2枚のコイン

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サイト-CN-34の食堂の1画で、エージェント・姚は望月博士から渡された報告書を読んでいた。報告書のナンバリングはSCP-2048-JP。異常性の有無が議論を呼んでいるオブジェクトだ。食べ終えたのなら早く空になった食器を片付けて欲しいという清掃員の厳しい視線に晒されながらも、エージェント・姚は全文を読み終えた。それを確認すると、対面に座る望月博士が口を開いた。

「姚さんにはSCP-2048-JPの検証実験にご協力頂きます」
「オブジェクトの性質は判明しているようですが、何をすれば良いのでしょうか」
「はい、手始めにコイントスを1万回ほどお願いします」

エージェント・姚は固まった様子を見て、望月博士が質問した。

「単純作業は苦手ですか」
「いえ、そういう訳では」

エージェント・姚は無理に笑顔を作っているが、口元が若干引きつり気味な所がその内心を雄弁に物語っている。しばらく沈黙が続いていたが、望月博士の「不満は正直に申告して欲しい」と言う言葉に、迷いながらも答え始めた。

「実は私、財団加入前にオブジェクトと接触した事がありまして。財団に救助されましたが四肢の大部分を失う大怪我をしました」

エージェント・姚は着ている服を少しずらし、肩を見せた。肩の皮膚を引っ張ると、機械の接合部が見える。肩から先が無いにも関わらず、手の動きに一切不自然なところは見られない。エージェント・姚は財団の技術をもってしても実装が困難で複雑な義手を高度に使いこなしている。つなぎ目を服で隠してしまえば傍目には誰も気付かないだろう。

「何とか助かりはしたんですが、この体では一般社会に戻るのも難しいという事もありまして、強化義肢を装着したCクラス職員として財団に雇用されました。研修中は危険なオブジェクトを収容する部署に配属されると聞いていたのですが」

エージェント・姚はそこで言いよどんだ。

「誰でも出来そうな業務に回されて落ち込んでいると言う訳ですか」
「……そう言う事になりますね。努力してきたつもりですが、評価されていないのかなと」
「でしたら安心してください。このサイトへの配属は一時的な物です。比較的安全なサイトでオブジェクトへの対処法を学んで頂きます」
「なるほど、そういう事情だったんですか」
「ただ、一つ確認させて頂きたいのですが、姚さん、あなたこの業務を軽視していませんか?」

ほっとした表情を浮かべていたエージェント・姚の表情が固まった。SCP-2048-JP担当の望月博士から見れば失礼な話ではある。

「あの、そう言うつもりでは」
「まあ、無理もない話だとは思います。SCP-2048-JPは異常性だけ見るとAnomalousアイテムでもおかしくないですしね。そう思いませんか?」

エージェント・姚の返事は無い。否定も肯定もし辛い問いだ。

「まあその、日本支部で管理されていた物を中国支部に移動させて調査を続ける位には重要なオブジェクトなんですよね。姚さんは財団の理念、覚えてますよね?」
「異常存在の確保・収容・保護ですね」
「はい、財団が守るべき最優先事項はその4点になります」

エージェント・姚は眉根を寄せた。

「確保・収容・保護ですよね。3点では?」
「いえ、3点では不十分です。財団の根幹となる大事な1点が抜けています。分かりますか?」

エージェント・姚はしばらく考え込んだ。

「異常存在とは何か、でしょうか」
「その通り。基準が無ければ他の理念などあってないような物です」
「だからSCP-2084-JPは重要という事ですか」
「はい、やっている事も単純作業にしか見えないと思いますが……」

望月博士は財布から20元硬貨を取り出すと、エージェント・姚に手渡した。

「これは異常性の無い普通のコインです。運に任せず裏面を出してくださいと言われたら姚さんはどうしますか?」
「これにSCP-2048-JPのような異常性は無いんですよね」

