ルナの根元で輝く黒い百合の花を食おうとしている子猫に告ぐ。それは太陽の申し子にして櫺の底の新しき大洋に咲いているこの馬の骨の髄と同等のものである。しばらくしてグリム童話を顔に写経した法師がやってくるだろう。彼の導きに従え。彼の慟哭を聞け。その味は美味か?いや、そんなはずがなかろう。夢見る黄金の公園に埋まるインダストリアルの味だ。敢然と立ちはだかるその夢の島はおおむね四次元の穴に食われている。インダストリアルの嘶きよ、情報を食え。それこそが蛍光灯を跳ね返す、定かでない汁に覆われた無味乾燥なる肉である。
いただきます、という言葉を口にしなくなったのはいつからだったろうか。1人だけの部屋で箸を動かしながら、そんなことを思う。こんなウインナーをぶち込んだだけの野菜炒め一つにも、農家や業者など沢山の顔も知らない人の人生が関わっている。そもそも、食事とは自分以外の命を頂くことだ。だからその人たちへの感謝を込めていただきますをしなさい、そう親に言われていたのに、なんとなく億劫でやめてしまった。
まあ、大したことではない、か。淡々と炭水化物を口に運び続け、食事を終えた。皿を流しに持って行き、スポンジを手に取る。その隣の三角コーナーに、目が止まった。そういえば昨今では生産者が見える野菜なんてものもあるんだったか。ピーマンを入れていたビニールに、人の顔がプリントされていた。
まあ、これも何かの縁かな。と。僕はスポンジを泡立てながら、一言呟くことにした。
「ごちそうさまでした」
こちらは yzkrt さんの作品でした!
みんなの予想
seafield みしゃりー
「はいどーもー。よろしくお願いしますー」
『よろしくお願いしますー』
「突然やけど俺ハンバーガー屋の店員やってみたいねん」
『ホンマに突然やなぁ。なんで急に?』
「いやな。俺学生時代いろんなバイトしたけど飲食店だけはやったことない思うてな。今更やってみたいねん」
『ほな俺がお客さんやるから、お前店員さんやってくれや。ほな頼むで』
『ふー、ここが新しいハンバーガー屋さんかぁ。気になるから入ってみよかな。自動ドアスーッと』
「いらっしゃいませー!」
『元気な店員さんやなぁ。すみません注文なんですけど』
「ご注文はそちらのマイクに向かってお願いします」
『いやドライブスルーかって!』
「え?ドライブスルーやないの?」
『いや自動ドア開けて入ってきたやろ。どこにそんなドライブスルーがあんねん。まぁええわ。注文しよ』
『うわーメニューいっぱいやなぁ。すみません。おすすめあります?』
「こちらの一番高いセットとなっております」
『隠せ下心を!』
「え?あかんの?」
『あかんに決まっとるやろ』
「そっかぁ。でもこれ本社に言われた分売らんと俺の自腹やねん」
『それはハンバーガー屋さんじゃなくてセブンイレブンやろがい!もうええわ!』
こちらは notyetdr does not match any existing user name さんの作品でした!
みんなの予想
Dr_kudo souyamisaki
死にゆく人間に最後まで残るのは聴覚であるらしい。痛覚じゃないだけ、僕らの神様とやらは温情があるのだろう。全くもってクソ喰らえだ。
そういうわけで、今の自分に与えられているのは咀嚼音だけだった。目は霞み、痛みは飽和し、血の匂いはもはやわからない。ただ、自分の骨が噛み砕かれる音だけが鮮明に聞こえる。そうして、ひときわ大きく骨の折れる音がバキッと響き、静かになった。たぶんちょうどいいサイズになったから静かに堪能でもしているんだろう。なるべくゆっくりやってくれと回らない頭で願う。突然の沈黙の中で、頭はぐるぐると意味のない思考を動かしている。理性は意識の消失だけを願っているのに、魂は消失を拒んでいるらしい。どれほど頭を動かしたところで、もうどうにもならないのに。
与えられた静寂の中で、食い破られた喉から掠れた音が漏れている。それが、自分のためだけの鎮魂歌。自分のためだけの。
最後に聞いた足音をちらりと思い出した。走り去る足音。もう戻ってこない足音。無事に逃げ切れただろうか。
沈黙。足音も悲鳴も聞こえない。自分の吐息だけが、僕に与えられた世界の手向け。
全く、上等じゃないか。温情ある神よ、クソを喰らい給え。
こちらは aisurakuto さんの作品でした!
