うろーん

No.1

胡乱先輩は胡乱なので、宇宙の開闢だって難なくこなす。僕より先にそこに居た先輩の語る創世記は次の通り。


初めに、神はどう言う訳か先輩を創造した。

この頃宇宙は虚数時間の混沌であって、時間も無く空間も無く、ついでに可観測領域に神も無く、事実上先輩1人が神に代わって世界を回していた。(これは今もだけど。)

先輩は言われた。「後輩あれ。」こうして、後輩があった。

先輩は後輩、つまり僕を見て、良しとされた。先輩は僕の解釈を分け、近しい方を"女"とし、遠い方を"男"とされた。しばしの選択があって、僕は先輩からは遠い方になった。第一の日である。

先輩は言われた。「君の顔が、見たいかな。」こうして、光があった。

先輩は僕の顔を見て、良しとされた。生まれて初めて見たのは先輩の微笑んだ顔だったから、この解釈はたぶん正しい。僕が初めて少しドキリとしたこの日が、第二の日である。

先輩は言われた。「後はまあ、君の好きにしてくれて構わないよ。」そうして、先輩は休まれた。第三の日である。どっとはらい。


そんな創世記の後、僕と先輩はこうして何もない白い領域にただゆらゆらと浮かんでいる。何も定まらない宇宙は文字通り胡乱だ。

「ビックバンを中断しないでください。」

「急いては事を仕損じる、と言うじゃないか。」

「その慣用句、語源の中国はまだ無いですよ。というか宇宙が出来てません。」

「君と私、2人の関係性で、この宇宙は完成したと思わない?君となら、それでもいいな。」

臆面もなくそういって微笑む先輩の姿は眩しい。顔が赤くなったのが分かって、少し目をそらす。

「…せめて衣類は、追加で入れてほしいです。」

エデンの園で男と女は裸だった、とはよく言うけれど。ここでは先輩と僕と光しか存在しない。入り込む余地の無い絶対の園。閉じた先輩の世界に、僕は目がくらむ。生まれたばかりの光が描き出す先輩の肢体は白くきめ細かくて、艷やかな髪の毛が身体を僅かにだけ隠している。その見え隠れがとても官能的で、輝いていて、ただでさえ比重を占めた先輩の領域は、僕の中で急速に加速膨張しつつあった。

上下もない領域で浮遊しながら、先輩が僕に手を触れる。…柔らかい。

「ヒトが恥じらうのは知恵の実を食べたから。まだそんな物は作ってないから、君が気にする必要なんてないさ。」

そうして先輩は僕を抱き寄せる。先輩はこの宇宙の神なので、そう言われるとそれが正しくなる。肌に触れるぬくもりと、とくん、とくんと感じる鼓動は優しくて、愛おしい気持ちが僕の反抗心を溶かしていく。

先輩はどちらかと言えば唆す蛇の方だな。何となくそんなことを思いながら、先輩の胸に身体を預ける。僕らの存在が寄り添い合って離れ難くなる。こうして、万有引力があった。これはたぶん、第四の日になる。

「先輩…でも、僕、ここではないところにも行きたいんです。先輩と過ごせる、無数の時と場所、そんな世界には、ここは不完全なんです。」

とろけてしまった声で、最後に僅かな抵抗。抱きしめ返してくれた先輩の腕はそっと僕の身体を包み、そして引き上げてくれる。

「もちろん。私も私と、様々な君を見て過ごしたい。君が望むのなら、それも良いと思うよ。」

見つめ込む先輩の表情は僕と同じで、とても穏やかで満ち足りている。それでも先輩は先輩らしく、ふにゃりと笑って僕のおでこをつっついた。

「でも、今は君といたいかな。」

そうして先輩の細い指が、僕の脇腹をつうと撫でる。くすぐったさに僕が震えると、先輩は嬉しそうに指を進めた。

「歴史の授業だよ。宇宙の晴れ上がりは38万年後。それまで光はここから出られない。つまりここでは、君と何をしても後世には観測されない。それって、とても素敵なことだと思わない?」

胡乱先輩は胡乱なので、そんな壮大なロマンも良しとさせてくれる。「はい、先輩。」神たる先輩に身を委ね、僕らの38万年間の創世は始まった。

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