鎹博士に関する白紙の文書

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緒言
近年,なんらかの異常により対象の人物(以下『消失者』と呼称)のみならず,対象者に関係する大部分のデータと記憶が消失する事案が多数発生している.消失したデータや記憶は復元が困難であり,有用な復元方法の確立が求められる.
そこで本研究は,対象者の関係者に残された記憶を直接インタビューして調査した結果を元に,人物像を復旧する手法を提案する.ここに方法の有用性を確認する実験を行い,結果を確認したのでここに記す.

実験条件
消失者: 鎹博士
関係者: D-5364,D-5369,D-5798,バラード研究員

1. 関係者に記憶の有無を問う.
2. 関係者に鎹博士への印象を問う.
3. 得られた結果を元に人物像を導く.

インタビュー記録
各関係者へのインタビュー記録を以下に示します.一部,不明瞭な言葉は修正して記載しています.


インタビュー記録-1
名前: D-5364
備考: 鎹博士の研究で長期間用いられたDクラス.強盗殺人で服役.

『あなたは鎹博士を覚えていますか.』

はい.

『鎹博士はあなたにとってどのような人物でしたか.』

母親のような人だったと思います.ご存じだと思いますが,俺には父親しかいませんので,母という存在を全く知りませんから,あくまで勝手な妄想です.ただ,人間扱いされた事がほとんど無く,優しくしてくれた異性は彼女だけだったからだと思います.俺の身体を気遣うような声掛けをしてくれて,実験の危険についてもしっかり教えてくれたことはここに来て初めての出来事でした.

『とても優しく,気遣いができ,あなたを受け入れてくれたような人物だったということですか.』

はい.母親とはそのような人なのかと俺は思いました.

『インタビューは以上です.ありがとうございました.』

ありがとうございました.


インタビュー記録-2
名前: D-5369
備考: 鎹博士の研究で長期間用いられたDクラス.自殺未遂の後,フィールドエージェントによって雇用.

『あなたは鎹博士を覚えていますか.』

もちろんです.

『鎹博士はあなたにとってどのような人物でしたか.』

恩人です.自殺するほど病んでいた私の心を助けてくれました.初めて会った時,彼女は私の暗い顔を見て全てを察したかのように,「あなたを苦しめる人はここにはいない,私はあなたを友達だと思っている」と言ってくれました.とても親身にしてくれて,初めて家族以外にまともな人間関係を築くことができました.危険な実験もありましたが,命を捨てようとした私が彼女に会えたのですから,文句はありません.

『鎹博士はあなたの苦しみを理解し,適切なケアを行うような,慈愛に満ち溢れた人物ということですか.』

はい.しかし,カウンセラーではなくあくまで博士だったので,多少口下手なところがありました.それでも私は彼女を恩人だと思っています.

『インタビューは以上です.ありがとうございました.』

ありがとうございました.もしよければ,再び私を鎹博士の下へ送ってほしいです.


インタビュー記録-3
名前: D-5798
備考: 鎹博士の研究で長期間用いられたDクラス.放火,暴行,殺人,死体遺棄,重過失致死で無期懲役.

『あなたは鎹博士を覚えていますか.』

覚えています.

『鎹博士はあなたにとってどのような人物でしたか.』

よく分からない怖い人でした.とても賢い人だったのですが,それゆえに何を考えているのか分かりませんでした.表情を変えている所を見たところがありません.僕のような罪人にだけその態度なら,軽蔑しているとしてまだ理解できるのですが,自殺未遂のみだった僕と同じDクラスの女性や,博士の部下のような人にも同じ態度だったんです.とことん無機質な人でした.

『何を考えているか分からない,不気味な人だったということですか.』

そこまでは言ってません.あくまで,僕の主観で,考えている事が分かりにくいというだけです.ただ,いつか僕に恐ろしいことをするんじゃないかという不安があったことは覚えてます.

『インタビューは以上です.ありがとうございました.』

お疲れ様でした.


インタビュー記録-4
名前: バラード研究員
備考: 鎹博士の助手を長期間務めた比較的新人の財団職員.妻子持ち.

『あなたは鎹博士を覚えていますか?』

いいえ.

『鎹博士はあなたにとってどのような人物でしたか?』

生前の鎹博士は全く覚えていませんが,最近の鎹博士にまつわる現象については恐ろしく思っています.存在が消失したはずの財団職員が怪奇現象を起こすという,矛盾があるような無いような,あやふやさが怖いです.私達,財団職員は恐ろしい未知を解き明かす研究集団であり,いかなる未知や異常にもある程度の法則性が存在していることを前提としている節があります.だからこそ,鎹博士に関する異常がカオスのような法則性のない無秩序な現象であるということは恐怖の対象となります.

『鎹博士は怖いですか.』

怖いですが,だからこそ収容して管理するべきです.これは私の推察ですが,鎹博士はそもそも存在していなかったと思います.具体的には,複数の異常がたまたま組み合わさって,ひとつの“鎹博士”という現象に錯覚している状態です.どこから鎹博士という単語が来たかは分かりませんが,現状,これが最も現実的な理屈だと思います.

『インタビューは以上です.ありがとうございました.』

参考になれば幸いです.


考察
鎹博士に対して肯定的な印象であるD-5364とD-5369の証言は概ね一致していた.一方,D-5798の妄想をもとにした否定的な証言は正しいと判断できない.バラード研究員の鎹博士に関する記憶は存在せず,正確性が欠ける.これより,D-5364とD-5369の証言を採用し人物像の再現を行うことが妥当であると考えられる.しかし,不可能である.
鎹博士はD-5364やD-5369ともに証言のようなコミュニケーションを行ったことがない.かといって,D-5798の証言のような無機質な人間ではない.さらにバラード研究員の意見である怪異の集合体でもない.いずれの関係者も,正確な意見を証言しなかった.
D-5798は自らの罪の重さから恐ろしい処刑人,バラード研究員は新人職員に頻発する画期的な空想を,彼らの脳内から中身が欠落した『鎹博士』という空の領域内に生成した.D-5364やD-5369は他人からの愛情や認証を求め,『鎹博士』を自らを無条件で受け入れる理想の人物とした.それは鎹博士ではなく,彼らの望みや妄想の擬人化である.
結果として,消失者を関係者の証言に基づき復元するという手法は不可能である.いかなる証言も関係者の欲望からなるイマジナリーフレンドを表すだけであり,消失者を再現する手がかりにはならない.鎹博士は世界においてわずかな痕跡を残すのみで,再構築は完全に不可能である.また,痕跡も現在消えつつあり,間もなく完全に消滅する.失われた人間は二度と戻らず,消化されゆく食物のように溶けてなくなる.つまり,かつて財団職員であった鎹博士は物質的にも記憶的にも記録的にも忘れられ,真に消滅する.
鎹博士がそれをここに記す.

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