退避

このページの批評は終了しました。


http://scp-wiki-cn.wikidot.com/scp-cn-2999
/* source: http://ah-sandbox.wikidot.com/component:collapsible-sidebar-x1 */
 
#top-bar .open-menu a {
        position: fixed;
        top: 0.5em;
        left: 0.5em;
        z-index: 5;
        font-family: 'Nanum Gothic', san-serif;
        font-size: 30px;
        font-weight: 700;
        width: 30px;
        height: 30px;
        line-height: 0.9em;
        text-align: center;
        border: 0.2em solid #888;
        background-color: #fff;
        border-radius: 3em;
        color: #888;
}
 
@media (min-width: 768px) {
 
    #top-bar .mobile-top-bar {
        display: block;
    }
 
    #top-bar .mobile-top-bar li {
        display: none;
    }
 
    #main-content {
        max-width: 708px;
        margin: 0 auto;
        padding: 0;
        transition: max-width 0.2s ease-in-out;
    }
 
    #side-bar {
        display: block;
        position: fixed;
        top: 0;
        left: -20em;
        width: 17.75em;
        height: 100%;
        margin: 0;
        overflow-y: auto;
        z-index: 10;
        padding: 1em 1em 0 1em;
        background-color: rgba(0,0,0,0.1);
        transition: left 0.4s ease-in-out;
 
        scrollbar-width: thin;
    }
 
    #side-bar:target {
        left: 0;
    }
 
     #top-bar .close-menu {
        margin-left: 19.75em;
        opacity: 0;
    }
    #side-bar:target .close-menu {
        display: block;
        position: fixed;
        width: 100%;
        height: 100%;
        top: 0;
        left: 0;
        z-index: -1;
    }
 
    #top-bar .open-menu a:hover {
        text-decoration: none;
    }
}
 
@supports selector(:focus-within) {
 
@media (min-width: 768px) {
    #top-bar .open-menu a {
        pointer-events: none;
    }
    #side-bar:not(:target) .close-menu {
        display: block;
        pointer-events: none;
        user-select: none;
        z-index: -1;
    }
 
    /* This pseudo-element is meant to overlay the regular sidebar button
    so the fixed positioning (top, left, right and/or bottom) has to match */
 
    #side-bar .close-menu::before {
        content: "";
        position: fixed;
        z-index: 5;
        display: block;
 
        top: 0.5em;
        left: 0.5em;
 
        border: 0.2em solid transparent;
        width: 30px;
        height: 30px;
        font-size: 30px;
        line-height: 0.9em;
 
        pointer-events: all;
        cursor: pointer;
    }
    #side-bar:focus-within {
        left: 0;
    }
    #side-bar:focus-within .close-menu::before {
        pointer-events: none;
    }
}
 
}
rating: 0+x
blank.png
アイテム番号: SCP-CN-2999 レベル5/CN-2999
オブジェクトクラス: Thaumiel 最高機密
SCP-CN-2000-douglasliu.png

SCP-CN-2999の挙動例示(DEBUG=true,VERBOSE=0.02)

特別収容プロトコル: SCP-CN-2999には最高クラスの保管規格が適用されており、各地方支部の中心サイトにある資料室において、電子/フィルムコピー形式で保管されています。年に一度、電子データを点検し、資料室のアーカイブが破損していないことを確認してください。また20年に一度、フィルムの状態を検査すると共に、欠損がみられる場合は速やかにサイト-19へフィルムの再複製を申請しなければなりません。

オブザーバーアレイがオフラインになった場合、保管を任された支部は装置の復旧/再建をサポートする必要があります。サイト-19からの指示を待った後、SCP-CN-2999のコピーを各支部における最も早い手段を用いてサイト-19へと送付してください。"ピンぼけ"事象の発生率を下げるため、30分以内の送付が求められます。これと同時に、各支部は速やかに緊急態勢へと移行し、"ヴェール崩壊"シナリオとガニメデプロトコルの実行に備えなければなりません。

レベル5/CN-2999以外の人員がSCP-2999またはオブザーバーアレイに関する情報を得ることは禁じられています。

説明: SCP-CN-2999は当サイクルにおけるオブザーバーアレイ観察者配列内部分類器の設計書であり、これには完璧な人工ニューラルネットワークデザインとニューラルメタパラメータが含まれています。設計に関わった編集者の全容は掴めていませんが、最後の編集者は財団中国支部・サイト-CN-25の管理官・程玖章博士(-1相対サイクル)であることが分かっています。

OBSR-3型オブザーバーアレイはSCP-CN-2999を実現させた構成要素であり、観察したあらゆるベクトル映像ドットの完全な意味分類について、42ms以内に99.999963%の分類精度で完遂させることが可能です。

SCP-CN-2999は前サイクルにおいて設計されたオブジェクトです。イエローストーン委員会の指示に基づき、入手文書の原本は例外なく秘匿されており、以下の付録のみを基礎調査のために開放しています。

付録I - 観察者死亡事件: 2021年2月10日(-1相対サイクル、以下同)08:45:57、当時の観察者がサイト-19の重症者看護室にて死去。3時間後、O5司令部は緊急会議を召集し、ZK-クラス: 現実不全シナリオに向けた検討を始めました。2月11日、財団は"ヴェールの崩壊"を宣言。2月17日、財団はすべての敵対武装勢力を鎮圧すると共に、21ヶ所に及ぶ人類存続コロニーの建設を終わらせました。この時点で、財団は全世界の秩序を掌握したことになります。

音声ログ - 前観察者による臨終の言
サイト-19, 10/02/2021


<記録開始>

O5-1: 彼の様子は?

医療スタッフ: 時間の問題です……会話はさしあたって可能ですが、今日を凌ぐことは不可能でしょう……。申し訳ありません、長官。(啜り泣く)全力を尽くしたのですが……

O5-1: 謝らなくて良いさ、シビル。私たちは皆分かってたんだ。遅かれ早かれ、この日はやってくると。誰も責める者はいないよ。(間を置いて)彼はまだ話せるんだな?

医療スタッフ: ええ……話せます。個別の面会をご希望ですか?

O5-1: そうだ、シビル。ご苦労だった。君は先に帰っていなさい。こっちは私だけで問題ない。

医療スタッフ: 承知しました、長官……

電動ドアの開閉音。

O5-1: 私が見えますか?

沈黙。

観察者:重苦しい呼吸音)平気だよ……坊や……相も変わらずピンピンさ……まるで、君が生まれた時のように。

O5-1:)母が言ってました。生まれる時、僕はお腹の中でしきりに暴れていたんだと。

観察者: ああ、見えているとも。君が生まれ……育ち……恋を煩い、憎み、一歩ずつ今日まで歩んできた様子を。この時この一秒まで……すべての人間、あらゆる命と同じように。あらゆる……すべての……

咳嗽音。

O5-1: ごめんなさい……我々は失敗した、全部失敗しました。本来なら、ここまで引っ張るべきではなかったのです。すべて我々の、私の手落ちです……

観察者:遮って)謝ってはいかんよ。そんなことを……言いなさんな。

沈黙。

O5-1: まだ私を見ることはできますか?何が見えますか?

観察者: 今は……一匹の魚が、海を泳いでいる。魚……魚の身体は青色で、赤い扇子のようなヒレが付いている……魚はゆっくりと、一つのあぶくを吐き出した……今度は、指くらいある磁石が、ブルブルと震えている……青空の下に立つ、聖ペトリ大聖堂……ミカンの木に実が付き、青い果実は少しずつ熟れていく……34グラムの金が融ける……アマゾンで蜘蛛が網を張っている……バラが見える、バラはバラで、それはバラ……バラ……

咳嗽音。

O5-1: もう……もうやめてください。

観察者: 心配しなさんな、坊や……私は己の務めを果たすつもりだ。最期の一刻までな。

O5-1: それを疑ったことはありません。ですが、あなたが居なくなった後は、我々でこうした問題にあたらなければなりません──それも、ごく僅かな時間で。

観察者: 私は君が成し遂げられると思っている。

O5-1: 我々はあまりにも遅すぎました。もっとたくさんの時間が必要なのです。

観察者: すぐに破綻することは無かろう。世界は私の存在を、そんなに早く忘れないだろうよ。

O5-1: リミットは2年弱……我々は間に合わないのではないかと危惧しています。

観察者: 己の信念を捨てるのかね?アーロン。

O5-1: そういうことに、なるかもしれません。この地位に就いてから、かなりの時が経ちました……今回のは、これまでで一番悪い予感がするのです。

観察者: だが、君はいつも上手くやってきた。部下を信じなさい、アーロン……彼らは君を必要としている。厳格で迅速な君のことを……君たちは私に替わる策を、必ずや見つけ出すだろう。世界はきっと……きっと、美しく回り続けるはずだ。

O5-1: それは本心ですか?

