泥蜂

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アイテム番号: SCP-xxx-JP

オブジェクトクラス: Euclid

特別収容プロトコル: SCP-xxx-JPの収容室の床には半径3 m、深さ4 mの円錐状の窪みを設けます。収容室内には緊急退避空間とスクラントン現実錨が設置されます。また、ハチ様実体の収集活動の対象として、収容室内ではペチュニア等の花をつける植物を栽培し、常に30kg以上の木材を設置します。

ハチ様実体の攻撃的反応を抑制するため、SCP-xxx-JPの各要素への接触は可能な限り避けられなければいけません。攻撃行動の対象となった場合は、スクラントン現実錨を起動した後に緊急退避空間へ移動し、収容室と退避空間を隔離、退避空間内に侵入したハチ様実体を破壊したのちに収容室を脱出してください。

沼要素から何らかの実体が出現した場合、それらの実体は即座に沼要素へ戻される必要があります。

説明: SCP-xxx-JPは泥土状物質で構成された、ハチ様実体、巣、沼の3要素からなる異常機能体です。

巣要素はハニカム構造の連なった平板状の複数の構築物(巣板)の集合で、形態的にトウヨウミツバチ(Apis cerana)の巣に類似し、天井から釣り下るように生成されます。主な働きはハチ様実体の収集物を後述の泥土状物質に変換することであり、収集物の供給がある限り常に直下の沼要素へと泥土状物質を漏出しています。巣板の個数や形態はしばしば変化しますが、機能上の変化はみられません。また、ハチ様実体が巣要素内から出現することから、ハチ様実体の生産、個体数調整も担っていると考えられています。

ハチ様実体は巣要素への供給及びSCP-xxx-JP全体の防衛として機能する要素です。形態的にはトウヨウミツバチの個体に類似しますが、泥土状物質で構成されるために形態は安定しません。基本的には巣要素の周囲を探索し、花類からの採蜜を行います。花類がない場合はその他植物を削り取り、巣へ供給します。非植物へは基本的に無反応ですが、特定の状況下(いずれかの要素への攻撃が行われた、沼要素へ何らかの物体が侵入した、沼要素がふさがれた、探索可能範囲に植物がない等)では、周囲の存在に対して攻撃行動を取ります。このとき、ハチ様実体のアゴは肥大化し、対象に対して噛みつき行動をとります。この噛みつき行動は接触部を異常な手段で融解させますが、スクラントン現実錨による空間現実性固定は攻撃の威力を減衰させます。攻撃反応の持続は短く、対象が巣要素からおおよそ6 m離れると敵対は解除されます。対象が一定の細かさまで分解された場合は、収集物として巣要素へ運搬されます。実体は巣に帰還しない状態で1日から2日が経過するか大きな損傷を受けると自然崩壊します。

泥土状物質は、すべての要素の基本的構成物質です。各要素から切り離された泥土状物質は短期間で不安定化、消失するため、詳細な構造は明らかになっていません。巣要素およびハチ様実体を構成する場合は概ね固体ですが、巣要素から分泌された直後と沼要素を構成する場合は擬塑性流体(通常高い粘度を持つものの、力を加えると粘度が低下する流体)として振舞います。特筆すべき点として、摂取者を昏睡させる効果があるほか、生体と接触した場合、生体が受けている損傷の悪化を防ぎ、回復させる効果が確認されています。また泥土状物質に包まれている間、生体は腐敗や老化等の経年的な損害の影響を受けないと考えられています。ただしSCP-xxx-JPへの侵襲的な行動はハチ様実体の攻撃反応を引き起こすため、医療用途として実用的ではありません。

沼要素は巣要素の直下に位置する要素で、地面に存在する窪みを巣要素から漏出した泥土状物質が満たすことで構成されます。任意の物体・生物が侵入し、一定以上沈降した場合、その擬塑性から即座に脱出することは困難です。この要素は自然界で、いわゆる流砂や底なし沼のように生物を足止めし、ハチ様実体の行動を補助する役割を持っていたと考えられています。沼要素の底には現在後述のSCP-xxx-JP-1が存在しています。

