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Aoicha さんの作品でした!
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Aoicha 2MeterScale(2) roune10121(3) stengan774 pictogram_man meshiochislash northpole R_IIV
太陽が地平線に触れた。
暫く待つと、辺りはだんだん暗くなり、やがて完全な漆黒に覆われた。多くの者が恐れ、ねぐらに帰り、寝静まる夜。何よりも、狩りをするにはうってつけの時間帯だ。私はそんな夜が大好きだった。
目を閉じて感覚を研ぎ澄ませば、近くでどたどたと、焦ったように地面を踏み抜く音がした。
尻尾を天に向け、顎を地に付け、音の方へとにじり寄っていく。岩陰から頭を出すと、よろよろと歩く獲物の姿が見えた。怪我をしているのだろうか。
昔の私ならこんな傷物を狙うなんてしなかっただろう。プライドに反するとか、味が悪いとか、勝手な理由を並べ立てて。だが今となっては違う。かつての仲間は何処にもいない。1匹だけで健康体を狙うのは危険すぎる。どうせ胃の中に入ってしまえば同じ肉なのだから。
鼓動の音が近づいてくる。
草むらから躍り出る。決着は一瞬でついた。体を押さえつけ、喉笛を掻き切っただけで、弱々しいその鼓動は停止した。
柔らかな腹を引き裂き、顔を突っ込んで肉を頬張った。数日振りのまともな食事は胃袋を歓喜させるのに十分だった。
だが、何かが足りないような気がする。答えを求めて空を仰いでも、月がただ光っているのみだった。
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Kuronohanahana Aoicha(3) AmamotoIkuma 29mo souyamisaki014 Dr_Kudo kabesimi northpole
初めて人を殺した。
元トップエージェントであった叔父から譲り受けたこの拳銃を、私は迷いなく真っ直ぐ標的に向け、引き金を引いた。数発の乾いた音が辺りに響き、標的は呆気なく死んでしまった。拳銃を握る私の手は、一切の迷いも持ってはいなかった。
初めての任務にしては私は随分と落ち着いていた、と思う。事後処理の担当班へ連絡を入れ、私は帰路を歩み始めた。ホルスターに銃をしまい、建物の外へ出た。辺りはもうすっかり暗くなっている。涼しい夜風が私の肌を撫でては通り過ぎて行く。
大きな満月が、ゆったりと私を見下ろしていた。
なんだか私は無性に泣きたくなって、ただ満月を見上げていた。鼻の奥がツンとして、月の輪郭が段々と歪んでいくのを見ることしかできなかった。
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meshiochislash Aoicha(2) roune10121 2MeterScale(2) stengan774 Kuronohanahana Imerimo Mishary
人が夜を怖がらなくなったのはいつからだっただろうか。ここ数年抱えたままの疑問をぶら下げ、ネオン街の灯りの下を歩く。
いや、そもそも、何故人は夜に慣れてしまったのだろうか。暗闇に潜んでいるものへの恐怖は自然なことだ。見えないところには何が潜んでいるのかわかったもんじゃない。
眠らない街の路地裏、灯りのない方へ歩いていく。夜を無理やり照らすこの光こそ、人間がここまで世界に蔓延る原因。遥か昔に手に入れた炎から、根本は変わっていない。
……そう、つまり。人間は別に夜を克服したわけではないのだ。夜を無理やり昼に塗り潰しているだけ。光のない場所は、相変わらず人にとって恐怖の対象であり続けている。
暗闇、視界に人影を一人捉える。こんな夜道に灯りも持たず歩くのはさぞ怖かろうに。舌で八重歯を舐める。気取られぬよう、人影の後ろをとる。無防備な首筋に狙いを定め、哀れな獲物を抱きしめ牙を突き立てる。
夜はまだ死んでいない。
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Nununu(2) Dr_Kudo Aoicha H0H0 Konumatakaki notyetDr momiji_CoC 29mo souyamisaki014
「星を見るのは好きかい?」
夜空を見上げる二人の片方が問う。もう片方が答えないので、そのまま話し続ける。
「昔の人はあの並びに図形を重ねたそうだ。動物、人物、道具などさまざまで、それには神話が伴っていた」
「都会でこそ街の明りに押しつぶされていたが、郊外に行くと本来の夜空の姿が見えたらしい」
「まあ今はどこに行っても見えるものは変わらないがな」
口を止め、タバコに火をつける。
「やるなら早くしてもらいたいんたがな」
「まあそう言うな、最後なんだからゆっくりいこうじゃないか」
タバコを捨て、再び話し出す。
「あるとき、星が1つ見えなくなり、同時に別の星の輝きが増した」
「調査の結果、片方の位置が変わり、2つが重なって見えるようになったことが判明した」