観察者: 坊や。私は決して間違えないのさ。

O5-1: もしも、間違ったら?

沈黙。

観察者: そうなれば、世界はとうに終わっているだろうよ。坊や。ここまで持たずにな。

<記録終了>

議事録 - O5司令部緊急会議
サイト-19, 10/02/2021


<記録開始>

O5-1: おはよう諸君。すでに知らされているとは思うが……3時間前、観察者が亡くなられた。各支部にはもう、緊急でない業務を止め、機動部隊を全員待機させるよう下達している。強調するまでもないが、使える時間は多くない。観察者の死がもたらすZKクラス: 現実崩壊シナリオに向け、財団は対策を取る必要がある。今日この会議において、迅速に方針を固めねばならず……

O5-2:遮る)その前にですね、アーロン。一つ話したいことがあるのですが、宜しいですか?

O5-1: ……もちろんだ、ソフィア。何を話したい?

O5-2: O5の職を退きたいと思います。今日付けで。

O5-1: 何だって?

O5-2: 至極明快なことです、そうでしょう?このような事態に至ったのですから、全責任は私が背負わねばなりません。私と、私の率いる戦略神学部門は、許されざる誤ちを犯してしまいました。我々……いえ、私、私が独断専行したばかりに、神殿の門は打ち破られ、観察者は玉座から引きずり降ろされてしまったのです。「あなたの神である主を試してはならない」……私は訓話を疎かにしてしまった。今後流れるであろう血はすべて、私の下に帰着するのです。そういうわけですから、アーロン。私にはO5を続ける資格がありません。私……私は、議会を去らなければなりません。正しい判断ができるうちに。

沈黙。

O5-1: 彼は決して君を責めなかった。

O5-2: 彼?

O5-1: 観察者のことさ。彼は一度も君を責めなかった。たとえ、君が居なかったとしても、本件は変わらずに起こっていたはずだ。せいぜい、百年くらいの先延ばしにしかならん。彼はずっと前から、我々にそう教えてくれたものだ。

O5-2: けれど、本来ならばもっと、十分な準備期間を作れたはず……

O5-1:遮る)我々は延々と、より多くの時間を欲するものだ。逼迫した環境において、我々はいつも首尾よくやってきた。今回が例外になるとは思っていない。ソフィア……私はもう、辞めるなんて言葉を聞きたくない。君が今まで以上に必要なんだ。O5として腕を振るってもらわねば、こいつを乗り切るなんて到底不可能さ。

O5-9: その通りよ、ソフィア。私たちにはあなたが必要なの。

O5-5: まあまあ、O5初のしくじりってわけでもあるまい。どうってことないさ、ソフィア。図太く行きましょうや。

沈黙。

O5-1: 他に用件が無ければ、規定の流れに戻るとしよう。(間を置く)オマール、"ピンぼけ"現象は観察できたんだな?

O5-12: ああ。残念ながら、それらしきものがすでに4件も見つかっている。1つ目は南極、アムンゼン・スコット基地。コーヒーが石油に変わったのを、飲んでいた研究スタッフが確認。2つ目はブラジリア。児童がショッピングモールを出たところ、買ったばかりのサッカーボールがアメリカフクロウに変化。その場にいた多くの人間が目撃している。3つ目はオマハ……今度は死人が出た。歯列矯正器具がニトログリセリンへと変化し、直ちに爆発。14歳女児が死亡した。4つ目は会議の直前。私のロレックスの文字盤が、期限切れのブルーベリーゼリーに置き換わった。他にもあると思われるが、人気の無い場所での事件については、未だ手が回っていないのが現状だ。

O5-1: 別のアノマリーではなく、"ピンぼけ"現象が原因だと認識して良いんだな?

O5-12: 100%正しいとは言えないが、私の直感は正しいと言っている。

O5-1: 君の直感を信じよう。ブツは今どこに?

O5-12: 移送中。レッドライトハンドには回収するよう、いの一番に指示を出した。ドナの提案に基づき、暫定エリア-3706へ移そうと思っている。

O5-9: 暫定エリアはサハラ砂漠に位置し、周囲には無人地帯が広がっています。加えて、最高品質・最大サイズの自己適応型収容房を用いる予定です。ただ、"ピンぼけ"が本当だとしたら、こうした措置でも長くは持たないでしょう。収容物が突然、同質量のブラックホールか何かに変わっても、何らおかしくありませんもの。

O5-1: ブラックホールにはならんよ。観察者が言っていた、それは範囲外なのだと。

O5-9: そういう話ではございません。範囲内に限っても、ゲームセットクラスのブツは十分過ぎるくらいあるんですから。

O5-1: その点は承知しているさ。報告ご苦労だった、オマール、ドナ。(間を置く)サム、ヴェールの様子はどうだ?

O5-11: 今の所は大丈夫。事件の収拾だって、赤子の手をひねるようなもんだ。適当なカバーストーリーをでっち上げ、シュッと一吹きしちまえば、それでまるっとお終いさ。(間を置く)アーロン、君の考えていることは分かるよ。懸念すべきはその後だ。観察者が遺した予測をみるに、ウチらのリソースじゃ1年から2年、もって2年半しか騙し通せないだろう。

O5-1: そこまで引っ張るつもりはない。リスクが高すぎるし、資源の無駄遣いだ。私としては、すぐにでも"ヴェール崩壊"を宣言したいんだが、異議のある方はおりますかな?

沈黙。

O5-13: ハハハ、ようやくここまで行き着いたか。

O5-7: 宣言の準備はできてるわ。十数年前からはっきりと予期されていたもの。

O5-6: その通り。財団は別に、手ぶらで待っていたわけじゃない。幸運にもな。

O5-2: 抵抗もきっとあるでしょう……財団の支配を嫌がる人たちの抵抗が。

O5-6: なんて言ったかな。「革命は飯を奢ることではない」……いや、何か違うような……まあいい。俺たちは十分な兵力を持っている。どんな問題も目じゃないことは確かだ。

O5-1: みな同じ認識のようだな。ジャン、今後の動きは分かってるな?

O5-4: ええ。会議が終わり次第、国連に電話いたします。

O5-1: 急がなくても良いが、彼らに長考する時間を与えないでもらいたい。自分たちでやれる……そう思い込まれるのは面倒だからな。

O5-4: 分かりました。

O5-1: では、次の議題に移ろう。(間を置く)我々は手持ちの資源を守らねばならない。資源の"ピンぼけ"を遅らせ、あわよくば完全に防ぐ必要があるのだ。したがって、優先順位を付けなければなるまい。ダイアン、何か策はあるか?

O5-10: わざと聞いていますの?アーロン。

O5-1: 君の確認が必要なんだ。

O5-10:間を置くSCP-2000。最優先はコイツよ。2000が"ピンぼけ"なんてしたら、どう足掻いてもお終いなんだから。

O5-8: 我々が最優先、なんて言うのかと思ったよ。

O5-10: よーくご存知でしょう、リーマン。O5の体なんて、ちっとも重要ではありませんもの。仮に、観察者の件を解決できたとしても、2000無しに"正常”へ戻すのはとうてい不可能よ。それに、必要があれば、イエローストーンがいつでも私たちを作り直してくれる。これだって初めてじゃありませんのに。

O5-8: 分かった分かった。もうよしてくれ、ダイアン。そいつが思い浮かぶせいで、時々寝不足になることがあるんだ。

O5-10: ふふっ。(間を置く)唯一問題を挙げるとしたら、迅速さってところかしら。早ければ早いほど良いわ。

O5-1: 私も同感だ。ありがとう、ダイアン。キッド、君の方はどうだ?代用観察者の件はどこまで進んでいる?

O5-3: 先週と同じ答えだね。人工知能、他に選択肢は無い。

O5-1: 人体改造の線は無理そうか?

O5-3: 2週間前の時点で確認済みさ。実験データがカゴいっぱいに取れてるよ。あんな思考強度に耐えられる体なんてあるわけがない。しかもこれは、食事や排泄を考慮に入れない時の話だ。ホモ・サピエンスはそういう方向に進化しちゃいない。活きた人間を観察者にするのは、同等のAIを作るよりもずっとずっと難しいだろうね。

O5-5: それじゃあ、我らがキュートな前任は、どうして平気でいられたんだい?