SCP-xxx-JP-1はヒトの女性で、沼要素に侵入してもハチ様実体の攻撃対象にならない現状唯一の存在です。SCP-xxx-JP-1は外部由来であり、厳密にはSCP-xxx-JPの構成要素ではないと考えられていますが、蒐集院からの引継ぎ手順に従って沼要素の底に安置されています。泥土状物質の影響で昏睡状態にあり、また移動時の調査でも老化の兆候は見られませんでした。SCP-xxx-JP-1の身元について公式の記録は存在しませんが、以下の断片的な記録から、蒐集院の関係者であったと考えられています。

収容経緯: SCP-xxx-JPの収容は、財団による蒐集院統合の際、いくつかの断片的な資料及び収容方法と共に蒐集院から引き継がれました。以下は蒐集院が本オブジェクトを収容するに至った経緯及びSCP-xxx-JP-1の由来、オブジェクトの知られていない性質に関連する文章(現代語訳/各所修正済み)です。各文書は主に1930年から~1940年ごろに書かれたものと推測されています。なお、引継ぎ当時収容方法以外の文書は公式には存在せず、以下の文書の多くは統合の際に偶然発見された断片的なものであることに留意してください。

調査記録1

泥の蜂が人を攫うという情報を得て、調査のために██山にある村落を訪れた。

村の住民は明らかに怯えている様子であったが、ただの旅人を名乗る私を歓迎してくれた。暖かい料理を食べたのはいつ以来だろうか。

今日から数日滞在し、村で何が起こっているかを観察することにする。ただの噂で終わってくれることを願おう。

- 記・蚣

調査記録2

滞在から5日が経過した。住民は相変わらず部外者の私に優しく接してくれる。最初は裏があるのかと警戒したが、どうやら杞憂のようだった。子供たちも心を開いて、私を遊びに誘ってくれることがある。

貧しいものは働かないわけにはいかない。仮に怪異の影があったとしても、畑に出なければ飢えが待っているだけだ。家に閉じこもることなどできない。大人たちは不安に駆られながら仕事をしている。そんな危険な環境で子供を働かせねばならない負い目も感じているようだ。

そんな中で、無知ゆえに、無邪気ゆえに、仕事の合間に楽し気に畑を駆けまわる子供たちの姿は、大人たちの心理的な支えになっているのかもしれない。こんな過酷な環境に置かれても、子供たちは確かに愛されているようだ。

調査としては住民への聞き込みが進行中である。収集できた噂は主に「山に入った者が土で出来た蜂が飛んでいるのを見た」、「村で泥の蜂が目撃された後、行方不明者が出た」などであった。目撃証言の信憑性は不明だが、老齢の住民が一人消息を絶っていることは事実のようだ。目撃情報をもとに、一度蒐集院が集めた情報を整理しておく必要があるだろう。

- 記・蚣

蒐集対象候補記録 - 泥蜂

記録1 - 文政6年(1813年)頃: 土塊の蜂の集団に巫女が連れ去られ、沼に引きずり込まれたとのこと。その後蜂は目撃されなかったという。

記録2 - 天保6年(1835年)頃: 泥蜂の目撃情報。ただし泥で出来た蜂を見かけたという噂で、詳細はなし。また付近の調査で得られた情報では、泥蜂の目撃以前に、伐採のために森に入った親子が木から垂れている一枚の美しく透き通った布を発見し、見上げたところ、布の正体は人の2倍以上はあろうかという大きく奇怪な虫の羽であった、とのこと。

記録3 - 天保9年(1838年)頃: 僧たちの間で流れた風説。最近、地域を訪れていた高名な僧がその土地に憑いた蜂の神を鎮めるために身を捧げたとのこと。記録2の付近で得られた情報。

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記録4のスケッチ

記録4 - 明治15年(1882年)頃: 過去から来た人物についての風説を調査している過程で発見。時間転移者と疑われていた人物は、大きな羽虫に食われて死んだとのことであった。その羽虫は月を隠すほど巨大で、月の光を全身に青く反射させ、いくつかの建物に損害を与えたあと空を飛んで消えていったとのことである。容姿は、歪に大きな頭をもった蜂のようであったといわれる。目撃者には、記憶をもとにスケッチを作成させた。一連の情報が得られた地域は、記録2が得られた地域と近接している。

