Tale下書き 決して死なず (/thy-never-die ?)

現在このページの批評は中断しています。

rating: 0+x
blank.png

「ジェームズ……」

向こうから差し込んでくる白光に、目を細めた。
今亡き家族が己へ手を差し向けていた。父が。が。が。
呪縛から解き放たれかつての姿を取り戻したジャックジェームズ・ブライトは、その手をつかもうとした。



けれども、彼の右手は空をつかんだ。



「ジャック・ブライト博士、聞こえますか?。」

天国には似つかわしくない機械的な呼び声が、ブライトのまどろみを打ち砕いた。
天の光ではなく、眩い蛍光灯がブライトを照らしていた。
愛しく憎しい家族ではなく、薄白い機械人形たちがこちらを見つめていた。
彼の体は100年以上前に捨て去ったジャック・ブライトだけの肉体ではなく、毛むくじゃらの猿であった。
ブライトがいるのは天の園ではなく、現世の部屋だった。
世界は己に死ぬことを未だ許してはくれなかったらしい。くそったれ。

「お前は誰だ。ここは何処だ。」

ブライトは憎々しげに言い捨てた。その熱情に冷や水をぶちまけるような静かな音声が、進み出た一体の絡繰から返ってくる。

「私はRU-00519763、ここサイト12の管理者を担当しています。我々は財団より人類を復興せよとの指示を受けております。博士は以前からの重要な人物であり、ヒトゲノムを持たない体で活動できる特異性がおありですので、「蘇生」させていただきました。」

抑揚のない音波の塊が、白い人型から発せられる。

「人類は、財団は滅んだのか?」

「はい。1年前、我々が起動されて数日後にすべての人類が死亡しました。いまだ詳細不明なサイトもありますが、あなた以外に生存している人類はまず存在しないものと思われます。財団の業務は我々アンドロイドが代行しています。」

首飾りは人類が滅んでも、1人になっても、ブライトをこの世に縛り付けているらしかった。製作者はこんな状況になってまで生き永らえたかったのだろうか。ブライトには到底理解できそうになかった。しかし財団職員として、嘆いてばかりもいられない。

「あー、分かった。詳しい説明はあとで聞かせてくれ。で、俺は何をすればいい?」

「3年後——即ち2060年までを目途に、既存アノマリーを再収容し各サイトに必要な人員を配置するプロジェクトが実行されています。博士には経験豊富な職員として、それを手伝っていただきたいと思います。」

人類が消えても、財団職員としての仕事に大きな変化はなさそうだった。


サンフランシスコから始まったナノマシンによる「パンデミック」は、人類を瞬く間に塵へと変えた。
人だけを癒すはずであったナノマシンは、人だけを殺す疫病へと変貌した。
財団やGOCは総力を尽くして人類を守ろうとしたが、結局は完全な失敗に終わった。
ナノマシンはO5からDクラスまで分け隔てなく消し去った。O5評議会も108評議会も壊れたる神の教会もサーキックカルトも、サクソン人もドイツ人もアジア人も、老若男女皆等しく骨のひとかけらすら残さず消し去った。Homo sapiensは、ヒトゲノムを持つ生物は、その痕跡だけを残して須くいなくなった。

けれどもブライトは、SCP-963の牢獄に囚われた哀れな男は、人の体を失ってただ一人、この世に捨て置かれたのだった。


ナノマシンは想像以上にたくましく、厄介だった。彼らは日光を得て、蠢き続けていた。かつての財団が遺したプロジェクト・オートマトンはアンドロイドによるサイトと収容の確保という点では成功したが、その先にある人類の復活は容易く成し遂げられそうになかった。計画の遂行が難しくなったことから、財団は新たなプロジェクトの制定を余儀なくされた。ブライトはRU-00519763——計画変更の担当者の依頼を受け、東アジアにおける運営の協議のため復旧されたばかりの日本支部へと向かった。

アンダーシャトルはアンドロイドによって修復され、運用が再開されていた。けれども、かつての記憶よりもどこか冷たく、色褪せて見えた。ターミナル-8100もまた、ほかのターミナルと同じくずいぶん寂しく、寒々しく思えた。
静かに佇むブライトに、久しく聞くことのなかった肉声がかけられた。

「自分がブライトはんかいね。うわさは聞いとりまっせ。」

懐かしい言葉遣いだった。
ブライトがただの人間であったころの、ヴィクトリア時代の響きだった。
着物を来たアンドロイドの上で、蜥蜴が笑っていた。

「立ち話もなんやから、ミクロライン乗ってから話しましょ。あまりに変わりすぎてもうてなにか話さんとやってられへんわ。」

自分は人類最後の存在ではなかったのだと、1人ではなかったのだと、首飾りをつけた猿は安堵し、秘かに毛皮を濡らした。

  • machina
  • ブライト博士
  • エージェント・カナヘビ

ERROR

The Mishary's portal does not exist.


エラー: Misharyのportalページが存在しません。利用ガイドを参照し、portalページを作成してください。


利用ガイド

  1. portal:3438721 ( 23 Oct 2019 09:45 )
layoutsupporter.png
Unless otherwise stated, the content of this page is licensed under Creative Commons Attribution-ShareAlike 3.0 License