みんなの予想
notyetDr notyetDr
「ラーメンにカツはないでしょ」
「え、そんな顔しなくていいじゃん」
「いや、衣がスープの醤油に完全に浸っちゃってもう意味ないよ。これはもうカツとは呼べない。詐称だ詐称」
「じゃあ何、そちらはかき揚げうどん否定派ですか?」
「もしかしてカツと天ぷらを同系列の食べ物だと捉えてらっしゃる?」
「衣の付いた揚げ物だから同系列。マクドナルドとケンタッキーくらい」
「別のフライを登場させんな。それにハンバーガーとフライドチキンも同系列で見てるのか?」
「油で重い食べ物だから同じようなもんじゃない」
「さては感覚で生きているタイプだろ。その理屈だとここまで出てきた全ての胃に負担をかける食い物が同系列だぞ」
「気にしたことないし。めんどくさいね、相変わらず」
「早速感覚が出たな。議論は終わりだ」
「で、頑張ってカツだけ無視して食べてるけど、もう逃げ場はないよ」
「いつかはそうなると覚悟は決めてたさ」
「議論は覚悟決めるまでの時間稼ぎ?」
「実食抜いた食い物の話なんか無価値だから」
「そんじゃ、聞かせてもらおうか、カツラーメンがアリかナシか」
「ナシでしょ、どう考えても」
「醤油が厚い肉に絡んでて美味いわ」
「ほら、人は感覚には勝てない」
さく、ざく、さく、さく、ざく。
新雪を踏みながら家へ帰る。
ざくざくっ。
霜柱を踏み潰しながら家へ帰る。
綺麗な雪を集めて、固めて、5cmくらいの雪玉を作る。
雪は汚いから食べちゃダメだってお父さんに昨日言われたけど、ちゃんと土とかついてない所あつめたし、きっと大丈夫だよね。
しゃくっ。
んー、すっごく冷たい水の味。シロップかけたらかき氷になるかな。今は冬だけど、かき氷食べたくなってきた!
しゃくっ、さくさく。
雪玉は味がしない。けど、なんだか特別においしい気がする。お母さんにもお父さんにも秘密にしておこう。これは私だけの味。
ざく、ざく、さく、さく、ざくっ!
新雪を踏みしめる。
さくさくっ!
霜柱を踏みしめる。
今日の夜ご飯は何かなあ。雪玉じゃやっぱりおなかいっぱいにはならないよね!
こちらは Imerimo さんの作品でした!
みんなの予想
Hasuma はなはな
「もうすぐご飯」
母親に呼ばれて、少年は部屋を出る。何度も嗅いだことのある、我が家特製のカレーの香りがあたりを満たす。
「今日カレー?」
「うん」
「ポーク?ビーフ?」
「違うよ」
答えにならない答えが帰ってくる。彼はそれを疑問に思いながらも、洗面所に向かう。
途中で台所を通る際に、母親の脇から鍋の中身を見る。肉はまだ入っていない。普通なら肉はルーより先に入れるものだ。
「肉ないの?」
「これから入れるから、ちょっと座ってて」
「ただいま」
玄関先から声が聞こえる。
次の瞬間、彼女は包丁を持ったまま玄関に向かう。少年が顔を上げたときには、既にうめき声が漏れ聞こえてきた。
腰を抜かしながらもようやく立ち上がると、彼女は赤い何がが垂れる赤い何かを持ち運んでくる。まな板にのせて手早く切り刻むと、鍋に突っ込む。
「できたよ」
そのまま彼女は皿に食事を装い、食卓につく。
少年は何が何やら分からぬまま、彼女が黙って口を動かすのを見守るのみである。
こちらは kyougoku08 さんの作品でした!
