フクオカへようこそ(仮題)
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福岡県警本部暴力団対策部超常組織犯罪対策課

大層な肩書に反して、この課に割かれている人員は非常に少ない。この福岡の地においては、異常存在を扱う暴力団よりも非異常の暴力団が多く、凶悪な犯罪も非異常の手段によって引き起こされることの方が多いからだ。異常な怪物よりもただの人間のほうが怖い、などというのはホラー映画の定番だが、実際コントロールの難しいアノマリーよりも知恵の回る人間のほうが厄介で、犯罪に向いていたりもするのである。そういった理由で人手の少ない超組対であるが、実は福岡県警には異常事例を扱う部署はここと、北九州市警察部にさらに小規模なものが一つあるだけである。そんなわけで管轄外の異常事件を捜査の対象とすることも多いが、幸か不幸か大概の場合において財団や連合が事案発生のそばから捜査権をかっさらっていくため、課の人間は無気力になりながらも過労死などという事態は免れている。

福岡県警本部の2階、通路の奥の奥にあるこじんまりとした部屋で吉塚浩嗣よしづかひろみちは溜息を吐いた。その原因は手元にある一枚の写真。そこには一人の男の無残な死体が写されている。撮影されたのは昨晩、博多区中洲の裏路地。顔、首、胸、腹、股。人間の急所5か所に刻まれた鋭い横方向の傷に見覚えがあった。超常犯罪に対応する警察関係者に対して定期的に行われる研修会、その中で何度も説明された凶器の見えない殺人。警官も犠牲になったことのあるという、しかし立証できない凶悪犯罪。
さらに問題となるのはこの事件の被害者である。真横に走った傷があっても見間違えようはずのないその顔は、福岡最大の異常暴力団である堂仁会の幹部、田川。吉塚たち超常組織犯罪対策課の刑事たちにとって、仇敵とも呼べる人間であった。

平尾ひらお、どう思う」
吉塚は今この場にいるただ一人の部下に問いかける。
「この遺体の状態、検死の結果待ちですがおそらく"見えざる爪"事例と同一、あるいは類似の事件でしょう。トキソプラズマが出たら確定していいでしょうね」
「そうだな。ということは?」
「あの事例は犯人の立証には至っていませんが、被害者の傾向から、有村組によるものではないかと疑われています。有村組と堂仁会は、いままで抗争も同盟もしていないはずです。この事件も有村のよるものだとしたら、有村が堂仁会に喧嘩を売っているとみていいかと」
「有村じゃなかったとしたら?」
「有村以外の人間が新たに超常技術を手に入れてる可能性が高いですね。その場合は犯人は福岡の人間でしょうか」
「どっちにしろ面倒だな。第一発見者が交番に駆け込んでくれたおかげで今んところはウチの管轄だが、どうせそのうち財団も連合も手ェ出してくるだろう。東京ならともかく、ここじゃあ機構の決め事なんざただの文字列だからな」


福岡市。福岡藩黒田氏の武家町であった福岡と商人の町であった博多が統合した、福岡県の県庁所在地にして九州最大の都市。古くから海外との貿易や戦闘が多く行われたこの地に暮らす住民は、情に厚くて祭り好き、そして何より喧嘩っ早い。

グローバル化の進む現在、アジアとの交易の窓口としても大きな役割を果たしている。ここからアジアに進出する日本企業あり、ここから日本に進出する他国企業あり。インターネットでいつでも通信できる時代にあっても、物理的な距離の近さという利点は大きなものである。そしてその利益を受けようとするのは、当然真っ当な者だけではなく───


福岡市中央区天神。飲食店が立ち並ぶ華やかな街から少し外れた裏路地で二人の男が話している。大柄で筋肉質な強面の男と、すらっとした細身の男。両者ともに真っ黒なスーツを身にまとい、全身から発せられる剣呑な雰囲気を無視すればあたかもサラリーマンが商談でもしているようである。

「どうだ、あんたらにとっても悪い話じゃねえはずだ。俺らもあんたらも、ここで商売するにはあいつらが邪魔だからな」
強面の男が語り掛ける。ニヤニヤとした笑みを浮かべ、これからの交渉を楽しんでいるようでもある。
「ええ、確かに。この国に進出する第一歩としてまずはこの地を抑えよ、というのが上の指示ですが───、想定以上に彼らの張った根が深い。利害の一致するあなた方がご協力いただけるのなら心強いです」
そう答える細身の男。その顔には薄い笑みが張り付き、その本心は窺えない。
「そこでだ、俺らとしてはあんたらにあいつらを処理してもらいたい。まああんたらも俺らにやってほしいところなんだろうが、ここは譲れねえ。ただでさえザイダンとかいう妙なケーサツに目ぇつけられてんだ。あんまり派手なことはできねえからな」
「財団───、基金会ジージンフゥイですか。この国で活動するにも、避けては通れないでしょうね。確かに我々はまだこの国では警戒されていないはずです、多少のリスクは負うべきでしょう。わかりました、彼らの処分、我々が引き受けましょう」
「わかってくれてうれしいぜ。もちろんタダとは言わねえ、報酬は出すし、道具も用意する。詳しくは知らねえが、組長が言うにはマジでヤバいブツらしい。これだけであいつらを片付けられるとかなんとか。おっかねえハナシだが、ウチの組長が言うならたぶんそうなんだろうよ、あの人はそういう人だからな」
そう言ってアタッシュケースを掲げて笑う強面の男。
「説明書は中に入ってるらしい。よろしく頼むぜ」


博多の一角、高い塀に囲まれた堂々たる居ずまいの建物。それこそが古くから福岡に拠点を構える暴力団、堂仁会の事務所であった。その一室で一人の老人が静かに声を上げる。
「そいで、どこのどいつの仕業か、見当はついとうと?」
堂仁会組長、松本隼斗マツモト・ハヤト。かつて圧倒的な暴力によって組を治めた彼の体は長い年月によって枯れ木のように縮んでしまっていたが、その声には今なお重い威厳が備わっていた。彼の目は一枚の写真を見つめている。そこに映るのはかつて堂仁会の幹部を務めていた男、飯田の無残な死体。
「おそらくですが、有村組かと」
そばに控える男が答えた。
「有村組っちゅうと、東栄んとこのか。なしてね」
「奴らが福岡にも進出しようとしているという情報があります。それと飯田のあの死体、あれはたぶん"ウラモノ"使ってます。普通にやってできるもんじゃありません。有村が"ウラモノ"を使っているという噂もあります」
「ばってん、有村にはウチに喧嘩売る理由がなかろうもん。あそこはクスリ御法度やろ。ウチの売りとは競合せんばい」
「それはたしかにそうなんですが……」


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