黒道

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taneria 2021/6/15 (火) 23:48:46 #24873451


小学生の頃の話。俺のクラスではカッコイイ・可愛い消しゴムが流行ってたんだ。男子は消しゴムの巻紙にドラゴンのイラストが書かれたのを見せ合っていたし、女子はラメの入ったピンク色の消しゴムを交換し合っていた。で、俺はというとそんな大層なものじゃなく見慣れたただ白いだけのフツーの消しゴムを使ってたんだよ。

俺だけが持っていないからか疎外感をひしひしと感じたのを覚えてる。毎日仕事帰りのお袋にお願いしたもんだ。なんとか1ヶ月のお手伝いと引き換えにドラゴンのイラストがデザインされた消しゴムを買って貰った。手渡された日には一日中それを握りしめたぐらいに嬉しかった。

だが、事件は起きた。その日は5時間目の図工の時間で、晴天の中みんなでグラウンドに出て校舎をスケッチしたんだ。もちろんあの消しゴムを持っていったけど、使いすぎて黒く汚れるのを嫌って、消すんじゃなくて無理に線を付け足して修正してた。夢中になって書いているとぽつ、ぽつと紙が薄黒く滲んで。ハッと見上げると濁った雲が俺の姿を覆い隠す所だったんだ。俺たちは急いで校舎に戻って、「残念だったね」「もう少しで完成だったのに」と愚痴を漏らした。そこで気づいたんだ。グラウンドにいた時には確かにあったポケットの膨らみが無いことに。

授業を抜け出して探しに行きたかったけど、担任の教師に制止されてそれは叶わなかった。それでも俺はなんとか教師を説得しようとしたんだが、聞く耳持たず、休み時間までこっぴどく怒られた。「ワガママ言うんじゃありません」「消しゴムなら貸してあげるから」と。そうじゃあないんだよな。俺に必要なのはドラゴンのデザインがされたカッコいい消しゴムであって、白くて何も書かれていない消しゴムじゃない。結局、俺がグラウンドに向かえたのは放課後になってからだった。そこにあの消しゴムの姿は無く、校舎を描くために座っていた場所には茶色い砂だけが広がっていた。

ギャンギャン泣いたよ。下校中線路に飛び込んで死んでやろうかとも思った。たかが消しゴムなのにな、今思うと馬鹿らしくて可愛くさえ感じる。で、家に帰って母親の「ただいま」も無視して、2階の自室に向かって階段を登ったんだ。扉を開けて目を疑ったよ。失くしたはずの消しゴムが机の上にポツンと置かれていたんだからな。奇妙だがそれよりも消しゴムが戻ってきた嬉しさが勝り、何故消しゴムが机の上に置かれていたのか不思議に思ったのは、翌日になってからだった。母親に聞いても知らないようだったし、父親も同じだった。

それから、物を失くす度に失くした場所とは違う俺の行く先で──まぁ殆どが俺の机でだが──見つけるようになった。キーホルダーやメダルといった小さなものから、ハンカチや教科書までありとあらゆるものが。ゲーム機の時だってあった。不思議だったが神様かなにかが僕を助けてくれたのかな、みたいにラッキーだとしか思わなかった。

taneria 2021/6/16 (水) 00:08:14 #24873451


いつだったか、わざと消しゴムをグラウンドに置いて、離れたとこから見張ってみた。その"なにか"の正体を知りたかったんだ。

10分ぐらい経ったかな?消しゴムに向かって何か黒い線の様なものが迫っていることに気づいたんだ。まるで蛇が蛙を襲うようにグネグネと蛇行しながら。慌てて駆け寄ってしゃがんでよく見てみると、それは小さな沢山の蟻だった。おびただしい程の数の蟻が、わしゃわしゃと線を作っていたんだ。そいつらは消しゴムを細かく顎で砕いて何処かに運んでいた。線の行く末はグラウンドの端っこにある蟻の巣だった。えっさ、ほいさと運んでいたよ。あの、真っ暗な穴の中が、その先が、ずっと、ずーっと続いているようで印象的だった。あんなに大切な消しゴムが目の前でバラバラにされているというのに、俺は、この状況の現実感の無さからかぼーっと立ち尽くしているだけで。消しゴムのカバーに書かれたドラゴンが徐々に喰われ、身体の半分が見えなくなった時、俺はやっと正気に戻った。

手でぷち、ぷち、と1匹ずつ潰していった。いや、実際にはそんな音はしないのだが、何故かそんな音が頭に響いた記憶がある。親指と人差し指が草っぽく何処か甘ったるい臭いになるまで潰すと、俺はそのまま家に帰った。下半身しかないドラゴンはしっぽ切りをしたカナヘビの様だったし、代わりの消しゴムは家にあるから。

家に帰り、自室の扉を開けると、机の上にはあの消しゴムが置かれていた。蟻達にバラバラに分解された筈なのに、それは傷一つ付いていなかった。

taneria 2021/6/16 (水) 00:11:28 #24873451


中学に上がってからソレはパッタリと無くなった。段々と蟻の記憶は薄れていき、成人し、一昨年に結婚もした。その翌年に子供も授かった。

んで、今日(正確には昨日)、妻が流産した。産声をあげず、そのまま死んでいった。すげー悲しかったけど、それよりも妻の方が何倍も気が動転していて、俺が泣く暇は無かった。でさ、妻を慰めている途中、ベッドの下に何かがいる事に気がついたんだ。それは黒い点だった。衝動的に踏み潰したよ。何回も、何回も。

分娩室は3階だったし、窓も開いていなかったハズだ。なのに蟻が紛れ込む、なんてことあるか?

家に帰るのが怖い。実家暮らしでもないし、机は何年も前に処分したが、家に帰ると俺の子が、水子が、俺を待っていそうで怖いんだ。

今、俺はそこらへんで見つけたビジネスホテルに泊まってる。帰りたくねぇよ。

taneria 2021/6/16 (水) 02:31:06 #24873451


帰りたくねぇ。

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執筆者: Tsukajun
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