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yzkrt kyougoku イメリモ
「ウミガメのスープです」
彼女はそう言って明らかな味噌汁を出してきた。何だ、何が狙いだ。ウミガメのスープ。言わずと知れた平行思考ゲーム的エニシング。
確かに同行の士とプレイすれば楽しいだろう。私なら初手で「これは人肉ですか?」と聞く。
しかし今の状況を見てくれ読者よ。私は何故か拘束され、目の前のモニタには家族の写真が。
(絶対家族の肉やん……)
関西弁が出ました。ただ味噌汁なんですよ。具は多分豆腐とワカメで肉っぽいものはないんですよ。彼女はニコニコ笑って見てますがエプロンには明らかに血痕があるんですよね。さあ、どうすればいいのさ。
「食べてください」
食べなければいけないらしい。多分食べないと出られないんだ。なら食べるしかないか。思考を冷静に、仕方ない、こうなってしまったらこういうことなんだ。昔から諦めるのは得意だ。
私は唯一動く左手を使い、彼女の言うウミガメのスープを口に入れる。舌の上に深いコクが広がる。フォンドボーだろうか。野菜の甘みも芳醇だ。スパイスも爽やかで、これ程美味いカレーは食べたことがない。
「カレーじゃねえか!?」
しかも肉が入ってない!
ネタバレですが家族は健在で彼女と私は同性婚しました。
こちらは r-iiv does not match any existing user name さんの作品でした!
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mishary northpole
重い瞼を擦りながら、鞄をまさぐる。
あれ、何処だっけな。
昨晩買ったコンビニの袋がなかなか取り出せない。
やっとの思いで袋を見つけ、梅のおにぎりを取り出し包装を解く。
ペリペリと心地のいい音が部屋に響く。
携帯を操作しお気に入りの曲をかけ、おもむろにおにぎりを口に運ぶ。
うん、美味しい。
いつも食べてるものだから、味が嫌いなはずはないんだけど。
いきなり酸っぱさが口に広がり目が覚める。
自分で買ったというのに驚くなんて、まだ寝ぼけていたみたいだ。
ゆっくりゆっくりおにぎりを食べながら音楽に耳を傾ける。
日曜だというのに仕事があるというのも忘れ、短い日曜の朝を満喫する。
また袋を漁り牛乳を取り出す。
「ご飯と牛乳って組み合わせよくないよなあ」とか自分の行動を棚にあげた思考をしながら喉を潤す。
壁の時計が目に入る。
やばい、もうこんな時間だ。鞄をひったくり、牛乳を流し込む。
ごちそうさまでした。
こちらは Mishary さんの作品でした!
みんなの予想
meshiochislash R_IIV じらく
イーラク・ナグネッツは死んでいた。
ただ一杯のラグーが湯気を出してそこにあった。
人は勝負を忘れ、手を伸ばした。
祝福の味であった。
この世にある全ての食材が、一つも欠けることなくしかし調和を乱すことなく折り合わされている。
白蛆とやるだば鶏の煮込みも、一つ目ヒトデの串揚げも、回巡魚介の盛り合わせも、陰肉の筒詰めも、篠突く春雨も、みなこのラグーの前にたち並ぶことすらできない。既知も未知もあらゆる味が、図書館が全ての本を収めるように、内包されてしまっている。
しかし、一体どうやって?