O5-3: バカだなあ。彼はヒトじゃないっていうのに。

O5-1: オーケイ、キッド。好きなようにやってくれ。方向としては、SCP-2000の安定化を最優先にしてもらいたい。2000は非生物なんだ、観察者AIの制約は多少少なくできるだろう。それでも、我々の最終目標としてはやはり、あらゆる物事を観察できるのが望ましい。我々自身を含めてな。(間を置く)我々はこれから、新たな観察者を造ることになる。キッド、君に任せたぞ。

O5-3: Ack肯定

O5-1: 私からは以上だ。何か付け足したいことはあるか?(間を置く)結構。今がとても難しい時期であることは分かっている。これがまだ始まりに過ぎないこともな。サムが言うように、"ピンぼけ"に耐えられるのはせいぜい2年ってところだ。現時点で、観察者の影響は完全には消えていない。我々はこの2年を有意義に使わねばならず、1分1秒も無駄にしてはならない。各位には最大限の力を発揮してもらいたい。さあさあ、自分たちの持ち場に就こうではないか。諸君に幸運が訪れることを願うよ。それでは解散。

<記録終了>

付録II - 資料収集: 以下に記すのは先代の財団サイトと人類コロニーの遺構より回収された資料です。2021-2022年における観察者効果の減衰・"ピンぼけ"事象の発生・財団の運営状況について記録されています。関係者にまつわる情報は大部分が散逸しており、詳細は掴めていません。

分類: 人類コロニーでの放送
HS-EU-01, 04/03/2021


[電子音楽]

コロニー住民の皆様へ、ご注意ください。周囲の物が別の物に変わった際は、周りの人間に近づかないよう促し、直ちに財団セキュリティスタッフへ通報を行ってください。"ピンぼけ"に晒された物体は有害化する恐れがあります。ご自身とご家族の安全のためにも、疑わしい事象がありましたら、適宜スタッフにお知らせください。ご協力宜しくお願い申し上げます。

[電子音楽]

分類: 通信ログ
HS-CN-03, 13/04/2021


男子A: たったいま"ピンぼけ"のタレコミが入った。男が言うには、自宅にあった10キログラムの米が空気に変わり、見えなくなったそうだ。

男子B: 何キロだって?

男子A: 10キロだ。

男子B: 怪しいな……記録されてる"ピンぼけ"は2キロを超えないものばかりだ。証拠はあるのか?

男子A: いいや。男は一人暮らしだ。そいつは今、こっちでうるさく騒いでるよ。

男子B: 大方、物資をちょろまかそうとしてるんじゃないか?

男子A: 俺もそう思うな。他のコロニーでも同じような事が起きている。「証拠があろうがなかろうが、財団は"ピンぼけ"が招いたいかなる損失も補填しない」……彼にはそう伝えることになった。こいつはじきに、新しい施策として世界中に通知されるそうだ。

男子B: 結局、人のサガを信じちゃいけないのかねぇ……

男子A: そう考えるのはよせ。今は本当に酷い状況なんだ。他人を責めるよりも、自制心を持つべきだ。

男子B: でもなあ、お前はやっぱり上申するんだろう?

男子A: それは当然だ。万が一は防がにゃならん。

分類: 文章残編
HS-US-01, 17/06/2021


今日、手のひらのSwitchが金のネックレスに変化した。一瞬のことだった。僕は考えた末、やっぱり通報することにした。ネックレスを持ってかれたので、代わりのSwitchを貰えないか尋ねる。彼らが言うには、それがSwitchであったと証明できないし、できたとしても交換はしないとのこと。畜生め、1週間分のポケモン厳選がパーになってしまった。

もうすぐ4ヶ月くらいになるが、あの日のことはまだ昨日のように感じられる。突然、あらゆるソーシャルメディアが活動を止めた。ネットもテレビも、あのデカデカとしたロゴで埋め尽くされた。3本の矢が円を貫く、例のロゴだ。彼らは財団の者だとか名乗って、瞬く間に世界規模のビッグ・ブラザーへと成り上がった。抵抗しようとした人間はみな抹殺された。まるで、初めから歴史に存在しなかったかのように、綺麗サッパリ消してしまったらしい。陰謀論は雨後の筍のごとく飛び交った。"ピンぼけ"は奴らの仕業だの、正体はフリーメイソンか共産党、大魔道士で、国連と一切の政体を滅ぼし、地球を掌握するのが目的だの、色んな説が唱えられた。

正直な所、コロニーでの生活はそんなに悪いものではない。食事はまあまあ美味いし、娯楽もたまにはある。ネットが使えないのと、夜間外出禁止令があるくらいだ。だがなんにせよ、僕のSwitchは無くなってしまった。ネックレスも没収だ。まったく酷い一日だった。

分類: 研究メモ
サイト-RU-17, 24/10/2021


被検体は最初、確かに1冊のノートだったが、ラボに届いた時にはおよそ6センチメートルのアヒルのオモチャに変わっていた。これまでに、被検体は6度の"ピンぼけ"事象を経験しており、それぞれ4時間から18日のスパンで発生している。分類としては以下の通り。

  • 香港の交通ICカード1枚。チャージ金額は53.8香港ドル。
  • The Body Shopブランドのハンドクリーム。半分ほど使用された痕跡あり。
  • 1辺の長さが8.2cmの立方体。表面に約5mmの紫色塗料が塗られ、3Dプリントに似た模様を持つ。中身は空洞。
  • 約240mlのグアバジュース。金属の容器に入っている。
  • アメリカアナグマ(Taxidea taxus)の骨格1セット。
  • スペイン語版『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』。冒頭12ページのみ。

以前と同様、"ピンぼけ"前後の事物に繋がりを見出すことはできなかった。

分類: 財団サイト内部メッセージ
サイト-19, 14/02/2022


私のウクレレがPPSh-41サブマシンガンに変化した。手入れが行き届いており、ほとんど新品のような状態だ。だが、コイツはウクレレではない。どんなに良い"バラライカ"1でも、ウクレレの代わりにはなれやしn クソッ、今度はココナッツカップケーキに化けやがった!ウクレレは消え、マシンガンすらも消えちまった!

このままじゃ生きていけない。コニーを探しに行かないと。

付録III - OBSR-1型観察者分類器: 2021年10月、財団AI部門がOBSR-1型観察者分類器の開発に成功しました。専用のデータセットで学習することで、OBSR-1は480p2以内に写る静止非生物に対し、意味的分類を42ms以内かつ90.87%の精度で実施することが可能です。

アンサンブル学習3を採用し、複数のOBSR-1をブースティング4にかけたところ、98.438%の精度に到達。これにより、OBSR-1は観察者としての最低要件を満たしました。財団はSCP-2000の安定化のために、直ちにOBSR-1を投入。翌月には作業の完遂が宣言され、SCP-2000はスリープモードに移行しました。

その後、OBSR-1は財団サイトや人類コロニーで広く運用されるようになりました。OBSR-1の存在はサイト/コロニー遺構における一部資料の保存に寄与したと考えられます。

研究メモ - 観察者分類器
カクペル・ダーリン博士, 20/03/2021


基本的な研究方針が決まった。観察者AIのメインは分類器ということになるだろう。それが観察者の役割であることは道理に適っている。前任は観察対象の類別を理解し、対象の存在を安定させることができた。O5-3からの情報によると、具体的な必須要件について、彼は次の4点を挙げたという。

  1. 観察対象の理解。
  2. 完全な語義分類の実現。
  3. 42ms以内の分類実施。
  4. 監督者候補の玉座到達。33min以内。

3点目は絶対的な必要時間であり、とても納得できる。前任の影響が完全に消失した場合、物体が100%保たれるのは42msまでであり、その後は”ピンぼけ”により、別の物体に転化するリスクが生まれる。ならば、設計を修正し、最適化すればいい。せいぜいハードコーティング程度で済むため、今の所は心配しなくて良いだろう。4点目に関しては、我々の仕事の範疇ではない。これはO5-2が担当しており、装置を提出さえすれば、”玉座”に就いた観察者を返してもらえるだろう。現段階におけるメイン目標は、1点目と2点目ということになる。