「異変はそれで収まらず、次々に星が位置を変え、やがて一箇所に纏まった」
問題の輝きはこの日は姿を表さなかった。
「こうなりゃあ望遠鏡なんて誰もいらない、会社は倒産だ」
一歩進み出る。
「そろそろ気が済んだかい、社長」
「ああ、人思いにやってくれ」
片方がもう片方の背中を押す。落ちゆく彼の目に映るのは、何も移さない闇のみだった。
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2MeterScale(8) AmamotoIkuma(2) Konumatakaki highbriku northpole
宇宙の初期値は夜であった。確かにインフレーションからしばらくは光と熱が満ち溢れていただろう。しかし、そのあとに続いたのは長い長い晴れ間の夜だ。ガスが集まり、星ができた。しかし、宇宙は依然として夜だ。星が爆発し、興味深いエレメントが放出された。しかし、宇宙は依然として夜だ。いつしか、星の周りにガスと塵が渦を巻くようになった。しかし、宇宙は依然として夜だ。いつしか、塵が集まり、惑星ができた。しかし、宇宙は依然として夜だ。惑星には水がたまり、自己を再生産する化学物質が生まれた。しかし、宇宙は依然として夜だ。知性を名乗るタンパク質の集合体が生まれた。しかし、宇宙は依然として夜だ。宇宙は片言で夜を語る。私はいきり立つように昇る朝日を見る。しかし、私を取り巻くのは夜ばかりだ。突き抜けるような青い空の向こう側には、空っぽの暗闇が見えているのだ。宇宙は依然として夜だ。私は幾億の針で穴をあけたかのような星空を見る。夜だ。夜は断固にそこにある。夜はやってくるものではない。我々は、明けない夜の真っただ中にいるのだ。
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Dr_Kudo meshiochislash kabesimi 0v0_0v0 stengan774(3) pictogram_man Konumatakaki
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AmamotoIkuma(3) momiji_CoC stengan774 H0H0(2) Aoicha Dr_Kudo kabesimi
夜の海はあの世への入り口だ。そう、親父は言っていた。なら、今こうして1人、夜の海を漂う俺を乗せた小船は何処へ向かうのだろう。この光のない世界から、俺をどこへ連れて行くのだろう。
月明りは仄かに海面を照らし、闇夜の中に海を現出させていた。
どれほど時間が経ったか、俺はいつしか時を数えるのを止めていた。意味なんてないんだ。北極星すら分からない俺には。しかし、今日の海は一段と光っていた。きっと満月なんだ。ほら、空を見れば、はるか上に真ん丸の月が見えるはず。
海面を見た。月明りはない。今までで一番暗い海だ。ただ一つの、海底から重力に逆らうように昇ってきた、巨大な光源を除けば。
海面が一瞬、小山となった。小船が大きく揺れて光に包まれた。海が割れ、それが現れた。白鯨? 違う、それは軍艦だ。小さい頃、親父が見せてくれた、それとそっくりの
……
俺は家にいる。あの後、親切な船乗りが呆けた俺を見つけて、小船から拾ってくれた。あの船を見た直後の記憶は不思議と朧気で、まるで海面に映る月明りみたいだ。
俺はベッドに横たわり、親父の言葉を思い出す。俺は親父に反駁する。夜の海はあの世からの出口なんだ。
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Nununu Konumatakaki souyamisaki014 stengan774 Aoicha(2) R_IIV 29mo Imerimo(2)
その夜、仮初の上司に言われて別部署の男とカラオケで会った。
「おたく、なかなかお仕事できるそうじゃないすか」
「いやあ、ただ突き進んで来ただけで、それほどでもないですよ」
「いやいや、そろそろ昇進も近いそうじゃあないですか」
僕はもっと上に行かなければならない。上の役職でないと欲しいデータは見られない。
「そうだ、お近づきの印にいかがっすか?」
取り出したのはラベルの無い酒瓶。
「でもここ、大丈夫ですか?」
「持ち込みなら大丈夫す。実家の酒を会った方と毎度飲んでるんす。酒蔵で。ここはアルコールも持ち込めるんでよく使うんすよ」
コップに注がれた酒を一口飲む。
「うまいですね」
「でしょう?親父の自慢なんす」
そういえば、と男は言う。
「おたく、裸眼です?コンタクト?うちらの業種じゃあんまりないすけど」
「ええ、視力には自信あるんです」
当然だ。僕の仕事は企画段階の設計図をたった二つの肉眼で盗み取ることなのだから。
ニコニコしながら僕が酒瓶を空けるのを見ていた男は時計に目をやり、立ち上がった。
「それじゃあ」
彼は千円札を三枚テーブルに擦りつけるように置く。
「いい夜を」
その夜が明けてから、僕が光を見ることは二度となかった。
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konumatakaki さんの作品でした!
