現椎名の除名処分について

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石榴倶楽部 会報

現椎名の除名処分について

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厳しい寒さの続く中、皆様いかがお過ごしでしょうか。

皆様におかれましてはご存知の通り、前回の会合での決議において8:1の賛成多数のため、当倶楽部会員の"椎名"を除名処分とすることが決定いたしました。ここに正式に通知させていただきます。

彼女は明治の時代より当倶楽部に参加しており、ザクロの調達や倶楽部外の関係者との交流、交渉など、倶楽部の活動に尽力してくださっていました。しかし、もとより自身の快楽を優先して行動するきらいがあり、会合の料理に使用する予定であったザクロを一人ですべて食べてしまうなど、倶楽部を顧みない行いが頻発していました。

また、彼女はザクロの食べ方について独特の趣味を持っており、そのことによって倶楽部の方針と対立することが度々ありました。当初から当倶楽部は美食倶楽部としての矜持を持ち、美味しく調理して頂くことに誇りを感じています。しかしながら彼女は人ひとりをそのまま丸呑みといういささか上品さや敬意に欠ける趣味を持ち、他会員と口論になることもありました。

しかし、それでも私たちと彼女は半世紀以上、決して何の問題もなく良好であるなどといえる関係ではありませんでしたが、確かに同好の士としてやってきていたのです。そんな彼女を除名するという決断を下した理由について、少しだけ書かせていただこうと思います。

彼女が倶楽部に参加したのは明治の初めごろ、当時の橋詰に勧誘されてのことであったと記憶しています。京一番の花魁で、客の男をこそこそと貪っていたのを橋詰が知り、誘ったのだと。初めて会ったときにとてもきれいな人であると見惚れたのを覚えています。ここまで読んで不審に思った方もいらっしゃるでしょう。いえ、これまでの活動の中で気づいていた方もいらっしゃるかもしれません。そう、彼女は当時から容姿が一切変わっておりません。私が知る限りでも少なくとも六十年以上、あの美しさを保っています。

不思議に思い始めたのは出会って5年ほど経ったころからでしょうか。他の会員たちが少しずつ老いていく中で、彼女だけは変化が見られません。私も他の会員も何度かそのことについて訊ねたのですが、笑って誤魔化したり、はぐらかしたりするばかりで本当のことを教えてくれることはありませんでした。何らかの外法に手を出しているのだろうとのもっぱらの噂で、例の嗜好のこともあってだんだんと彼女は倶楽部の中で孤立するようになっていきました。しかし、私は彼女にどこか自分と似たところがあると感じていました。

そんなあるとき……先の大戦が終わってしばらくしたころです。私以外の彼女より古い会員は皆いなくなり、ずっと前から気になっていたことを彼女に訊ねました。「あなたはどうして人を喰うのか」と。皆様もそれぞれ違った答えを持っていらっしゃることと存じます。彼女は笑って答えました。そんなもの決まっているではないか、美味しいから、ザクロの味が好きだからだ、と。それは私が期待していた答えとは違うものでしたが、それでも一つの納得を得ることはできました。

しかし、昨年の秋口のことです。私は彼女が倶楽部の外で、個人的な趣味として人を喰らっているのを見てしまいました。路地裏に連れ込んだ男を、あり得ないほど大きく広がった口で丸かじりにしているところを。信じられないものを見た気分でした。夕闇の中でガツガツと人肉を貪り喰らうその様は人と呼ぶにはあまりに醜く、羅城門の鬼もかくやといった恐ろしさ。あれを見てしまった以上、私は彼女を倶楽部の会員として認めるわけにはいかないと強く感じたのです。

正直に言いますと、私は彼女が私と同じ目的をもって倶楽部にいるのではないかと期待していたのです。ザクロを食べることで、人の身を超えることを望んでいるのではないかと。彼女の不変の美貌も、その成果なのではないかと。しかし、あのときあの場所にいたのはただの鬼でした。人を超えるどころか、鬼へと堕していた彼女を、私は認めることができませんでした。

そんなわけで私は決議を採り、彼女を除名処分とすることにしたのです。個人的な感情の一切ない、ただ倶楽部のためを思っての行動だった、などとは言いません。きっと私は彼女を恐れてしまったのでしょう。それでも、私は自分の決断が間違っていたとは思いません。倶楽部のためにも必要なことでした。聞くところによるとあの後彼女は東北の方の鬼と会ったとか。もはや関係のない話ではありますが、鬼は鬼同士仲良くやっているのでしょう。

醜悪な鬼へと堕したとはいえ、半世紀以上も当倶楽部に華を添えてくださった彼女を除名処分とすることは本当に心の痛むことではあります。しかし、それでも私たちは彼女と決別しなければなりません。我々は食を楽しむ美食倶楽部であり、人を喰らうことに取りつかれた怪物の集まりとなってはならないのですから。

なお、彼女については「もはや人ではない」との判断、並びに彼女の希望により、恒例の脱退に伴う摂食式は行われません。
また、新たな宇宿及び椎名に関しては現在未定であるため、当倶楽部に相応しいと思われる方がお知り合いにいらっしゃる場合は、ぜひご紹介ください。


(記・浮田)



















会報を一通り読み終えた梅春は、手紙をくしゃくしゃに丸めて放り投げた。その顔には鮮やかな紅で彩られた口以外には何も存在せず、その口は不愉快そうに歪んでいる。
「どうやったんか知らんけど、わざわざこないなところまで届けてくらはるなんてお優しいこと。中身も、あれこれ言ってうちを悪者にしようとしとるだけやないの。あんたがうちを怖がるなんてあるわけないのに。自分もあんころからずっと枝みたいなおじいちゃんのくせして、被害者ぶって好き勝手言うてくれとるわ」
誰に聞かせるでもなく呟いて、顔を上げる。そこにはいつもと変わらず満開の梅の花。
「うちはずっと前から変わらんよ。鬼に堕したんやなくて、最初っから鬼やっただけ。倶楽部に入る前からね。勝手に勘違いして、かわいそうな浮田はん。あんたらもうちらとおんなじ鬼よ。たぶん、いつまでもそれは認めんのやろうけど」

永遠の梅林はなにも答えず、ただいつものように咲き誇る。ホーホケキョ。かすかに鶯の声が聞こえた。

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