世界で一番クソな職場
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「やっぱあそこの作画すげえよな。マジ神」
「それな。そういや原作の方も最近展開ヤバイよなー」

都内。某駅構内。大型アニメ広告の前で雑談に興じる少年たちを横目に、僕はホームへと向かう。

「あー。やっぱアレ死ぬんかな?」
「いやメインヒロインが死ぬことはないと思うけど……いや分からんな。あの作者ならそういうことする」

僕はアニメのようなサブカルチャーにはさほど明るくない。しかし、有名な作品であれば簡単な概要ぐらいは知っている。確か、奇怪な怪物が突如現れるようになった世界で、それまで平穏な生活を送っていた少年が、怪物とそれに対抗する秘密組織との争いに巻き込まれる……というようなものだった気がする。

「やっぱ……の能力で人が死にまくるシーンのスペクタクルが……」
「それなら……でモブが変異するシーン……」

近辺の中学校の制服を着用している所を見るに、彼らは僕と同じぐらいの年齢だろうか。確かに、このぐらいの歳の少年であれば通常、そういった娯楽作品フィクションの世界観に魅かれるものなのだろう。

だが、僕はそうではない。そうはなれない。だって、それがフィクションではないと知っているから。

……列車に乗り込み、都心から離れる。数回の乗り換えと数十分の徒路を経てたどり着いたのは、とある発電所────に偽装された研究施設。そう。今後、僕が一生を捧げる組織、「財団」が保有するサイトの一つである。


エントランスにて職員証の確認と生体データの照合が行われた後、ついに僕は「職場」へと足を踏み入れた。初出勤だ。

人気のない廊下を進み、メインルームへと向かう。途中、若い男性と出会った。彼は僕の姿を見るとまず目を丸くしたが、すぐに平静を取り戻して挨拶をしてきた。

「君が今日からここ────サイト-81GMに配属されるエージェント、新道 継しんどう けい君だね?俺は藍田 眞人あいだ まさと。君と同じ、ここのエージェントだ」

差し出された手を握って挨拶を返しながら、藍田と名乗る人物を観察する。端正な顔つきの若い男性だ。歳は二十代半ばから後半といった所だろうか?一挙手一投足がキビキビとしている。新人の僕がこんなことを考えては失礼かもしれないが、いかにも「有能な人材」といった風貌だ。

「うん、受け答えもしっかりしている……。新道君、君のことは聞いている。例の教育プログラムを受け、つい先日、齢15にして正式に財団エージェントとして認められたエリート少年たち……その内の1人、だと。きっとすぐ、俺なんかより高い立場に就けるだろう」

「いえ、そんなことは……アレまだそこまで厳格なプログラムではないので」

例の教育プログラム────『少年職員教育プログラム(仮)』。多感な少年時代の内から現場のノウハウを学んだ、有望な職員を産出するため。一部の、相対する職員が若いほどその収容が容易となるオブジェクトに対応するため。様々な理由から、財団は歳若い職員を求めた。これまで、一部の例外を除いて財団が正式に職員として雇用するのは18歳以上の人間のみであったが、倫理委員会を始めとした様々な部門の反対意見を抑え、財団日本支部はついに、15歳程の少年たちを正式な職員へと仕立て上げるためのプログラムの実施を決定した。それが『少年職員教育プログラム(仮)』である。(仮)が外れるかどうかは、僕たちの働きぶりにかかっているという訳だ。

「いやいや。風の噂でしか聞いていないが、俺たちが3年かけて覚えるようなことを1年で、しかも義務教育と並行して覚えさせられたりするんだろう?俺には考えられない。君たちは我々の新たな希望だ」

彼────藍田さんに連れられ、無機質な廊下を歩く。藍田さんは僕のことについて、かなり調べてきてくれているように感じる。そういえば、新たにサイトに配属された職員はOJTを受けるらしい。もしかして、彼がその担当なのだろうか?それならば上手くやっていけそうだ。そんなことを考えていると、メインルームに到達した。

「やあ、藍田クン。新人君のお迎えご苦労さん」
「人事管理官。彼が我々の新たな仲間です」

人事管理官と呼ばれる、眼鏡をかけた、やや癖のある長髪の女性の方を見る。このサイトに配属されるにあたって事前に文面上でのやり取りは行なっていたが、直接対面するのは初めてだ。30歳ほどにしか見えないが、この人がそうなのか。

「初めまして。本日よりサイト-81GM配属となりました、エージェント・新道 継です。双木さんがこんなにお若い方だとは存じておりませんでした。改めて、よろしくお願いいたします」
「へえ!エリート中学生はアラサー女にもそんなお世辞が言えるのかあ!すごい!……っと。ゴメンゴメン。私は双木 朗なみき あきらです。一応、このサイトの人事管理官とかやってます。よろしく!」

重要な役職に就いていることと、文面上での印象からかなり厳格な方だと思っていたが、実際の彼女はとても朗らかな方だった。藍田さんと同じく、彼女とも上手くやっていけそうだ。