1点目の「理解」に関してだが、現状では具体的なパラメーターを決められていない。これはまるで、分類器が「意識」を備える、正真正銘の「人工知能」であることを要求しているようなものだ。人間の意識についての研究すら難儀しているのだから、非常に悩ましい課題である。

2点目の「完全な語義分類」について。O5-3が研究チームに対し、SCP-1539へのアクセス権を与えてくれた。1539は「物事に対する説明」に関わるとみられるが、不純な情報が多く、認識災害でもあることから、今はまだ解析段階に留まっている。前任によると、1539はかなり感性的な存在らしく、彼すらもこれ以上表現することはできないという。それはすでに本能的なものと化しており、説明するのが非常に難しいとのことだった。

いずれにせよ、我々は研究を続けなければならない。こうした形容し難い感性を読み解き、理性的なデザインに変換するのだ。手遅れにならないことを願う。

研究メモ - 最近の研究における発見
カクペル・ダーリン博士, 01/10/2021


絶対に行き着いてはならない仕様がある。「分類にバリエーションが無い分類器」だ。我々は見たものをすべて"リンゴ"に分類する装置を試作し、リンゴのみを見せ続ける実験を行った。だが、リンゴ群の"ピンぼけ"率には何ら変動は見られなかった(そのうちの一つは秋田犬に変化し、2週間ほど私のペットになった)。最終的に、分類器のモデルにはある程度の複雑性が必要であることに気付かされた。数パターンくらいで済むものでは決して無く、出来るだけ複数のタグを出力できる代物が必要なのだ。このような方向性を軸に考えると、分類器の出力が一連の分析と推論から得られている限り、その分類器は観察されたものを"理解"していることになるだろう。

「語義」への理解も大いに深まっている。我々は"リンゴ"というタグを要求通りに出力できる試作機を作り上げた。試作機は"リンゴ"で安定化することができるが、具体的なリンゴのみに限らず、"リンゴ"から連想されるあらゆるもので安定化できる。試作機にリンゴを見せても、そのリンゴはやはり"ピンぼけ"してしまう。だが、変化先は"リンゴ"という概念に関わるさまざまな何かに留められるのだ。たいていは別の状態のリンゴ…より大きな、より小さな、青い、虫食いのある、半分ほど齧られた等々。いくつかは違う物体に変わることもある。リンゴの描かれた油絵、リンゴジュース、アップルレッドのボール紙といったものだ。

上記の試作機でユキナシ雪梨を観察しても、ユキナシが”ピンぼけ”する確率は変わらない。だがもし、”運良く”リンゴに変化できたら、以降の対象の性質は、普通のリンゴとして留まり続ける。このことから、我々は一つの結論を導き出すことができた。……誤った語義分類、不十分な語義分類はいずれも"ピンぼけ"事象の発生を招く。誤った語義分類は何も手を加えていないことに等しく、不十分な語義分類は変化率を一定程度引き上げてしまう。しかしいずれにせよ、我々は前任の観察者の言う"完璧な語義分類"を依然として目指さねばならない。リンゴの件を受け容れることはできないのだ。

それに、リンゴに"ピンぼけ"したユキナシと元からあるリンゴ、両者の性質が一致するという結果は、我々の考えをより確かなものとした。……"ピンぼけ"は表面的な改変ではなく、本質的な改変であると。一度変わったらそのまま、二度と戻ることはないのだ。

研究メモ - OBSR-1型観察者試作機
カクペル・ダーリン博士, 01/10/2021


OBSR-1試作機の結果が出た。想定より悪いが、今はとやかく言っている場合ではない。現在、分類器は480pの入力と847層のネットワーク、102層の畳み込みを抱えており、誤差がバックプロパゲーションする問題を解決するためだけに数ヶ月の時間を費やした。「完璧な語義」についてだが、出力されるラベルを可能な限り詳細化することで暫時的に対応している。以前書いたリンゴを例にすると、「質量が◯◯で、表面の平均RGB値は✕✕、パイロット社の油性ペンで3センチ大の財団ロゴが描かれた、~~のリンゴ」程度にまで詳細化した。だが、私はまだ最適化の余地があると考えている。現行のラベルはみな自分たちで書いたもので、最長のものは確か80KBだったと思う。今の所はなんとかなっているが、長期的な解決策にはなりえないはずだ。語義ラベルを研究させるため、私はモデルの一部を敵対的生成ネットワークGANに回した。彼らの成長を見守ろう。

もちろん、解決すべき問題は他にもたくさん存在する。精度を確保するため、分類器が受け持つラベルは多すぎないのが望ましい。一番良いのは2つ……「A」と「non-A」だ。これはつまり、我々が現在、動的な物体を沈静化できないことを意味している。一旦動き始めると、分類器は誤った結果をもたらす可能性がある。一旦誤れば、"ピンぼけ"の確率が生じる。OBSR-1は静的物体、それも完全に非活性な物しか鎮静できないのだ。しかし、我々はそれを乗り越えなければならない。先日、SCP-2000のSRAが1基”ピンぼけ”してしまい、プラスチックで出来たピンクフラミンゴの大群に変化した。聞く所によると、これは記録して以来最大質量の"ピンぼけ"だったらしい。前任の観察効果が予想以上に早く切れることをO5は懸念している。遅れを取るわけにはいかないのだ。

我々は現在、SCP-2000の安定化に使うトレーニングセットの準備に取り掛かっている。ほとんど手書きで打ち込まねばならず、博士号を初めて取得した時のことを思い出した。全員残業しているというのに、文句を言う者は誰もいない。そりゃそうだ。世界の終わりが進行中なんだ、残業しないとして、どこに行けば良いというのか。

研究メモ - OBSR-1オブザーバーアレイ・イエローストーン型
Dr. Kacper Darlin, 20/11/2021


yellowstone.png

我らが最後の切り札

我々は成し遂げた。イエローストーン・アレイ……3500台のOBSR-1が、SCP-2000をあらゆる角度から監視している。イエロストーンを鎮められたのは、成功への第一歩と言って良いだろう。

だが残念なことに、我々は装置を休眠状態に置かざるを得ない。動かない死物しか安定化できないのだ。O5の命により、安定化の問題が解決するまで、全人員はイエローストーン公園に一歩たりとも踏み入れなくなった。限りある時間の中で、我々はBZHRブライト/ザーションヒト科複製機ユニットで職員を50ロット分クローニングし、今後のための備えとした。彼らは現在、サイト-19に新造した地下室で休眠している。彼らのためのOBSR-1アレイはすでに準備済みだ。休眠中の人間は死物とは言えないものの、OBSR-1が多少は作用するので、無いよりはマシというわけだ。しかし昨日、ある休眠装置の酸素液が"ピンぼけ"し、コーンペーストに変わってしまった。作業員はパイプから掬い出すのに、ほとんど3時間近くも費やす羽目になった……

やるべきことはまだまだ山積みだ。サイトとコロニーを安定化するべく、OBSR-2の開発に打ち込まねばならない。GANの進捗も未だ芳しくない……休んでいる暇は無いのだ。

付録IV - 資料収集: 2023-2024年、観察者効果の消散が進み、"ピンぼけ"事件の発生率と危険度は上昇を続けていました。以下の資料は前サイクルの財団サイトおよび人類コロニーの遺構から回収されたものであり、言及される人物の大部分は詳細が明らかになっていません。

分類: 人類コロニーでの放送
HS-CN-03, 18/05/2023


[電子音楽]

コロニー住民の皆様へ、ご注意ください。体重は80キログラム以上を保つようお願いします。必要がありましたら、コロニー内の医療センターへお越しください。検査の後、財団職員へ高脂質・高炭水化物食の配給を申請することが可能です。体重が軽すぎると、"ピンぼけ"事象の発生率が高まります。あなた、そして家族の安全のためにも、積極的なご協力をお願い申し上げます。ありがとうございました。

[電子音楽]

分類: 文章残編
サイト-19, 02/09/2023


ヤツが"ピンぼけ"した……今の所、何に変わったかは分かっていない。塩酸に反応した混合物であることから、チームは金属系の何かだと推測している。今回の件については、色々な見方が存在する。ようやくくたばったと捉える者もいれば、"ピンぼけ"は死ではないと主張する者もいる。これがヤツの策略で、脱走するために一芝居打った、そう考える者もいたりする。

アノマリーの"ピンぼけ"は毎日のように報告されている。ほとんどの場合、それは一種の"無力化"とみなすことができる。今のところ、別のアノマリーへ"ピンぼけ"したケースは見られない。心配事を減らせるため、大抵の職員は担当するアノマリーの変化を嬉しがるものだ。しかし、今回……今回は違った。見方がどうであれ、皆の心が一様に晴れないことを私は気付いている。なんて言えば良いだろうか。絶対に死ぬはずがない、そう信じてきたモノが"死"んでしまったのだ。そうなれば、誰もが感じざるを得ない……この世界に、問題が起こり始めたと。

その上、今回は非常に大質量の"ピンぼけ"だった……遅かれ早かれ、それは我々にもやってくるだろう。

分類: 人類コロニーでの録音
HS-BR-02, 30/11/2023


男性A: うちの子は何処にいる?