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Dr_Kudo(3) kabesimi Imerimo meshiochislash souyamisaki014 Kuronohanahana(2) notyetDr
夜は明けるけれども、毎日やってくる。だから嫌いだ。
通りの明かりもほとんど届かない、街の路地裏。冷たい空気を胸いっぱいに吸い込んで、ゆっくりと吐く。
背中にあたるコンクリートの冷たさ。次第に重くなるまぶた。少しずつ、脳の回転速度が落ちていく感覚。
雪が落ちるのが聞こえそうなぐらい静かな中で、走馬灯みたいに今までの記憶が蘇る。たまに思い出したくないものが入ってきたときは、声帯を絞るような微かな声を出して追い出す。
今までが不幸だったとは思ってない。確かにこんな仕事はあまり好きではないが、かといって辞められるほど何かあてがあるわけでもこの仕事を嫌っているわけでもない。少なくとも、生きるのには困らないしたまに美味しいものを食べることができる。今はそれで、十分だ。
息をする。体の奥底まで冷たくなって、静かに落ち続けるような感覚。懐かしさすら感じるそれは、聞き慣れた声で打ち切られた。
「待たせたかい?」
目をゆっくりと明けると、相方の覗き込むような顔。伸ばしてきた手を握ると暖かい気がした。
「いいえ。それでは行きましょうか」
立ちくらむ目を押さえて背筋を伸ばすと、バキリと案外大きな音がした。
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Hasuma_S Aoicha(2) pictogram_man 29mo Kuronohanahana kabesimi Nununu
最近、私には密かな趣味がある。
それは眠れない日の、ずっと遅い時間。私はパジャマから着替え、靴下を履き、スマホを置いて玄関を出る。家の人にはもちろん内緒だ。
夜の街、皆眠りの世界に旅立った後のもぬけの殻。私はそこに降り立ち、その空気を身体いっぱいに吸う。蒸し暑かった昼間とは違う、ほのかに香る涼しげな夏の匂い。それを暫く堪能した後、私はゆっくりと歩き出す。まだ乾いていない目元、頬、それに少し痛む痕に風が当たるのを感じ、全てを忘れさせてくれるのはこの時間だけだ、と思う。
行くあてはない。でも、時間の制限もない。飽きるまで街頭の光を浴びて、眠らない自動販売機におやすみを言って歩く。ここで私を縛る嫌なものはないんだ。今日もまた誰もいない公園のブランコに座り、小さな頃に好きだった歌を静かに口ずさんだ。そうして、夜は更けていくのだった。
『──続いてのニュースです。昨日から行方がわからなくなっていた、飯島洋子さんが今日未明、██川河口付近で遺体となって発見されました。警察は事件、事故の両方の可能性から捜査を行っています。また、先日から同居中の夫の飯島政志さんの行方もわかっておらず、現在捜査が進──』
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souyamisaki014(2) H0H0(2) Konumatakaki souyamisaki014 kabesimi stengan774 momiji_CoC meshiochislash
アラームを止め、起床する。
洗顔、着替え、朝ご飯を食べて、支度を済ませ通学路へ。夏休みは明けた──今日から新学期だ。
川沿いの道を逸れ、橋の下をショートカット──しようとして胸が痛む。
『あれ』のことを思い出す。足跡も、残り香も、何も残さず消えたあれ。
そもそもが限られた逢瀬だったんだろう。無慈悲な夜の王様、月に愛された狼、気高き血塗れ。ヒトとは違う生き物と、かつて触れ合ったことがある。夜にしか咲かない花を、私は知っている。