「あっ、藍田クン。彼にOJTのこと言った?」
「いえ、これから言おうと……」

双木さんからOJTの話題が出た。やはり藍田さんが僕の担当なのだろうか。そう思っていると、藍田さんが一度ため息をついて、真剣な表情を僕に向けてきた。

「初出勤早々で悪いが、実は…………君に悪い知らせがある」

悪い知らせ?一体何だというのだ。少し身構えると同時に、隣の部屋から誰かの足音が近づいてきていることに気付いた。

「受けた教育の内容を鑑みれば、既に君はこのサイトの中でもトップクラスに優秀だ。本来受けるべきOJTが、必要ないほどに。だからこそ、そこの人事管理官はこんな判断をしたんだろう」

双木さんの方を見る。彼女は、「いやー、ゴメンゴメン!」とでも言いたげな表情で、両の掌をこちらに向けている。足音は、どんどん近づいてくる。

彼女も、能力だけで言えば優秀なエージェントなんだが……。なんだが、あまりにもそれ以外が……その、問題があって……。ゲホン!ゴホン!」

藍田さんがわざとらしい咳払いをして見せる。一体、何を言い渋っているのだろう?彼女とは誰のことなのだろう?────足音は、もうすぐそこだ。ドアが勢いよく開け放たれる。
 
 
「アキ姉~!例の新人クン、来てる~~~!?」
 
 
 
 
 
「……君のOJTを担当するのは彼女であり……君には、彼女のお目付け役を担当してもらう」


『うわっ!全然普通に中坊じゃん!?こんなんに仕事させんの?やっぱ財団ココ、腐敗し過ぎでしょ……』

『………………………………………………はい?』

これが、僕と彼女の最初の会話であった。
 
 
 
「……彼女は影原 巽かげはら たつみ。彼女もこのサイトに所属するエージェントで、今の主要な仕事は要注意団体への潜入。そしてもう一度言うが、君のOJTを担当する人間でもある」
「紹介サンキュー、マサト!ああ、私26でコイツと同い年の同期なの。ケイ君……だっけ?コイツ堅物人間なんだけど仲良くしてあげてね!まあ、私が今、一番君にやってもらいたい事と言えば、そこのアキ姉に辞表突き出してこんな職場からパパッと逃げてもらうことなんだけど!」
 
 
なんだ、この人は。出会って早々、面と向かって「中坊」なんて呼ばれたのは初めてだ。まくし立てるような挨拶の中で、実質「とっとと仕事辞めろ」なんて言われるとは予想していなかった。それに……財団のことを「こんな職場」だなんて。

「すまない新道君。彼女は、財団への忠誠度テストはいつも赤点ギリギリ・素行不良によって受けた注意は数知れずの問題児なんだ。年若い君が真面目に勤務する姿を彼女に見せつけ、その性根を叩き直してやってくれないか?」
「うわひど。アキ姉、同僚への正しい口の利き方ってのを、コイツに人事管理官から叩き込んでやってくれません?」
「……まあ、財団に入れ込みすぎていないが故に、影原クンは他団体への自然な潜入ができてる、ってのは間違いないんだよね。素行不良に関しては、ちょっと今は甘やかしすぎてるな~って思ってるけど」
「えぇ~!?」

僕の知る「財団職員」とはかけ離れた彼女の言動に唖然としてしまう。本当に、僕はこれからこの人と共に仕事をやっていくのか?僕はこの人から何かを学べるのか?二人と言い争う彼女の姿を遠巻きに眺めて考え込んでいると、やがて目が合った。

「ああ、ほったらかしてごめんねケイ君。とりあえずOJTの担当として私がやる事は……うん。まずはサイトの案内かな!行こっか!でもまぁ、こんなとこの構造覚えたって意味ないよ。きっと君は、明日にはココが嫌になって出てってるだろうからさ!」
「え……ちょ、うわぁっ!?」

彼女の発言を上手く呑み込めないでいる内に、強引に腕をつかまれて引っ張られる。この人、口だけではなく所作まで粗暴だ。しかし、一応サイト内の案内はやってくれるらしい。抵抗はせず、彼女に引かれるがままに歩いていく。後ろを振り返った時に見えた藍田さんと双木さんの呆れ顔は、「これ」がこのサイトの常であることを示していた。


「はい、ここがミーティングルーム。ここでは毎日、実際に異常存在と対峙する時にはクソの役にも立たないような会議が行われています」
「ここは食堂。普段はまあまあ賑わってるんだけど……今はガラガラだね。今ここにいるのは私たち以外みんな二軍の人だよ」
「こっちは椅子に座ってふんぞり返るのだけは得意な、お偉いさん方たちの部屋。あ、アキ姉には内緒ねコレ」
 
 
 
……この人は何か余計な一言を付け加えなければ施設案内もできないのだろうか?

