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目を覚ますと真っ白な部屋にいた。馴染みのないベッドの上に寝かされており、衣服は簡素なものに着替えさせられている。軽い目眩を覚えつつ起き上がると、足元に違和感を覚えた。鎖が足首に繋がれている。
「ひょっとして……誘拐?」
近くには荷物も、相棒の妖精も見当たらない。軽くパニックになりかけた時に扉から複数の人物が入って来た。
「おはようございます。ハリエット・ヘイデンさん」
重装備の兵士に囲まれた、白衣を着た女性が声をかけた。がいないから変身は出来ないけど、ファイティングポーズをとった。
「誰なのあなたたち!?わたしをさらってどうするつもり?」
「手荒な真似をしたことは申し訳ありません。しかし私たちは貴方に危害を加えるつもりはありません。少しお話がしたいだけです。どうか落ち着いてください」
「危害を加えないって……じゃあ後ろの人たちが持っている銃は何よ!」
「万が一貴方が魔法で攻撃してきた時のためです。我々は貴方が持つ非現実的な力、全てを把握できているわけではありません。突然魔法を使って暴れ出したら普通の人間である私はどうしようもできません。ですが……確かに失礼だったかもしれませんね」
白衣の女性は振り返って指示を出した。兵士が退出し、部屋は2人きりになった。
「これで少しはお話する気になったでしょうか?」
「……じゃあ、これで魔法を使えば貴方を倒して逃げ出せるってわけね?」
「御冗談を。貴方はあの妖精がいなければ変身できないのでしょう?」
その通りだ。ラパルンがいない変身前のわたしは魔法を使えないただのか弱い少女だ。それにこの正面にいる女性を退けたとしても外にいる兵士が駆け付けてしまうだろう。
「申し遅れました。私は研究員のルーテと申します。まずは貴方の警戒を解くために質問にお答えしましょうか」
わたしは溢れる疑問をひたすらに投げつけた。ルーテさんは澱みなく答えていった。私は"財団"と呼ばれる組織に確保されていること、財団は異常存在から世界を保護していること、妖精は別部屋に収容されていること、など。
「わかってくれたでしょうか。我々は職務として貴方たちがどのような異常性を持っているかの把握が必要なのです。私たちは敵じゃなく、むしろ世界を守るという意味では仲間ともいえるでしょう。少しの間だけ、協力してくれませんか?」
「でも、ジャマアークの連中を倒さないと……」
「彼らの対応は我々にお任せください。貴方は少し休みを取れると思って。どうでしょうか?」
本当に"財団"を信じていいのだろうか?
「もちろん我々にタダで協力しろとは言いません。後程謝礼金もお渡しいたしますし、滞在中できる限りのサポートは致します。例えば、何かお望みのものはありませんか」
お金で心を動かされる魔法少女なんてイケてない。それに望みのものと急に言われても……あ、そうだ。
「じゃあ今NYで流行のシェイクが飲みたい!」
あのシェイクは行列で全然手に入らないと話題だ。財団が協力な組織だとしてもそう簡単には手に入らないだろう。
「わかりました。10分ほどお待ちください」
……え?10分?
ルーテさんはどこかへ連絡を取り始めた。
「294の使用許可をお願いします」
10分後。
本当にシェイクが来た。紙コップこそ普通だけど、たっぷり乗ったクリームにカラフルなトッピングは間違いなくあの店のシェイクだ。一口すすると
「う~ん、あま~い!」
「ご満足頂けましたでしょうか?」
わたしは一つ咳ばらいをして言う。
「まぁいいでしょう。財団に協力してあげるわ」
「ありがとうございます。それでは──」
ルーテさんが何か言っていたようだけど今はこの甘さに夢中になる時だ。ストローで思い切りシェイクを吸い込んだ。
それから私は財団に協力して、インタビューや能力の実技テストに付き合った。よくわからない計測装置を体に着けられて色んな魔法を使った。ラパルンは再会したときに心配そうにしていたけど、元気な様子を見せたら安心してくれた。待遇はとてもよく、
今日は実技テストはお休みで体調のチェックだけとのことだった。もうここに来てから数週間になる。パパやママ、スクールの友達は元気にしてるだろうか。ジャマアークは悪さをしていないだろうか。今日財団の料理はおいしいけど、そろそろママのチキンスープが飲みたい。
今日の職員さんはルーテさんとは違う眼鏡の男の人だった。ルーテさんは別の仕事が急に入って出張に行っているらしい。
「ねえ、そろそろ家に帰れないの?わたしにできることは全部教えたよ?」
眼鏡の人は書類をめくりながら答える。
「そうですね、手続きが早く整えば来週には」
「ほんと?やったぁ!」
「いえラパルンさんは一緒には帰れませんよ」
「……え?」
(ハリエット……聞こえる?今君の心に話しかけてるルン……)
「ラパルン!?どういうことなの」
(僕は異世界から来た存在だから帰してくれないみたいルン……でもハリエットはそうじゃないルン。ハリエットはママさんとパパさんの元に帰るルン)
「でも……ラパルンはそれでいいの?よくないでしょ?わたしだってラパルンを諦めることなんてできない!」
(僕はハリエットのことを考えて!僕を忘れれば元の暮らしに戻れるんだよ?)
