"田"を返せ

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アイテム番号: SCP-XXX-JP

オブジェクトクラス: Euclid

特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPの隔離はオブジェクト自体の特性と、周辺地域の過疎化により積極的には行われません。SCP-XXX-JPが出現する水田の周辺は監視カメラによって一般人の侵入を監視し、SCP-XXX-JPと接触した場合には記憶処理を施してください。SCP-XXX-JPにインタビューを行う際にはアルコール飲料を持参する必要があります。

説明: SCP-XXX-JPは新潟県魚沼市の水田に存在する人型実体です。容姿は一般的な80代の男性と同様であり、和服を纏っています。衣服は大量の泥が付着しており、一部に破損がみられるため製作された正確な年月の推測は不可能です。

SCP-XXX-JPは不定期に特定の水田から出現します。出現したSCP-XXX-JPは水田の周辺に腰掛け、手に持った空き瓶で水田に溜まった雨水や周辺の水道の水を掬い上げ摂取するなどの行動を多くとります。この時、SCP-XXX-JPは多くの場合周囲の人物に対して積極的な干渉を行いませんが、対話を行うことは可能です。対話を行おうとした場合、SCP-XXX-JPは自身が手にもつ泥水の摂取か、当人にアルコール飲料の持参を要求します。この要求が断られた場合、SCP-XXX-JPは自身の意思によって、出現した水田の内部に沈み込むようにして消失します。消失したSCP-XXX-JPを追跡する試みは成功していません。

SCP-XXX-JPは実家に帰省していたエージェント・田沼によって発見されました。以下はその時点でのインタビューの内容です。

インタビュー記録XXX-JP.1

インタビュアー: エージェント・田沼

対象: SCP-XXX-JP

付記: 以下の内容はエージェント・田沼が帰省先で遭遇したSCP-XXX-JPと行った会話の記録であり、正式なインタビューとして行われたものでは無いことに注意してください。また、会話開始時点でエージェント田沼はSCP-XXX-JPを地元住民と認識しており、当インタビュー記録はエージェント・田沼による聴取記録を元に構成されています。


[引用開始]

[エージェント・田沼がSCP-XXX-JPに話しかける。]

エージェント・田沼: こんなところに座って珍しいですね。何をされてるんですか?

SCP-XXX-JP: 見りゃわかんだろ。田んぼ、見てんだよ。

エージェント・田沼: [笑いながら] それは分かりますけど。泥だらけですよ。足でも滑らせて田んぼに落ちましたか。風邪ひきますよ。

SCP-XXX-JP: うるせえな。

エージェント・田沼: 生憎、お節介な性分でしてね。

SCP-XXX-JP: ふん。 [近くにあった空き瓶で水田に残っていた泥水を掬い上げる] 飲むか?

エージェント・田沼: [苦笑いしながら] いやいや、それは飲めないでしょう。

SCP-XXX-JP: つまんねぇ野郎だな。酒の1つでも持って来いってんだ。

[SCP-XXX-JPが水田に飛び込み、沈み込むようにして消失する。対象が異常性を持っていることに気がついたエージェント・田沼が財団に報告し、SCP-XXX-JPの存在が報告された。]

[引用終了]

上記の事案により、エージェント・田沼によってSCP-XXX-JPの存在が報告されました。これを受け、財団はSCP-XXX-JPに対して追加のインタビューを実施しました。

インタビュー記録XXX-JP.2

インタビュアー: エージェント・田沼

対象: SCP-XXX-JP

付記: インタビューのため、エージェント・田沼にはアルコール飲料の持ち込み許可が出されています。


[引用開始]

エージェント・田沼: こんにちは。

SCP-XXX-JP: 誰だ。

エージェント・田沼: 嫌ですねぇ。先日会ったばかりじゃないですか。

SCP-XXX-JP: ああ……あんたか。

エージェント・田沼: お話をお伺いしてもよろしいですか?

SCP-XXX-JP: 酒は。

エージェント・田沼: 一応持ってきましたよ。 [エージェント田沼が持参したアルコール飲料を持ち上げる。]

SCP-XXX-JP: へぇ、最近の酒は変わってんだな。

エージェント・田沼: 飲んでみますか?