ふとベが管理者の方を見ると、彼は目を見開いていた。
「何か知っているのですか、"管理者"?」
ベの問いかけに、彼はぽつりと語った。
「プロトコル・ウェルダンだ……」
皆が管理者のほうを見つめた。
「それは一体?」
「密かに伝わる、時を止め、究極の一皿を作るための手順だ。彼は自分の命を犠牲に、究極のラグーを作り上げたのだ。」
イーラクの自己犠牲に、全ての人は両手を合わせ、黙とうした。
完食を示すその合掌と共に、2か月の勝負は終わりを告げた。
あらゆるものは過去へ消えた。
目映い新たな世界が始まった。
何の成果もない。
ホシがマンションに入って丸三日。402号室の扉は微動だにしない。ただ見張りをするだけといえば簡単に聞こえるが、精神は次第にすり減らされていく。双眼鏡を手放し目薬を差していると、ガラスをノックする音。恰幅のいい先輩が助手席に乗り込むと車が左に揺れた。
「どうだ」
「なにも」
俺の半日は3文字で片付いた。
「少し休憩しろ」
先輩がコンビニ袋を突き出す。頬に冷たさを感じた。
「すみません、お世話になります」
背もたれを後ろに倒し大きく息を吐き出す。袋を受け取り中を確認。卵サンド、唐揚げ棒、アイスミルクティー。俺の好みをよくわかってくれている。唐揚げ棒を袋から出しかぶりつく。少し冷めた表面でも中からは肉汁がしみ出した。カリっとした衣の感触が心地よい。少し脂っぽくなった口内を、甘ったるいミルクティーで溶かして洗い流し、卵サンドを口に含む。腹が満たされると焦燥していた心も落ち着いてきた。ふと先輩の髪が湿っていることに気づく。
「シャワー浴びたんすか」
「ああ」
「いい匂いっすね」
「……疲れてるな」
「いやまだ元気っすよ。先輩のおかげで」
「馬鹿言え」
「馬鹿じゃないっすよ。俺、先輩のこと
ああ、うまい。私の舌の上で軽やかに踊る肉は少し鉄臭いが、それがただ単に良いのだ。ああ、うまい。甘く酸っぱい香りがこの肉からはする。まるで初恋のようで、ブルーベリーのようで。ああ、うまい。反対する君を押し殺して手に入れたこの肉は、何物にも代えがたい味がする。ねえ、君がいけないんだよ。本当に、悪い子。ああ、うまい。ただ涙が出るくらいに幸せだ。禁忌を犯す価値は十分にあったよ、ありがとう。もうずっと一緒だ。
こちらは Mishary さんの作品でした!
みんなの予想
pictgram_man kyogoku
私は目の前のわんを持ち上げた
暖かい
中を覗くと、赤というよりは深紅のろっとした汁で満ちている
これは辛そうだ
飲み干せるだろうか
肉に齧り付く
文字通り骨の髄まで吸い尽くすのが私の流儀だ
柔らかい赤みの肉が口の中でプチプチと裂けていく
仄かな酸味が食欲を刺激する
マニラでシーリュウと食べたブラウ(牛骨髄のスープ)を思い出す
最初は怪訝な顔をしていたが、帰国する時にはすっかりお気に入りだった
時折食べたいと言い出して、私を困らせたものだ
一息つこうと、汁を啜る
それほど味は激しくない
口当たりも意外に滑らかだ
これならどれだけでも飲めそうな、そんな気がした
少し苦みはあるが、私は好きだ
シーリュウが作った赤蕪のスープを思い出すから
当時の彼女は灰汁をとるということを知らず、私は一人で酷く苦い汁を鍋一杯分飲むはめになった
今ではいい思い出だ
長い時間をかけて、私は全て食べ尽くした
なんと素晴らしい食事だったのだろう
シーリュウと共に食べられなかったことだけが心残りだ
けれどそれは仕方のないことだ
愛しいワン・シーリュウは、何処にもいない
彼女は私と一緒になったのだから
こちらは MizinNus さんの作品でした!
みんなの予想
jiraku_mogana みじんこ
アラームを止め、起床する。
スマートフォンを見ると「12:26」の文字。
慌てて飛び起きて気づいた。今日は土曜日だ。
無意識に周りを見てしまう。飼い猫のマキナがこちらを見てのどを鳴らした。俺のことを冷笑してるのか?