男性B: ご主人、どうか落ち着いて……。

ガラス製品が砕かれる音。

男性A: 落ち着いてるとも!まだ落ち着き足りないと言うのか?うちの子を何処にやった?

男性B: お伝えした通りです。あなたのお子さんは生まれるなり、"ピンぼけ"したんです。こちらにあるのはお子さんが変化したものです。お望みでしたら……

物が倒れる音。数人の怒鳴り声が伴う。

男性A:大声で)誰が信じるってんだ!アンタら……アンタらは部屋に入るなり、すぐに戻って伝えてきた。こんなドロドロのペーストが子どもだって?これが医者のやることかよ!ああ?アンタら全員クズだよ……ろくでなし共が……うちの子を返してくれ!

男性B: ダメだ!警備員!

怒鳴り声、そして殴打音。

男性A:嗚咽)この……クソッタレどもが……うちの……うちの子……子ども……

女性: ああそんな!見て!

男性B: これは……子ヤギ?

男性A: それは……うちの子だ。それはうちの子だ!

物が倒れる音。その後、沈黙がしばらく続く。

男子B: ご主人、これは2回目の"ピンぼけ"です。通報しなければ……

男子A: 嘘だ……黙れ、子どもが煩がるだろ……なあ、妻と面会して良いか?我が子を見せてやりたいんだ。ああ、僕の坊や。なんて無垢な坊やだろう。

分類: 通信ログ
HS-EU-01, 18/08/2024


女子: マーク!良かった、やっと繋がった!こっちの電波はダメすぎて。2番コロニーの様子はどう?

男子: 聞くなよ、リサ。職員が1人、発電機のメンテ中に"ピンぼけ"して、得体のしれない腐食液に化けちゃってね。そのまま発電所を爆破してしまった。OBSRが数台、予備電源が付いてなくて、建物が4棟"ピンぼけ"した。そのうちの1棟はほぼ同質量の水になって、敷地の半分を流してしまった。そのあと、また何台かのOBSRが故障して……連鎖反応が起きた。そんなこんなで、僕らは命からがら逃げ出したってわけさ。

女子: ああ、神様……

男子: 祈るのはよしてくれ……こっちにはトラック2台分の生存者と、携帯式OBSRが……ああもう何だよ!

女子: マーク?マーク!

男子: はあ……はあ……大丈夫。今しがた、水牛が1頭、唐突に突っ込んできてね。そいつ……そいつは今、緑の電話ボックスに変わってるよ。いずれにせよ、僕たちのOBSRはもうすぐバッテリー切れだ。おおよそ後20分くらいだろう。君たちは早く、OBSRを準備してくれ。ゲートに着いたら僕が君を呼ぶよ。

女子: 分かった。無事でいてね、マーク。

男子: リサもな。それじゃあ。

分類: 文章残編
HS-RU-02, 23/09/2024


私はこれが審判なのだと考えました。一連の事態には理屈がある、そう思い込んでいたのです。私は間違っていました。そこには何の理屈もありはしなかった。毎日のように人が消え、無作為なドタバタ喜劇に収束する。慈悲深い修道女が二穴のオナホールになれば、卑劣な罪人が金張りの聖人像になったりする。かつて私は、敬虔な信者を自認していました。ですが、自分がどんな汚れた存在になるかを考えると、そこに神の意思があるとは到底思えないのです。

寝るためのベッドも、飲み込んだ酒も、食したパンも信じることは出来ない。

私は今、地獄にいます。主より見放された場所、それが地獄なのです。

付録V - OBSR-2オブザーバー分類器: 資料によると、OBSR-2型観察者分類器の開発は2024年、技術上の欠陥と資源不足のため停滞に陥ったとされます。財団はこれを受け、SCP-2000が休眠前に生産した予備職員を開発に投入。OBSR-1β型オブザーバーアレイによるサイトや人類コロニーの安定化を補助させると共に、研究に必要なトレーニングデータを集めるべく、エリア-303に大規模な人工観察訓練所を建設しました。タイムスタンプの欠落やデータベース破損のため、現サイクルにおいてエリア-303の位置は特定することは不可能です。

なお、OBSR-2型観察者分類器は人工観察訓練所が閉鎖された直後に完成したとみられています。OBSR-2は4Kの画面内に写った物体に対し、42ms以内・97.46%の精度で語義分類を完遂することが可能です。ただし、対象となる物体は規定された行動パターンに従っている必要があります。タイムスタンプが欠落していることから、具体的な完成時期については確認できません。

研究メモ - OBSR-1β人工観察訓練所
Dr. Jesse Fang, 28/07/2024


エリア-303に人工観察訓練所を建設した。現時点で1500台のOBSRコンソールを擁しており、3ヶ月以内に5000台まで増やす予定だ。前期のテスト結果は好ましいものではなかった。安定度の上昇はわずか37.2%だが、我々は他に良い策を見つけられなかった。OBSR-2の開発には膨大なデータセットを要する。これは研究段階での話であり、本格的な訓練段階に至った場合、必要なデータはきっと桁違いの量になるだろう。コロニーはもはや8つしか残っておらず、世界人口は20万にも満たない。OBSR-1とOBSR-2のギャップを早急に埋めなければならない。

以下はダーリン博士による提案だ。我々が欲しいのは「人工知能」なわけだが、結局の所、地球上で最も賢いのは我々、人間自身である。人体は観察者の思考レベルに耐えられないものの、高度な処理に関しては、OBSR-1に押し付けることができる。その後、人の頭で最後の後押しをしてやるのだ。口で言うほど簡単なわけではないが、相対的に見れば簡単と言えるだろう。それでも、人が受け持つタスクは依然として脳に重い負担をかけるものだ。コンソールの前に座り、栄養輸液を取り付け、脳波を刺激・増強させる電極キャップを被ることで、ようやく彼らの作業が始まる。1日20時間働き、残りの4時間は麻酔薬で休憩する。問題をすべて解決しない限り、彼らは自身が"ピンぼけ"するまで働き通さなければならない。私は解決を心から望んでいるものの、現実の実験データは私の考えが酷い妄想であることを知らせてくれている。

OBSR-1βはOBSR-1の非常に基礎的な改良版である。我々はモデルの末尾に特別なモジュールを組み込んだ。コアとなる部分はRNN5で、規定外の入力を受け付けると同時に、古い記録を組み合わせることで、入力をシーケンスにまで拡張し、モデル全体のパラメータを持続的に調整することが可能だ。人間の処理速度はどんなに速くても42msに達しない。しかし、我々はアルゴリズムを用いることで、処理能力の拡張と補完を行うことができる。さながら、一つの単語を元にして、後の文章を予測するように。それこそがRNNを採用した理由である。コンソールには手動のラベラーと訓練されたGANが搭載されている。各人は50~100台のOBSR-1βを受け持ち、基本データの発展と処理、ラベリングを行い、フィードバックさせる。こうすることで、OBSR-1βは実際の状況に応じて、自身のパラメータをある程度修正し、[決まりきった/固定の]ラベルを付与することなく、[アクティブ/動的]な物体を安定させることが可能となる。この過程で得られるデータも良質な訓練材料であることから、我々はそれらをまとめ、研究用のデータセットにするつもりだ。しかし、書いてみたものの、結果はまったく上手くいかなかった。

我々は1ロット目の予備職員を投入した。階級にかかわらず、あらゆる部門の職員が関わることになっている。職員は皆協力的であり、用意していた記憶処理薬は無用の長物と化した。彼らは我々が何のために働いているかをよく知っている。入団初日に覚え込んだ誓いもはっきりと知っていた。私は開発チーム所属のため、彼らとの関わりは免除されているが、正直なところ罪悪感を抱いている。私は彼らを目にしたことがある。訓練所が立ち上がったあの日、彼らはびくびくと震えていた。まるで、池に投げ込まれた窒息しかけの魚のように。コンソールは青々とした光を発していた。数日後に再び訪れたところ、彼らの目は見たことがないほど血走って すまない、研究メモに書くことではなかったな。