「いや~、一緒に他の職員の人たちの紹介もしたかったんだけどね。ちょうど今日は、ここのサイトが主導の大規模収容作戦が重なっちゃっててさ。念のためにサイトで待機してる人ら以外は、出払っててガラガラなんだよ~。元々ココは少数精鋭(笑)のサイトだしね。…………はい。ここはトレーニングルームです」

なるほど。やけにサイト内に人気が無かった理由は把握できた。しかし、影原さんが指さす「トレーニングルーム」からは、恐らくトレーニング機器の動作によるものであろう激しい物音が聞こえてくる。

「おーおー。この音の感じはアイツらがいるなぁ。あ、ケイ君ってこのサイトにも機動部隊が配属されてることは知ってる?」
「はい。それぞれ規模は違えど、大抵のサイトにはそこ専属の機動部隊が存在しているというのは……」

機動部隊。各々が受け持つ任務の遂行に特化した精鋭部隊。財団が有する最高峰の人間兵器。訓練生時代、臨時の教官として現役部隊員の何名かが僕らの元を訪れたことがあったが、皆一様に心・技・体が素晴らしい方々であった。ここでも、そんな彼らに出会えるのだろうか……?

「ここの機動部隊は面白いよ~。まあ見りゃわかるから」

影原さんがトレーニングルームの扉を勢いよく開く。そして、そこに広がっていたのは…………。
 
 
 
「「「「フンッッ!フンッッ!フンッッ!フンッッ!」」」」
 
 
 
男。マッスル汗。マッスル熱。マッスルそして筋肉マッスル────────

「おーい筋肉ダルマ共~!新人君が挨拶に来たぞ~!」

影原さんが呼びかけると、四人のむくつけき男たちはトレーニングを中断し、整列を始めた。そしてそのうちの一人が前に出て、口を開く。

「ようこそサイト-81GMへ!我々は機動部隊よ-8、"ソバット"だ。私は部隊長のエフォート。そして右から、隊員のフューチャー、ビューティー、スターだ。総員わずか四名の部隊であるが、その実力は折り紙付きさ」

彼ら全員が、その鍛え抜かれた肉体と爽やかな笑顔をこちらに向けてくる。素晴らしい。やはり財団職員とはかくあるべきだ。彼らさえ居てくれればこのサイトは絶対安泰──そんな気さえしてくる。

「はいはい。挨拶済んだし、行こうねケイ君。じゃあね、筋肉ダルマさんたち~」
「おっと、待ちたまえ巽嬢。そこの彼に伝えておきたいことがある」

エフォートさんがその顔を僕の耳元に近づけてくる。伝えておきたい事?なんだろう。まさか、僕を機動部隊にスカウトしたいとかじゃ────!

「巽嬢のように、我々を一まとめに『筋肉ダルマ』と呼称するのはやめて欲しい。いやなに、私にとってはそれは褒め言葉だがね。強固な肉の鎧を纏っていても、メンタルは繊細な隊員だっているってことさ……!」
 
………………
 
「ケイ君、さっき何言われたの?」
「ええと……私たちを『筋肉ダルマ』と呼ぶのはやめて欲しい、と……」
「ああ、アレ。大丈夫だよ。あの四人、全員『筋肉ダルマ』って呼ばれて喜ぶタイプの人間だから。あの隊長は多分、他人からの賞賛を独り占めしたいタイプなんだよ……っと。これでサイト内は以外は見終わったかな。次どうしよ」

……ここまで彼女の姿を見てきて、確信できたことがある。彼女は間違いなく、「財団」のことを嫌っている。しかし、それでもなお、彼女はここでの勤務を続けている。その上「要注意団体への潜入」などという、ある意味最も、組織からの信用が無ければ任されない任務を受けている。彼女は、何者なんだ。一体、何を考えてここにいるんだ。

「あの───」

影原さんに疑問をぶつけようとした瞬間、施設内に警報が鳴り響いた。


…………。

『継。どうかあなたは誰よりも、お父さんよりも優秀な人材になって、財団に貢献してね』

……うん。

『私たちは、身も心もここで使い潰さなきゃいけないの。全人類のために』

……分かってる、分かってるよ母さん。

『それが何よりの幸せ。何よりも崇高な、私たちの存在意義なの』

……分かってる、けれど。でも、それじゃ、僕は父さんも母さんも……。

──────

「……い。おーい!聞こえてる?ヘルメットのインカム壊れてるとかないよね?」

「あっ、は、はい。大丈夫です。聞こえてます。ちょっと考え事してました」

「良かった良かった。じゃあ改めて。この後の任務内容をもっかい確認するねー」

僕と影原さんは今、バイクに二人乗りタンデムし、異常事件の発生現場に向かいながら会話をしている。……なんで出勤初日からこんなことになってるんだろう。色々なことが一日の内に起こりすぎて、頭が混乱しているようだ。一度気持ちを整理するため、僕は、数分前のサイト内でのやり取りを思い返す────
 
 
 
「……今回の事件発生現場はこの老人ホーム。既知の敵対的人型実体が突如出現したために、施設・職員・入居者に被害が生じている。既に最寄りのサイト-81GPの職員が施設の封鎖と周囲の情報統制に取り掛かっているけれど、施設内部の調査と人命救助、そして敵対存在の鎮圧を行うにあたってウチからも7名ほど人手が欲しいらしい」