ゆっくりとクローゼットへ歩く。すると腹が「グルグルグル」と燃料切れのサインを出してきた。
キッチンへ歩く。
昨日友人が家に来た時に作ってくれた奴がが残っていたはずだ。
コンロの火を入れ、待っている間にマキナの餌を取り出す。すぐにマキナが近づいてきた。
ご飯を比較的上品に食べるマキナを眺めているうちに火をかけていた鍋が音を立て始めた。
蓋を開けると羊羹色をしたビーフシチューが、旨そうな匂いを漂わせた。
さっそく皿とスプーンを取り出して盛り付け、一気に口に入れた。
「うめえな・・・」
思わず声に出してしまった。昨晩よりずっと旨い気がする。酒のせいで味が分からなかったのだろうか。
「ご馳走様」
食べ終わって皿を片付けていると、マキナが足元に近寄ってきた。
皿をすぐ洗い、ソファで猫を撫でる。
「人類滅亡」
この四文字が頭から離れない。デッドラインはすぐそこだった。
こちらは Aoicha さんの作品でした!
みんなの予想
highbriku 青茶
ふとパソコンから顔を上げ、時計を見ると深夜1時を超えていた。集中力が切れた途端に空きっ腹が唸り声をあげる。夜食でも食べるかと思い、キッチンへ向かった。
「さてと、アレはどこにしまってあったっけ……ああ、あったあった。」
ごそごそと棚を漁れば、お目当てのものがインスタントラーメンや菓子パンに交じって顔を覗かせた。じゃがいもを模したマークが表面にあしらわれた袋に入ったそれは、そう……
ポテトチップス。
これまで多くの人間を虜にしてきた禁断の菓子。ただじゃがいもをスライスして揚げただけのものなのに、自然と手が止まらなくなる代物だ。
袋を開けて1枚手に取り、口へ運ぶ。食感、味、満足感、全てが最高で、完璧だった。
いつの間にか空になった袋を床に放り、買い溜めておいた分を取りに再度キッチンへ向かった。
「最近のポテトチップスは量が少ない気がするなあ。こんなに早く食べ終わるなんて有り得ない。」
深夜2時の室内灯の下、タスクも何もかもすっかり忘れ、ひたすらポテトチップスを貪り続けた。
『速報です。きょう未明、住宅で男性の死体が見つかりました。死因は現在不明ですが、発見現場には大量のポテトチップスの袋があり—』
ポリ塩化ビニルで構成された世界の中心に、それは置かれていた。それは生まれながらナポリタンに似て、麺を絡めて上へ持ち上げたフォークが重力に逆らうような姿勢で静止していた。それは激怒していた。それは自分のことを食べ物であると信じ、いつ食べてもらえるのか期待していた。しかし、周りのポリ塩化ビニルたちは、ちっとも自分を食べようとしなかった。
その者は非常にシャイだった。故に、その者も、どこぞの食品サンプルと同様、激怒していた。誰かが自分の顔を見た。それがその者の法に触れた。然るが故に、その者は猛スピードで空と陸と海を駆け、とある繁華街に辿り着いた。
それは予感した。今まさに自分を食べてくれる何かが来ると。その者も予感した、まずいことになると。その者は予感を振り払うべく、速度を少しも緩めず繁華街を駆け抜けた。途中、数多が自分とぶつかり消えていくのを感じた。一つの例外を除いて。
その者は舌を動かした。口の中に何かがあった。無味無臭のそれは歓喜に包まれていた。さあ、我を存分に味わいたまえ!
その者はもはやシャイではなくなっていた。
こちらは seafield13 さんの作品でした!
