなら、今日ついにSCP-2000-JPが自分の力で立ち上がったのだ。知性が跳ね上がるのも時間の問題だろうが、嬉しいという感情が無かったと言えば嘘になる。これが母性というものなのだろうか？厄介なものだ。
私はこの任務に就いた時、程の良い人柱に選ばれたと感じていたが、ここまで何もない、所謂「日常」でしかない日々を過ごしていると、今まで私が探究していた「異常な世界」の怪奇性がまるで虚構の様に感じてしまう。相変わらず計器は警告音を発し続けているが、私も竜宮も現実の上書きで淘汰される事なく存在している。環境にも全く変化は見られず、変わった事と言えば季節ぐらいのもの。寒くなってきた。暖かい服を買ってあげなければ。

監察報告0036:2021/4/30
今日ついにSCP-2000-JPが意味のある言葉を発した。私が食器を洗っていた時の事だ。唐突に「まま」という言葉が聞こえてきたのだ。初めは聞き間違いかと思ったが、SCP-2000-JPは私を見て仕切りに「まま」と話しかけ続けてきた。これからが長い正念場だ。

監察報告0048:2021/7/25
この監察報告が始まって1年が経過した。SCP-2000-JPは何の異常性も発現させる事なく、私たちに平穏無事な日常を提供していると思うと改めて皮肉に思う。
ところでSCP-2000-JPの便宜上の誕生日を決めていなかったので、竜宮と相談して6月13日を誕生日と定めた。あの子が落ちてきた日だ。

以下、特記事項まで省略

監察報告0276:2027/4/1
今日、SCP-2000-JPが小学校へ入学した。限界集落の古い学校という設定なので、子供の数は非常に少なく全校生徒合わせて20人にも満たない。これは被害を出来るだけ最小限に抑えつつ、SCP-2000-JPに最低限の社会性を刷り込む為でもある訳だが、それでも同じ学校に所属する財団職員の子供たちやエージェントには心底同情せざるを得ない。いつ爆発しても可笑しく無い核爆弾と同じ教室にいるようなものなのだから。
SCP-2000-JPにとってもこういったコミュニティに属するという経験は初めてのものだ。ふとした事をきっかけに異常性が暴発する恐れもある。今後一層の心理チェックが必要になってくるだろう。
どうか、良い子であって欲しい。

監察報告0278:2027/5/3
SCP-2000-JPは学校での生活がよっぽど楽しいのか、夕食時には学校で起こった事や友達の事を絶え間なく話してくれた。休み時間中、友達と鬼ごっこをして遊んだ事が一番の思い出だそうで、同じ学年の██悠人君と古塚█さん、小野███さんとの仲は良好そのもののようだ。気になり監視カメラの様子を確認したが、その言葉に嘘偽りはないらしい。少し安心した。明日の夜は大好きなカレーを作ってあげよう。

監察報告0389:2029/6/23
学校で悠人君と喧嘩をしたらしい。理由は何でもない些細な物言いによるものだったようだが、そのせいで酷く落ち込んでしまった様だった。ログを確認した所、喧嘩した時間に一致する形で計器の異常が平常時よりも極度なまでに上昇している事が判明。すぐに心理カウンセリングと体に害のない精神安定剤を混入した暖かいココアを飲ませ、寝床に着かせた。母親として私がSCP-2000-JPに言える事は「明日、謝りに行きなさい」という一言だけだった。

監察報告0549:2032/11/4
最近、学校での監視カメラを確認していると、SCP-2000-JPが古橋さんと一緒にいるのをよく見かける。そもそも仲が良いのは言うまでもないのだが、最近はやけに一緒に行動しているような…

監察報告0551:2032/11/18
統計をとってみたが、やはり古橋さんと一緒にいる時間が長い。それとなく聞いてみた所、「ママには関係のない話」と突っぱねられてしまった。竜宮には「聞くまでもないだろうに…」と呆れられてしまった。SCPの恋愛事情を観察する事になろうとは、つくづく私の人生は変わっている。私がおかしいのだろうか？

監察報告0569:2033/4/1