申し訳ないが、今の私は疲れ果てている。やるべきことはまだまだ山のように多い。

研究メモ - 記念
Dr. Jesse Fang, TIMESTAMP MISSING


copper-sulphate.png

一欠片のカクペル・ダーリン博士

カクペルが逝った。最後の1人だった。彼は今、高さ2メートルの硫酸銅の結晶になっている。私はそれを訓練所の真ん前に置いた。円柱形の大理石に載せ、ガラスで覆い、OBSR-1を取り付けた。誰も反対する者はいなかった。彼はあまりにも、あまりにも多くの代償を払ってきた。この仕事に関わる前の彼を、私はもはや覚えていない。あれほど沢山のカクペルが今何になっているのか、私は時々考えてしまう。思い浮かぶのはいつもトンボだ。カクペルは昔、トンボが大好きだった。たとえそうであっても、長続きはしないだろうが。

O5-2がやってきた。私は無礼を働いた。彼女に掴みかかり、沢山のことを詰問した。彼女は私を咎めず、包み隠さず明かしてくれた。O5は残り6人で、コロニーは残り2箇所。私は初めからジェシー・ファングだったわけじゃない。16人目のジェシーだった。

練習場では毎日のようにピンぼけがみられる。一昨日は8回、昨日は6回、今日は12回。予備職員の残りは9ロットだ。

こんなもの書きたくない。

研究メモ - OBSR-2
Dr. Jesse Fang, TIMESTAMP MISSING


OBSR-2が仕上がった。モデルは 書くまでもない、資料をあたればいい。非常に高い精度だが、まだまだ十分とは言えない。こいつの観察者効果は[アクティブ/動的]な物体を安定できるものの、[決められた/固定の]行動パターンにしか対応していない。限界を超えればエラーを吐いてしまう。機械のピンぼけを用心することはなくなった。機械類への安定化は良好だからだ。こいつでも一応、我々を守ることは可能だ。ロボットのように振る舞い、パラメータに記述した行動のみを取れば、無事に研究を続けられるのだ。ジェイコブは昨日、[何か閃いたのか/限界だったのか]、「エウレカ」と一言叫んだ。記述外の行為であったため、彼はピンぼけしてしまった。セキュリティスタッフは彼を……彼だったモノをOBSR-1で固定し、シューズケースに放り込んだ。彼らが彼をどこに持っていくか、私には知る由もない。

コロニーはもはや存在しない。訓練所は閉鎖された。OBSR-2が少しでも早く出来ていたら、ここの人手は倍になっていたかもしれない。とは言うものの、それはもうどうでもいい話だ。早かろうが遅かろうが、まったくもって些細なことである。

予備職員は最後の1ロットしか残っていない。ひょっとすると、外にはまだ生存者がいるかもしれない。素晴らしく幸運な者たちが。だが、それは重要ではない。外の世界と我々は関係ないのだから。

我々はOBSR-3を完成させるだけで良い。それこそが、我々の今できる唯一の仕事だ。

付録VI - 資料収集: 以下に記すのは前サイクルの財団サイトと人類コロニーの遺構より回収された資料です。これらの資料には前サイクル末期における各地の状況が記録されています。具体的な時期および関係者の身元については明らかになっていません。

分類: 人類コロニーでの放送
HS-US-02, TIMESTAMP MISSING


[電子音楽]

生存者の皆様へ。このメッセージが聞こえましたら、壁の財団マークに従って、すみやかに最寄りのシェルターへ移動してください。あなたはそこで、学習済みのOBSR-2型スタビライザーを見つけられるでしょう。生存者支援のため、(一時停止)ゼロ(一時停止)名の医療スタッフが控えています。財団はあなたの存在を必要としています。皆様のご協力に感謝申し上げます。確保・収容・保護。本メッセージは繰り返し……

[電子音楽]

生存者の皆様へ……[重複内容を省略]

分類: 研究メモ
サイト-DE-21, TIMESTAMP MISSING


ディーゼル発電機、アフリカライオン、ドラムセット、アフロディーテ像、バス、鍾乳石、3頭のラクダから1頭を抜き出す、緑色の粘液、天文時計、黒檀の棺桶、パッションフルーツの木、彫刻の施された古鏡、『荒野の狩人』を放映するプロジェクター、サーチライト、錆びた大砲、赤い液体、墓石、アウレリアーノ通りの道路標識、酸素。

噴水、抽象的な油絵、公園のベンチ、ミミズの塊から1匹を抜き出す、日本製のボールペン、溶けたピンクのキャンディー、爪切り、テントウムシ、明日の消費期限の猫缶、黒いヘッドホン、スポーツ用のヘッドバンド、ヒル、無色の粘液、不明な爆発。

研究員、ダンボール箱、大型LEDモニター、着せかえ人形、コモドオオトカゲ、6本のジーンズから1本を抜き出す、PS5のコントローラー、折りたたみ式デスクランプ、42インチ液晶テレビ、低木、2枚の木板で作られた十字架、『Half-Life 3』クソ遊びてぇ、表紙のない本、演壇、可愛い猫、顔の片側が腐敗した半身死体、未加工の黒曜石、圧縮水素、バラの花束、1台のSRA。

分類: 映像記録
サイト-104, TIMESTAMP MISSING


映像はヘッドカメラで撮影されたものとみられる。撮影者はサイト内を走り回り、ゲートまで到着する。何者かが一人、ゲート中央にレンズを背にして立っている。ゲート外の景色は絶えず変化している。茂みが街灯になり、鳥の群れになり、泥になって落下し、燃え上がり、アザラシになってもがいている。

対象に向かって、撮影者と思しき女性が話しかける。

女子: ミーシャ……ミーシャ!お願いだからやめて!

対象が振り向く。坊主頭の男性で、顔つきは憔悴している。ツナギを着用しており、未知の機械に覆われている。首にある小型の装置から、不規則な白光が瞬いている。

男子: エリーナ……もう良いんだ……

女子: そんなことしないで、ミーシャ。戻ってきて!デズモンドとヴェラは今、あなたを必死で抑えてる。長くは持たないわ。そこに立っていないで、早く戻ってきて!お願いよ!

男子: 構わないでくれ……分かるだろう、僕はもう、皆の力になれない。

女子:啜り泣く)いいえ……あなたは役に立てる。私たちはあなたが必要なの……お願い、ミーシャ。お願いだから、諦めたりしないで。あなたが居なくなったら、私たちはまた一人……(啜り泣く)愛してる、愛してるの!お願い、ミーシャ。私の顔を見て。そんなことしないで、そんな……

男子: でも、僕は君を愛したことがない。

巨大な白色の立方体が数個、ゲート外に出現する。うち一つが深紅色の液体に変化し、ハイイログマの咆哮に、セラミックの花瓶に変わっていく。空は短い降雨のあと、急速に快晴となる。

女子: 気にしない……気にしないわ。あなたに行ってほしくないのよ。そんな姿、見ていられない……ああもう、ミーシャの馬鹿!どうしてなの!?

男子: 僕はただ……やってられなくなったんだ……僕は研究担当じゃない。ただの足手まといさ。それなのに、どうして資源を注ぎ込んでくれるんだ?もうついて行けないし、それに……疲れた。本当に疲れた。僕はそろそろ休みたいんだ。休むこと自体は、簡単にできるからね。

女子: 違うわ……ミーシャ……(啜り泣く)やめて……

ゲート外に旅客機が墜落し、轟々と燃え上がる。炎は紙片となって飛び散り、一部は蝶に、一部は丸石となって辺りに散乱する。一部は花を咲かせた後、上空へと繋がる電線に変化した。

男子: 良いんだ、エリーナ。決心はもうついている。(間を置く)僕のために危険を犯しちゃいけない。僕を見ていないで、中に戻るんだ。

女子: ミーシャ……ミーシャ……

男は腕を上げ、首にある装置を押す。白いフラッシュが止まる。男はわずかに身を震わせると、ゲートの外へ出ていく。

男子: エリック、ほら、ちっとも痛くないよ……

男は椅子に変化する。噴水に変化する。キリンに変化し、茫然とカメラを見つめている。パステルグリーンの炎に変化する。ワニに変化する。数個の石鹸泡に変化し、泡沫は破裂する。女は大声で叫ぶ。

分類: 通信ログ
サイト-CN-04, TIMESTAMP MISSING


CN: IN支部、IN支部、こちらはCN。応答を求む。

IN: [Request Timeout]

CN: IN支部、IN支部、こちらはCN-04・盧文光博士。応答を求む。

IN: [Request Timeout]

CN: アヌ……頼むよ、聞いてるか?聞こえたらすぐに返事をくれ。すでに13の拠点がオフラインになった。こちらでは……

IN: [研究材料を受け取りました。これはシステムの自動メッセージです。返信しないでください]

CN: ……畜生!