SCP-XXX-JP: いや、いい。

[SCP-XXX-JPが手に持っている空き瓶で泥水を汲み上げ、飲み干す。]

SCP-XXX-JP: 何か聞きに来たんだろ。

エージェント・田沼: ええ、先日もこうして畔に座っていましたが、何をされてるんでしょうか?

SCP-XXX-JP: 田んぼを眺めてんだ。

エージェント・田沼: なるほど、しかしこの田んぼ、所有者の方が別にいらっしゃいますよね。

SCP-XXX-JP: いや、俺のだ。

エージェント・田沼: しかし土地の所有者は丸井 稔二という方のようですが。

SCP-XXX-JP: その爺さんが俺にくれるって言ったんだ。だから、俺のだ。そもそもこの田んぼは俺のだったがな。

エージェント・田沼: もともと自分のものだった?

SCP-XXX-JP: 大昔に、この田んぼは俺のだったんだ。息子にこの一帯の田んぼを残していたんだが、ドラ息子でな。田んぼを一つも弄らねぇ内に全部質に入れちまった。それで俺はずっと返してくれ、返してくれって言い続けてきたんだ。結局返してもらえずに何百年もたったがな。

エージェント・田沼: なるほど。

SCP-XXX-JP: それで、2年前の嵐の晩の時だ。嵐で田んぼが駄目にならないか心配だったから田んぼを眺めてたらな、その丸井とかいう爺さんが来たんだ。

エージェント・田沼: 一度丸井さんにお会いしたことがあるのですね

SCP-XXX-JP: ああ。それでその爺さんに言ったんだ。「田を返せ」って。そしたらその爺さんが「この田んぼは元々あんたのか?」って聞いてきた。俺がそれにそうだと答えたら、その爺さんが「じゃあ全部くれてやる」って言うんだな。爺さんは年を取って農作業が辛くなってきたからちょうどいいと。

エージェント・田沼: それで田んぼを譲り受けたわけですね。

SCP-XXX-JP: そうだ。

エージェント・田沼: なるほど。インタビューのご協力ありがとうございます。

SCP-XXX-JP: ところで、丸井の爺さんは今どうしてんだ。俺に田んぼを返したっきりここに来てないが。

エージェント・田沼: 半年前、亡くなりました。

SCP-XXX-JP: [数秒の沈黙。] そうか。

[引用終了]

付記: 土地の所有者である丸井 稔二氏はインタビューのおよそ半年前に心筋梗塞により死亡しています。近隣住民の証言では、SCP-XXX-JPに水田を引き渡したのちは一切の農作業を行っておらず、外出などの行動も減っていたようです。

上記のインタビューにより、SCP-XXX-JPが泥田坊の一種であるという仮説が立てられました。一般的に泥田坊実体は何らかの要因で他者に奪われた水田の奪還を目的に活動をします。しかし、多くの泥田坊実体は発生から長くとも80年程度で消失すること1から、財団設立から泥田坊実体にインタビューを行うことができた例はこれが初めてです。

財団は泥田坊実体についての情報を収集するため追加のインタビューを実施しました。以下がその内容です。

インタビュー記録XXX-JP.3

インタビュアー: エージェント・田沼

対象: SCP-XXX-JP

付記: インタビューのため、エージェント・田沼にはアルコール飲料の持ち込み許可が出されています。


[引用開始]

エージェント・田沼: こんにちは。

SCP-XXX-JP: なんだ、またあんたか。今度は何だ。

エージェント・田沼: またお話を聞かせていただきたいと思いましてね。お隣、よろしいですか。

SCP-XXX-JP: 酒は。

エージェント・田沼: もちろん。 [エージェント・田沼が持参したアルコール飲料を提示する。]

SCP-XXX-JP: そうか。

[SCP-XXX-JPが空き瓶に溜っていた泥水を飲み干す。]

SCP-XXX-JP: で、今度はなにが聞きてぇんだ。

エージェント・田沼: いえ、いつも田んぼを眺めているだけじゃないですか。取り返したかった田んぼなんでしょう。お米を作ったりなさらないのかなぁと。

SCP-XXX-JP: あんた。米は作ったことあるか。

エージェント・田沼: いえ、ないです。

SCP-XXX-JP: じゃあわかんねぇだろうな。もうこの田んぼは死んでんだよ。

エージェント・田沼: 死んでる?