橋の下の砂利道──あの夏の日、『化け物』に襲われあれに助けられた、現在地。
そこから始まった。共に夜闇を駆け、知らない世界へ踏み込んで、何匹もの化生を退治してきたし、何人もの人たちを助けた。
楽しかった。夜にしか見えない色を見ることが。
嬉しかったと言っていた。人の形をしただけの怪物が、人の役に立つことが。
「俺はそろそろここを去る」
「なんで?」
「あらかた喰ったからな。もう餌がない。次はお前らを食わなきゃいけなくなる」
「そっか」
開けない夜は無い。朝は来る。物語が終わっても人生は続く。
夜の精彩を欠いた世界で、今日も生きる。
夏休みのバイト代で買ったピアスの具合を確かめて、駅へと急ぐ。
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notyetDr meshiochislash(6) Kuronohanahana R_IIV souyamisaki014 Mishary
さて、どこで死のうか。すっかりお馴染みの暗闇に包まれた窓の外を見て考える。
自分の手に納まるような小さな灯りが照らす場所以外、何も見えない完全な暗闇。本来ならば、よく晴れた月の美しい夜空だったのだ。注射を打ったのは体感でずいぶん昔だから記憶は朧気だが。ああ、ずいぶんと長い間独りで働いていた。後は止まった時計を動かすだけだ。プロトコル・ヴェルダンディは俺の自殺をもって完了する。
海でも見ながら浜辺で死にたいな、とちらりと思った。でも、明かりのない世界じゃあ何も見えない。風のない世界に磯の匂いがするはずもない。何も楽しめるわけがないのだ。特別な場所に行くことを諦めた俺が選んだのはシャワールームだった。浴槽もない、小さな小窓だけがある狭い空間。前任者が発見された場所でもある。後片付けの楽さだけを考慮したのだろう。俺もそれに倣うとしよう。目を閉じて、長かった命に別れを告げる。
一発の銃声と共に、世界中の時計が再び動き始めた。月の輝きは再び地上に届き、窓から差し込んで死した男の頬を濡らす。
世界は動き、夜は明ける。世界中で人々が、アラームを止めて起床する。世界が静止した夜の事を、月だけが知っている。
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kabesimi 29mo(2) Kuronohanahana Mishary(2) meshiochislash souyamisaki014 R_IIV Nununu Imerimo islandsmaster
よる、ヨル、夜。
夜と聞いて、お前は何を思い浮かべるだろうか?
煌びやかなイルミネーション?満点の星空?朧月夜?蛙が鳴いて眠れずに呻いた布団の中?借金の返済ができなくて首が回らなくなるなんてのも人生の夜だな。SCP財団に就職したこともお前の人生の夜なのかもしれないしな。
おい怒るなよ。冗談だよ。
何が言いたいのかというと、まあ、俺にとっての夜というのは、ええとなんだ、終わりなんだ。布団に入って、目を閉じる、意識がなくなる。そしたら私というものが終わる。それが、夜。何?朝?…朝は始まりさ、もちろん。全く新しい俺が始まる。
まあ変だろう?だって一般的に夜と言ったら情景や、人生における暗黒期みたいなものを思い浮かべるのに。良いものにしろ、悪いものにしろ俺みたいな電化製品みたいな考え方をしてる奴なんてそうそういない。自覚してる。
だがな?こういう俺だからこそ、財団で生き残れてるわけさ。だからちょっとした忠告をしてやろうと思ってな?可愛い後輩が配属されてすぐ焼却場行きなんて哀れだろう?ここじゃあ頭がどっかイカれてる奴がよく生き残れるのさ。
イカれ野郎になるか、死体になるか。
さて、お前はどっちになるんだろうな?