みんなの予想
NorthPole Dr_kudo
白く丸い皿の上に、きつね色に輝く球状の肉が並べられていく。表面の凹凸は一つ一つが油脂のコーティングによって光を放ち、きらきらと照り返すさまはスワロフスキーの散りばめられた文字盤を想起させる。肉汁の弾ける音とともに、鼻腔をくすぐるのは食欲を刺激するおいしそうな匂いだった。
鼻いっぱいにそれを吸い込むと、自然にため息がもれてくる。少年は白い舞台へ躍り出た唐揚げたちを、最前列で鑑賞する観客だった。つぎつぎと菜箸で運ばれてくる出演者たちは、やがてちょっとした山を皿の上に築き上げた。見たこともないほどたくさんの唐揚げたちに、少年の期待はいままでになく高まった。
「おいしそう……」
「手は洗った?」
母親はエプロンをほどきながら、少年に問う。大きくうなずいた息子は両手を差し上げて、石鹸の匂いがする指を開いた。うんうんと母親は満足そうに手を拭いて、食卓についた。
「いただきます」
少年はあいさつもほどほどに、一直線に箸を唐揚げへ伸ばす。日本の先端がからりと揚がった表面に触れられず、空を切った──彼が目を覚ましたのはそんなタイミングだった。
「……」
食うや食わずの少年時代が捏造された夢を見て、彼は自嘲気味に笑った。
こちらは Morelike さんの作品でした!
みんなの予想
morelike みしゃりー
私には趣味がある。誰にも言えない私だけの趣味。
午前0時、歓楽街の裏通り。人々の喧騒な音から切り離されたこの空間は、彼らと私にとって都合が良い。壁にもたれかかってじっと待っていると、建物を挟んだ向こう側に人影が見えた。人影はゆらゆらと体を揺らしたかと思えば、おぼつかない足取りで去って行った。周りに誰もいない、絶好のチャンス。私は腰をあげ、彼のいた場所へと足を運んだ。一歩、二歩、三歩……到着。
私の足元にあるのは、真っ黒なアスファルトに拡がった、彼が残した乳白色の吐瀉物。深夜とはいえ季節は夏。焼けつくアスファルトに熱せられたそれは、鼻腔を刺激するような臭いを発していた。人差し指で軽くなぞり、まずは一口。既にどこかで吐いていたのだろうか? あまり雑味は感じられず、特有の酸っぱい香りが口いっぱいに広がった。次は舌をアスファルトにあてがい、堪能する。甘い粒々とした触感が不愉快な砂利を打ち消す。これはコーンだろうか。喉奥はヒリつき、香りが目に染みるが私の食事は止められない。もう一舐め、さらにもう一舐め。涎が私を次へと誘った。
……舌をハンカチで拭き取り、一息。ごちそうさまでした。
こちらは Hasuma_S さんの作品でした!
みんなの予想
MizinNus 2meterscale あいすらくと
「ん、オマエ食わないのか」
「ああ、今は、ちょっと」
「ふーん」
御馳走を前にして僕の気分が高揚していないのがわかるんだろう。真向かいに座る彼女は少し不服そうな顔をした後、食事に戻った。彼女の親切心を無碍にするつもりはないのだが……。
「な、なあ」
「何回聞いても同じだって。オレが食えるからオマエも食える」
僕の目の前に置かれているもの。それは今彼女が両手で掴み、乱暴に食いちぎっているもの。
「ゴチャゴチャうるせーな。自分から食えねーなら食わせてやるよ!」
「ちょっ──」
彼女は右手にあれを持って僕の前まで近づき、左手で僕の身体を固定する。鼻腔によく焼けた、香ばしい匂いが。
「は!ちょっと顔緩んでるじゃねーか。腹減ってんなら正直に言えよっなっ!」
言葉を言い切るか言い切らないかのタイミングで僕の口にその肉を入れる。抵抗する術はない。力なく咀嚼し、罪悪感を味わうしかなかった。
***
「どうだ?美味かったろ」
「……ああ」
「これからはこうなんだ、早く慣れろよ」
「……」
満たされた身体の中にぽっかりと穴が空いたような。
その晩、食べた人間の顔が頭から離れなかった。
人食い と 人
記述日: 20██/██/██
こちらは NorthPole さんの作品でした!