警報の後、僕らはメインルームに召集された。そこでは大規模収容作戦で忙しいサイト管理官達に代わって、双木さんが指揮を取っていた。

「とりあえず機動部隊から2人寄こすとして……あと5人、空いてて戦闘できるヤツ。藍田クン、瀬田クン、宮本クン辺りは行ける?」

召集されたエージェントの内、特に体躯が大きい3人が返事をする。……藍田さん、戦闘上手いのか。やはり彼に師事したかった気持ちがある。そんなことを考えながら影原さんの方にチラリと目をやると……しまった。目が合ってしまった。

「よし。じゃあ後2人……」
「アキ姉、それ私も行っていい?」

影原さんがいきなり意見する。……僕の考えていたことを見透かしたんだろうか。

「……まぁ、能力としては問題ないよ。でも、影原クンは今、新道クンのOJT中で……」
「じゃあ最後の一人に、この子も連れてけばいいじゃん?」
 
 
 
………………え。

「「ええっ!?」」

双木さんと声を揃えて驚いてしまった。

「いやね、影原クン。OJTのマニュアル見た?新人職員の実戦投入は、早くて一週間が経過してからだって……」
「そのマニュアルには、『有事の際は新人であっても一人の財団職員として扱うこと』とも書いてますよー。ってか、この子すんごい教育受けてるんでしょ?普通のマニュアルに当てはめちゃダメだって!」

影原さんがとても良い笑顔で僕の背を叩いてくる。この人、自分に都合の良い情報しか頭に入れられないタイプの人だろうか。

「……まあ、それほど危険度は高くないインシデントっぽいし……確かに、残りのメンツの戦闘経験とサイトに残存させる戦力を考えると……うーん……」

双木さんはしばらく俯いて何か呟いた後、ため息をついて顔を上げた。

「分かった。影原クンと新道クン、行ってきて。ただし、くれぐれも影原クンは新道クンの補助を怠らないこと」
「やりぃ!ありがとアキ姉!」
 
 
 
マジか。
僕だけでなく、双木さんと影原さんを除くその場の全員が唖然としている。

「人事管理官。流石に勤務初日の職員……それもまだ年若い彼を、危険を伴う作戦に参加させるのは問題があるのではないでしょうか」
「まぁ、戦闘には極力参加させない方針で。正直、増援7人は多すぎなくらいだったし、一人見学枠があってもどうにかなる範囲かなって。……さあ、話はまとまった。私が指定した7名は早急に現場に向かうこと!以上!」

藍田さんの反論も躱され、無慈悲な出動命令が出される。正直、全く心の準備はできていなかったのだが……こうなったらやるしかない。財団に勤務する以上、いずれはこのような作戦へ参加することになっていただろう。それが少し早まっただけだ。なら、僕が今できる全力を尽くすしかない。……この瞬間にも、異常存在による被害を受けている人々のためにも。

「よし、じゃあいこうか少年。地獄の初任務に!」

影原さんの手を取り、メインルームから退出する。さあ。今後、僕が一生を捧げるであろう組織、「財団」での初任務だ────!
 
──────
 
……改めて思い返してみても、無茶苦茶な経緯だ。でも。

「……よし。任務内容の確認オーケー。現場まであと約3キロ。ケイ君、準備はできてる?」
「はい。……えっと、よろしくお願いいます」
「こちらこそ!頼りにしてるよ~」
 
 
これは、この人の能力・性格・思想……そういったものを見極めるチャンスでもある。果たして、僕がこの人から学べることはあるのだろうか?不安と疑惑、そしてほんの少しの期待を孕んだファーストミッションが、もうすぐ始まろうとしている。

…………。

「……よしケイ君。もうちょい飛ばすから、私の身体にちゃんと掴まって」
「えっ、はい?こうですか?」
「そんなんじゃなくて!もっとこう……ギュって抱きしめるぐらいに!」
「はっ、はいぃ!?」


「っしゃ到着!」

目的地に着くや否や、影原さんはフルフェイスヘルメットを勢いよく脱ぎ捨てる。そして、彼女の明朗快活さをそのまま形にしたようなハッキリとした目鼻立ちと、それによく似合うミディアムの明るい茶髪が露わになる。

……彼女は、財団支給のスーツの上からでも分かるほどにスタイルが良い。そんな彼女に、「身体を抱きしめろ」なんて言われたのだ。健全な少年の心情も考えて欲しい。

「ほらケイ君!ボーっとしてないで、こっち集合!」
「……っ!はいっ!」

僕らの直後にサイト-81GMの他の職員も到着し、先行して任務にあたっていたサイト-81GPの機動部隊から、装備の支給が行われた。今回の任務の規模を考慮してか、大半は一般の警察が用いる装備と同程度のものであったが、一部にはプラズマ放射銃や広域制圧用特殊磁場発生装置といった、財団の技術の粋を結集して開発された魅力的なものも存在していた。

「一応言っとくけど、ケイ君が使っていいのはその拳銃だけだからね。特殊装備を扱うための研修、受けてないでしょ?」
「……分かってますよ」

……僕はそんなに物欲しそうな目で装備を眺めていたのだろうか。

その後、サイト-81GPの機動部隊長から簡潔に状況報告が行われた。現在、施設は完全に包囲が完了。施設外に脱走した敵性個体は撃破済み。施設職員は7名中4名が避難済み。入居者は22名中、10名が避難済み。ここからはサイト-81GPの職員の大半が周囲の情報統制に当たるため、施設内での救助・戦闘はサイト-81GMの人員に一任したいそうだ。

「……避難を終えていない入居者が多いな?」

"ソバット"のスターさんがそんな疑問を提示する。それに対しサイト-81GPの機動部隊長は、今説明するつもりだったんだが、と前置いてから、

「今回は複数の証言や状況証拠から、入居者の数名が突如敵性個体に変貌したケースと推測されている。そのためだ」

と述べた。
 
 
……え?
 
