映像記録
日付: 20██/10/20
記録者: D-43653
対象: SCP-XXXX-JP-4
<抜粋開始>
[映像には徐々に色彩が変化していく、オーロラに似た空間が広がっている。財団との通信が途絶した後、D-43653の動揺した声や悪態を吐く様が記録されている]
D-43653: 博士、博士! くそっ、マジで聞こえちゃいないのか。 ……なぁ、聞こえてるなら教えてくれ。俺は此処から帰れるのか? ああもう、方向感覚もわからなくなりそうだ。いったい此処はどういう場所なんだ。[荒い息遣い]……もう何日も歩いた気がするのに、一向に眠くならねぇし腹もすかない。疲れはするみたいだがな。一体いつまで此処を── あ?
[所持していたGPS端末から微かにビーコン音が鳴る。足を止め、進行方向がやや左方向に逸れる。音は進行と共に大きくなっていく]
D-43653: なんだ、この音。ビーーッて長いこと鳴ってるな。今までこんな音がする事なんて無かったのに……ちょっと待て
[立ち止まり、腕が目の前を探る。それによって空間に、明らかな色彩のずれが発生していた]
D-43653: ここに何かあるぞ。
[色彩のずれに手を差し込み、開くような動作を行う。ビーコンの音が明瞭になり、不規則に欠損した人工的な建築物が現れる。出入り口は無く、廊下が剥き出しになっている]
D-43653: これは……何かの施設みたいだな。とにかく進んでみる……
[剥き出しの廊下を進む足音。しばらく廃墟のような映像が続き、突如としてビーコンの音が途絶える]
SCP-XXXX-JP-4: [電子音声]観測圏内に生体反応を確認。映像取得中
D-43653: [息を飲む]
[音声のした方向の一室へ画面が向けられる。天井の空いた研究室らしい部屋の中央に、太陽光パネルを備えた凡そ円柱型の、所々破損した機械がある]
D-43653: なんだこれ。見た感じ壊れてるっぽいな。よくわからない棒やレンズに……アンテナ? みたいなもんがいっぱい付いてるが
SCP-XXXX-JP-4: ……に。 人間さんだぁ!
D-43653: うわっ。
SCP-XXXX-JP-4: ああ、驚かせてすみません。しかし、貴方が此処へ来てくれて良かった……ファソスフォーの判断は間違いではなかったのですね。人間さん、プロジェクトマスターは何方にいらっしゃいますか?
D-43653: な、なんだお前……ファソスフォー? ええっと、あーー、目の前のこの、機械が喋ってるのか?
SCP-XXXX-JP-4: ああ、もしやこの様な衛星は初めて担当されますか? エフ・エー・エス・オー・エス、FASOS。私はFASOS-4です。財団所属のGPS衛星、FASOSシリーズの4号機ですよ、ご存知ですよね? 会話可能なAIを搭載した事により、人と話す様にメンテナンスが行え
D-43653: ちょっ! ちょっと待て待て待て
SCP-XXXX-JP-4: はい。なんでしょうか、新しいプロジェクトメンバーさん。
D-43653: お前……財団のこと知ってんの?
SCP-XXXX-JP-4: はい? ええと……貴方は財団の、外宇宙支部の人間さんではないのですか?
D-43653: そのナントカっていうのも聞き覚えないな。 通信が途切れてなきゃ博士に聞けたのかもしれないが……この世界に来てから、一度も繋がっちゃいない。
SCP-XXXX-JP-4: [数秒の沈黙]なるほど…… FASOS-4は財団製のGPSを所持していた貴方を、プロジェクトの皆さんと間違えて呼んでしまったのですね。恐らくそれが、其方の電波を妨害してしまったのかもしれません……大変ご迷惑をおかけしました。
D-43653: は? え、じゃあ俺をこっちに呼んだのって……お前なのか。
SCP-XXXX-JP-4: そうなりますね。申し訳ございません、人間さんが近くに来たのは久しぶりだったもので
[機械を叩く音と画面のブレ]
D-43653: 俺と財団との通信が途切れたのも、不気味な場所を何時間も1人ぶっ通しで歩く羽目になったのも、全部お前のせいじゃねぇか! 通信機もイカれた! GPSもさっきから反応してねぇ! こんな所に俺1人連れてきて、何か意味があったっていうのか!
SCP-XXXX-JP-4: おやめください! FASOS-4はワン及びツー、スリーと比較して損傷が酷いのです。破壊行為はやめてください。
D-43653: へえ、お前他に仲間がいるのか。本当に悪いと思ってるならさ、そいつらと手を組んで、俺を送り帰したり出来ないのかよ。
SCP-XXXX-JP-4: ……すみません。仲間たちはそれぞれ、別の空間に漂流しているらしいのです。
D-43653: らしいって、衛星なら互いの位置が分かったりするもんじゃねぇの? よく知らないけど。
SCP-XXXX-JP-4: 大まかな方向は分かりますが、特定にまでは至りません。正確な位置情報があるか、FASOS-4の機体が万全であれば、話は変わって来るのですが……FASOS-4の機体を修復する為には、プロジェクトに関わる人間さんが沢山必要です。
D-43653: ……そうかよ。お互い八方塞がりかぁ。[機械に寄りかかる。画面は床や壁を映している]残念だな、俺がお前の欲しかった人材じゃなくて。
SCP-XXXX-JP-4: いいえ。FASOS-4は貴方が来てくれて嬉しいです。
D-43653: あのなぁ、一方的に迷惑かけておいて、そんなこと言うか普通。
SCP-XXXX-JP-4: FASOSシリーズは本来、4機が連携して太陽系軌道上を周回する衛星航法システムです。1機では満足に動けません。貴方が財団製のGPSを所持していたことは幸運であり、私にとっての希望なのです。
D-43653: 俺にとっては今のところ、不幸と絶望しか起きてないんだが? まあお前さんだって、ここに1人……1台きり? でいるってのは寂しいだろうけどよ。
SCP-XXXX-JP-4: いいえ。宇宙の何処かには、FASOSワン・ツー・スリーの皆が居ます。それに、プロジェクトメンバーの皆さんもいらっしゃいますから、寂しくありません。
D-43653: [映像に乱れが生じる] え、お前さん以外に、誰かいるのか?
SCP-XXXX-JP-4: ……肯定および否定します。ある意味では、居ます。ですがある意味では、居ません。ここでは物理的存在というものは曖昧で、どうやら存在と非存在の状態が離散的では無いようですから、特定の人物を呼び寄せるには時間が
D-43653: 理屈はいい! 早くその人に会わせてくれ!
SCP-XXXX-JP-4: 了承します。ただ面会までどれ程の時間を要するか、計算することができません……FASOS-4の至らない点をお許しください。それでは、お呼びしますね。
[SCP-XXXX-JP-4は未知の甲高い電子音を発し始める。発信は23時間15分続く。発信から1時間程経つと、D-43653は施設内の探索を開始した。映像記録としての重要性が低いため省略。]
<抜粋終了>
SCP-XXXX-JP-4の供述内容を確認したところ、該当の衛星システムは実在しないシステムであることが確認されました。しかし、該当システム構築の計画は過去起案された事実があり、技術的困難により当時中止となった経緯が存在します。
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