叶わぬ虚、開かぬ輪中
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……この報告書を書くのも何度目だろうか。

アイテム番号: SCP-XXXX-JP

外部の状況が不明な以上、このオブジェクトの収容がどれ程困難かなど、私には分からない。

オブジェクトクラス: N/A

収容手順が確立されていれば、こんな思いはしていない。

特別収容プロトコル: N/A

説明: SCP-XXXX-JPは、サイト-81██1内で現在発生中の時空間異常です。当オブジェクトは2022/08/05に発生した、時空間異常に関連する複数のオブジェクトの収容違反が原因となって発生したものであると推測されています。

サイト-81██内で24時間が経過した、地田博士が死亡した、またはサイト-81██内から地田博士が退出した場合、SCP-XXXX-JPの異常性により時間遡行現象が発生します。当現象の発生後、サイト-81██内の時間は2022/08/05 18:12に遡行し、SCP-XXXX-JP発生中のサイト-81██内に存在している5名の財団職員は、サイト内の休憩室2に再出現します。しかし、遡行前の記憶を保持している人間は5名の内、地田博士のみであることが判明しています。

そう、私だ。私だけがこのループに囚われ続けているのだ。その理由は、きっと……

SCP-XXXX-JP発生中のサイト-81██内の様相は休憩室を除き、2022/08/05における収容違反インシデント発生中のサイト-81██内の様相と類似しています。しかし、サイト内に散在している異常存在や、時空間異常によってサイト内に出現した不明な敵性実体は上記のインシデント時とは異なり、こちらが接近しない限りその活動を完全に停止させています。

SCP-XXXX-JPの発生中は、サイト-81██外部との連絡が一切不可能となっています。そのため、サイト-81██からの5名の職員の脱出の目処は立っていません。しかし、上記の時間遡行現象に関連する異常性により、サイトに残存している職員5名の命は保証され続けています。

そうだ。ここに居れば全員生き続けられるのだ。ならばもう、全てを諦めてしまえばいい。……そう思おうとしても、ここから出たいという気持ちが、どうしても心の奥底で燻り続けている。いっそ、狂ってしまった方が楽なのではないだろうか。そんなことを考えていると、誰かに話しかけられた。

火野: よっ、執筆お疲れ様。それ書くの、何回目なん?

地田: ……さあ。50を過ぎた頃から数えていない。多分、500は行ってる。

火野: マジか。実感ないなー……。いや、多分実感ない方がずっと楽なんだろな。ほんと、お疲れ様っす。

地田: どうも。

[休憩室のドアが開く]

水谷: えっと、ただいま状況確認から戻りました。サイト内は全部、地田さんが言ってた通りになってました。その、私たち本当にとんでもないことになっちゃったんですね……。収容違反でしっちゃかめっちゃかになってた、さっきまでよりはマシな気しますけど。

金子: と言っても、これもその収容違反の二次災害みたいなものじゃない?いつ終わるかも分からないループなんて、ある意味一番嫌なタイプだよ。記憶を持ち越せない私たちはともかくさ。

月島: 記憶を持ち越せない故に知識面での協力ができず、貴方の苦痛も理解することができない……。地田博士、本当に申し訳ございません。

地田: ……いいや、これはきっと私の責任だ。私こそ、巻き込んでしまった君たちには謝らなければならないと思っている。

実験中の事故が切っ掛けのSCP-████-JPの収容違反──それは連鎖的にサイト内の他のオブジェクトの収容違反を引き起こし、サイト-81██全域を巻き込んだ大規模なインシデントの発生に繋がった。

多くの惨劇が起き、多くの人間が死んだ。……その死者の中には、私以外のこの4人も含まれていた筈だ。

私はただ我武者羅に走り、サイトからの脱出を目指していた。故に、彼らの最期を明確にこの目に映すことができた訳ではない。それでも本来、彼らがここに居て、ここで私と会話をしていてはいけない人間であることは分かっている。何故なら──彼らの、文字通り命を懸けた奮闘が無ければ、私などが生き延びられた筈がないからだ。私があの時、生きてサイトの非常口のドアノブに手を掛けることができたのは、全て彼らのおかげなのだ。

しかし、サイトを脱出したと思った瞬間、私はこの休憩室に立っていた。もういない筈の彼らと共に。

金子: でも、この5人で一緒に異常に巻き込まれたってのは不幸中の幸いじゃない?同じ研究室でずっと一緒にやってきた仲間だもん。皆で協力すれば何とかなるって!

水谷: そうですね。もし私一人でこんな状況になっちゃったら、怖くてどうにかなっちゃってたと思います……へへ……。

火野: ま、地田と月島がいりゃあ、問題はないだろ。俺らは邪魔にならない程度にうろついてればいいさ。

月島: いえ、地田博士はともかく、私はまだこの状況を把握しきれてはいませんので……。対してお力にはなれませんよ。尽力はいたしますが。

再び彼らの姿を目にすることができた時は、本当に嬉しかった。何かの間違いだとしても、このまま彼らと共に歩んでいけるのだとしたらそれでいいと思った。5人で訳も分からぬまま、インシデント時とはまた違った方向性で異常なサイト内を走り抜け、今度は全員で非常口に辿り着くことができた時は涙が溢れた。