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Mishary Aoicha notyetDr(2) Hasuma_S momiji_CoC northpole Nununu pictogram_man Dr_Kudo
夜というのは人にとって本来、闇の中にあって眼を閉じ寝るべき時だ。この間人の中に棲むもの——わかりやすく言えば魂——はその身を離れ、四方へ飛ぶ。魂は相互いに交じり合い、時として他の身に暫し宿る。夜を夜と呼ぶのはこのことに由る。魂が互いに縁る、又は憑る刻であるから古代の人はそう呼んだのである。
魂の飛散と交流とは奇妙な現象を生む。これは人の目に見ることはできない。しかし魂を介して感じられた諸現象は朧げに記憶され、夢として思い起こされる。夢というものが時として知るはずもない知識や幻想を与えるのは、夜の間魂同士が縁り憑りあうことに由来する。
東の空が僅かに明るくなろうかという頃になると、魂は厭けた(あけた)厭けたと元の身へ戻る。魂は光を嫌うのである。こうして夜は終わり、朝が到来する。これを繰り返すのが本来の姿だった。
ところが昨今人類は自らの手で太陽のような灯を作り出し、これを至る所に広げてしまった。こうなると魂は身を脱したがらない。そうすると不可思議な現象を視たり、縁り合うこともなくなってしまう。夜の姿が次第に薄れ、近頃の人がめっきり夢を見なくなったのはこういうわけである。
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AmamotoIkuma(4) pictogram_man momiji_CoC stengan774 roune10121(2) Hasuma_S
猟銃を抱えながら「俺がこの村を守ってやるさ」と笑った父の顔が、何度だって蘇る。僕の父は猟師だった。羊たちの守護者であり、僕たちの導き手であり、狼を屠る英雄だった。
そして、父は昨晩死んだ。
首をひと噛みされた父の体は、見張り台の床に投げ出され、そのすぐ傍に血の文字で、どうして、と刻まれていた。
どうして、どうして?それは僕の言葉です。どうしてあなたの猟銃の弾は、一発も減っていないのですか?どうしてあなたはその銃を以って、あれを撃ち殺さなかったのですか?どうしてあなたは、あの狼を──
隙間風に蝋燭の灯が消える。窓から射す月の光で、部屋はなお明るかった。
──父は、狼に殺された。
がらんと音を立て、壁にかけられた鏡が落ちた。
──僕は、あなたに赦されたかった。
落ちた鏡は床に砕け、欠片の全てに僕を写した。
──あなたは、僕を愛していた。
血に飢えた獣と目が合った。
──僕はあなたを愛せなかった。
鏡写しの獣ぼくと目が合った。
「汝は人狼なりや?」
僕の問いかけは、遠吠えに変わり月夜に溶けた。
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R_IIV Mishary Nununu momiji_CoC(2) AmamotoIkuma stengan774 Kuronohanahana meshiochislash islandsmaster
耳を劈く轟音が賑やかな街に木霊した。
音の方に顔を向ければ空が、破れていた。
大きな亀裂が入った空は時と共に剥がれ落ち、落ちた空の破片は下にいる民家やビルを押し潰し、また轟音をあげた。
逃げ惑う人々を横目に、好奇心と恐怖とに支配されその場に立ち竦み、私は空を見上げていた。
拡大した亀裂から鋭利な黒い爪が姿を現す。
それは亀裂に手を掛けたかと思えば、あっという間に空を引き裂き、それが街の空に姿を現した。
何処までも、何処までも黒い体が空を覆った。
昼下がりの空は闇に包まれた。
逃げ惑う人や、戸惑う警官、空の破壊に戸惑っていた街は、再び阿鼻叫喚の渦に包まれた。
その時、それがゆっくりと大きな、口を開いた。
裂けた空が三度裂けたのかと見紛うほどに。
真っ白な、爛々と光る牙が、空に弧を画いた。
闇の中に1つ三日月が浮かんだようであった。
夜の体現化とも言えるそれが、静かに街を睥睨していた。
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roune10121 さんの作品でした!
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roune10121(3) 0v0_0v0(3) Imerimo(2) AmamotoIkuma
恐ろしい夜がやってきた。
腕に怪我をしてしまった僕は追われるがままに森に逃げ込み、じっと草むらの中で息を潜めていた。
しかし、やはり血の跡を付けてきたのだろう。そいつは僕の隠れている草むらの前で立ち止まった。
「いたぞ!こっちだ!」
しまった、死ぬ…。と思っていた瞬間、悲鳴と共にそいつの声がした。
「この…化け物が…。」
その声を最後に、森はしんと静まり返った。と、誰かが僕のいる草むらを掻き分け、顔を見せた。
尖った耳、血の付いた鋭い牙、ぎょろりとした目…誰が見ても狼と呼べる姿だった。いや、人狼と呼ぶべきだろうか。
「お前はどこか抜けてるよな。何でお前が人狼なんだか…。」
「あ、ありがとう…。」
「礼は要らねえよ。全く、狩人に真っ向から立ち向かうなよ。」
「ごめん…。」
「俺は大丈夫。お前は…そうだな、明日はその手の傷についてどう説明するか考えとけば良いと思うぞ。」
「そうだね…君も明日は大丈夫?昨日疑われてたけど。何か援護射撃入れようか?」
「ああ、頼む。」
作戦を建てた僕達は狩人さんの命を頂く、僕達は、ずっとそうして生きてきたし、これからもそうして生きていくのだ。
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29mo さんの作品でした!