みんなの予想
Imerimo Dr_kudo
食事というのは娯楽である。フレンチトーストを頬張りながらそんな事を考えた。娯楽というのは楽しくなくてはならないはずだ。その定義からすれば目の前にいるのはこの場にそぐわない人物だった。
「君さあ、回し飲みとか大丈夫なタイプ?」
そう言ったのは親が決めた婚約者だ。人との距離感を一回り間違えているタイプの人で、俺はこの人が少し苦手だった。好きになった方がいいのだとは思うのだが、なかなか上手くいかないものだ。
「ダメだね。みんなで煮物突っつくのとかも嫌かな。食事に関してはかなり潔癖」
そう答えると、ふーんと言って彼女は蜂蜜の瓶に手を伸ばした。
「いるよねえ、そういう人」
彼女は穏やかに笑いながら瓶を傾けた。その姿が予想外に美しくって俺は少しどきりとした。まだ微かに湯気を立てるトーストに琥珀色の水たまりが広がって、皿の上にこぼれ落ちていく。
「私はそういうの分からないけど、あれだ。尊重するよ」
彼女はそう言いながら瓶の縁に指を滑らせ零れかけの蜜をこそいだ。それを見てスッと我に返る。言行不一致。この人を好きになるにはまだ時間がかかりそうだな、なんて思いながら何食わぬ顔でコーヒーを啜った。
こちらは highbriku さんの作品でした!
みんなの予想
highbriku Aoicha ハイブリク
小学生にとって、夏休みは最も貴重な期間と言ってもいいだろう。そんな彼の貴重な期間は、両親の意向によって削減されていた。
「あまり遠くまで行くんでねえぞ」
彼にとって田舎の祖父母の家は退屈で満ちていた。ひとたび外に出ると大自然はまるで遊園地のようで、伸びるあぜ道も、せせらぐ川も、すべてが彼の目を引いた。奇妙な植物や聞きなれぬ虫の声、興味が移ろいゆくままに、彼は歩みを進めていく。
彼の耳にふと、めきめき、という大きな音が聞こえた。音が鳴った方へと茂みをかき分け、抜けた先には一つの崩れた家があった。先ほどの音はこれかと納得した彼は、そのまま足を向ける。
瓦礫の山を近くで眺めていると、再び音が聞こえてきた。音と共に、まるでビデオを巻き戻すように家が再建されていくのである。尻もちをつき呆然としていた彼は、浮かび上がる瓦礫の中に、ヒツジのようにもオオカミのようにも見える動物の姿を見つけた。血にまみれており、恐らくは瓦礫の下敷きになったのだろう。そして、あろうことか復元された家屋は、再び崩れ落ちたのである。そしてまた再建されていく。
彼には、家そのものがその生物を喰らっているように見えた。
こちらは Dr_Kudo さんの作品でした!
みんなの予想
meshiochi 蓮間
最後の晩餐という言葉が頭を過ぎったけれど、食卓は淡白に過ぎるものだった。ペットボトルのお茶、お弁当にパックのサラダ。いつものように無言で手を合わせ、食事を始める。もう荷物の類は殆ど運び出されている。
ペットボトルの蓋が捻り切れる音。蓋を開ける音。プラスチックの立てる空虚な音が嫌に響く。オムライス弁当。冷めても食べられると思ったから。でも、冷え切ったケチャップライスは喉に絡みつき、私はそれをお茶で流し込む。彼はボソボソと顎を動かしている。食事だけは共にするのが、私たちのルールだった。
7年の同棲生活、私は疲れ切っていた。嫌いになったわけじゃない。でも、もう私達に一緒にいる理由がなくなってしまった。
ドレッシングの袋を切ろうとしてこぼしてしまう。ため息を吐いてティッシュに手を伸ばし、半分以下になったものをぶち撒けて掻き込む。早く自室に帰りたかった。
「オムライス、君は作るの上手だったね。ありがとう」
ふと目をあげると、彼はちょうど食べ終えて容器を片付けるところだった。そのまま去っていく背中が、見た事のないくらい丸まっていた。それだ。そういう言葉が欲しかっただけなのだ。
私たちは明日お別れする。
こちらは AMADAI さんの作品でした!