 
「では、サイト-81GMの諸君。健闘を祈る」

部隊長が去り、僕たちは施設内への侵入を開始する。直後、事前に画像で説明された通りの、全身が生肉で構成されたような人型の怪物2体と出くわした。それらは人間の手に相当する部位に位置する触手を伸ばし、こちらへの攻撃を試みる。が、一方は藍田さんが放ったライフル弾で。もう一方はパワードスーツを装備したスターさんのパンチで頭部を砕かれ、こちらに触れる前に一瞬で倒れ伏した。
 
 
ふと、壁に目をやる。

そこには、この施設内で日頃行われているイベントの様子を撮影した写真が一面に飾られていた。シワの多い顔を、更にしわくちゃにして大笑する老爺。若い女性職員と仲睦まじく手芸をしている老婦人。日付を見ると、どれもつい最近に撮られたものであることが分かる。

先ほどの、部隊長の言葉が頭の中でリフレインし続けている。

入居者の数名が突如敵性個体に変貌した

つまり、今頭部を打ち砕かれたこの怪物は、笑顔でこの写真に映っている人々のいずれかである訳で。
 
 
 
この怪物たちを殺すということは、彼らを殺すということで。
 
 
 
「──ちょっとケイ君!私たちは戦闘じゃなくて生存者の捜索が仕事!」

……影原さんに腕を引かれ、正気に返る。そのまま、血風吹き荒ぶ大広間を駆け抜けていく。

「あっ、あの。すいませっ。僕、今回対峙するのがっ、人間が変容したタイプの異常存在だとっ、知らなくって!」
「最初に画像見せられた時、もしかしてピンと来てなかったの!?そういうの教えてくれないってどういう欠陥教育よ、このクソ財団!」

確かに、今回対峙する異常存在が元人間だなんてことは、さっきまで知らなかった!そもそも、今日いきなり異常存在と対峙することになるなんて思ってなかった!でも、「そういう異常存在もいる」ということ自体はこれまで散々教わってきたんだ。なのに、それなのに!

……いざ、実際に彼らと対峙してしまうと、何も考えられなくなってしまった。

「……分かったケイ君。ひとまず君は、これからの人命救助のことだけを考えて。こっちの廊下に並んでる部屋は、職員さんが十分に避難誘導できなかった所らしいの。右側の部屋は私が見ていくから、左側はお願い。──あのバケモノ達と戦う訳じゃない。むしろ、バケモノが居たらすぐに逃げて私に報告。それが、君の仕事。それならできる?」

それまでとは一転して、諭すような柔らかい口調で影原さんが僕に語り掛ける。その言葉の一つ一つが、僕の動転している脳内に、澄んだ鈴の音のように響いていく。彼女の言葉に身を委ねれば、まるで全てが良い方向に向かっていくような。そんな気さえしてくる。気付けば、胸を突き破りそうに暴れていた僕の心臓は、すっかりその激情を投げ出していた。

「…………はい。やります。やらせてください」
「よし良い子。じゃ、お互い頑張ろ!」

影原さんに背を向けて、改めて、自分の任務に目を向ける。勝手にメンタルやられてる場合じゃない。せめて、残った人たちだけでも助けるんだ。それが僕の、エージェント・新道 継の仕事だろ。

身も心も使い潰すんだ。全人類のために──!
 
 
 
「……やっぱダメだ、あの子」


まずはドアの施錠の確認。カギがかけられていた場合、預かっているマスターキーを使用。
ドアを少しだけ開き、その隙間から入口付近の状況を即座に把握。
目下の危険はないと判断し、室内に突入。
視覚・聴覚・嗅覚……持てる感覚全てを用いて、室内の状況を瞬時に分析。
物陰もすべてチェックし、生存者・敵性個体の存在を確認。

このルーティンを部屋の数だけ実行し、今、最後の部屋の確認を終えた。

「お疲れケイ君!めっちゃ手際よかった……ってか、私よりテキパキしてたね~。おかげでいち早く救助ができた」

任務中、部屋の中に隠れていた3名の居住者と、それに付き添っていた1名の職員を発見・救助することができた。大広間での戦闘はとっくに終了しており、影原さんからのアドバイスもあって施設からの脱出は容易だった。

『坊や、ありがとう……ありがとうねぇ……』

……僕が救助を行なった際の、老婦人の言葉と涙。初めて、この手で救うことができた命。僕がこれを一生忘れることはないだろう。

「その……影原さんのおかげです。影原さんの助言があったからこそ、僕は落ち着いて任務にあたることができたんです」
「そお?へへ、ちょっとは先輩らしいことできたかなー!」

