帝国の建国神話
今は昔…とはいっても、僅かに[年数]年ほど前のことです。
太古の人々は機工技術に優れ、たいへん栄えていました。
あるとき一人の男がふと、このようなことを言い出しました。
「高い塔を作ろう。その塔を登り、天に住む人に会いに行こうではないか。」
皆がこれに賛同し、建設が始まりました。
作られた塔は虚空を貫き、ついには天に住む人々の里へと届きます。
天上の人々は、私たちとよく似た姿をしていました。けれども天下の民とは全く別の人でした。
彼らは不思議な力を持っていたのです。
思うがままに物理法則を操り、森羅万象へ介入し、時に何かを創造することができました。
彼らは魔法を操ることが出来たのです。
彼の人々は魔法により栄華を極め、全てを手に入れた民族だったといいます。それゆえに、欲も、諍いも、嫉妬も知りませんでした。ほとんど無限の時間を生き、1日を不自由なく友や恋人と穏やかに、ぼんやりと過ごすだけでした。
彼の文明は「停滞」そのものでした。完成された物語にその先がないように、彼らの文明は停まっていたのです。そんな中で、天の下の人たちが訪ねてきたのは彼らにとって大いなる刺激でした。それこそ何十年も続編の出なかった傑作の第二巻だったのです。
天に住む人々は全てを持ってはいましたが、けして傲慢ではありませんでした。天の上の人々と、天の下の人々はすぐに打ち解け、天蓋を挟んだ上下という概念は曖昧になっていきました。天の上の人々は天の下の人々の躍進的な文明に刺激を受け、天の下の人々は天の上の人々の操る魔法に刺激を受けたのです。両文明はお互いを尊重し、共に成長し、遂に融和し始めました。
けれど、傑作の二巻とは大抵が駄作で終わるものです。
天の上の人々は"自分の意思"を魔法に溶かすことでこの秘儀を行使します。しかし何千年という年月を停滞に過ごしてきた彼らにとって、天の下の人々の話す言葉や起こす行動はあまりに刺激的すぎました。この歪みが魔法の暴走として現実のものとなったのです。
ある時、天の下の人が放った冗談が、天の上の人の笑いのツボに刺さりました。天の上の人は半日笑い続け、笑いやむまで冗談を基にした魔法が暴走し続けることとなりました。
ある時、天の下の人が話した英雄の逸話が、天の上の人の心を熱くしました。天の上の人はその英雄に強く影響され、遂に魔法が暴走し、在りし日の英雄の実体が半年以上世界に居続けることとなりました。
彼らの感情は、彼らの感情があるがままに魔法となり、実体を得ます。けれども感情は永遠のものではなく、ほとんどの魔法は"飽き"によって終わりを迎えます。ただ一つの感情を除いては。
恐怖は人々の周囲を付きまとい、そして離れることがありません。ある時、天の下の人が話した神話が、天の上の人を恐怖に叩き落しました。巨大な悪竜が人々を食らい、世界を闇で包む。それは、科学を得た天の下の人々にとって克服した恐怖の神話、有体に言えば恐怖の作り話に過ぎません。しかし天の上の人々はこれを作り話としては処理することができませんでした。
巨大な悪竜が天の上の里に降り立ちます。そしてその悪竜は時間が経っても消えることなく、天の上から災いを降らせました。天の下の人々は武器を取り、戦いを挑みました。天の下の人々は、天の上の人々へ協力を打診しました。けれども、天の上の人々はもはや何のたすけにもなりませんでした。
恐怖は恐怖を呼び、恐怖と交じり、恐怖と繋がります。恐怖は新たなる恐怖となってり、天の上の人々を包み始めました。眼が合わぬ限り兵士たちの首を次々捻る恐怖の魔像。如何なる攻撃も通用せず凶暴に兵士を食らう脅威の地竜。若き兵士に異次元より忍び寄り腐食させ溶かし異次元へと攫う醜悪な魔人。世界は恐怖の魔法で包まれることになったのです。
こうして世界は今日まで恐怖の魔法達に脅かされ続けています。天へ届く塔が魔法によって壊された今になっても、天の上の里では天の上の人々が部屋の隅で縮こまって、恐怖の魔法を生み出し続けているのです。
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任意A任意B任意C- portal:3438721 (23 Oct 2019 09:45)
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