調査記録3

数日分の記録をまとめて記載。ここ数日の間に犠牲者が複数発生。

第一例の被害者は住民の子供の一人とその父親。

畑仕事の最中、目を離した隙に子供が泥蜂の集団に捕まれ、山の中に運ばれていったという。

母親は子を追おうとしたが蜂の移動は早く、また子供もぐったりとして抵抗のそぶりをみせなかったため、追いつけなかったと語った。

父親がその痕跡を追ったと聞き、私もすぐに父親の後を追跡した。山中に入ってすぐ、悲鳴と大量の羽音が聞こえたため身を隠しながら接近。子を追ったという父親が羽虫に囲まれ、切り刻まれている様をみた。蜂はそれらの欠片を回収しどこかへ消えた。その場に残った衣服の欠片をもち、その場を離脱。

第二、第三例は共に大人で、自宅で就寝している隙に連れ去られたとみられる。

これらの痕跡をもとに追跡を行ったところ、山中に巨大な底なし沼と異様な蜂の巣を発見した。おそらくこれが泥蜂の住処で間違いないだろう。

家にいても安全ではないことが知られ、村人の間には不安が広がっている。子供たちも無視を恐れ、村落からは活気が失われた。

第一例の子供はこんな私に懐いてくれた子供の一人だった。私はその父親を見殺しにした。

私は一体、なにをしていたんだ?

- 記・蚣

調査記録4

本部から返信あり。

泥蜂の実在が確かめられ、巣の存在が明らかになったことで目的は達成されたとのこと。帰還命令が出た。

この村落をどうするのかという問いには、人員が確保できるまで、ただ成るがままに任せろということ。人員確保の目途については回答なし。本音を言えば、山中の小さな村落などどうでも良いということだろう。

だが、こんなにも暖かく私を受け入れてくれたこの場所を見捨てることなどできるだろうか。

集められた伝承の共通点は、神なり仏なりに仕える職務の人間が身を捧げることで、事態は沈静化したということである。

忌まれた存在とはいえ、私も神に仕える血の末端である。私にも同じことができるのではないか。

私の計画を本部に提案しようと思う。少なくとも本家は喜んで採用しようとするだろう。

- 記・蚣

調査記録5

恐ろしくないわけではない。目の前でちぎられていったあの父親の叫びが今も耳に残っている。

だけども、私は最後に人を救うことができるのだ。この血も、自分自身の存在も、疎ましく思ったことしかなかったが、やっと許せるかもしれない。

村落の住民にはこの場所を去ると告げた。反応は様々であったが、それも当然のことだし、それでよい。彼らは何も悪くなく、むしろ私に多くを与えてくれた。

ずっと蔑まれる人生だった。だからこそ私だけは、私を、私の覚悟を、誇りに思うことにする。

- 記・蚣

注記: これらの一連の記録の後、沈静化したSCP-xxx-JPは蒐集院によって確保、移動されたと考えられています。

補遺1: 上記記録に基づく、SCP-xxx-JPが比較的沈静化されたという見立て及び、現在の財団の収容プロトコルに対し、生物学部門ハチ亜目研究室から以下の提言がなされました。

我々は、SCP-xxx-JPをよく知られたトウヨウミツバチと関連させてきました。しかし今、SCP-xxx-JPが本質的には別の昆虫とより深く関連している可能性を我々は提案します。

疑念の始まりは、蒐集院が回収していた目撃情報でした。

特に1882年の記録は興味深いものです。証言によると、巨大な羽虫は月光を青く反射していたといいます。確かにミツバチの体表にも光沢はありますが、全身に毛が生えているために印象に残るほど強い反射は得られないでしょう。また巨大な頭というのも不可解です。スケッチを確認すると胸部を十分に超えるほど広い頭部を有していることが確認できますが、これはミツバチの特徴とは一致しません。またミツバチとしては羽も大きすぎます。このスケッチに含まれるだろう誇張や記憶の誤りを考慮しても、これらの項目はミツバチの容姿と全く一致しません。他の目撃情報においても羽が一枚の布として形容されていますが、当該実体がミツバチの姿をしていたのなら、羽を一枚の布と表現することはないでしょう。彼らは何かに止まるときも、左右の羽がぴったりと重なることはありません。また、オブジェクトの行動様式もミツバチ的ではありません。確かに、SCP-xxx-JPの巣要素やハチ様実体の外見的特徴はミツバチのものと類似するものの、その行動は群体で行動するというだけで、収集対象物や攻撃方にも相違がありますし、役割分担などの社会性も見られません。