……僕は、この人を誤解していたのかもしれない。確かに、普段の言動は褒められたものではないかもしれないが、任務中の彼女は間違いなく財団職員の鑑のような存在であった。彼女と共に仕事をすることで、きっと多くのことを学べるだろう。彼女が僕のOJTを担当してくれるというのは、幸運なことだったんだ。
 
 
──────
 
 
影原さんと並んで施設を出ると、そこには既に藍田さん達が集まっていた。

「……あぁ。影原、新道君。お疲れ様。先ほど、今回の事件に関連があると見られる、ここの職員だった男を確保したという連絡があった。そして俺たちは今、周囲を警戒しながら救助人数・犠牲者数・敵性個体の撃破数の確認を行なっている。これが終われば、やっと一段落つけ……ん?」

何かの書類を確認していた藍田さんが、首を傾げた。そして、

「合計人数が……入居者数と合わない……?」

そんな不穏な言葉を漏らした。
 
…………ッ!

「僕、もう一度施設の中を確認してきます!」
「おい、新道君!?」
「……マサト。私も行ってくる」
「待てっ!俺まだ持ち場っ……動けないからぁ!!!」

言い終わる前に、もう体が動いていた。確かに、施設内の全部屋を確認したはずだ。それでも。それでもなお見落としがあったとしたら?
未だに施設に取り残され、心細い思いをしている人がいるのか。それとも、この施設に潜伏し、脱走の機会を伺っている異常存在がいるのか。どちらにせよ、放っておくことなんてできない……!

「待ってケイ君。この廊下の部屋、さっきと担当を交代して確認していこう。もしかしたら、どっちかが気付けなかったことに、どっちかが気付けるかもしれない」
「……はい。すいません。お願いします!」

先刻と同じ動作を、先刻よりも慎重に行なっていく。何か気になる所はないか?何か怪しい所はないか?
──薄暗く、段ボールが幾つも積み重なっている部屋に入る。瞬間。確信めいた予感が僕の身体を突き抜けた。

どこだ。どこがおかしい。物陰には誰もいない。明かりをつけても反応はない。天井では古びた蛍光灯が点滅を繰り返していて……天井?
 
 
「影原さん!すいません、ちょっと来てもらえませんか!?」

影原さんを連れて、あの部屋に戻る。

「ここ……確かにごちゃついてるけど、私は隅まで全部確認したよ?」
「いえ。あそこ、見て欲しいんです」

声を抑え、僕は天井の隅を指差す。そこには、四角い穴がポッカリと空いていた。少し。ほんの少しだけ、冷えた空気の流れを感じることができる。

「あれって、天井点検口……?まさか、あそこに逃げた人が居るって言うの……!?」
「僕は、そうなんじゃないかと思ってます」
「いや……!ここの入居者って皆お年寄りだし、段ボールの山はあの穴とは離れてるし……!流石に足場も無しにあそこに入るのは……」
「異常存在なら、入れるんじゃないですか?ほら、あの触手伸ばして」

それは、軽い気持ちでした質問だった。しかし、影原さんは目を見開いて、驚いたような素振りを見せる。そして。

「……そっか、そうだよね。いやゴメン。あのタイプの異常存在って、真正面から人に寄ってきて攻撃・捕食するのが基本だったからさ。アイツらからあんな所に逃げていくなんて、想像できなかった。でも……君の言う可能性、十分にあると思う」

そう言って、彼女は小指程の大きさの筒をポケットから取り出した。確かそれは……。

「上の音、しっかり聞いててね」

先端のボタンを押された筒が、静かに天井裏に投げ込まれる。……少しの間をおいて、穴からは白い煙が噴出し、天井から激しい物音が聞こえてきた。これは……!

「煙幕投げた!これで上のヤツはパニクってる!どこに出てくるか気を付けて!」

影原さんと共に廊下に飛び出し、全神経を頭上に集中させる。物音はそのまま数メートル移動し、廊下の突き当りの部屋に向かっていく。そして、その部屋で鈍い落下音がした。

「……ビンゴだ。もう逃がさない。ケイ君、戦闘行ける?」

戦闘。つまり、これからあの異常存在と殺し合うのだ。それは、やっぱり怖い。殺すのも、殺されるのも怖い。でも……。

「────行けます。今度は、大丈夫なはずです」

拳銃のグリップを握りしめる。影原さんが隣にいてくれれば、何とかなる気がした。 


「た、たすけてえぇぇ……。ごめんなさいっひっいいぃぃっ……」

なんだよコレ。

「あー……ケイ君、コレ、一番嫌なパターンだった」

こんなの、どうしろってんだよ。

「うっ、撃たないで、何もしないから、殺さないでええぇぇぇ……」

扉を開けた僕と影原さんの前で蹲っていたのは、左半身があのバケモノと同じような肉になってしまっている、小柄なお婆さんだった。

「こんなの初めて見た。中途半端にバケモノになっちゃうとこんな感じなんだ……サイアク」
「かげ、はらさん……こ、これ、どうすれば……」

影原さんは、また頭がグチャグチャになりかけている僕の耳元にそっと口を寄せた。銃を持ちながら震えている僕の手を、そっと持ち上げてくれた。そしてあの時と同じ、穏やかな口調でこう言った。