分類: 人類コロニーでの放送
HS-EU-02, TIMESTAMP MISSING


[電子ノイズ]

誰か……誰か居ないか、私に教えられる人は……私は誰だ……私は何故ここに……記憶が多すぎて、混乱している……私は産まれたのか、産み出されたのか……頭に引っかかる……ポアンカレの回帰……どうしてこんな単語を……かつて、私は男だった……女でもあった。なら、今の私は何なのか……誰か……誰か居ないか……OBSR、あれは視ている。私はテストに受からなかった。私は……私は誰だ……私は何なんだ……私は存在するのか……ああ……

[電子ノイズ]

分類: 財団サイト内部メッセージ
SCP-2000, TIMESTAMP MISSING


それは間もなくやってくる。夜明けの光の前の、最後の暗闇が。道は隈なく舗装しておいた。間違いない、すべてが順調に進むだろう。ただ、ほんの少し、最後にちょっと、時間が欲しいだけのことだ。そうは言ったものの、我々はそのような時間を持っている。これですべてにケリが付く。ようやく、すべてが終わるのだ。

夜明けの光を迎えるべく、私はここ、イエローストーンに足を運び、最後の調整をしている。OBSR-3だけでは不十分だ、やつの目を視えるようにする必要がある。玉座の上で、この青い星全体を俯瞰させてやるのだ。あらゆる花の成長を、人間たちの愛憎を、すべての潮の満ち引きを、果物全部の成熟を、振動する琴弦の1本1本を、やつに見せなければならない。準備はすべて整った。あらゆる手順が完了し、OBSR-2で補強されている。OBSR-3の最終データを受け取り次第、ここのオブザーバーアレイは安全に更新され、アレイを搭載したロケットが自動で空へと打ち上がる。BZHR制御ユニットの人体遺伝子配列についても、すでにバイオチップへ移植しておいた。遺伝可能なインプラントというのは、我々の誇る発明であり、今後、すべての人間は大いなる観察者の注視を受けられるようになる。すべての段取りが順調に進んでいる。自動化された楽章が、遂に演奏の時を迎えるのだ。

アーロン、君はきっとこれを読むだろう。もう長くは持ち堪えそうにない。この書き置きはOBSR-2の範囲外に置いてある。これが私の最後、最後の贖罪だ、アーロン。私は財団を信じている。アーロン、私は君を

付録VII - サイト-CN-25通信ログ: 以下の通信ログはサイト-CN-25のサーバーバックアップより回収されました。サイクルが再建される前のログであり、OBSR-3型オブザーバーアレイの開発について、サイト主任・程玖章チェン・ジウザン博士とO5-1による会話が記録されています。タイムスタンプの欠落から、正確な日時を特定することはできません。

通信ログ
TIMESTAMP MISSING


ハロー?こちらはサイト-CN-25の程玖章博士です。聞こえますか?

聞こえてるよ、程。とてもはっきりと。こちらはアーロン・シーゲルだ。

おっと、初めまして監督者さま。コンタクトできて光栄です。

いまさら礼儀なぞ要らんよ、程。アーロンと呼んでくれ、こっちの方が嬉しい。

ええ、承知しました。アーロンさんがいらっしゃって本当に良かった。

OBSR-3の進捗はどうかね?

万事順調です。現時点で、すべてのサイトの研究データが揃いましたよ。それもまったくの無傷で!……まあ、壊れた部分は全部修復した、という方が正しいんですけどね。今はちょうど、最新の文献を読んでいるところです。今回の設計は非常に先進的で、構造も壮大なものになっているようです。ちらっと見ただけでも、何層にも重なった集合モデルが見て取れるほどです。その上、中間部の数層には完璧なGANまで組み込まれていました。いやぁこれには痺れましたね。計画通り、残りの研究にただちに取り掛かろうと思います。

結構、結構……それで、君の方はどうだね?

ええっと、どういうことです?

調子はどうだ?何処にいる?

僕はサイト-CN-25のラボにいます。元気ですよ、アーロンさん。お気遣いありがとうございます。もちろん、もっと良い調子ってのはあるんですけどもね。僕もカテーテルを挿したり、注射で飯を食ったりしたくはないですよ。睡眠は薬でズドンと、意識を断つことで取っています。どんな動きも慎重にやらないといけません。そうしている限り、OBSR-2は僕を守ってくれますからね。思うに、あなたの所も同じ感じなのでは?

そうだな。さん付けもしなくて良いぞ、程。無礼講だ。

分かりました。しかし……やっぱり一つ、どうしても聞きたいことがあります。人間は僕たち2人で最後、そうですよね?

そうさな、程。我々が最後の人間だ。

やっぱりか……うん、受け取る資料が自動メッセージだらけになった頃から、うすうす気付いてはいたんですよ。

皆には悪いことをしてしまった。

まあ、これある意味、僕らを仕事に専念させることに繋がりました。何の妨害もありませんでしたよ。今は悲しむ時じゃない。なんたって、我々は間もなく成し遂げるのですから。OBSR-3の研究はもう大詰めの段階で、残る問題は時間くらいです。やがて、SCP-2000が我々を正常に戻してくれるでしょう。先ほど、あなたのメッセージを読みました。すべての準備が整ったんですね?

ああ。しかし、時間は本当に足りるのかね?

確実です。こちらには最先端の設備が揃っています。サイトの造りは頑丈で、すべてのOBSRがこのラボを見張っています。以前のサイトのような事故は起こり得ません。原発のエネルギーを独り占めしているので、54人分の生命維持を賄えます。それに、自分用のOBSR-2は最新版のファームウェアに更新してあります。研究業務やあなたとの通信には何の障害もありません。それに、一番重要なのは──あなたと話せることです。これだけでも、僕の暮らしは過去の3年間より百倍も良くなりますよ。

私も同感だよ、程。君がいてくれて本当に良かった。

いえいえ。そろそろ、仕事の方に戻りますね。何かあれば、すぐにそちらに連絡します。もちろん、そちらも何かありましたら、いつでも僕に繋いでください。お喋りするのは好きですよ。

把握した。さあ行くのだ、少年よ。

了解であります、長官!

通信ログ
TIMESTAMP MISSING


やあ、程。進捗はどうだい?

ごきげんよう、アーロン!バリバリ進んでますよ!最新の研究書類はすべて読み終わりました。調整が必要な部分も、すでにリストアップしてあります。ただ、当初の予想より少し遅れるかもしれません。最新版ではアセンブリ言語が更新され、新たなコマンドがいくつも追加されます。これらはモデル全体の最適化に不可欠であり、AIたちに慣れるための時間を与えなければなりません。ですが心配は無用です。計画にはたっぷりと時間が割り当てられています。このような遅れは問題になりません

私も大事には捉えていない。上手いことやってくれているからね。

恐縮です。ははは、もし研修生の時、「アセンブリ言語でML6を書け」なんて言われたら、僕はきっとあなたを酔っ払いだと思うでしょうね。あの頃はどんな人間もPythonを使っていて、せいぜいCUDA7を書くのが関の山でした。アセンブリなんて考えもしませんでしたから、ハードコーディング8については言うまでもありません。当時の僕らは、ありったけのパフォーマンスを使って、あらゆるものを42ms以内に押し込む日が来るとは思いもよりませんでした。時代の変化には驚くばかりです。

かねてからそうだった、特に財団ではな。ヴェールを引き裂き、虚像が無くなって以来、あらゆる物事が加速している。"人はみな天国に召されそうで、逆の方向に進みそうでもあった。"

それ、どこかで聞いたような……ディケンズ?

ああ。

懐かしいですね。これにケリがついたら、落ち着ける日を見つけて、ソファでゴロゴロしようかな。コーヒーを飲みながら、午後いっぱいを読書に費やすんです。

なかなか良い考えじゃないか。

アーロンはどうなんです?すべてが終わった後、何をするつもりで?

