又恐る瓊楼玉宇の(文豪(北宋)に魔剤を飲ませる)
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中秋の節句は古来より団円の日だ。

杭州の賑やかさとは違い、密州は貧しく寂れた街である。此処の知事を務めるのは自ら志願した事とはいえ、健啖家としての一面を併せ持つ彼が、時折豪勢な食事を欲するのは、果たして誰が責められるのだろうか。

この満月の夜では、特に。

彼は弟よりの便りを思い出す。「公務が身に在り、恐らくは相見えること得ず」と。

同じ京東路とはいえ、斉州は密州の西、五百里あまりの所にある。お互い仕途を歩む者同士、多忙なのは分かりきったことだ。この際、中秋に家族団欒などと贅沢な事は言える訳もあるまい。

無論、同じ事情を持つのは別に彼だけというわけではない。だからこそ、この満月の夜に宴を催す。家族と過ごすことのできない衙門の同僚とともに酌を交わし、月影を楽しむのも、また一興ではある。

だが、新法の余波に煽られ、民草が生活を聊しむこと能わず、官吏としての彼とて生活は質素そのものにならざるを得ない。況してや密州ほど貧乏な街ともなると、宴を設けるのも一苦労だ。案酒アテは普段で食べているものでいくらでも賄えるが、当の酒が足りないともなれば、流石の仇池翁も途方に暮れるしかない。

そう、酒が足りぬのだ。太陽は已に西へ斜み、市場の数少ない酒肆も尽く打烊している。主催者として、折角の十五夜の宴を台無しにはしたくないが、さてどうしたものか……と、そんなことを思案しながら、眉間に皺を寄せて衙門の庭を行ったり来たりしていると、酒を沽いに行かせていた使いの者が、ちょうど玄関から入ってきたところだ。

「太守様、町内を隈なく探したのですが、残念ながら酒を売っているところはどこも……」

「……そうか。ご苦労だった。ひとまず、宴は予定通り催すとしよう。」

宴も酣のところに客を失望させることになるが、無いよりはマシなのかもしれない。彼はそう判断し、踵を返そうとしたところ、使いの者のまた何か言いたそうな表情が目に入った。

「どうした、何か言いにくいことでもあったのか?」

「申し訳ございません、太守様。実は、酒を持っているという方が外でお待ちです。」

「はて、そういうことなら、なぜ売ってもらわないのだ?」

「その方の話によると、太守様がお目にかかりたい、とのことです。」


杭州に居た頃、大秦の行商には何人か見かけたことがある。鼻が高く彫りの深い顔立ちは、中原の漢人とはまた違う風貌だ。彼らの経営する露店を通り過ぎると、元気よく異国の言語で呼びかけられ、目は並べられる商品の珍奇さに奪われる。帝国最東端の地で、まさかまた大秦の民と巡り合うなんて、彼は思わず感心したのであった。

しかし、中原の漢人とは違う風貌の持ち主とはいえ、これだけ奇抜な格好をしていると、彼が身構えるのも無理もない。――来たる不速之客は、何本もの羽根に装点われた鍔広の帽子をかぶり、弛い長袍を羽織る大秦の民だ。脚にはこれまた羽毛に飾られた履を履き、手には双蛇の杖を握る派手な出で立ちは、とても等閑の酒売りには見えない。

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