気が付くと、我々は再びこの休憩室に立っていた。私以外はそれまでの記憶を失って。

これまでの研究経験から、我々がどのような状況に立たされているのかは即座に把握できた。他の4人にはどう説明したものかと悩んだが、毎回全員が私の話をすんなりと受け入れてくれたのは有難かった。彼らと一緒ならば、この困難にも立ち向かえる気がした。

初めの数十回は、とにかく全員でサイトから脱出し、それによって何かしらループに綻びが生じないかを検証した。次に、与えられた24時間をフルに活用し、全員で空間内の調査・研究を行なって脱出方法を編み出そうとした。やがて手詰まりになってからは、私自身の命を投げ出す方法でどうにかならないかを試すようになった。かつて仲間たちが味わったのと同じ苦痛を、その身で何度も受け止めた。が、それでもどうにもならなかった。ここでは、死ぬことすらも許されないのだ。

もう今回からは、ただ仲間と共に居られるという幸福を享受するのみで良いのではないだろうか。この永劫の輪廻の中で、狂気への落下と正気への浮上を繰り返す、そんな存在になってしまえば────。

火野: それじゃ地田。今の所、この時空間異常から脱出できる算段はついてるのか?お前ほどの人間が1年以上かけて思いつかないなら、俺らにはサッパリなんだが。

地田: ……無理だ。正直、もう諦めてしまおうかと思っている。君たちには申し訳ないが、幸い、時間遡行の記憶を保持できるのは私だけだ。私さえ正気を捨ててしまえば、それで済む話なのだ。

月島: ……失礼ながら博士。貴方は私たちに嘘を吐いているのではないでしょうか。

地田: 待て。君は何を言っている?

月島: いえ……実の所、ここに来てからの博士の態度には何か違和感を覚えておりまして。特に、「この空間からの脱出方法が不明である」という旨の話をなさる時。

地田: ……そんなことは。

水谷: あ……月島さんもそう思ってたんですね。私の気のせいじゃなくて良かったです。

金子: 結構分かりやすい性格してるよねぇ。大方、私たちを危険な目に合わせちゃうとか、自分だけが助かる方法しか見つからないとか、そんなことで悩んでるんだろうけど。

火野: お前らマジ?俺全然気づかなかったんだけど……まぁいいや。地田、何か方法が思いついたんなら言ってくれよ。どうせ俺たちは、あの収容違反に巻き込まれて死んだようなもんだったんだ。今更1つや2つ、危険な目に遭ったって気にしないさ。

地田: そんな。どうして、また君たちは……。

一通り思いつく限りのことを試しきって、遂に私は気づいてしまった。いや、本当は初めから気づいていたけれども目を逸らし続けていた真実に、向き合わざるを得なくなってしまった。

この時空間異常は、あのサイト内の異常な環境と私の未練が生んだものだ。サイトから脱出する寸前に、「彼らを置いてここから逃げたくない」と願ってしまったことが全ての元凶だ。これは、正常な時の流れを何よりも重んじるべき人間が、過去に手を伸ばしてしまったことへの罰なのだ。

これが真に、私の過去に対する悔恨が生んだ異常であるとするならば。もう一度、私が正常な時の流れに臨みさえすれば、無力化──ここからの脱出は可能となるだろう。そのために必要な、私がとるべき行動の仮説も既に立っている。しかしそれは私にとって────そして何より彼らにとって、最も残酷な選択肢である。故に、それだけはどうしても避けたかった。

火野: お前の部下じゃなく、お前の同期として言うけどさ。あんまり色々抱えすぎるなよな。

水谷: えっと、この状況をどうにかできるんでしたら、私にできることはなんだってやるつもりです。だって、いつも博士の言うことやることは、全部正しかったですから!

金子: まぁ私は、全員ここで何もできずにいるよりかは、誰か一人だけでも出られた方が良いと思うよ。最終的な決定権はアンタに任せるけどさ、博士。

月島: ……我々はきっと、貴方が思っている以上に貴方のことを信頼しているんですよ。恐らく、貴方の身に何かあれば、躊躇なくその命を投げ出せる程に。ですから博士、何か案があるのでしたら言ってください。何事も、やってみないことには始まりませんから!

再び彼らを失ってしまうことが、どうしても怖かった。故に、私はここに留まり続けることを選ぼうとした。……だが、それは私を生かそうとしてくれた彼らへの裏切りなのではないだろうか。私がここで停滞を選択してしまうことこそが、彼らの願いを何よりも踏みにじる行為なのではないだろうか。

……結局のところ、もう何も分からない。目の前の彼らは、あのインシデント発生時の記憶をある程度有しているものの、私と共にサイト内を必死に走り、そして散っていった彼らとは同一の存在ではない。あの時の彼らが何を願っていたかなど、もう誰にも分からないのだ。だからこれは、本心ではただここから出たいだけの私が、彼らの遺志を都合よく解釈しているだけかもしれない。

それでも、せっかく辿り着いた一つの可能性を検証もせずに無駄にしてしまうのは────我々らしくない気がした。

地田: ……分かった。それでは、君たち全員に協力してもらいたいことがある。

[ここから一人ずつにインシデント時の記憶を聞いていくヒントパート(各々の最後の記憶とかSCLについてとか?)]

[ここに誰を最初に殺すかの選択肢リンク]

補遺: [SCPオブジェクトに関する補足情報]

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