蒼太郎自殺奇譚 - SCP-JPサンドボックスⅢ

蒼太郎自殺奇譚

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昔、「蒼太郎」という青年がいた。
蒼太郎には両親がいなかった。彼が7歳の時、近くの池で抱き合いながら溺死していた。所謂心中である。
彼だけが孤独になり、その後親無しとして親戚の家を転々としていた。
しかし、彼の村は自殺を悪と考えていた。自殺者を軟弱者扱いし、そして生き残ってしまった蒼太郎も悪の子孫として、隣人や友人、そして親戚にさえ疎まれる存在になっていた。
しかし、蒼太郎はそうは思わなかった。両親が戻らなかったあの夜、家を出る最後の最後まで、「ごめんね」と言いながら泣いていた両親が悪とは思えなかったのだ。
そして彼が18の時、家の倉庫で父の日記を見つけた。その日記には、両親は多くの借金を抱えており、家財全てを売り払ったが、日に日に借金は増加する一方で、遂に利子すら払えなくなった時、借金取りが蒼太郎を売るか自分達が自殺すれば借金をチャラにしてやると言ったらしい。
借金取りは冗談半分で言ったらしいが、本当に両親は自殺した。
この日から、蒼太郎は自殺するにはそれ相応の理由がある事を悟った。ならばそれを取り除けば人は自殺なんかしないだろう。
そう思った蒼太郎は自殺する人間はもうそれしか方法がない。自殺は悪ではなく、そうさせた環境が悪なのだ。と自分の考えを村の人々に説いて回った。
もちろん、反応は良くなかった。
蒼太郎の考えは長年村の人間に植え付けられた思考と全く違うものであったからだ。
村の人間は更に蒼太郎を非難した。親戚に包丁を投げられる事もあったと言う。
しかしそれでも、蒼太郎は説いた。
そうして蒼太郎が20になった時、事件が起きた。
村でまた自殺が起きたのだ。
両親の時のように、自殺者を非難し始めた村の人間を見て、蒼太郎は初めて憎悪の感情を抱いた。そしてこうも思った。「こいつらは救えない。」と。
その夜、家に誰かが訪ねてきた。
戸を開けると、当時では東京ですら滅多に見ない、泥まみれのスーツ姿の男がいた。顔は帽子に隠れて見えないが、ちらりと見えた目には生気が感じられなかった。
蒼太郎はひどく驚いたが、男は一言、お前を助けてやる。とだけ言い、痩せた腕で銀色の不思議な筒の様なものを渡した。そうしてお辞儀をした後、闇の中に、まるで元からそこに居なかったみたいに、消えていった。
最初、蒼太郎は呆然としていたが、手の中の筒の様なものを見た時、直感で理解した。
これを付ければ、全て解決する。
蒼太郎がそれを後頭部に付けた時、まるで、何かに包み込まれている様な、しかし安心する、不思議な感覚に襲われた。そして無意識にこう言った。
「全ての自殺に救済を。」
その後、蒼太郎の目は何も写さなくなり、見えなくなった。