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29mo AmamotoIkuma(2) kabesimi(2) highbriku notyetDr northpole Nununu pictogram_man H0H0
閉館間際、無理を言って入れてもらった噂の画廊には、漆がぶちまけられたような、黒い飛沫と怒涛で画面を埋め尽くされた絵画ばかりが飾られていた。
「正直、趣味はあまり良いとは言えません」
圧倒されていた私は、当の画廊の主のしわがれた言に驚いた。
「最初の一枚は妻が購入したものです。もう二十年も前になりますか……」
画廊の主が指さす先の絵は、他の物に比べて黒い飛沫は抑えめで、怒涛と言うほどの勢いもない。ほかの絵画とて、その一枚に限るなら、決して眉をひそめられる類の美的感覚とそしられることも無いだろう。
「この絵をここにおいてから、亡くなった友人の遺品として絵を譲り受けたり、若い画家が自分の作品をここに置いてくれと持ってきたり……。決して私や妻がこのようなものばかりを蒐集したわけではないのです」
「ここにある絵たちは、この画廊を拠り所としているのですね」
「そして稀に、貴女のような方に見初められて巣立ってゆきます。最初の一枚は手放せませんが」
すっかり絵を買う気になっていた私は、好みの絵を探す前にもう一度だけ「最初の一枚」を眺めた。
怒涛も飛沫も抑えられた、黒い画面。
吸い込まれるような優しい闇。
外はもう夜だった。
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stengan774 さんの作品でした!
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Dr_Kudo notyetDr R_IIV(2) Nununu 29mo H0H0 Kuronohanahana highbriku
アラームを止め、起床する。
と、書けば至極まっとうな生活をしている人間に見えるのだろうが、あいにく俺が実際に起きたのは日もとっぷりと暮れかけのことだった。
「腹が減った」
つぶやけば飯が出てくるわけでもない一人暮らしである。かといって自炊しようにもそこはズボラ人間の性、食材など律儀に買いためていない。外食するにも懐にすきま風。
仕方が無いので賞味期限切れ間近のカップラーメンに熱湯を注ぐことを強いられる。「三分待て!」との指令を受けて、待ちぼうければ夜ぞふけにけりと来たもんだ。
一番星に願いをかけたあの日は過ぎて、ここに居るのはただのクズ。あれよいよいよいとさ。とっぴん、ぱらりの、ぷうたろう。
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0v0_0v0 さんの作品でした!
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0v0_0v0(7) Aoicha Konumatakaki 29mo
「真っ暗。」
と呟きながら学校の階段を降りると、前に人影が見えた。階段灯に照らされたぎょろっとした眼から、すぐに隣のクラスの亀田くんであることが分かった。
「やあ湊さん。良かったら一緒に帰らないかい?」
気さくな誘いに私は肯定し、夜の下校道を2人で歩き始めた。そこで、ふと気になったことを聞いてみることにした。
「あのさ、亀田くんは確か目がカメレオンなんだよね?その目って、どういう風に見えるの?」
と聞いた瞬間、彼がこちらをじっと見つめてくる。あまり触れられたくなかったのだろうか?アニマリーに好意的でない人だと思われたかな……と焦っていると、急に彼が空を見上げ指で何かを数え始めた。
「24、25、26。今出てる星の数。君はいくつ見える?」
そう聞かれ数えるが、二桁も見つけられない。
「この眼は少しみんなより物がよく見える、いい眼なんだ。特に僕は星を見るのが大好き。」
「へえ、星。私も星座は好きだよ。良かったら教えてよ。」
そういうと、大きな眼をさらに見開いて嬉しそうにこちらを向いて、いろいろな星座を教えてくれた。
その時の彼の眼は月の薄明かりで微かにハイライトが作られ、一等星と同じくらい、とても美しかった。
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H0H0 さんの作品でした!
