業務記録: SCP-1415-JP

「十為さん──芸術は悪だと思いますか?
「は?」
 都内の、ある画廊にて。作業の手を止めた白衣の男と、少し離れて壁に寄りかかっていた簡易なスーツ姿の男が、静寂を破って声を上げた。
 SCP-1415-JP──見た者に幻覚を齎し死に至らしめる絵画のオブジェクト──が発見された現場に見分に向かった研究員──真北研究員が、第一目撃者として同行した、初期収容と周辺でのパニックを鎮める役目を果たしたエージェント──エージェント・十為に、世間話を持ち掛けるように問いかけたのである。
「すみません、オレ学がないんで言ってる意味が、ちょっと」
「ああ、いや、ごめん、僕の悪い癖です。つまりさ……人を傷つける表現と人の心を動かす芸術のどこに違いがあるんだろうと思って、どう思います?」
 応対とか仕事ぶりとかはまともなそれだったのに急に何をと当惑する十為に、悪癖を詫びながら、それとなく問い直した。
「それ、貴方のほうが専門なんじゃないです? 芸術に詳しい心理学の人って聞いてますけど」
「いやまぁ、確かにそうなんだけどね……専門だけでやってると、視野が凝り固まるからさ。生の感覚を大事にしたいかなって。ま、アンケートみたいなもんです」
 ふーん、研究者ってのはそんなもんなのか──と呑み込んで、返答を考える。
「……人を傷つける表現、でしたっけ。感動とはやっぱり、違うんじゃないんすかね」
「なるほどねぇ……」
 少し考えるそぶりをして、続ける。
「例えばヘイトスピーチが暴力的であることは、まぁ一般的に真とされてますけど……翻って人を感動させるって、実はかなり暴力的な営為じゃないかと思うんですよ。……その二つが『違う』として、何を以てそれを振り分けるんでしょうね?」
「……善と悪、じゃあないですかね。知りませんけど」
 感動を暴力と言う人、初めて見たなと思いながら十為は所感を口にする。
 善と悪と聞いて、彼岸だとかを思い浮かべるが、文脈に不適だろうと振り払い、別の言葉を続ける。
「じゃあ十為さん、例えばですけど。失恋を悪と定義しますか?」
「失恋……は」
 胸のどこかにつっかえるものを感じながら、十為は漏らす。
「ごめんなさい、言い方がわかりにくいっすね……結果が失恋であるならば、恋なんかするべきじゃないと思いますか?」
「……案外ロマンチストなんですね、真北さん」
「そう見えますか? 『夢遊病者』と呼ばれたことはあるけど……」
「わかりませんけど、恋愛ってのは互いの合意の上で成り立つ関係だろうし、悪とかどうとかは適用されないんじゃないすかね」
 ああそっか、というような顔をして、手に持ったペンを白衣のポケットにしまい、笑って、言う。
「はは、それもそうですね……ま、落としどころとしては『それが望まれているか』じゃないかと、ちょっと思いましたよ」
 見分は終わりました──僕は帰りますんで、よろしくお願いします。と言い切って、いくつかの機材と荷物と白衣をまとめ、研究員は出口に向かった。
「望まれない……望まれない命ね……」
 閉められたドアの向こうにかつて袂を分かった友を見る。正しい社会に適さなかった、異常な女──一里珱。いくつかの高校時代を共にした記憶と、別れ際、半殺しにされた時のことを一瞬回想して、呟いた。
「珱、お前はやっぱりオレが殺すよ」

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