好くも悪くも、この郷には血に囚われた人間が多い。士郎がそう感じたのは、遠野の地に足を踏み入れて週が一つ巡った頃だった。
ここの長を務めている古い朋友に誘われて、資料館と呼ばれる建物に足を運んだのだ。士郎にとって、そこは酷く不可思議な場所のように思われた。懐かしの"院"の蔵を模した建物は、しかし"院"の気配が色づいているようには見えない。聞けば、自分と同じように"院"を脱けた者たちの子孫が先祖の遺物を受け継ぐための場所だと言う。"院長"……いや、館長は彼女が"研儀官"として兼任しているらしい。かつては士郎も"研儀官"だった。士郎はその身分に抱いていた未練をとうの昔に断っていたが、彼女はそうでないらしい。麻紋が染め抜かれた旗が風に揺れるのを見て、士郎は過去に思いを馳せた。
士郎の幼馴染である藪 — 信じられないことだが、紛れもなく彼女の名である。彼女の生家は特殊な名付けを継承していた — は、その生家と"院"に反抗し、敗れた。昔の話だ。彼女は才に満ちていたが、彼女の一族と"院"にとっては不要な才だった。一族を棄て"院"から離れ、ようやく彼女はその才を活かせる場所に辿り着けた……らしい。士郎がその事実を確かめられたのはつい先日のことで、以前は伝聞でしかそれを知れていなかった。そしてその場所で、藪は"院"の残滓にしがみ付いている。
彼女を見て育った子孫たちも、この地に辿り着いた先祖の残滓を重んじている。それは悪いことではない。ただ、士郎はポジティブに己の血を見据えている彼らを見て思うことがあった。
士郎たちを率いる大将、つまりアオは現代を生きる若者である。士郎や、藪や、あの狐也のような老人とは違う、若者だ。過去の当事者ではなく、過去の血を継ぐ者だ。
アオは彼女の性質と相容れない生家を飛び出していた。それを士郎は好ましく思っている。同時に、アオが師のように友のように慕う狐也が気にくわない — それを表に出すことはしていないが。狐也は先代大将と同じくらいアオに多くの影響を与えているようだった。"手"としての考え方、口調、そして血の捉え方。好影響もあり、悪影響もある。狐也もまた血に囚われているが、彼女は血筋に真向から殴りかかり清算を志す者であると士郎は経験から推測していた。アオは彼女に影響されている — 恐らくはアオが生来持つ真面目な気質にも起因するので、狐也に恨み言をぶつけるのは筋違いかもしれなかったが。
問題は、その清算すべき血筋というのがアオの場合は虚像と化しており、存在するのは負の遺産だけという有様にあった。彼女の血というものは、蜃気楼のように過去からその存在を主張するばかりでいくら挑みかかっても根本的な解決に至ることは決してない。にも関わらず、"青大将"として生きていれば先日のようにあちらから現れることもあって質が悪い。
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