我々はこれらの特徴(青っぽい光沢、広い頭部、大きな羽、ぴったりと重なる羽)から、SCP-xxx-JPはコガネコバチ科(Pteromalidae)とより関連深い存在であると推測します。

コガネコバチ科の特徴は、その寄生性です。他の昆虫の幼虫に卵を産み付け、幼虫が蛹化すると、蛹内部を食い尽くし、成虫まで成長したコガネコバチは宿主の蛹を突き破って現れます。もしこの特徴がSCP-xxx-JPに引き継がれていると考えるのならば、いくつかの不可解な点を説明可能になります。

なぜSCP-xxx-JPは記録上で村落まで降りて"人狩り"をしていたのか。そうして、なぜ宗教的な役割をもった人々が沼に身を投じることでこの"人狩り"が収まるのか。おそらくそれは、SCP-xxx-JPがこれらの人々(おそらくは比較的高い現実性を持つ人物)に寄生する特性を有しているからではないでしょうか。"人狩り"は条件に合う適切な宿主を探すための行為であり、適切な宿主が確保できれば、"人狩り"は止むのです。

この仮定のもとでは、沼要素の底に沈む女性、すなわちSCP-xxx-JP-1は、新たな宿主となっていると考えられます。つまり、現在のSCP-xxx-JPは安定した鎮静状態にあるというよりむしろ、幼体の成長期間にある可能性を考えておく必要があるでしょう。

またさらに加味すべき点は――情報の少なさから断言は難しいですが――成虫の出現スパンが拡大しつつ、それに伴って報告された体長も増大傾向にあることです。成虫の最初の報告は人の2倍ほどの大きさと記述されていますが、次の報告では詳細はわからないものの、"月を隠すほど"と形容されています。出現間隔については、約20年、約50年と増加し、現在のSCP-xxx-JP-1はおおよそ80年間宿主であり続けていると考えられます。これらの点を総合しても、SCP-xxx-JP-1に幼体が寄生している場合、それが成虫として羽化したときの大きさやもたらす影響は計り知れません。

Pteromalidae.jpg

コガネコバチ科の一種

最後に問題となるのは、成虫の羽化タイミングです。これはほとんど推測でしか語り得ませんが、最後の記録で触れられている「過去から来た人物」というのは、長い間沼の底で昏睡状態にあったために、習慣や知識が以前の状態で止まったままの人物を指している可能性があります。この人物が沼から這い出て人の住む領域まで戻り、やがて体を食い破って成虫が現れたのではないでしょうか。もし、SCP-xxx-JP-1が沼の外に出現したとするならば、これらの可能性について検討する必要があるでしょう。

補遺2: 2015/██/██、SCP-xxx-JP-1が沼要素から脱出するインシデントが発生しました。以下は収容室に設置されたカメラの映像です。

映像記録

<記録開始>

[SCP-xxx-JP-1が沼要素から出現する。即応チームが対応し、SCP-xxx-JP-1は収容室内に留められる]

[担当研究員と通訳者が到着。対話と状況説明、サンプル採取が実施される。]

[即応チームによってSCP-xxx-JP-1が新しい収容房に移動される。]

<記録終了>


補足: SCP-xxx-JP-1の意識は明瞭で、事前の仮説の通り"ショウ1"を名乗った。SCP-xxx-JP-1は上昇時に泥土状物質の抵抗をあまり受けないようであり、上に向かって泳ぐように動作することで上昇が可能であったと説明した。また、泥土状物質内でも窒息しないようであった。

補遺3: サンプル採取検査の結果、SCP-xxx-JP-1の血液から幼若ホルモンに化学的に類似した物質が検出されました。幼若ホルモンは昆虫の幼体の成長を促進し蛹化を抑制する物質で、この物質が分泌されなくなることで昆虫は蛹化以降の成長プロセスを開始させることができます。