「まずはあまり彼女のことを刺激しないであげて。そして、彼女が安心しきった瞬間に────その頭を打ち抜いてあげて」

それは。
だって。
違うじゃないか。

異常存在になって、人間を襲ってる訳じゃない。彼女はこうして自らの意思を持って、僕らに助けを求めている。そんな彼女を殺していいはずがないじゃないか。

「か、彼女は、僕らが保護すべき民間人です。撃つなんて、で、できません」
「違うよ。見て、確かに今は半分だけだけど、だんだん顔の方も肉に覆われてきてる。そのうち、さっきのバケモノたちと同じになる。なら、人間の内に殺してあげよ」

お婆さんの顔を見る。大粒の涙を零し、それでも僕らから目をそらすことなく、こちらに助けを求めている。

「まごが……孫が、いるんですぅ……。ら、来年、中学校を卒業するんです……。その晴れ舞台に、おばあちゃんも、来て、欲しいって……!」

「──影原さんッ!!財団の目的は、あくまで確保・収容・保護でしょう!?なんでっ、なんで今回は殺すんですか!みんな確保してっ、みんな治せないか研究するべきだったんじゃないんですかぁッ!!!」
「大きい声出さないでってば……。このタイプの実体はもうとっくに何体も収容してるよ。で、十分研究はされてるし、元の人間に戻せないことも分かってる。ここは住宅街も近いし、二次被害が出るのを防ぐためにもさ。殲滅が一番良いんだよ」
「そ、それならっ、それでもっ……!じゃあ、なんで僕にやらせるんですか……!もう、あなたがやれば良いじゃないですか……!

そうだ。なんで、僕は勤務初日でこんな思いをしなきゃならないんだ。参加したくもない任務に参加させられて。撃ちたくもない人を撃たされる。全部、アンタのせいじゃないか……!

影原 巽は、少し、苦しそうに呻き声を上げて。それでも、僕に銃を握らせる手の力は緩めずに言った。

「私はさ、『財団』がどんなことをする組織かキミに知って欲しいんだよ」

ざいだんが……?

だって、財団は、僕の父さんと母さんがその人生を捧げた組織で。全人類の為に活動を行う、崇高な組織で。まるで、漫画やアニメに出てくるような、正義の味方で……!

「その正義の為にさ、これぐらいできなきゃやっていけないんだよ」

正義。

教育プログラムの履修中、財団の功罪については何度も教えられた。世界の破滅を何百、何千回も防いできたことを教えられた。そのために、財団職員だけでなく、何千、何万もの一般人を贄に捧げてこなければならなかったことも教えられた。

「「我々は残酷ではないが冷酷だ」」

聞き飽きる程に聞いてきたはずの言葉なのに、僕はそこから目を背け続けてきた。両親が、自らの存在以上に。そして、自らの子供の存在以上に入れ込んでいた組織が、素晴らしくて理想的でない筈がないという、浅はかな考えで。

「──影原さん、僕は……」
「ん。いい感じに力抜けてきたね。私は手を放すから、好きなタイミングで撃って。──お婆さん!私たちは、あなたを助けに来た者です!あなたがそこでじっとしている限り、私たちはあなたに危害は与えません!どうか、落ち着いてください!」

もう大丈夫と判断したのか、影原さんが僕から離れる。そしてそのまま、凛とした良く通る声でお婆さんに呼びかける。これまでずっと怯え、震えていたていたお婆さんも、その声に反応してゆっくりと起き上がる。
──ああ、これで狙いはつけやすくなった。

ふぅ、と一息ついて。これまでのことを思い出す。
大丈夫だ。射撃なら、同期の中で僕が一番上手だったじゃないか。教官にもそう判断された。
あぁ、でもその教官に、「能力面では問題ないがメンタル面が不安」なんてことも言われたことがあるよな。正に、今がそうじゃないか。
……でも、もう大丈夫だ。僕はここで、この職場で。藍田さんと、双木さんと……影原さんと。みんなとやっていける。そう、信じてる。勤務初日にこんな経験をしてしまえば、後はもうどうにだってなるだろう。だから────!

