未だ断たれぬ村
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目を覚ましたきっかけは、眩しさと、腰と背中の痛みだった。かなり悪い姿勢のまま座っていたらしい。立ち上がって軽く体を動かしている最中に、自分が置かれている状況が異様であることに気付いた。

私は今、燦々と輝く太陽に照らされながら、未舗装の道にポツンと建つ木造のバス停にいる。ただし時刻表もバス停の名前を示すものもなく、あるのは雨風を凌ぐための屋根とベンチだけだ。道はどちらを向いても、植物が繁茂した土地が見渡す限り続き、遠くからは鳥の鳴き声も聞こえる。まさに「夏の田舎」という景色だが、なぜか強烈な違和感があった。

スマートフォンは圏外。

記録と暇つぶしを兼ね、新調したばかりのカメラで写真を撮りながら迎えを待っていると、麦わら帽子を被ったそれらしき青年がこちらに向かって来た。青年はこちらに気が付くと、手にしていたメモらしきものに目を遣り、それと私の顔を交互に凝視しながらじりじりと近寄ってきた。顔が同じかを確認するだけならすぐに済みそうなものだが、よそ者をすぐに信用できないのは仕方のないことだと思い、受け入れて確認が終わるのを待った。

少しして間違いなく同じだと納得できたのか、青年は深く頭を下げた。

「取材の方……ですよね? コイガレザキの」

「恋昏崎新聞社の広末と申します。今日から3日間、この村でお世話になります」

「ああ、遠路はるばるようこそいらっしゃいました。案内役の津田です」

案内役の津田と名乗る彼は、挨拶を済ませると早速宿までの先導を始めた。情報がほとんどない土地での、二泊三日の取材旅行の始まりである。


さて、先ほど実感したばかりだが、道中の景色には異質さを感じるものがほとんどない。事前に聞いていた情報とは大違いだ。土地も山も何の変哲もないものに見える。

「あの、もしかして斧嶽ふがくってかなり遠いんですか?」

「いえ、あと5分ほど歩けば見えてくるかと」

津田さんはこちらを振り返ることなく歩き続けている。

「よその方に見られるのを嫌がる人も結構いまして、誰かが迷い込んで来たときのことを考えて遠くにバス停を置いてるんです。『観光地でもないし、文句は言われないだろう』って」

そういうことかと思う前に、手はペンを握って発言を書き留め始めていた。些細な情報でもインタビューの、ひいては記事のネタになる。

「そういえば、津田さんは斧嶽についてはどのような立場で?」

「特に何も。何かしら揉めてる人がほとんどですけど、私は普通に生活できればそれで……一応中立で、よその人と関わってもいいって思ってるんで、案内役を任されてます」

「外部との交流が難しい土地だと生活がかなり制限されると思いますが、普段はどのような生活を?」

「基本的にはただの田舎なんで、日夜農業ですね。買い物も備蓄もほとんどできないし、物売ってくれる人が来てくれた日にはみんな大騒ぎですよ」

返事はどれも少し暗い内容を含んでいるものの、明るい声で返ってくる。

瞬間、冷たい風が吹きつけてきた。日を浴びた表皮の体温はそのままに、身体の芯が冷える感覚がした。

「そろそろ見えてきますよ」

その声に反応して顔を上げると、遠くの山から伸びる巨大な棒が見えた。一歩進むたびに見える箇所は徐々に増え、いつの間にかその全形も色もはっきりと認識できるようになっていく。あの棒は長大な石の柄だ。そして緑で覆われた山々には、柄以上に長大な、暗い青色の刃が食い込んでいた。

この村はあの一振りの斧──そうとしか言えない謎多き物体に断たれ、生まれたとされている。


宮崎県北部、東臼杵郡と呼ばれる地域からアクセスできる土地の一つに「斧嶽村」と呼ばれる場所がある。便宜上「村」と呼ばれているが、役場の役割を果たす建物はなく、恋昏崎と同様に日本政府の統治は及んでいない。交通の便が悪いことから「陸の孤島」とまで呼ばれる宮崎の中でも、東臼杵郡は特に過疎化が進んでいることと、この村が人の出入りを制限していることから、村についての情報はかなり少ない。だからこそこうして取材に来たのだ。

地名の由来にもなっている斧については、どうやら村人たちもよく知らないらしい。津田君は「いつの間にかそこにあって、いつの間にか生活の基盤になっていた」という。そのスケールから、見るだけなら簡単だが、山を管理する神社のせいで近寄ることはできない。

「山の撮影はご遠慮願います。聖地ですので」

「我々を生かす品々は、あの斧に付けられた山々の傷口から、溢れ出てくるのです」

「中にはこれを『どこかから流れ着いている』と捉える者もいます。ここと同じように断たれた場所があり、品々はその名残であると」

黒洞々たる闇の後のアレで一気に周囲の信頼を失い飛ばされてきた?

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