エージェント・姚は器用に片手で硬貨を回しながら裏と表を繰り返し確認している。しばらく考え込んでいる様子を見て、望月博士は自分に硬貨を返すように言った。

「色々やり方はあると思いますが、数ある答えの内の一つはこうです」

望月博士は、裏面を上にして硬貨を置いた。

「あの、明らかにコイントスの話の流れでしたよね」
「それはあなたの思い込みです」
「そう言われるとそうですが……」

エージェント・姚は釈然としない顔をしている。

「正直な所、SCP-2048-JPについて議論したとして結論出ると思いますか?」
「厳しそうですね」
「私もそう思っています。ただ、実験場所を変えてみたり、コイントスを行う対象が変われば別の異常性が見えてくるかもしれません。そうなれば基準を変化させる事なく、結論が出ない問題に結論を付ける事が出来ますよね。このように色々な手段を考えられるようになって欲しい訳です」
「それはその通りだと思いますが、今の話も業務ならもっと真剣に取り組んでいたと思います」
「あなたは今、思い込みで最も単純な解法を見落としましたが本当に大丈夫ですか?日常的にしていない事を本番で適切にこなす自信はありますか?」

エージェント・姚は言葉に詰まった。ここまで言われると黙らざるを得ない。

「姚さん、あなたは今後Cクラス職員として死と隣り合わせの仕事をしていく事になります。優秀な人材と聞いていますし、少しでも避けられる事故は減らして欲しいと思っているんですよ」
「そうですね……少し甘く見ていたかもしれません」

望月博士が「そろそろ食堂から出ましょうか」と口に出そうとした時、すぐ近くで悲鳴が上がった。オレンジ色のつなぎを着たDクラス職員が暴れ出し、博士が麻酔銃を撃ち抑え込んだようだ。

「今のは何でしょうか」
「チックトック博士がオブジェクトを食堂で実験するという話は聞いていましたが……何か予想外の出来事が起こったようですね」

望月博士が良く見ようと身を乗り出した時、机の上に置かれていた20元硬貨が滑って床に落ちた。エージェント・姚が机の下に潜り込んで20元硬貨を拾おうとすると、誰かが投げたのか1元硬貨が勢い良く転がって来た。

エージェント・姚が1元硬貨も拾おうとするとイレギュラーバウンドをして手首に当たり、さらに跳ね上がって勢いそのままに口の中へと入ってしまった。硬貨が喉奥に当たってえずいていると、その一部始終を覗いていた望月博士と目があった。

「もしかしてのみ込みました?」
「いえ……大丈夫です」

唾液でべとべとになった硬貨を口から出し、服で拭っていると、チックトック博士が少し慌てた様子で近寄ってきた。

「こっちの方に転がってきた1元硬貨を見ていないか?」
「そこの机の上に置きました」
「助かるよ。あともう一つ、硬貨は変な動きをしていなかったか?

エージェント・姚が一連の流れを説明しようとすると、望月博士が遮って言った。

「ああ、私も見ていたが気になる点は無かったよ」

チックトック博士は若干納得いかなそうな表情をしていたが、感謝の言葉を述べて元の場所に戻っていった。チックトック博士は警備員に頭を下げながら事情を説明している。特に出来る事も無いので、2人は食堂を後にした。エージェント・姚の表情は疑問点が解消されたためか、先ほどとは打って変わって穏やかな物となっている。

「食堂で実験して大丈夫な物なんですか?」
「内容次第ですが申請が降りれば問題ありません」
「今のもアプローチの一つという事ですかね」
「そうですね」

実験室に着くと、エージェント・姚はSCP-2048-JPを手渡された。どうこねくり回して見ても、何の変哲もないただの10円玉だ。エージェント・姚は実験を始める前に、ずっと気になっていた部分を望月博士に尋ねた。

「コイントスなんですが、条件を変えるなら私じゃなく……例えば動物とかにやらせてみた方がいいんじゃないですか?」
「人間以外を使った実験も手配中です。ただ、どちらにせよ1万回はやってもらいますよ」

結局やらないと駄目か、と肩を落とした姿を見て、望月博士は笑った。


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