新たなる旅路へ

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多分、世界の終わりってのはずっと前からお互いの息遣いが聞こえる距離にいたんだろうな。少なくても、私たちに訪れた終わりは何の予兆も無かったと思う。

仲間内で船を借りて沖に出て、釣りをして、船の上で魚を捌くことが夢だったんだ。だから纏まった有給を取れる時期を逃すわけにはいかなかった。10人で太平洋沖へ。しっかり包丁やらの魚を捌く道具といくばかりかの調味料だけを持って旅に出た。
それからの1週間は呆れるほどの快晴で、魚の食いつきはあまり良くなかった。そうは言っても10人もいるのだから結構な数が釣れた。ある程度は冷凍庫にぶち込んで、捌いて食べようって話をしてたからみんなどれを今日食べるか真剣に考えていた。初めて食べた、釣った直後の魚は美味しかった。苦労して釣ったんだ。オーバーにこの感動を周囲に伝えたくてしょうがなかった。


異変が起きたのは3日か4日くらいした頃だったと思う。魚が全然釣れなくなった。1日で1匹かかるかどうか。「ま、こんな日もあるわな」と思いながら、鼻歌を歌い、次のチャンスを待った。ふと空を見れば太陽と、鳥がいた。悠々と飛ぶ鳥が稀に水面近くを飛びながら、海中から魚を摘み上げて飛び去ったこともあった。それを見ていたからか、競争心がどんどん高まっていた。船に乗ってる全員がそんな調子なもんだから魚を一つ釣り上げれば周囲から称賛とカラッとした妬みが飛び交った。きっと、 この辺が一番楽しかったと思う。


1週間が終わりに差し掛かり、帰りの準備を始めた。多少曇ることはあれど、ずっと快晴だったことをしみじみと有り難がりながら釣りの思い出を共有しあった。あの魚が美味かった、俺が釣った魚が一番大きかった、最後の方はあんまり釣れなかったな、でも十分に楽しい1週間だったよ。そんなことを陸へ帰る間、やいやいと話していた。


異変が起きたと確実に実感したのはこの時だったが、既に異変は私たちににじり寄っていたことを知った。

最初に私たちは、迷子になったと結論付けた。

機器はどう見ても私たちが陸の上にいることを示していたが、どの水平線を見ても、陸の気配は何一つとして現れることはなかった。それは実質的な遭難を意味していた。
すぐさま緊急のヘルプコールを各所に送ったが電話はどこにも繋がらない。

船内の誰もが明日も無事でいられる保証が無くなったことに恐怖した。

ジンクスを振り払うかのように、皆は釣りを始めた。どうせ帰れないならば明日の飯くらいは確保せねばなるまい。昨日まであれほど楽しかった釣りに命がかかった途端、針にかからない時間が苦痛でしょうがなかった。特に、引っかかったと思い、救われた気分で釣り上げたものがゴミや瓦礫だった時にはより一層鬱屈とした気分になった。

更に、そこに急激な冷え込みが加わった。季節外れの大寒波に誰もが悪態をつかずにはいられなかったさ。


遭難から4日経った頃、余りにも魚がかからないどころかゴミの方が良く釣れるようになってきた。靴は長靴からクロックスにハイヒール、子供用のものまで。ゴミはビニール袋に留まらず、考え付く限りあらゆる種類のゴミが釣れた。ついさっき、畳がプカプカ浮かんでいる場所を見つけた。ざっと50枚くらいはあった。その様子はかつての津波を彷彿とさせるものがあった。海は驚くほどに穏やかに凪いでいた。


遭難している以上、燃料を無駄に使うわけにはいかない。船は波に任せてどこかへ向かっている。黒潮にでも捕まっていたら北のほうに流されてしまうだろうか。いや、この辺を流れるのは親潮かな。なんてくだらないことを考えながら釣り糸を垂らしていたんだ。考えている内容の壮大さに対して、船内は実に矮小な問題でピリピリしていた。食糧不足の予感。矮小ではあるが、切実さを伴っていた。別にしばらく食べる量に困る訳ではないが、あまりに釣れない。何か進展が起きなければどこかからか不満が爆発しそうな雰囲気が場を支配している。何か、この場を和ませる何かが起きないかとずっと期待していた。

そして、それは来た。

小さな狼煙が船の視界に入った。私たちは肩を叩きながら喜びあったよ。陸が遂に近くに来たことを知らせるものに違いなかったから。その煙の元へ向かうことに誰も反対はしなかった。


煙は島から出ているように見えた。しかし、 その島は近づけば近づくほど奇妙に見えた。既に初夏と言ってもいい時期だが、そこには雪が積もっていた。

島というには余りに狭い土地には、200人位の人がいた。その“島民”たちは誰もがやせ細り、私たちを救助船と勘違いしていた。

その時、私たちは初めて世界が海の底へ沈んだことを知った。


私たちがのんびり海上で釣りをしていたころ、水はずっとせりあがり続けていたらしい。詳しく話を聞こうにも、みなが言うことはバラバラで要領を得ない。


[食糧不足に起因する仲違い]


[船で食料を探すと、漂流者を見つける]


[スピーチ前座]

かの鳥は今日も雄大に空を飛ぶ。この水だらけの世界で。我らは地を這うことすら許されず、今や海に揺られながら生き長らえている。我らは明日、嵐が来たなら容易に崩れてしまいそうな脆い、脆い基盤の上に立っている。科学的な物品は全て海へ沈んだ。今や我らの手元に残されたのは多くの食料と僅かな希望のみだ。

今こそ我らは団結せねばならない。

例え明日、津波が我らを襲おうと。例え明日、食料が尽きようと。明日への希望を持ち続け、生命のバトンを次の世代へ回し続けなければならない。

そして、かつての我らの故郷を。かつての文明を。取り戻さなければならない。

かの鳥が夏になれば故郷へ戻るように、我らは再び地上へ回帰する。

再び地と相見えるその日まで、我らは決して滅びることはない。

未来ある明日へ、我らへ、世界へ!再び。

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