SCP下書き「救いの銃にサイレンサーは必要ない」

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SCP-1474-JPに関連するとみられる未視聴の映像ファイルが1件発見されました。


映像を再生します。

<記録開始>

[Agt. 犬井が手をレンズの前で振る]

Agt. 犬井: 映っているな?

[記録端末から離れる。Agt. 犬井は足を引き摺っている]

[Agt. 犬井が座り込み壁にもたれかかる]

Agt. 犬井: あー、機動部隊う-27、"チェーホフの銃"所属エージェントの犬井だ。

[懐からIDを取り出してカメラに示す]

Agt. 犬井: サイト-817D、3F倉庫にて記録。2018年02月16日、時刻はフタヒトサンマル。この映像は自分の端末でクラウドにデータを残しながら撮影している。

Agt. 犬井: 簡単に今の状況を説明する。サイト-817DはSCP-X46Y-JPが収容違反したせいで壊滅。俺以外の奴らはみんなSCP-X46Y-JP-Aに、ゾンビモンスターみたいになってしまった。俺も逃げ回ってたけどもうだめだ。携帯していた銃の弾は切れたしこの足……。ドアを閉めできうる限りバリケードしたが、まあ入ってきて俺もゾンビにされてしまうのは時間の問題だろう。

[足を前に出す]

Agt. 犬井: X46Y-JPについては俺から言える情報はない。たぶん別に報告が伝わっているだろう。これを記録してるのは別の理由がある。見てくれ。

[見せつけるように右手をカメラの方に上げる]

Agt. 犬井: SCP-1474-JPだ。拳銃の形をしたオブジェクト。俺は銃に詳しくないから詳しい型は知らないが、コルト・シングル・アクション・アーミーだと思う。前見つけた奴も言ってたから多分そうだ。

Agt. 犬井: このオブジェクトはサイト-817Dで研究中だった。だから担当の博士も恐らくもう犠牲になってしまってるだろう。研究データも、バックアップは残ってるだろうが、最近のデータは失われてるかもしれない。今から俺がSCP-1474-JPについて知っていることを話す。この映像を見た者は誰か俺たちの代わりに研究を引き継ぐ奴に伝えてくれ。頼む。

[大きく息を吐きだす]

Agt. 犬井: SCP-1474-JPは不意に目の前に現れるんだ。だいたい今の俺みたいに絶体絶命の奴の前にな。そしてこの通り──弾倉には1発しか弾が入ってない。

Agt. 犬井: つまり自決用、ってわけだ。

[数秒間沈黙]

Agt. 犬井: もう助からない奴が神が助けの手を差し伸べるかのようにこいつは現れる。だから今までこのオブジェクトに関する情報はほとんど無かった。皆死んじまうんだ、語り手がいないから情報が残らない。俺の前に現れたというのもそういうことだ。正直助かってる。オブジェクトにやられてインシデントを拡げるなんてエージェントとして最大の恥だ。俺にはこの銃が救いに見えるよ。

Agt. 犬井: 初めてSCP-1474-JPの存在が示唆されたのは、一昨年のエージェント・辰見からの電話だった。ブードゥー派生だかのヤバい宗教団体に潜入していたのがバレそうだからって電話してきたんだ。あの団体は人体実験とか人身御供とか平気でやる奴らで、最後に儀式の生贄にされるのは御免だからって自殺するって言ってさ。これまでの調査記録だけでも伝えようって必死だったな。俺は必死に説得した。辰見は一つ下の後輩で付き合いも長かったんだ。銃があるならどうにか逃げ出せって。けどもうどうしようもなかったんだろうな。何を言ってもごめん、ごめんって謝るばかりで。あいつ普段は小生意気のくせに。悪びれもなく俺のメシをつまんだりするのにさ。今更謝られたって俺にはどうしようも……。

[手を額に当てる。数秒間沈黙]

Agt. 犬井: すまない。余計な事を話過ぎた。ああ、自分でもべらべら喋ってるのはおかしいと思ってる。けど話してなきゃもっとおかしくなりそうで。怖いんだ。俺はもうすぐ死ななければいけない。あんな怪物になるよりは死んだ方がマシだ。財団エージェントとして死ぬのは怖くないつもりだったが、実際に死を目の前にすると……。いやダメだな、俺は死ぬ。死ななくちゃいけない。死なせてくれ。

Agt. 犬井: 辰見の奴も怖かったんだろうな。小さい声だったけど明らかに震えていて。最後にあいつは積もる話もほどほどに電話を自分から切ってそれで……。しばらく経った後、あいつが潜入していた拠点を制圧したがだいたいはもぬけの殻で、死体もSCP-1474-JPも回収されなかった。あいつは無事死ねたのかすらわからなかった。

[扉を強く叩く音がする]

Agt. 犬井: もうあまり時間がなさそうだ。手短に続ける。それから辰見以外でもSCP-1474-JPを手にしたらしい奴が何人かいた。もちろん皆死んでしまった。ただSCP-1474-JPの実物はまだ確認されていないんだ。今、この映像が残ればSCP-1474-JPの様子が初めて記録に残せる。俺の死も、無駄ではなくなる。どうかこの映像を見ている誰か。俺たちの代わりにSCP-1474-JPの報告書を残してくれ。俺たちがいた証を作ってくれ。そうすれば俺はエージェントとして喜んで死ねる。

[扉の上部が破壊され、バリケードの一部が崩れる]

Agt. 犬井: ああ、もう時間だ。山崎先輩、お世話になりました。浅川、5000円借りっぱなしですまん。今まで関わってくれたみんな、ありがとう、さようなら。──もう、何も言うことはない。

[口を大きく開き、手を口元に寄せる]

[バリケードは完全に崩壊する。SCP-X46Y-J-A群がAgt. 犬井に押し寄せる]

[端末が卓上から落ちる]

<記録終了>


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