【tale】サイト-81██跡地より発見された鴨音秘書官の音声記録

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警報はようやく止まりましたが、壁の向こうからはまだ銃声が聞こえます。救助がくる気配はありません。
外の様子が気になりますが、私にはそれを確かめることはできません。

あっ、私のことを最初に話すべきでした。
こういうのは初めてですし…私自身、混乱しているのカモしれません。できるだけ要点を整理して記録しますが、わかりにくくなるカモしれません

私の名前は鴨音琴です。サイト-81██で神鳥研究員の補佐をしています。
そして、私はカモです。正確にはカモになりつつあります。外見は既にカモです。
カモになりつつあるので、記憶力が以前より低下しています。
カモの体ではメモをとることもできないので、ボイスレコーダーを持ち歩いています。でも、最近は音声メモを残すことすら忘れがちです。いよいよ、カモ化が進行しているのカモしれません。

話を戻します。
私は今、サイト-81██の地下4階のどこかの部屋にいます。部屋は8畳ほどで、部屋の入り口は瓦礫で塞がれています。天井が崩れてきたのです。
部屋には、デスクと空っぽの書架しか家具がありません。そして私は今、デスクの上にいます。自分の背丈よりもずっと高くて自力では降りられません。

そして、部屋の中には私と…多分、男の人がいます。
多分というのは、恐竜のマスクをかぶって顔が見えないからです。かなり大柄で筋肉質なので、おそらく男の人だとは思います。"ONE小隊"機動部隊も-2の方なのカモしれません。
恐竜さんは、布の大きなバッグを持っています。
バッグのファスナーは半分開いていて、中には鳥の頭とカメの胴体の生き物がいるのが見えます。この生き物は動きません。全然動かないので、死体かはく製なのカモしれません。

恐竜さんは、肩と脇腹から血を流して倒れています。こちらも全然動いていません。何度も呼びかけていますが、返事をしてくれません。もう、死んでいるのカモしれません。
私はデスクから降りられず、ただ救助を待ち続けています。

どうしてこうなったかを説明します。

正確な時間は分かりませんが、それが起こってから既に一日以上経っていると思います。
私はその時、他の職員に頼まれて、サイト内のあちこちに書類を運んでいました。地下の廊下を歩いていると突然、廊下が大きく揺れました。地震かと思いましたが、二回、三回と揺れが続いて、爆発音も聞こえました。
次に、警報が鳴り響きました。収容違反を知らせる警報と、外部から襲撃されたときに鳴らされる警報、二つの警報でした。
すぐに避難しようとしましたが、カモなのであまり早く走れません。誰かに運んでもらおうと思いましたが、あいにく周りには誰もいませんでした。
そうしているうちに、ひときわ大きな爆発音が聞こえて、天井にひびが入るのが見えました。
廊下が崩れると思いました。近くにはたまたま開いている扉があったので、中に飛び込みました。部屋の中なら、誰かいるカモしれませんでしたし、家具で身を隠したり守ったりできるカモしれないと思ったのです。
飛び込んだ部屋には誰もいませんでしたし、家具もデスクと書架だけだったのですが。

部屋に入って、助けを呼ぼうとしましたが、電話は繋がりませんでした。部屋には通信設備もありません。どうしようかと困っていると突然、誰かが部屋に飛び込んできました。それが、今床で倒れている恐竜さんでした。私は、血を流した大きな恐竜人間が入って来たので、びっくりして反射的にデスクの上に飛び乗ってしまいました。
恐竜さんが部屋に入った直後、廊下の天井が崩れて部屋の入り口が塞がれてしまいました。
恐竜さんは塞がった入口を見て、私の方を見て、それから膝をついて倒れてしまいました。倒れた拍子に持っていたバッグが開いて、中身が見えるようになりました。バッグの中には、カメの体の鳥が入っていました。
そして、恐竜さんは動かなくなりました。声をかけてみましたが、返事はありません。私は何もできず、ただデスクの上でおろおろしているだけでした。
そうしてようやく、ボイスレコーダーの事を思い出して、記録をとることにしたんです。

ふう。
少し、疲れました。のどが渇いていますが、デスクの上に飲み物はありません。
他に話すことは無いと思うので、ひとまず録音を止めて、休むことにします。




鴨音です。

あれから、半日は経ったでしょうか。
外では、銃声もしなくなりました。でも、連絡は取れていません。
救助はまだ来ません。

お腹がすきましたが、これはまだ我慢できます。
それ以上にのどが渇きました。食料も水も、ここにはありません。
部屋の中には私と、倒れている恐竜さんがいるだけです。何度か呼びかけましたが、反応はありません。

ねえ、恐竜さん。
私を下ろしてください。抱きかかえてください。下ろしてください。
もしかしたら、あなたのお役にたてるカモしれません。
恐竜さん。
ねえ、恐竜さん。

ほらね?
恐竜さんは動きません。バッグの中の鳥は、ずっとこちらを見つめています。気味が悪いです。
誰も助けてくれません。
困りました。のどが渇きました。
寂しいです。

