Tale下書き『夢見部門のオリエンテーション』

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もぞ、と身体を動かす。突っ伏していた机から顔を上げると、そこは壁紙にシミ一つない真新しい会議室だった。窓から差す暖かな陽光が目に眩しい。反対側に目をそらすと、ガラス戸の向こうで白衣を着た職員たちが忙しなく行き来するのが見えた。

「やあ、ちょうどお目覚めだね。おはよう新人君。」

ガラス戸が開き、ヒゲを蓄えた壮年の男性が入ってくる。上級職員らしい。

「ああ、謝らなくて大丈夫。そのまま座って。私たち財団夢見部門にとって、いつでもどこでも眠れるのは優秀な職員の証だからね。」

まあ、コーヒーとベーグルでもどうぞ。そう言って、彼は机の向かい側に座った。視線を手元に向けると、湯気を立てるコーヒーとベーグルが置かれている。芳醇でほろ苦い香りと、焼き立ての甘い香りが鼻孔をくすぐった。

「さて、軽いオリエンテーションだ。味わいながら聞いてくれて構わないよ。君が今日から働く"夢見部門"についてだが…。うん、知らなくとも問題ない。協力関係にある夢界学部門の職員ならともかく、他の部門ではあまり馴染み無い部門だろうからね。特に起きている時などは。」

ふいに部屋が暗くなる。彼はいつの間にやら手にしていたリモコンをかざして、壁のホワイトボードに向けて突き出す。穏やかに眠る女性の写真が映し出された。

「本題に入る前に、前提の知識について話しておこうか。君は眠る時、夢をよく見るね? うん、それも配属理由の1つだからね。財団にとって、この夢と言うものは、それを見る個人の持ち物ではない。他の夢と繋がり、相互作用するものであることが分かっている。」

オネイロイ、Oneiroi という単語がスクリーン上に踊る。

「噛み砕いて説明すれば、知性体の見る夢というものは見えない所で繋がっていて、行き来したり、影響を与えたりできるもの、ということだ。で、当然そこには夢の中の怪物、固有の異常が存在する。そこで、財団にも夢の中へ活動範囲を広げる必要が生じた。」

ここまでが前置きだが、と言って彼は笑顔を向けた。反応を見たのか一拍置いて、二の次が継がれる。

「夢の中で活躍する財団職員を知っているかな。ファウンデーション・コレクティブの面々がそうだ。このロゴを覚えておいた方がいい。じき、彼らは君の仕事仲間になる。」

リモコンのボタンが押される。スクリーンに、1つのロゴマークが浮かんだ。

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そして、そのロゴの接する地面は、紫に色付けされている。

「彼らが存分に活躍するには、適切な舞台が要る。私たちが働く分野は、この色付けされた舞台部分だ。すなわち、夢見部門は財団職員が利用する夢界と夢路ネットワークの提供を行う。」

「ピンと来ないかな? 彼らは夢から夢へと飛び移り、戦い、夢の中で装備を整えることを職務としている。大規模な研究施設を持っていさえする。その土台となる夢の世界、夢界を構築・運用・保守するのが、私たちの仕事と言う訳だ。私たちの使命は、彼らが働きやすいような環境を整えた夢を見続けること。もし彼らをコンピュータ上のプログラムに例えたなら、私たちはプログラムの稼働するハードウェアを司る、夢界のインフラエンジニアだと捉えて貰えれば構わないよ。」

しばしの静寂が流れる。彼は苦笑いして、自分のコーヒーを啜った。

「まあ、そう言われても実感が湧かないだろう。実際の業務を例示しようか。例えば、私。」

彼は自身の胸をドンと叩く。若干の咳込み。

「失礼。…私のもっぱらの業務だが、私は オネイロルーター(Oneirorouter) を専門にしている。主な作業は、君のような新人含めた財団職員の夢の中の姿、シャドウを適切な近隣の夢界へと転送することだ。夢路ネット(Oneironet) 上の移動は、基本的に飛び石のように無数の夢界をジャンプすることになるからね。現実の光景に例えるのは難しいが、こう、えいやっと掴んでワープさせたりする。まあ実のところ転送よりも転送先の選定の方がメインの作業になるんだが。」

他にも、と彼はガラス戸の向こうの人々を指差す。

「あそこで歩き回っているのは、夢界を共同でホスティングする レイダー(RAIDer) と呼ばれる職種の人々だね。全員で同じ夢を見たり、1つの夢を分割して複数人で見たりしている。交代制で見ているから、いつもああ忙しないんだ。」

すい、とそのまま指はこちらに向けられる。

「で、君の業務だが。新人の君には、この部門で最も一般的な職種である 夢見士(Infradreamer) を務めてもらう。なに、業務としては単純だ。君は毎日ベッドに入り、そこでリラックスして寝て、夢を見てもらう。時には起床勤務ウェイクワーク形態の場合も無くはないが、まあそちらはその時に教えよう。うん、基本的にはそれだけさ。君の夢は夢路ネットを構築するインフラの一部として、夢の中の財団業務に活用される。業務に適した夢を見る訓練は研修で用意されているから、安心してくれて構わない。上質な睡眠を期待しているよ。」

そこで、会議室に陽光が戻ってきた。彼はコーヒーカップをぐいとあおり、まとめに入ろうとする。

「以上で、軽いオリエンテーションを終わろうと思う。詳細は研修で聞いてもらうとして、何か質問は…どうした、落ち着かない表情だね?」

明るすぎる日の光は瞳を焦がす。身に馴染んだ夜の眠りと特に対極的なこの部屋では、新しい業務に覚えた不安を意識してしまうのだ。

「なるほど、そんな上手く眠れるかって? まあ確かに、普通の人間であれば失敗することの方が多いだろうが、心配することはない。君の勤務は既に始まっていて、つまるところ、この会議室は既に夢の中なんだからね。」

「おっと、気づいていなかったか。夢見部門は、現実に個別の会議室を貰っていないものでね。ああ、後で会議室ごと夢見直すから、こぼしたコーヒーはそのままで良い。次の研修の時間だ。」

「いや、慌てて起きる必要はないよ。確かに君の業務は夢を見ることと言ったが、夢の中で夢が見られない道理はないだろう? 夢中夢を利用した 仮想夢界(VirtualDreams) の構築も、現実世界での夢見と同じくらい重要な業務の1つに数えられている。だから私たちは、ここ 底夢(BottomDream) に現実を模した上、現実の君の居室のより遥かに優れたベッドを用意しているんだ。今日から君の職場は、ここだ。」

その声が途切れないうちに、会議室は溶け始め、あたりは真っ白で柔らかい膜に包まれる。再構成が始まり、地面が波打つようにぐるりと廻る。胎内のような温かい空気に包まれて、2人は空中を飛翔し始める。新しい職場へ、コーヒーとベーグルと共に。

「そうそう。お察しの通り、そのコーヒーとベーグルは君の好みが夢界に投影されたものだよ。自在に夢見るこの職場なら、いつでも飲み放題食べ放題だ。どうだい、まるで夢のようだろう?」



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  1. portal:3671347 (31 May 2018 22:47)
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