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H0H0(2) Hasuma_s Nununu northpole R_IIV Aoicha(2) konumatakaki kabesimi
ど田舎。無機質な家だけが立ち並び、自分しかいないように錯覚する、朔の日。
親が寝静まったタイミングを見計らい、少しばかりの小銭を持って散歩に行く。
星は……あんまり見えない。ほんのり湿気を含んだ心地よい風が頬を撫でる。
自動販売機までの500m、何を買おうかなとぼんやり考えながら道路の真ん中を歩く。ちょっと踊ったりしちゃおうかな。
車の来ない道路を征服しながら、静かに興奮する。
月に一度の特別な日。
朔の日の征服。
小さな征服者は、ペットボトル片手に帰路へついた。
こちらは
momiji_CoC さんの作品でした!
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momiji_CoC(2) Konumatakaki(2) pictogram_man Kuronohanahana Mishary(2) momiji_CoC Dr_Kudo(2)
少女は満天の空を見上げていた。胸の鼓動はいまだ鳴りやまず、魔術で塞ぎきれなかった傷口はドクドクと脈動しているかのようだった。多数で攻撃を仕掛けたにも関わらず、彼の力を甘く見ていたことを少女は後悔していた。
彼女は遂に彼を葬った、だがその事に対する後悔の念は欠片もなかった。彼には感謝していたが、彼女が大好きなこの場所をより良いものにするためには、彼は取り除かねばいけない障害だった。そしてこれからは、少女が全てを決められる。これまでのような独裁体制ではなく、皆が手と手を取り合い、大好きなこの場所をずっとずっと守れるように。
「まだ傷が痛むかい?」
背後から大柄な男がそう声をかける。
「当たり前よ。そういう貴方だって無事ではないでしょう?」
「はは、まぁそうだな。だがそれ以上の見返りは得たさ」
「そうね。これからは私たちが変えていくの。この場所を、もっと素晴らしい場所に」
「そうだな、新団長殿」
男はそういってわざとらしくお辞儀をしてみせる。
「そういうの、好きじゃないわ」
「わかってるさ。だが悪い気はしない、だろう?」
「……そうね」
彼女はそう言うと、上空に輝く星々に負けないくらい明るい笑顔を男に見せた。
こちらは
Aoicha さんの作品でした!
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Aoicha(2) pictogram_man 29mo islandsmaster H0H0 highbriku Nununu 2MeterScale
黒。
巣から飛び立ち、上昇した私の目の前にはただ一様に黒が広がっていた。
昔は人間が作った光がぽつぽつと周りを照らしていた。今やここを照らすのは月明かりのみ。何とも寂しい夜だ。
特に何をする訳でもなく、翼を動かして夜風と戯れる。ここは平和だ。昔はこんな穏やかな生活なんて考えられなかった。銃声に、鉄線に、廃棄物に怯えながら隠れ住む時代は終わったのだ。
だが、月日が経つにつれ放置された緑が枯れていくのは心が痛かった。人間は悪だと思っていたが、いなくなって初めて彼らの担う役割に気づいた。彼らは森林を手入れし、増えすぎた動物を狩り、生態系を保っていたのだ。
今は亡き繁栄の遺構をぼんやりと見つめながら、私はどこまでも深い黒に身を投じた。
こちらは
Dr_Kudo さんの作品でした!
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Dr_Kudo(2) notyetDr(5) momiji_CoC souyamisaki014
眠れない夜は、そんなに珍しいものじゃない。ため息をついてブラインドを上げると月が私を見下ろしている。
ガウンを引っ掛けて私は寝床を抜け出した。隊長がこっそりと教えてくれた対処法。研究棟の部屋番号を確認しつつ、非常灯の淡い緑の中を進む。もし真っ暗だったらどうしよう。それは杞憂で、目的地には噂通り、煌々と明かりが灯っている。
「ああ、佐竹さんのところの」
「いきなり来ちゃって、ご迷惑じゃありませんか」
「いえいえ、夜はだいたい起きてますし」
それに、いい気分転換になりますから。その人は冷蔵庫から牛乳パックを取り出し、賞味期限をちらりと確認してマグカップに注ぎ、電子レンジへ入れる。マントをさらりと捌いて座る。その出自を私は知っている。
温厚で親切。裏腹に机の上で折り重なるメモとノート。乱雑に書きなぐられた式。苦闘の痕跡なのだろう。やがて手渡されたカップを傾け、他愛無い話をするうちに、私は彼を訪れる人が絶えない理由を悟る。
常夜灯の主。それが彼に冠された名前。彼はまだ歩むことをやめていない。
「ごちそうさまでした、博士。なんだか眠れそうな気がします」
「それは良かった。ところで、僕は修士です」
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highbriku さんの作品でした!