いつまでこの状態が続くのでしょう。私は、いつまで耐えられるのでしょう。ヒトの体より小さいから…タイムリミットは近いカモ…しれません。
体力を温存しなければなりません。あまり喋るのも良くないカモしれません。ひとまず、記録はここまでにします。




鴨音です。

あれから、さらに半日が経ったでしょうか。空腹と、のどの渇きがつらいです。限界が近いのカモしれません。
でも、それ以上に困ったことが起きています。
幻覚が見え始めています。やばいカモです。

私の足はカモの足なのですが、今は人間の足に見えています。
関節が逆に曲がった鳥の足ではなくて、ヒトの姿だったころの足です。
足というか、お腹より下がヒトの姿に戻っています。服を着ていない人間の女になっています。視界に常に入っていた嘴も、見えなくなっています。
でも、体はカモのままです。相変わらず、ものを掴めない鳥の羽がついています。

恐竜さんの姿も変わっています。
恐竜さんは、尻尾が生えています。多分、猫のしっぽです。膝も逆に曲がっています。腕や胴体は人間のままです。
頭は恐竜のマスクでわかりませんが、マスクの口元が内側から押し伸ばされて、鳥の嘴のようです。

この幻覚は、空腹や渇きのせいなのでしょうか。
それとも、恐竜さんか、あのはく製から何かの影響を受けたのでしょうか。

怖い。

不安です。
震えが止まりません。

でも、じっと耐えるしかありません。
私はここから降りられないのですから。




つらいです。

救助はまだ来ません。

幻覚は治りません。

おなかがすきました。

助けて。
誰か。




幻覚じゃないのカモしれません。
人間の足です。
脚を組んだり、正座したりできます。ちゃんと、足の指は5本とも感覚があります。
人間の足なんです。

やっぱり、あの恐竜さんか、はく製がアノマリーだったのカモしれません。

カモの足では飛び降りられませんでしたが、もっと長くて太い、強い人間の足なら、飛び降りられるカモしれません。

助けは来ません。
このままだと、デスクの上で渇いて死んでしまいます。

デスクから飛び降りて、何が変わるかはわかりません。入口の瓦礫をどうにかできるとも思いません。
でも、恐竜さんが水や食べ物、通信機か何かを持っているカモしれません。何もなくとも、入口に近づけば外の様子が何か判るカモしれません。

カモのミイラになるよりは、良いのカモしれません。

今、デスクの縁に立って、下を見下ろしています。
気のせいカモしれませんが、さっきより床が近く見えます。いけるカモしれません。でも、やっぱりまだ怖いです。
もう少し、待ってみます。




決めました。
飛び降ります。
無事に着地出来たら、まずは恐竜さんが生きていないかを確かめます。
そして、どうにかして外と連絡をとります。

行きます。

3………2………1………

えいっ

あっ




痛い…




ダメでした。
足が折れています。人間の頑丈そうな足がポッキリ折れて、横向きに曲がっています。

血が出ています。

痛いです。
血がたくさん出ています。

動けません。
人間の足に戻ったんじゃなくて、やっぱり幻覚だったのでしょうか。
やっぱり私の足はカモなのでしょうか。

恐竜さん、助けて下さい。

恐竜さん。

痛いです。

恐竜さん。

誰か。




私は日本生類創研で生まれました。
生まれた時はヒトの姿で、助けられてからヒトとして生きていました。

痛いです。

でも、今はカモです。ヒトに戻ったかと思いましたが、やっぱりカモでした。
もしかしたら、ヒトの姿をしていたと思っていたのも、カモの幻想だったのカモしれません。
私は鴨音琴です。そう思っていました。




本当に?




痛いです。




痛いです。




痛いです。
誰か。




恐竜さん。
痛いです。
誰か。




恐竜さん。




恐竜さん。




があ




があ




[床を這う音]




死んだのかな。
ヤバいアノマリーかと思ったけど、結局、ただの喋るカモだったね。
喋る内容も、おじいちゃんが喜びそうな情報は無かったし。
最後の方はがあがあ言ってるだけだったし。

君はカモだよ。ただの鳥だ。
ただのカモなら、さっさとこうすればよかった。

ああ、クソ、傷が痛え…




[租借音]




[租借音]


とにかく…体力を回復しなきゃ…このままだと、ここから出る体力もありゃしない。


閉じ込められたなんて言ったら…おじいちゃん怒るだろうな…
でも…アノマリー一つでも持って帰れれば…最悪でも、アルファクラスに格下げされたりはしないでしょ…多分。


[租借音]




うん?
まだ録音されてるのか?
どうやって止めるんだ?




まあいいか。


[租借音]




ああ、痛え…


血を出しすぎたし、膿んできてる。
これは、肉を食ったくらいじゃ治らないぞ。
アノマリーだってビビって、死んだふりなんてするんじゃなかったよ。




クソッ
幻覚が見えてきた。




なんだよ。
カモにしちゃ美人じゃないか。
頭は食べ残してよかったよ。




あ…僕の手…
羽?




クソ…照明も…消えた…
さむい…

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