その後何度かのSCP-xxx-JP-1との接触及び検査を経て、幼若ホルモン様物質はSCP-xxx-JP-1の生体活動に伴って分泌され、また泥土状物質の昏睡作用を抑制していることが確認されました。これらの点から、SCP-xxx-JP-1が死亡した場合、当該物質の分泌が停止し、未確認の実体、すなわちSCP-xxx-JPの成体が出現する蓋然性が非常に高いと判断されています。成体実体が出現した場合、もたらされる被害は未知数です。

この発見に伴い、SCP-xxx-JP-1の生存状態を維持するための方策が検討され、SCP-xxx-JP-1自身が沼要素の内部に留まることが最も有効であると結論付けられました。以下はSCP-xxx-JP-1自身に協力を要請することを目的とした複数の対話の記録(現代語訳済)です。

対話記録-1

<記録開始>

[担当研究員により判明しているSCP-xxx-JPの性質について説明が行われる]

研究員: つまり我々は、成虫による被害を防ぐためにも、あなたの生存を保つためにも、あなたには可能な限り沼の中にいていただきたいと考えています。その間に我々は何とか対応策を検討します。

SCP-xxx-JP-1: あの、一つお聞きしていいですか。

研究員: もちろんです。

SCP-xxx-JP-1: 例えば―― 例えば私があの村落を見捨てていたのなら、どうなったのでしょう。

研究員: それはわかりません。少なくともあなたの選択は人として素晴らしい――

SCP-xxx-JP-1: あなたの個人的な推測でいいんです。正直な考えを教えて頂きたいのです。

研究員: ……あなたが沼に入らなければ、まず住民の多くが犠牲になったのは確かでしょう。ただ泥蜂の耐久性から考えて、おそらく新しい宿主が見つからないまま、成虫も発生せず、新たな個体も生まれずに終わった、という可能性はあります。

SCP-xxx-JP-1: つまり私の行動は、独善的で、より多くの人々を危険に晒すだけだったということですね。

研究員: そんなことはありません。なにより、当時このようなことは知られていませんでしたし――

SCP-xxx-JP-1: それでも彼らは――本部は私に帰還を命じたのです。それを馬鹿な私が勝手に、私は何かができると思い込んで、何もできるわけなんてないのに――

[SCP-xxx-JPが腹部を押さえて苦しみだし、吐血する。研究員が収容チームに連絡。]

[人員が到着し、SCP-xxx-JP-1が救護室に運ばれる]

<記録終了>


補足: X線検査を含むいくつかの非侵襲的な検査の結果、SCP-xxx-JP-1の体内を10 cm程度の芋虫型の実体が移動していることが判明しました。吐血の原因はこの実体が臓器の一部を突き破ったためであると考えられます。SCP-xxx-JP-1は生命維持及び回復のため、検査後ただちに沼要素に戻されました。

対話記録-2

注記: 本記録は、対話記録-1の16日後、再び沼要素から浮上したSCP-xxx-JP-1に対し検査の後に行われたものです。


<記録開始>

研究員: 体調はいかがですか?

SCP-xxx-JP-1: ずっと体の中を何かが這いまわっているような感覚があります。

研究員: 痛みの方は。

SCP-xxx-JP-1: 沼の中にいる間も、ときどき。

研究員: わかりました。ありがとうございます。それから――

SCP-xxx-JP-1: 私が沼の中に留まる、というお話でしたよね。

研究員: ……はい。お願いするのは心苦しいですが、我々はそれが最善だと判断しました。

SCP-xxx-JP-1: 痛みを耐えながら沼の中で考えました。それで、思ったんです。すこし、聞いていただいてもいいですか。

研究員: はい。私でよければ。

SCP-xxx-JP-1: 私は忌み子でした。姉との双子だったんです。そして、より力の強い姉が認められ、私は隠されて汚れた虫の名を与えられました。そうして、ただ労働力として生かされていました。一族の誰も、私自身も、私を認めませんでした。

研究員: だから、記録には姓が書かれていなかったんですね。本当の姓を教えて頂けますか?