SCP-XXX-JP: お前らにはわかんねぇだろうがな。この体になったからか自然とわかる。この田んぼはもうロクな稲が育つ状態じゃねぇんだ。今年か来年はどうにかなっても、数年たったらもうおしまいだ。もっとも、爺さんから返してもらった時からそうだった。

エージェント・田沼: 田んぼを生き返らせる方法はないんですか?

SCP-XXX-JP: ない。

エージェント・田沼: こちらでできることならお手伝いしますよ。

SCP-XXX-JP: いい。そんな方法は、ない。これはもう田んぼを一から壊さないといけねぇ。最も、それをしたらこの田んぼはもう俺が返してほしかった田んぼじゃなくなるけどな。

エージェント・田沼: [沈黙。]

SCP-XXX-JP: なぁ、あんた。

エージェント・田沼: なんでしょう。

SCP-XXX-JP: 田んぼも弄れねぇ俺はどうしたらいいんだろうな?

[引用終了]


附則資料XXX-JP

以下の資料はSCP-XXX-JP出現地の遍歴を表にまとめたものです。複数の資料から作成されたものであることに留意してください。

不明~1850年代: 花田家によってXXX-JPが所有される。
不明~1850年代: 花田 慶壱氏に所有権が移譲される。
不明~1850年代: 花田 慶広氏に所有権が移譲される。
不明~1850年代: 花田 慶広氏によって所有権が質屋に売却される。
不明~1850年代: 質屋から丸井家に耕作権が貸与される。
不明~1850年代: 農地改革によって丸井 宗助氏に所有権が譲渡される。
不明~1850年代: 丸井 稔二氏に所有権が譲渡される。
不明~1850年代: 丸井 稔二氏の耕作地域がおよそ半分まで縮小される。
不明~1850年代: 丸井 稔二氏が農業組合から脱退する。これ以降は丸井氏による米の売買は行われない。
不明~1850年代: 丸井 稔二氏の耕作区域がSCP-XXX-JPの出現する水田のみになる。
不明~1850年代: SCP-XXX-JPが丸井氏から水田を譲渡されたと主張する年。
不明~1850年代: 丸井 稔二氏が死亡する。

補遺-音声記録XXX-JP:

音声記録XXX-JP

記録者: エージェント・田沼

対象: SCP-XXX-JP


[引用開始]

エージェント・田沼: こんにちは。お久しぶりです。

SCP-XXX-JP: [沈黙。エージェント・田沼の呼びかけには答えず水田の方を向いたままである。]

エージェント・田沼: もしもし?大丈夫ですか。

SCP-XXX-JP: ああ、誰だ。

エージェント・田沼: 僕ですよ。田沼です。

SCP-XXX-JP: [不明瞭な発音。] サカヤか。

エージェント・田沼: サカヤ?

SCP-XXX-JP: おい。田を返せ。田を返せ。

エージェント・田沼: 落ち着いてください。急にどうされたんですか。

SCP-XXX-JP: 田んぼを返してくれ。俺の田んぼを返してくれ。

エージェント・田沼: しっかり見てください。田んぼなら目の前にあるじゃないですか。

SCP-XXX-JP: 田んぼ、俺の田んぼ……。

[SCP-XXX-JPが水田に視線を向ける]

SCP-XXX-JP: 違う、あれは俺の田んぼじゃない。田んぼじゃない……。

エージェント・田沼: [沈黙。]

SCP-XXX-JP: 田を返してくれ。

[引用終了]

第3回のインタビュー後より、急速にSCP-XXX-JPに認知症の症状が進んでいることが確認されています。上記の事案により第4回のインタビューの実施は取り消されました。SCP-XXX-JPに一般的な認知症の治療を行う計画は、発生地点の水田からSCP-XXX-JPを移送した場合の作用が未知数であるため凍結されています。

音声記録中にSCP-XXX-JPが発した「サカヤ」という単語はSCP-XXX-JPが発生する水田の所有者であった人物の屋号、「酒屋」であると考えられています。当該人物は当時金貸し業を酒の販売とともに営んでおり、SCP-XXX-JPの発生する水田を借金の対価として回収した記録が残されています。この記録から、SCP-XXX-JPは以前の水田の持ち主であった田中 大吾郎氏であると推測されています。回収された水田は後に現在の行政上の所有者である丸井氏の祖父へと売却されています。


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