Tale下書き トリガー

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 良いやり方だ、と目の前の光景を見て呟いた。
 寂れた木製の椅子に鎖で何十にも巻かれて縛り付けられている男は猿轡を咬み千切らんと言わんほどの勢いで顎に力を込めながらこちらを睨みつけている。OSS戦略諜報局の仕事がここまで手荒いと言うことに驚くが、どうしたところで確保さえ出来ればいい、というのが上の方針らしい。
 部屋の隅に立つ警備兵に猿轡を取らせるように指示し、パイプ椅子を対面に立たせて座る。目の前の丸刈りの男は自由になった口を存分に使い不満を吐き出した。
「米国の連中と話すのは久し振りだが、毎回ひどい仕打ちをしてくれるものだ。また『財団』とやらか」
「財団?まさか」
「では何だ、少なくとも私に興味を持つ人間などあの連中以外にいないと思っていたぞ」
 男は縛られた腕を引っ張り鈍い金属音を部屋の中に響かせた。
「米軍だ」
 そう伝えると男は黙り込む。打ちっぱなしのコンクリート壁に囲まれた部屋が沈黙に満たされる。
「貴方が蒐集院の幹部であったことを我々は把握している。取引に応じていただきたい」
「随分と急な話だな、礼儀も糞も無い。まずこの前に私に言わなければいけないことがあるだろう。例えば謝罪であったりだ、分かるか?」
 男は心底腹を立てたようだった。どのような経緯でここに連れてこられたのか、ただのネゴシエーターに過ぎない私に知る由はなかったが、快適ではなかったのだろう。交渉相手を不機嫌にさせるなど本来あってはならないことだが、彼らはそんなことも気にせず拉致してきたらしい。
「…申し訳なかった。実行部隊との調整がうまくいかなかった、私の意志では無い」
 男は溜息を付くと、話だけは聞こう、と言った。
 あとでOSSの人間に文句を言って来よう、と思いながら部屋の外で待機していた職員を呼び寄せる。部屋の中に入ってきた二人はそれぞれ映写機とスクリーンを持っていた。
 これは、と男が聞く。
「今回貴方に依頼したいのはある超常物体への対処です。もし応じて頂けるのであれば今後の生活の無事を米軍が保証します」
「とても信用できん」
「少なくとも『財団』からは保護します」
 男は少し考えたようだった。可能であれば財団と違い荒事を企てない団体として印象づけたかったが、仕方がない。上層部はこの男にどんな手を使ってでも情報を引き出せ、と言ってきそうなものだが。
 すると映写機の準備が整ったらしく、照明を消す許可を求められた。それに頷き真後ろを向くと回転音と共にモノクロの風景が映し出され始める。
「これは朝鮮半島の順川市付近で展開していた部隊に同行していた特派員が撮影していたものです。この部隊は先週、米軍が観測した中で3回目の超常物体との遭遇をしました」
 スクリーンには建物の隙間を縫って進む部隊の姿が映し出された。
 何度かの交戦を経た頃、突然画面が激しく揺れ全体が横倒しになった。どうやらカメラが落下したらしい。道の先を映したまま固定された映像は路肩から飛び出してきたある兵士が巨大な骸骨に捕食される様子をしばらく記録し、やがて止まった。
 空回りした映写機の音と共にしばらく男は顎を摩りながら「なるほど」という言葉を何度か呟いていたが、じきに話し始めた。
「はっきり言おう。お前達にこれを砕く力はない」
 小さな苛立ちが頭の中を走った。
「無駄だ。広島や長崎のそれを使ったところであれには傷一つ付かん。似たようなことは既に陸軍のバカ共がやったからな、兎に角これを潰す方法は一つしかない」
 一つ。それしかないと男は言った。それが本当に有効なら、骸骨の化け物を打ち倒す術として米軍は強力なカードを得ることが出来る。それはソ連だけに向けられたものではない、あの連中ですら見つけられなかった対抗策はただの対抗策以上の価値を持つ。
「それは…何だ?」
 恐る恐る聞くと男は不揃いな歯を見せつけた。
儀式だ。あれに対抗するべきモノを生み出す儀式がある。それを使役すれば破壊できぬ物など無い」

 提案は素晴らしいものだった。多少の人員こそ必要だが、それを行い生まれるそれは確実に骸骨を打ち倒すだろう、と思えた。
 不敵な笑いを浮かべながら自慢げに語る男は最後に、それを生むための呪文を伝えた。
「█████ ███████ █████」
 すべてを録音したことを確認した私はテープをすぐさま上層部に提出するように指示した。
 素直にこれほどの情報を話したのは驚きだったが、これがアメリカの力となることを考えれば有り難い。
 部屋から出るときに呟いた「アメリカに栄光を」という言葉を聞き取ったのか、座ったままの男はそれに言葉を返した。
「栄光を」

 男はネゴシエーターが出て行った後も奇妙な笑みを浮かべていた。
 小声で延々と呟く男の声を警備兵は聞き取れなかったようで、彼は男に近づいた。しかしそれを察したと見え、男は警備兵に話しかけた。
「おいおい君、そんな近づいてはいけないだろう。しっかりと壁に背を隠さなければ何処から襲われるか分からないだろう?」
 警備兵はその言葉に不気味さを覚え、後ずさりしながら拳銃をホルスターから宙に構えようとした。
 ただ彼が考えなかったのは、その身を任せた壁が吹き飛ばされる、ということだった。
 轟音とともに薄暗かった部屋に白煙と光が充満し、覆面姿の男たちが乱入してくる。
 気絶した警備兵を撃ち殺し、男の鎖を解き始めた覆面の男が大声で後ろに叫ぶ。
「協力者、KTE-3677-blue-auroraを保護!撤退準備!」
 星を加工したようなエンブレムが描かれたベストを揺らす彼らは男を知っているようだった。
 男は服をはたき、懐にあった煙草を取り出し火を付け、不並びな歯をまた見せつけた。
「やはり米軍は詰まらん。丁度あの儀式で自滅すれば調伏法を唯一知っている私とオカルト連合は今後の世界運営で有利になるはずだ…」
 サイレンがけたたましく鳴る施設を後にし、世界オカルト連合の装甲車に乗り込む男は崩れ落ちた壁の方に顔を向け、この日でもっとも大きく口角を広げた。


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