用心金から指を放し、もう一度、対象を真っ直ぐ見据える。ほんの少しだけ手の角度を整え、これで準備は完了だ。

僕は、その引き金に指を────
 
 
 
 
 
────かける直前。眼前で、轟雷が弾けた。
 
 
「……へ?」

コンマ数秒の間が開いて、目の前に黒こげの肉塊が存在していることに気付く。それが、お婆さんの左腕から伸びていたものであると理解するのには、少し、時間がかかった。

横を見れば、プラズマ放射銃を構えた影原さんが立っていて。

「…………覚悟を決めるのがあと0.5秒、遅かったよ」

苦笑いでそんなことを言ってくるのだった。


あれから色々手続きをやったり、他の業務の手伝いをやったりして、結局、サイトに帰還できたのはその日の夕方になってしまった。
僕は影原さんに「諸々のお詫び」として奢って貰った自販機のコーラを片手に、サイトの屋上で沈む夕日を眺めていた。……影原さんと一緒に。

「や~!ホントお疲れ様。地獄の初任務、どうだった?」
「……皆さん、毎日こんなことしてるんですか?」
「毎日じゃあないけど、まあ、それなりに。どうどう?財団辞めたくなった???」

任務中の頼れる先輩はどこに行ったのやら。サイトに帰還してからの影原さんは、姦し財団アンチに戻っていた。

「まあ、ちょっとは嫌になりました。ですが、ちゃんとこの職場のことを知ることができたという点では……今日の経験は、得難いものであったと思います」
「ちぇー。逆に火ィ点けちゃったか。失敗失敗」
「……新人辞めさせる為だけにあんな死地に連れてくの、どうかと思います」
「いやいや死地って。……ま、実際最後に私が助けてなきゃ君は死んでた訳だし、死地っちゃ死地か。ゴメンゴメン!」

くそう。ホントに最後のアレだけは恥ずかしい。「お目付け役を担当してもらう」なんて言われておきながら、結局、今日はほとんど助けられてばかりだった。これじゃあ僕は負けっぱなしだ。そんなの──悔しいじゃないか。

「……あなたより高い立場になって、あなたにこの借りを返すまで。絶対、この仕事辞めませんから」
「いや今日だけでも何度か助けられてたから別に良いってー。……しかし、ホントにこの仕事、続けていく気なんだね」

影原さんの口調が、突然真面目なものになる。

「……なんで、そこまで僕に財団を辞めさせたがるんですか。」

彼女と出会ってから、ずっと抱えていた疑問。機会を逃し続け、結局、今日の終わりまで聞くことができなかった疑問。今が、それをぶつける時だと思った。

「む。……じゃあ、その質問の答え。率直に、君が財団に向いてないと思ったから」

財団に、向いていない。

確かに、今回のインシデントで見せてしまった僕の姿はそう言えるものだっただろう。しかし、彼女は僕とのファーストコンタクトから財団を辞めるように言い続けてきている。

「『人類が健全で正常な世界で生きていけるように、我々は暗闇の中に立ち、それと戦い、封じ込め、人々の目から遠ざけなければならない』……なんて大層なこと言ってるけどさ。結局のところ、この組織で一番上手くやっていけるのは真面目で正義感ある人間じゃなくって、イカレた人間なんだよ」
「影原さんのような?」
「そーそー……ってうっさい。……でね?今回、君がこのサイトに来るにあたって、その大まかな経歴は全職員が知ることができてた訳。ぎょっとしたよ。父も母も財団職員。生まれは財団の病院。育ちは財団の学校。こんな財団サラブレッド中学生とか、どんなイカレたヤツが来るんだろう!って」

なるほど、藍田さんが僕のことについてやけに詳しかったのもそのためか。財団に所属する人間にプライバシーなんてものは無いというのを、改めて思い知る。

「それで、君の顔を初めて見たらさ、ビックリしちゃった!だって、年相応、いやそれ以上に目がキラッキラした少年が来ちゃったんだから!」
「……そんな目してました?」
「してたしてた。……それに、その後のサイト案内中の君の様子とか見てるとさ、所作も言動もなんもかんも”普通”の中学生男子でさ。あの環境で、こんな子が育ったのは奇跡だと思ったよ。こんな子がここに居ちゃいけない。こんな、世界で一番クソな職場にいちゃいけない。そう、強く思ったんだ」

……なんだよ。この人、滅茶苦茶僕のことを見ててくれたんじゃないか。

「でも、君はここでどうしても働き続けたい……そうなんだね?」
「はい。父と母の遺志を継いで……僕は、ここで全人類のために戦い続けたいです」

それを聞いた影原さんは、頬を緩め、こちらに向き直った。

「じゃあ、お姉さんが一つ良いことを教えておいてあげよう!さっき、財団で上手くやっていけるのは真面目で正義感ある人間じゃなくって、イカレた人間だって言ったよね?」
「……はい。僕は、その話には肯定し難いですが」
「よろしい。実は、もう1タイプ、ここで上手くやっていける人種がいます。それは、「突き抜けるくらいに真面目で、正義感ある人間」。中途半端なのは最悪だけど……君は、こっちを目指すべきだと思うな」

突き抜けるくらいに真面目で、正義感ある人間。今は亡き、父の姿を思い浮かべる文言だ。

「……分かりました。絶対、そうなってみせます。だから、あなたも僕に、もっと色々なことを教えてくださ。もっと、僕と一緒に仕事をしてください」
「……仕事、嫌いなんだけどなぁ。ま!いたいけな少年の頼みとあれば仕方がない!これからしばらく、よろしく頼むよ!少年!」

この人がいれば。この人と一緒ならば。僕は、今後僕が一生を捧げる……かもしれない組織、財団での生きていき方を学ぶことができる。そんな確信があった。

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