まだ考えたことがなかったな。もしかすると、そこまで暇ではないかもしれない。議会を構築し直し、各支部を再建しなければならん。書類仕事が山のように入ってくるだろう。出張も多いかもしれん……私は長らく、休みというものを取ることがなかった。私の立場は、私にプライベートな時間をほとんどよこしてくれなかったからな。

それはあんまりにも勿体ない。なら、今が休暇だと思えば良いんですよ。どうです?

どういう意味だ?

アーロンの今の仕事は、僕の進捗を監督することくらいです。そうでしょう?僕は何処にも行けませんし、ゆったり寛いでも良いと思いますよ。

休めと言ったって、私は一体何をすればいいんだ?

頭をリラックスさせてみてください。それだけでもずっと楽になります。張り詰めていた神経を緩ませるんです。ぜひお試しを。

アーロン?

オーケイ、やってみよう。

通信ログ
TIMESTAMP MISSING


やあアーロン。僕は今、あることについて考えています。一つ確認しても良いですか?

何だね?

モデルがコンパイルされるまでの間、ピンぼけの記録をざっと調べてみたんです。ずっと気になってたことがありましてね。ピンぼけは完璧すぎるんですよ。どの記録も、物体まるまる一つがピンぼけしている。1人の人間が1本の木に、1輪の花が2つのサイコロに、1台のテレビが3羽のオウムに変わるんです。いくつかの事例では、人の拳が単体でピンぼけしたこともありますが、ビッグデータに比べれば微々たるものです。

現在、我々のモデルも同様な処理を行っています。ラベルは長々としていますが、僕たちは巨視的な大物体に対して、ひたすらに意味分類を行ってきました。効果は良好なので、僕は文句を言っているわけではありません。ただ……どうしてそうなるんでしょう?原子単位でピンぼけしたケースが見つからないのは何故?本当にピンぼけしないのか、それとも記録されてないだけなんですかね?何か知りませんか?

前者が正しい。原子毎にはピンぼけしないんだ。どうしてそうなるかは私にも分からない。

なるほど……それに、物体がより致命的なモノに変わることもないですよね。ブラックホールとか、反物質とか。本来であれば、確率で変わり得るはずなのに、何年経っても一度も現れていません。

そういったケースは起こらんよ。範囲外だからな。

"範囲外"?それは一体?誰が言ったんですか?

前任の観察者だ。だが、私も正直なところ、意味を掴みかねている。

そういえば!アーロンは前任の観察者に会ったんですか?

会ったとも。

羨ましいなあ。どんな方でした?

アーロン?

彼は時々、ソフィアの父親を思い起こさせる。

ソフィアとは?

O5-2だ。

ああ。以前お会いしたような気がします。彼女は僕たちの分類器を玉座まで持っていく役目を負っていました。

そうだな。

これも質問なんですがね。玉座とは一体何なんです?それらしき資料は一つも見つからなくて。

いまいちよく分かりません……

私は玉座を見たことがある。少しの間、指先で触りもした。だが、言葉で言い表せる代物ではないのだ。悪いな、程。今回ははぐらかしてるわけじゃないぞ。結局の所、ソレはそういうものなんだ。

そうですか……

財団は人智を遥かに超えた事物と何度も関わってきた。観察者と玉座は、その中の一例に過ぎない。

把握しました。


結局、彼らは成功したのだろうか?

彼らは上手くやったよ。観察者は今、完全に財団の統制下に置かれているからな。

言い換えると、彼らはこの世界のすべてを制御でき、どんな秘密も逃れることは出来ない。そういうことになるのだろうか?

原則的には、そうだ。

どうして"原則的には"なんだ?

その後の成り行きは、彼らが誘惑に我慢できるか否かにかかっている。

では、彼らは我慢できるだろうか?

歴史を振り返るに、不可能だ。

それは残念だ。

残念がらなくても良いさ、ドウグラス。君自身よく知ってるはずだ。初めからこれは、彼らの犯した罪であり、罪が罪を生んでいることを。

通信ログ
TIMESTAMP MISSING


なんてこった、アーロン。何もかも解けちゃったみたいだ。

どうした?

「意味分類」について、僕は長い間考察してきました。最終的に、収容プロトコルZK-001-アルファを読んだんです。それで気付きました。何もかもに説明が付きます。

そのプロトコルは確か、君の権限外じゃないか?

ケチくさいですねぇ、アーロン。今になって権限を気にする必要がありますか?

ケースバイケースだな。

ひとまず話してもらおうか、君の発見を。

僕たちは、世界を誤った形で認識していたんです……いや、誤ってはいないかな。モデルは正確なんです。分子、原子、クォーク……これらの物理モデルは機能してますから。でも、これは物事の本質に本当に辿り着いたとは言えません。物事の本質は言葉であり、物語なんです。これは初めから明かされているものでした。先人が、直接僕たちに伝えていましたから。ヤハウェの創世は「光あれ」の一言から実現し、老子は終極の存在を「道」と称しました。古代ギリシア哲学にもロゴスλόγοςという概念があります。万物は言葉で、叙述で、物語で、小説で、風の中の詩歌だったのです。

それが私たちの世界であり、言葉によって形成される世界だ。そのため、前の観測者はこれを「意味論」分類だと言っています。彼が見たのはずっと言葉で、彼は理解しました。彼の観測は安定していて、言葉の意味です。一語の中の字が逆さまになったり,修正されたり,削除されたり,意味が変わったりして,それが事物の変化に現れている。だから私たちは分子原子クォークの焦点が合わないのを見ません。言葉がそれらを説明していないからです!私たちを表現する言葉が変わった、これこそピントが合わない!

それこそが僕たちの世界……言葉で形作られた世界なんです。だから、前任の観察者はこれを「語義」分類と語ったんでしょう。彼はずっと言葉を視ていて、言葉の語義を理解し、観察し、安定させていたんです。センテンス内の字を並べ替え、修正し、削除していく。語義に改変が起きれば、物事にも改変が反映されるというわけです。それゆえに、僕たちは分子や原子、クォークのピンぼけに出くわすことがなかった。言葉はそこまで説明することが無いのですから!僕たちの言葉で説明することで改変させる、それこそがピンぼけなんです!

玉座のことをまだ覚えていますか?あなたは言語で言い表す方法が無いと言ってましたよね。今はっきりしましたよ。玉座は僕らの世界に属していないんだ、それは言葉で構成されてはいない。僕らには理解できない言語で表現されているんです。これですべてに筋が通りました。

畏れ入ったよ、程。 だが、君には伝えないといけないことがある。

何でしょう?

収容プロトコルZK-001-アルファが真実だとは限らないんだ。

"限らない"と言いますと?

すまんが、これ以上は教えられない。


分かりました。でも、僕の解釈と実際の世界の本質に違いがあったとしても、問題にはなりません。少なくとも、この理論は現場で役に立っているのですから。

"現場"とは?


私は元となるトレーニングセットに人間の言語資料を追加し、見つけられた限りの語彙をぶち込みました。モデルは言語を理解し、言葉を理解する必要があります。これはパズルの最後のピースです。語彙データはモデルとぴったり適合していて、まるで最後の悟りを待っているかのようです。僕はすでに、いくつかの基礎的なテスト結果を手にしています。簡潔に言いますと、それは過去のあらゆるテスト結果よりも優れていました。

朗報を聞けて嬉しいよ。

僕もですよ、アーロン。OBSR-3はもう目と鼻の先です。その上、僕にはもう一つのアイデアがあります。

聞いてみよう。


アーロンは前に言ってましたよね。ピンぼけしてもブラックホールや反物質のようなものは生じない、それらは「範囲外」なのだと。もし、物事の本質が言葉で、この世界がすべて、一つの壮大な物語だとしたら。「ブラックホールにピンぼけし、そのまま終わる」なんて展開を、物語が許さないのだとしたら。僕たちはきっと成功を掴むはずです。

それは何故だ?


最高に辛く悲しいにもかかわらず、そのままパッと消える物語なんて、誰も好きにはなれないじゃないですか。

ERROR

The snoj's portal does not exist.


エラー: snojのportalページが存在しません。利用ガイドを参照し、portalページを作成してください。


利用ガイド

  1. portal:3266034 ( 01 Jun 2018 15:33 )
layoutsupporter.png
Unless otherwise stated, the content of this page is licensed under Creative Commons Attribution-ShareAlike 3.0 License