SCP-xxx-JP-1: 日奉と言います。日奉蚣が私の名です。誰にも愛されなかった名前。だけどもあの村落の住人は、私を受け入れてくれました。そして、あの方々のために自分が生贄になると決めたとき、やっと自分自身を受け入れてあげられるような気がしたんです。自分なんかでも人の役に立てると。でも結局、私の選択はより多くの人を危険に晒しただけでした。

研究員: 村落の人々を救うためには最善の手でした。

SCP-xxx-JP-1: いいえ。少しの間だけでも村人を逃がすだとか、他にもできたことはあったはずです。私は結局、自分が役に立つ妄想に頼り、一瞬だけ自分を受け入れて、そうしてそのまま命を捨てて逃げようとしたんです。ただ、だからこそ、今ここでまた諦めて逃げてしまえば、また私は、私を見放してしまう気がします。

SCP-xxx-JP-1: だから私は耐えることにしました。苦痛も孤独も耐えて、解決策が見つかるまで生き続けることにします。もう逃げません。他の誰でもなく、私が私を認めるために。

<記録終了>


補足: SCP-xxx-JP-1の正式な同意を経て、新たな収容プロトコルが適用されました。今後、成虫実体への対抗策が決定されるまで、SCP-xxx-JP-1は沼要素内部で収容されます。

 

補遺4: 対話記録-2の直前に行われた検査により、SCP-xxx-JP-1内部の実体の体長が前回の検査よりもわずかに増大していることが確認されました。この成長はSCP-xxx-JP-1自身が分泌する幼若ホルモン様物質の影響で今後も継続すると考えられます。これをもとに以下の提言がなされ、現在の特別収容プロトコルと想定されるインシデントへの対応策が策定されました。

幼若ホルモンと類似した物質は実際に殺虫剤として利用されています。これらの殺虫剤は即効性を狙うものではなく、昆虫の幼体期間を引き延ばし、幼体のままでの死亡や蛹化・羽化不全の惹起を目的としています。

加えて、大きすぎる幼体が早い段階で宿主に重大な被害を与えてしまうなど、幼体および成体実体の世代更新による巨大化は彼らの生態とミスマッチを引き起こしつつあるようです。

したがって、我々が現在採るべきもっとも安定した方策は、可能な限りSCP-xxx-JPの幼体期間を引き延ばすことでしょう。この方策は問題を先送りにするためだけではありません。運が良ければ、幼体の巨大化は彼らの通常の成長を妨げることにもつながります。幸運にも、SCP-xxx-JP自身が備えた宿主の保護機構――すなわち沼要素はそれを可能にします。

補遺5: 以下は対話記録-2から3年後に発生したインシデントの映像記録です。

映像記録

<記録開始>

[沼要素からSCP-xxx-JP-1の手が出現し、淵を掴む。警備システムが緊急アラートを発する。]

[SCP-xxx-JP-1が自身の体を沼要素からゆっくりと引き上げていく。]

[SCP-xxx-JP-1が沼要素から完全に脱出する。腹部、下腹部が歪に肥大化している2。体表を盛り上がった部位が移動しており、SCP-xxx-JP-1の体内を巨大な芋虫様実体が移動していることがわかる。SCP-xxx-JP-1はカメラに向かって何かを叫んでいる]

[収容チームが到着。SCP-xxx-JP-1は収容チームの一名に接近し、膝をつき、自身を殺害するよう懇願する]

[SCP-xxx-JP-1は痛みのために悲鳴をあげ、大量に吐血する。担当研究員の指示で事前に策定された再収容作戦が実施される]

[収容チームにより、SCP-xxx-JP-1の両手、両足が拘束具で固定される。SCP-xxx-JP-1は叫び続けている]

[SCP-xxx-JP-1が沼要素の中央に投げ込まれる。SCP-xxx-JP-1は監視カメラに向かって自身を殺害するよう懇願し続けている]

[SCP-xxx-JP-1が沼要素に沈み始める。泥土状物質に阻まれ、SCP-xxx-JP-1の発声は途絶える]

[収容チームが撤退]

[以降、無音]

<記録終了>


補足: これ以降、SCP-xxx-JP-1の浮上は確認されていません。


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