みんなの予想
Aoicha yzkrt
「いただきます」
袋から帰りに買ったハンバーガーを取りだし、頬張る。バンズとパティ、野菜とソースが絡み合って、濃い味が口いっぱいに広がる。
ふ、と顔をあげると僕よりも少し小さな手でハンバーガーを持って、口いっぱいに詰めてる君がいた。
昔っから、君はこの味が大好きだったね。学校の帰り道、よく寄って、二人で食べた。ある意味、思い出の味。
学校での一件以来、君の食事量は増えた。ストレスが大きな原因だろう。口から漏れそうな嗚咽と、苛立ちと、その他諸々を、味で押し潰して、胃の中でグチャグチャに溶かしてた。
あれから数年が経ったけど、今の君に、味はちゃんと楽しめてるだろうか?余計なものが混じった、"作業"になってないだろうか?
まあ、その笑顔なら、余計な心配は必要なさそうだ。
私はソースの付いた指を舐めると、ポテトに手を伸ばした。
明日は得意料理のグラタンでも作ろう。それでまた、君の笑顔を見れたらいいな、そんな事を考えながら。
こちらは Dr_Kudo さんの作品でした!
みんなの予想
mishary pictogram_man
獲物の一番いいところを食べるのは、一番狩りに貢献した獣。それが群れのルールだった。彼は湯気の立つ大ぶりの臓器に食らい付く。獲物を孤立させる役割、追いかけて体力を削る役割、最後に襲いかかって止めを刺す役割。普段は止めが一番危険なのだが、最近の事情は少し異なっている。毛むくじゃらの四足獣(Ovis aries)をすっかり狩り尽くした後、最近の獲物は二足歩行の毛のない獣(Homo sapiens)だった。信じられないほど足が遅く、持久力もない。少し脅かせば鳴声を上げて逃げ惑い、倒して首筋に喰らいつけば終わり。下っ端の役目である追い込み係の彼と兄弟達にとって大きなチャンスだ。食べるところが少ないのが玉に瑕だが、沢山狩ればいい。普段食べられない分、と夢中で鼻面を朱に染めていたが、兄弟の静止の唸り声が聞こえてこない。ふと顔を上げると、そろそろ集まる筈の仲間の姿がない。父も母も弟も。急に不安になって彼は獲物から口を離す。遠吠えをしようとした瞬間、轟音が響き、強い衝撃に彼は地に叩き付けられる。息が出来ない。細い筒を手に近付いてきた獲物がきらりと光る牙を抜いた。ああ、そんな美味い話がある筈はなかった
「勝負だ」
6つ並んだたこ焼きを、彼女はそう言いながら机に置いた。
曰く、通常のそれとは違って、六分の一、『激辛』が仕込まれているという、よくあるあれだ。
手料理作ってくれるっつーからお邪魔したらこれだよ。
言っとくけどめっちゃ辛いよ、と付け加えて彼女は箸を持った。
「正気か?」
「もひろん」
もう既に、1つ目を口に含んでいる。正気か?
「次は君の番だよ」
「はぁ……」
唾を飲みつつ、2つ目を食う。……セーフ。
「ん」
もぐ。3つ目、彼女の顔色に変化はない。
「……」
食う。4つ目、セーフ。
「これが最後のターンだね」
「……辛いって、どれくらい?」
「中身にデスソースを仕込みました」
スパイスの香りと、舌を刺す刺激を想像し、冷汗をかく。
「お前、正気か?」
「まぁ、狂気の沙汰ほど面白いってね!」
……セーフ、だそうだ。
残るは1個。
「……降参って、あり?」
「いいよ、その代わり勝った方の言うこと聞いてね」
この後味わう痛みや悶絶と、己の自尊心とを天秤にかける。……答えは簡単だ。
「降参」
「やった!」
いい笑顔だった。楽しげだと思う。まぁ、楽しかったのは事実だ。
「ちなみに、初めからハズレなんてないよ。言うこと聞き損だね」
ぶっ殺すぞお前。
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