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highbriku(6) souyamisaki014 Dr_Kudo momiji_CoC
「はっ、はっ、はっ」
その獣は夜山を駆けていた。獣は『走らなければ死ぬ』ということを本能で理解していた。
寝ぐらで微睡んでいた獣の耳に聞きなれぬ音が届いたのは半刻ほど前だ。気に留めず無視していたものの、耳障りな音は不自然に続いている。闇に包まれた身体をのそりと起こし、獣は不快な音の源を探したのだった。
正体はすぐに見つけることができた。山あいの村で人間が何やら騒ぎ立てている。村の一角で巨大な"何か"が蠢いているのだ。月明かりの下でぼんやりと見えるその輪郭は、地面を這いずり回っているようで、人間は静止を試みているらしい。記憶によれば、あそこは何かの野菜の畑だったはずだ。
ふと、"何か"は動きを止めた。同時に強烈な視線を感じた。この夜闇で山中の自分が見えるはずがない、そう思いつつも獣の本能は警鐘を鳴らしていた。"何か"は徐々に獣の方へ向かっているように見えた。
山を越え、獣は体力の限り遠くへ駆けていった。やがて体力が尽き、倒れこんだ獣の目にはただ深い闇が映っていた。その"闇"は夜闇ではないということを獣は理解していた。諦観と共に獣が最期に目にしていたのは、自分を叩き潰そうとする巨大な家屋の影だった。
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northpole stengan774(3) islandsmaster(3) R_IIV Aoicha pictogram_man
帰り道で何かの人形を蹴り飛ばした。女の子の人形だったと思う。道に無造作に転がっていて気付かなかったのだ。あっと思う間もなく人形は通りがかった車に轢かれて粉々になってしまった。
家に帰ると少し空気が淀んでいるような気がして窓を開けた。その瞬間、言い知れない恐怖が湧き上がった。ひやりとした風が首を撫でる刃物のように思えて無意識に首元を手で押さえ——
その手に痛みが走り、ぱしゃりと血液が吹き出した。驚いて後ろに倒れ込んだところに続けて鈍い音が響いた。後ろを見るとドアが中央から横に真っ二つに割れていた。さっき痛んだ手を見てみると赤い傷が走っている。
開いたままの窓から夜の闇がじわりと染み出してくるのを感じた。危険だ。そう理解した後の行動は早かった。立ち上がって、ドアを開けて、脇目も振らず駆け出した。
逃げろ。だがどこに?いつまで?
力の限りに走り続けて、いつしかそんな疑問が浮かんだ。走る速度が落ちて行き、やがて足の動きが止まった。膝に手を当てて荒い息を整えた。それは図らずも首を垂れるのにも似た姿勢で。
自分の首が落ちた音は聞こえなかった。けれど代わりに暗闇から伸びた刃と白い細腕を見た、気がする。
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islandsmaster(4) northpole stengan774 Dr_Kudo pictogram_man Konumatakaki Aoicha
男は空を見ていた。
数日前から降り続く雨は都市を水没させたかのようだった。すべてがただ落ちてくる水に沈んでいた。のっぺりと奥行きのない鈍色の雲はまるで落ちてくるように見えて、男の感覚を奪い去っていた。
男はあてどなく小さな軒下に佇んで、焦点の合わない視線を虚しく漂わせていた。そこから出ていくことがたまらなく億劫に思えた。なぜここにいるのだったか? 錆の浮いたシャッターが沈黙する薄暗いアーケードの只中で、生乾きのシャツの鬱陶しさに耐えて自問する。
結局、それは傘を無くしたというだけの簡潔な結論に落ち着いた。ここ数日欠かさず手に触れていたはずの頼もしい重さの不在に気がついたときには、バスは泥溜まりを猛然と撥ね付けて発車していた。男は取り残され、機会を伺うしかなかった。
不意に刺々しい光が目に飛び込み、男は眼前に手をかざすことさえ忘れて立ち竦んだ。降り続く雨の中、雲間から紅の陽光が斜めに差し込んだ。それがその日最後の陽射しだったことを男は悟った。みるみるうちに辺りは鼠と藍を混合した重苦しい色合いに変化した。
一瞬の躊躇の後、男は駆け出した。最後の機会を逃すまいと。雨は降り続き、暗がりに男の影は消えた。
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