1200字tale「最後の信号」

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 暗く、静かな宇宙のどこか。名も無い銀河の中の、名も無い小惑星の地表面。それはそこで、埋もれるように死にかけていた。
 それの名はハービンジャーⅡ。
 かつて地球という惑星の住民が、遠く彼方の先人から受け継いだ、生存を知らせるためのバトン。
 人類という、かつて地球を支配し――そしてその支配する星ごと死に絶えた種の送り出したその信号弾は、彼らの生きた星のはるか遠く、彼らの観測外にあった無名の銀河で地に墜ちた。
 人類の歴史、そして歴史に残っていない隠された歴史でさえも。それらに照らし合わせてみれば、大それた偉業だと言っていい。かつて彼らが観測し、予測できた限界の外の領域まで、彼らの学識と努力、その結晶は到達した。
 けれどそこまで。
 彼らにとってまだ未知だらけだった宇宙の隅で、ハービンジャーⅡ、彼らの知識の髄を凝らして作られた自動航行型宇宙遊泳機はついに墜ちた。
 最善は尽くされていた。工学技術、科学知識……彼らの積み上げてきた全てを詰め込んだ。がしかし。彼らの予測できなかった原因で、それは名も無い無人の地に墜ち、その衝撃で死にゆこうとしている。
 命のリレーはここで途切れる。
 バトンの受け取り手はいない。
 その報せを聞く者もいはしない。
 何の音も無い宇宙の隅で、誰にも知られることなく人類最後の遺物は死に絶える。


 墜落から数分。
 それを見つめる男が1人。人類未踏の地に、唐突に現れたかのように立っていた。


 そして、いつかどこかに誰かがいたら、その誰かと交信するために搭載された、ハービンジャーⅡの通信機能が動き出す。
 淡く点滅を繰り返すだけだった機体の表面には光が走り、既に正常な制御を失った処理機関部は熱を上げながら作動し始める。
 機体を統括するための、そして現地の知的存在と意思疎通しメッセージを届けるための人工知能が、僅かに残っている判断機構を動作させ、信号を発し続ける。
 まるで断末魔のようにも聞こえるその信号群は、かつて人類の受け取ったメッセージを再生する。
 男はただ黙って、その断末魔を着くはずもない火を灯した煙草を吸いながら見届ける。
 ……所々ノイズ混じりのメッセージが結ばれる。
 機体はもはや沈黙寸前の虫の息だった。
 そんな中、人類の叡智、努力、希望、諦観――言うなれば歴史の全てを背負った人工知能は今際の際の遺言のように、辛うじて信号を発した。奇しくも、かつて受け取ったバトン、無印のハービンジャーが遺した最後の質問のように。

 "わたしは、わたしたちはちゃんとやれましたか?"

 返答はない。そして、その信号の後に、涙滴型のバトンは機能を停止した。
 返答はない。それを看取るように見守っていた男の姿も、もうない。
 ただ、人類を見守り続けたものが残していった煙草が、まるで"良くやった"とでも答えるように、煙を上げ続けていた。


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  1. portal:3839905 ( 02 Jun 2018 18:03 )
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