「どうして何かを諦めること前提で話を進めるの?」
廊下を駆け抜ける。
「まったく、出口はどこなのよ……!」
白色で構成された廊下は分かれ道も多く、いくら走れど風景は変わらない。行く手を阻む機動部隊員がしばらく出てこないな、と思い始めたころ、吹き抜けのホールに辿り着いた。そこは座椅子が多く並び、巨大な病院の待合室かあるいは教会の礼拝堂を思わせる。ホールからはいくつもの通路に繋がっているがどこへ進むべきだろうか。その時背後からカメラのシャッター音が聞こえた。
「敵!?」
振り返るとレザージャケットを羽織った少女が立っていた。年齢は私と同年代くらいだろうか?手に持ったポラロイドカメラから現像された写真を取り出している。私はロッドを少女に向けもう一度問いかける。
「あなたも敵!?」
「敵では無かったんだけどね」
「財団の人?」
「まあね。アイリスって呼んで」
武器を向けられているとも思えないほどにカメラの少女──アイリスは冷静であった。写真がうまく現像できそうだということを確認し、アイリスは私に冷たい目線を向けた。その目は私と同年代の少女なのに暗く濁っていた。
「それよりハリエット、SCP-XXX‥‥妖精は?貴方は妖精がいないと変身できないはずでしょ」
「ラパルンはここにいるよ」
胸に手を当てる。感じる。その様子を見てかアイリスは小首を傾げた。
「ラパルンと私は一つになったの。もういつでも魔法が使えるんだから!」
私の言葉を聞いて目を見開くアイリス。驚いてるのかな?すると彼女はひと際大きなため息をした後宙を見上げた。
「どうして?」
「どうして、って貴方たちがラパルンを返そうとしないからじゃない!私たちはS何とかとかいうモルモットじゃないの!貴方たちの思い通りになんかならない」
アイリスはまたため息。そしてこちらを見据えた。その目は悲しみ?怒り?よく分からない。
「どうして……そんなことを。まだ貴方は戻れたのに。何も知らず家族のもとに戻って暮せたのに」
「そうよ!今からパパとママのところに戻るんだから邪魔しないで!」
話は通じないみたい。こんなところで立ち止まっているわけにもいかないわ。ロッドに魔法をこめてアイリスに向かって走っていく。
「怪我したくなければそこをどいて!」
アイリスは私が武器を持っているのに全く気にしていない。それどころか現像した写真に目をやって私の方など見向きもしていない。舐めてるの!?
ロッドを振りかぶって振り下ろす。アイリスが今までの警備員と同じように吹っ飛ぶはずだった。けれどそうならなかった。ズボンのすそを引っ張られたみたいに足を取られて転んでしまった。そんな私をアイリスは冷めた目で見下ろしていた。
「くそっ……!」
後ろに飛び跳ね体制を立て直す。
よくわからないがアイリスは私の攻撃を恐れていないようだ。接近しての攻撃はまずいかもしれない
ロッドに魔力をこめ魔法弾の構えをとる。
「」
「」
「なあアイリス、もういいだろ」
ハリエットの右方から突然声がした。ハリエットがそちらに意識をやると黒い剣を構えたオリーブ色の肌が突進してきている。
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任意A任意B任意C- portal:4062604 (21 Dec 2018 09:11)
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